マッキー牧元 うまいはエロい

<72>カキのレベルが段違い……
両国「江戸蕎麦 ほそ川」の「かきそば」

寒さが厳しくなると、あるそばが、無性に食べたくなる。それが両国「ほそ川」の「温かいかきそば」である。かけそばに温めたカキをのせたそばなのだが、これがそこらにある「かきそば」とは、まったく比較にならない。

「かきそば」が運ばれてくる。すると誰もが、その光景に息をのみ、しばし見ほれてしまう。

大ぶりの見事なカキが3個、かけそばの上で乳白色の総身を輝かせている。ぷっくらと膨らんだ身を、見せつけるようにして、人間を誘う。「早く食べて」と手招きされているようであり、「まだ手をつけないで、私の姿を見て」と、ささやかれているようでもあり、どうしようもなく色っぽい。色っぽいのだが、それはあか抜けた色気である。

江戸の粋が吹いている。さあ、いつまでも眺めているわけにはいかない。早速食べよう。

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適度な弾力と甘みを感じさせるそば

カキからといきたいところだが、やはりここはそばを手繰ってからいくのが正道だろう。温かいそばは、すすればねちっと弾み、冷たいそばより甘みをふくよかにさせながら、心をほんわりと温めていく。

次につゆを飲む。かつお節の香りが鼻をくすぐるが、強すぎず、丸いうまみが舌を滑るように流れていく。

「ふうっ」。満足のため息を一息ついて、さあ次はいよいよカキである。

振り柚子(ゆず)されたカキを口に運ぶ。でっぷりと太ったカキは、身体に満たした海の滋養を放出する。ミルキーなカキのジュースが押し寄せる。それは、しばし口が利けないほどの、充足感である。

うっとりしていたいところだが、うかうかしていてはいけない。カキのエキスが、余韻として残っている間に、すかさずそばを手繰るのだ。そばのほのかな甘み、品格のあるつゆ、カキのうまみが混然一体となって、一気に冬への感謝が湧き上がる。

ああこの季節が、もうすぐ終わるのかと思うと、切ないなあ。

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ビールや日本酒がすすむ「穴子天ぷら」

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季節限定の「賀茂茄子の揚げびたし」

両国 江戸蕎麦 ほそ川

東京、いや日本を代表するそばの名店。初めて訪れるなら、まず「せいろ」をいただき、そのあと「かきそば」や「鴨南蛮」(いずれも冬季のみ)を食べるといい。「せいろ」は極細のそばで、しなやかだが、歯を軽く押し返す強さがあり、野生の香りがそっと漂って鼻に抜け、ほのかな甘みが顔を出す。

そばつゆはさりげないうまさの中に品格があり、親しみやすさがある。そば前には、野菜の味や香りを生かし、最適の硬さで提供する季節の野菜の「揚げびたし」。コク深い見事な「穴子てんぷら」などで酒を飲んでから、そばを楽しむのもいい。

うまいはエロい

【店舗情報】
東京都墨田区亀沢1-6-5
03-3626-1125
大江戸線「両国」駅 より徒歩1分 総武線「両国」駅より徒歩6分
11:45~14:30(14:00 L.O)/17:30~20:00(19:30 L.O) ※そばがなくなり次第閉店
定休日:月曜、第3火曜
WEB:https://www.edosoba-hosokawa.jp/

PROFILE

マッキー牧元

1955年東京生まれ。立教大学卒。年間幅広く、全国および世界中で600食近くを食べ歩き、数多くの雑誌、ウェブに連載、テレビ、ラジオに出演。日々食の向こう側にいる職人と生産者を見据える。著書に『東京・食のお作法』(文藝春秋)『間違いだらけの鍋奉行』(講談社)。市民講座も多数。鍋奉行協会顧問でもある。

<71>目まいを感じるほどうまいギョーザ/幡ケ谷「您好」

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<73>東京で探すのは至難の業 「あんかけうどん」が食べられる名店

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