原田泰造×コトブキツカサの「深掘り映画トーク」

『ボヘミアン・ラプソディ』に鳥肌
 映画の力で生まれた一体感

映画は本当に面白い。ビデオからDVD、そしてインターネットの動画配信サービスへと、劇場の外で鑑賞する手段が増えていっても、映画のコンテンツとしての魅力は衰えることがない。魅力のある映画は、多くの人に劇場まで足を運ぼうと思わせる力がある。2018年も大ヒット作が何本も生まれた。
そんな映画をこよなく愛するオトナの一人に、スクリーンに登場する俳優としても活躍するネプチューンの原田泰造さんがいる。そして、原田さんがプライベートでよく映画談義を交わす相手が、同じ映画好きで映画評論の仕事もしているコトブキツカサさんだ。
かつて、雑誌で映画に関する対談連載を持っていたお二人に、映画について自由に話していただく企画が『&M』でスタートします。

初回のテーマは「2018年に観た中のベスト作品」。前後編でお届けします。

コトブキ あれは15~16年前くらいですかね。僕はまだ映画の仕事をしていなくて、ただの売れない芸人でしたけど、泰造さんと一緒によくサウナに行っては、映画の話をしてたんですよね。

原田 「最近なに観た?」、みたいなヤツだよね。

コトブキ 僕は泰造さんに教えてもらった映画も何本もありますよ。『グッバイ、レーニン!』とか、『アダプテーション』のDVDもいただきました。

原田 よく覚えてるね(笑)。

コトブキ 『オールド・ボーイ』も一緒に観に行きましたよね。渋滞につかまって時間ギリギリになっちゃって、クルマ降りてからみんなで映画館まで走ったんですよ。僕が疲れてちょっと歩いてたら、泰造さんに「早く!」って怒られて……。泰造さんはいつもすごく優しいですけど、あのときだけはすごく怒ってましたよね。一応、本編のスタートには間に合いましたけど……。

原田 僕は予告編からちゃんと観たい派だから。それが映画館でみる醍醐味というか、予告編を含めて「劇場で映画を観る」という体験なんだよね。

コトブキ そんなエピソードも含めて、いろいろお話ししていければと思います。今回は我々の自己紹介ということも含めて、2018年公開作で、それぞれのベスト作品を挙げていきましょうという趣旨になってます。泰造さんは、ものすごい本数を観ているから、絞るのは大変だと思いますけども。

原田泰造さんとコトブキツカサさん

プライベートでも映画談義を繰り広げるというお二人

原田 面白かった作品でいまパっと思いついたのは『search/サーチ』。PC画面だけで進んでいくというのもすごいんだけど、ストーリー的にもまさかの展開があるんだよね。なにが好きかって、僕は「お父さんが頑張る映画」というのが大好物。『search/サーチ』も、娘のためにお父さんが必死になるじゃない。しかもちょっとやり過ぎで暴走していくから、観ていてハラハラする。

コトブキ これがアクション映画であれば、お父さんが無敵で敵を倒していくような展開になるじゃないですか。でも『search/サーチ』は等身大というか、オタオタしちゃう。あれがリアルなお父さんの姿なんですよね。

原田 そうなんだよね。娘のことを知っているようで、なにもわかってなかったとかさ。

コトブキ いまの時代だからこその要素が入っていますよね。SNSには痕跡があるけれど、自分が他人の目にはどう映るかって意識して見栄を張っていたりして、それは本当の姿じゃない。たどっていくうちに、どんどん娘の違った部分が見えてくる。

原田 仕掛けだけに頼らず、いまをちゃんと表現しているところが、やっぱり面白いところなんだと思う。娘も、そこまで良い子じゃない設定になっているところもリアルだよね。

コトブキ いまを表現しているという意味では、『search/サーチ』はアジア系の俳優が主演を演じたところもポイントですよね。

映画『serch/サーチ』の画面

映画『serch/サーチ』より

原田 アジア系俳優の主演作が増えてきたよね。『クレイジー・リッチ!』とかもそうだったし。

コトブキ 『クレイジー・リッチ!』は、主演も制作陣もアジア系で全米興行収入のトップを取りましたからね。最初は白人キャストに変えようっていう話があったけど、突っぱねてアジア系で作り上げたという、いわゆる「ホワイトウォッシュ」に抵抗したということでも重要です。

原田 ホワイトウォッシュは、数年前から問題になっていたから、その頃に企画していた作品が、ようやく公開されてきたということなのかもしれないね。

コトブキ マーベルの『ブラックパンサー』が大ヒットした背景にも、ホワイトウォッシュの揺り戻しが影響していますよね。

原田 アジア映画自体も良い作品がたくさんあった。『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』とか、よくできてたよね。イランのアスガル・ファルハディ監督も、すごい作品ばっかり撮るよね。公開は一昨年になっちゃうけど、『セールスマン』も良かった。アスガル・ファルハディの作品は、子役の演技がすごくて、またその使い方がうまいんだよね。

コトブキ イランの監督だと、アミール・ナデリもいいですよ。彼は親日家で、日本にもよく来ているみたいで、僕は新宿の武蔵野館ですれちがいましたよ。『山〈モンテ〉』という新作も公開されていますね。

原田泰造さん

原田 いま日本では、ハリウッド大作だけじゃなくて、いろんな国の作品が上映されるようになった。最近はNetflix、Hulu、Amazonプライム・ビデオのような配信サービスも普及したので、より手軽に世界中の映画に触れられるようになったよね。以前は「まずハリウッドでヒットしないと世界にいけない」という考えがあったと思うけど、いまはいいものを作れば、世界中のどこにでも伝わる時代になったんじゃないかな。

コトブキ これまでの映画産業は、この作品は国内向けで、こちらの作品は国際市場を狙って、という作り方だったと思うんですよ。でも、いまは例えばイラン人がイラン人向けに作った映画でも、いろいろなカタチで僕らが観ることができて、共感もできますよね。ヒットしたインド映画の『バーフバリ』とかも、日本でもあれだけの観客が熱狂しましたから。

原田 あの映画は、世界共通で熱くなるよね。

コトブキ この現象を制作側から考えると、もう従来のマーケティングという概念が通用しないってことですよね。ある市場に向けて狙って作っても、どこで誰が観るかわからないし、どう変化するかわからない。『カメラを止めるな!』の大ヒットも、このパターンのひとつだと思います。「カメ止め」は、後になっていろんな人から「当たると思いました?」って聞かれましたけど、最初に観たときは、30億も稼ぐなんて夢にも思いませんでしたから。

原田 コトブキから「面白い」と聞いて『カメラを止めるな!』を観に行ったけど、実は満席で入れなかったんだよ。映画館で席がないっていう経験なんてしばらくなかったから、「え、どういうことですか?」って2回くらい聞き直したよ。あれは衝撃的だった。

コトブキ 配給側が、人気と需要に対応できなかったということですよね。『ボヘミアン・ラプソディ』だって、観客動員数が前週を超えていくっていう、予想外の事態が起こりましたから。これも、映画が公開されるまで、僕の周りにクイーンが好きって人なんてほとんどいなかったですから。でもやっぱり映画の力というのがあって、あのライブの21分でガッツリやられてみんなクイーンに夢中になるわけじゃないですか。

原田 僕もクイーンの曲は知っていたけど、どんな人たちなのかはあまり知らなくて。それで、映画観たらドラマでもライブでも感動しっぱなし。もう、このライブずっと続かないかなって思いながら観てたよ(笑)。観終わった後もずっと鳥肌が立ったままで、いろんなシーンを思い出してまた感動して。それから、たぶんみんなそうしたと思うんだけど、本物のクイーンを観たくなってきて、YouTubeで探して観てみたら、やっぱりすごかった。そして、映画の各シーンでの俳優陣の演技やライブの再現性の高さに気づいて改めて感動するっていう流れ。

コトブキ 本物以上に本物感がありますよね。それを人に伝えたくなる。僕は公開前の映画はSNSとかであまり語らないようにしているんですけど、『ボヘミアン・ラプソディ』は内覧試写で見て速攻でツイッターしちゃいましたから。

コトブキツカサさん

原田 僕は夜中3時すぎくらいの、もう深夜というより早朝くらいの時間に映画館に行ったんだけど、それでも満席だった。席に着いたら、客席に妙な一体感があって、みんなで一緒に体験してるんだなって気分になった。『カメラを止めるな!』でも同じような雰囲気を感じた。観客が参加しているというか、最大限に映画を楽しもうっていうパワーがあった。

コトブキ これはちょっとした革命ですよ。映画について、スクリーンを通した疑似体験みたいなものだと語られることが多いんですけど、ここまでくると、映画を観ること自体がまごうことなき体験になっている。家のテレビやスマホで見るのとは明らかに違う、という意識が広がってきたのだと思います。

原田 観るだけなら、どこでも観れるようになったからね。僕の感覚でいえば、ついこの間まで「TSUTAYA」は天国だったんだよ。夜中でもやっていて、何でも選べて、1週間もレンタルできる。でも、いまはそんな環境がいつ、どこにいても手元にあるってことだからね。

コトブキ スマホでいつでも観れるようになったからこそ、“逆フリ”で、みんなと一緒に共有したくなるのかもしれないですね。あえて、場所も時間も共有する楽しさというか。ある映画がヒットしていて、映画館が混んでるって聞いたら、ちょっと前だったら「もうちょっと空いてから行こう」とか思う人が多かったじゃないですか。でも、いまはもう、その混んでるうちに現場に行きたいと思っている。

原田 熱を感じたくなるのかもね。やっぱり体験するというのは、それだけすごいことなんだよね。

後編に続きます!

原田泰造さんとコトブキツカサさん

文/大谷弦、写真/野呂美帆

今回対談に登場した作品:
『グッバイ、レーニン!』(03年/ドイツ 監督:ヴォルフガング・ベッカー)

『アダプテーション』(03年/アメリカ 監督:スパイク・ジョーンズ)

『オールド・ボーイ』(04年/韓国 監督:パク・チャヌク)

『search/サーチ』(18年/アメリカ 監督:アニーシュ・チャガンティ)

『クレイジー・リッチ!』(18年/アメリカ 監督:ジョン・M・チュウ)

『ブラックパンサー』(18年/アメリカ 監督:ライアン・クーグラー)

『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』(18年/タイ 監督:ナタウット・プーンピリヤ)

『セールスマン』(17年/イラン・フランス 監督:アスガル・ファルハーディ)

『山〈モンテ〉』(19年/イタリア・アメリカ・フランス 監督:アミール・ナデリ)

『バーフバリ 伝説誕生』(17年/インド 監督:S・S・ラージャマウリ)

『カメラを止めるな!』(17年/日本 監督:上田慎一郎)

『ボヘミアン・ラプソディ』(18年/イギリス・アメリカ 監督:ブライアン・シンガー)

PROFILE

  • 原田泰造

    1970年、東京都出身。主な出演作に、WOWOW「パンドラⅣ AI戦争」(18)、映画「スマホを落としただけなのに」(18)、NHK「そろばん侍 風の市兵衛」(18)、映画「ミッドナイト・バス」(18)、NHK連続テレビ小説「ごちそうさん」(13-14)、NHK大河ドラマ「龍馬伝」(10)など。

  • コトブキツカサ

    1973年、静岡県出身。映画パーソナリティとしてTV、ラジオ、雑誌などで活躍中。年間映画鑑賞数は約500本。その豊富な知識を活かし日本工学院専門学校 放送・映画科非常勤講師を務める。

トップへ戻る

『斬、』『15時17分、パリ行き』 二人が選ぶ2018年のベスト作品

RECOMMENDおすすめの記事