インタビュー

注目の若手俳優・寛一郎
自分から逃げ続けた後で向き合えた役者の道

埼玉県川口市を舞台に、マラソンを通じた人々の“再生”を描いた映画『君がまた走り出すとき』。今作で、主人公・五十嵐翔太を演じるのが寛一郎さん(22)。デビューから2年で決まった初主演作に、オファーがあった時は「怖かった」と振り返る。俳優一家に生まれながら俳優を決意するまでの道のり、また「ゲームセンターとロックが好き」というプライベートまで、じっくり語ってくれた。

インタビューの場に、劇中のイメージとは異なる無造作ヘアで登場した寛一郎さん。どこか中性的な雰囲気も漂う、白い肌と鋭いまなざしにドキリとさせられる。

寛一郎さん

撮影がない時は髪を切らないそう。「髪が長い方が、できる役の幅が広がる」

鏡を見るたびに顔が変わる。若さゆえの変化

日々、顔が変わっていくんです。この1年くらいは朝や夜、鏡を見るたびに『いい顔をしてるな』『ふぬけた顔をしてるな』とか、微々たるものですが違いが分かるようになって。今は、結構やばい目をしていると思う。メイクはしていないですけど、アイラインを引いたような目になっていて。僕はメンタルが顔に出やすいので(今演じている役に)引っ張られているのかもしれません。

それがコントロールできるようになると、演者としてすごい力になるのではないかと思います。ただ、自分では思ってもいない顔になってしまうこともあるのが難しいところ(笑)。若さゆえの顔の変化だと思います」

映画で寛一郎さんが演じる五十嵐は、振り込め詐欺のいわゆる“受け子”。警察に追われ、民家を逃げているうちに老婦人の家に逃げ込む。孫と間違えた老婦人を利用し、五十嵐はしばらくその家で身を隠す。

『君がまた走り出すとき』

映画『君がまた走り出すとき』 (C)2018川口市

「五十嵐は、友人からの誘いを断りきれない男。根っからの悪人じゃないけど、断りきれない自分の弱さの中でもがいている。警察からも、自分からも逃げている。僕自身も人の顔色をうかがって生きてきたところがあって、言いたいことを言えなかったこともある。優しさと弱さは紙一重だと思うので、シンパシーを感じる部分がありました。その意味では、役作りの苦労はなく演じやすかったです。

映画に主演することは、怖いですよね。撮影前は、自分がどうあるべきなのかすごく悩みました。でも背伸びしてやったところで、作品が良くなるわけでもないと思う部分もあり、いざ現場に入ると、等身大の自分でいられました。周りのキャストやスタッフの助けも大きかったと思います。主演という重さを、いい意味で意識せずに作品に向き合えました」

『君がまた走り出すとき』

山下リオさんとは『ナミヤ雑貨店の奇蹟』から2度目の共演。「現場で細やかな気遣いがナチュラルにできる人」

ロック好き。情熱的な曲に心を動かされる

五十嵐は、老婦人やその本物の孫など、色々な人と出会い、やがてマラソンを始めることになる。登場人物それぞれが人生の岐路を迎え、問題を抱えて悩む中、マラソンは人々をつなぎ、再生の糸口になっていく。

劇中では走るシーンも多く、演じる苦労はなかったのだろうか。

「僕自身はインドア派。走るのは、正直好きでも嫌いでもないです。スポーツに打ち込んだ経験はなくて、中学生時代にバスケットボールをやっていたくらい。それからは映画を見たり、ゲームをしたりが多くて。ただ、今回は最初からマラソンをしている役ではないし、彼自身走ることが好きでもないので、走り込む練習というより、後半に向けて少しだけトレーニングをして筋肉をつけました。

走るシーンも多かったのですが、河川敷を走るシーンの撮影は本当に気持ち良かったです。天気のいい昼間のシーンでは、まるでドラマの一シーンを見ている気分で走っていましたね」

『君がまた走り出すとき』

「役者は、みんなもがき苦しみながら生きている。売れている、売れていない関係なく、それぞれの辛さがある」

マラソンを通じ、人生をやり直そうとする人々。走ることは自分自身と向き合うことであり、もう一度動き始めるきっかけにもなっていく。寛一郎さん自身は、迷った時や疲れた時、どんな風に自分をリセットしているのだろうか。

「ゲームセンターに行きますね。『鉄拳』とかの格闘アクションゲームをして、頭を空っぽにします。自分のモチベーションを上げたい時は、音楽を聴きますね。ロックが昔から好きで、洋楽邦楽問わずいろいろと。音楽と映画には、表現としてつながっている部分もあるなと思う。熱い曲を歌っている人たちに心が動かされて、それが自分のエンジンになることはあります。最近だと『MOROHA』さんが好きでよく聴いています」

寛一郎さん

今の目標は「俳優としてひとつずつ、質のいいものを作っていくだけ。頭のネジが外れていそうな振り切った役もやってみたい」

三代続く役者一家。父からは「まあ、そうか」の一言だけ

祖父は三國連太郎さん、父は佐藤浩市さんという役者一家に生まれた寛一郎さん。映画『心が叫びたがってるんだ。』でデビュー以降、『ナミヤ雑貨店の奇蹟』『菊とギロチン』など出演作に恵まれ、今年に入ってから本作のほかに『チワワちゃん』『雪子さんの足音』の2作品にも出演する。順風満帆とも言える俳優人生で、今感じていることは――。

「とてもありがたいことで、他の人からみると、こんな順調な役者人生はないのかもしれないとも思いますが、現状に満足はしていません。今一番欲しいのは実力、自分のスキルです。できないことを環境のせいにはしたくない。みんなもがき苦しみながら役者をやっているんですよね。

おやじ(佐藤浩市さん)は、僕が俳優になると言った時、『まあ、そうか』と一言だけ。家族だからこそ言える言葉ですけど“しようがない”んですよね。三國(連太郎さん)、そしておやじと見て、それで役者をやるのは、血は争えないと思うところはあります。母はやっぱり心配してくれます。僕が出演した作品は全部見てくれて、LINEで感想を送ってくれたり。面倒臭いなと思う時もあるけれど、苦しい時にはありがたいなと思います。おやじとは、仕事については一切話さないですね。暗黙の了解というか、干渉し合わないほうがよいことは、お互いに目を見れば分かります」

寛一郎さん

ヘア&メイク:松田容子、スタイリスト:越中春貴(Rim)、衣装協力:ジャケット¥125,280、ニット¥42,120、パンツ¥108,000/ヨウジヤマモト(TEL:03-5463-1500)、その他/スタイリスト私物

映画『君がまた走り出すとき』は、マラソンというフィルターを通した人生賛歌の物語。不安や悩みは色々あれど、それらに向き合うことが最初の一歩。一歩踏み出すことで、自分はもちろん、人生が変わるきっかけにもなると気づく。

「僕自身も、ずっと自分から逃げ続けてきました。やっと役者に向き合えるようになったのが18歳くらいの時。何か大きな出来事があったとか、これをやったからという訳ではなくて。映画をたくさん見続けて、本当に少しずつ心が決まっていったというか。まさにこの映画にも通じる部分があって、走り続けたからこそ自分が変われたんです。

マラソンが好きな人、マラソンを始めたいと言う人は見て損のない映画だと思います。そして、何かから逃げている人や、何かに向き合いきれていなくてもがいて苦しんでいる人にこそ見てほしい。見ることで何かが変わる、とまではいかなくても、この映画を見ることで、気持ちを少しでも前に傾けることができたら、何かひとつでも感じ取ってくれたらうれしいです」
(文・武田由紀子 写真・花田龍之介)

『君がまた走り出すとき』

映画『君がまた走り出すとき』 (C)2018川口市

『君がまた走り出すとき』作品情報

キャスト:寛一郎、山下リオ、松原智恵子、菜葉菜、辻本祐樹、綱島恵里香、安居剣一郎、長谷川初範、浅田美代子 ほか
脚本:岡 芳郎
監督:中泉裕矢
配給:キャンター
製作:川口市
(C)2018川口市
2019年3月2日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー
ウェブサイト:http://kimimata.com/

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