原田泰造×コトブキツカサの「深掘り映画トーク」

『斬、』『15時17分、パリ行き』 二人が選ぶ2018年のベスト作品

映画好きのお二人、ネプチューンの原田泰造さんとコトブキツカサさんが、最近観た作品について自由に語る対談企画。後編では、お二人の中での2018年公開の映画での作品賞や主演賞を発表していただきます。

コトブキ 2018年公開作で、お互いのベストを挙げたいのですが。邦画と洋画に分けて教えていただきましょうか?

原田 邦画だと『犬猿』が良かった。筧美和子さんとニッチェの江上敬子さんが姉妹役で、二人ともちょっと見方が変わるくらいうまかった。

コトブキ 『犬猿』は、僕にとっても2018年の邦画ベスト3に入ります。女優で誰か良かったかって聞かれたら、江上さんを挙げますね。もう完全に藤山直美さんの芸風を受け継いでいますよ。

原田 それは顔が似ているってだけじゃないの?(笑)。あとは、千原ジュニアくんが主演した『ごっこ』も良かったね。あとは『寝ても覚めても』。

コトブキ 東出昌大さんが一人二役した作品ですね。最後のディナーのシーンがドカンと恐ろしかったですよね。

原田 印象というか、色合いが『ブンミおじさんの森』に似ているなって思った。

コトブキ では、僕から発表しちゃいますけど、2018年邦画ベスト作は『斬、』です。もう塚本晋也監督は最高ですね。これこそ日本だけじゃなく、海外のお客さんにも届く作品ですよね。

原田 『斬、』はまだ観てないんだよね……。だから、僕の邦画ベスト作はやっぱり『犬猿』にしておこうかな。洋画の1位は?

コトブキ 僕は『ファントム・スレッド』がダントツで1位ですね。ポール・トーマス・アンダーソン監督で、主演がダニエル・デイ=ルイスですから、観る前から完成度が高いだろうなと思いましたけど、やっぱりすごかった。映画の好みは人それぞれ異なると思いますが、僕が映画に求めるものってたぶん“緊張感”なんですよ。『ファントム・スレッド』は緊張感が持続して、不穏で、見終わった後も「あれ、何だったんだろう」と思う感覚が染み込んでくる。謎が多くて、その謎もぜんぜん解けないという、とんでもない化け物映画でしたね。

原田 それこそ『スリー・ビルボード』とかも、そんな感じの映画だったよね。見終わった後、「あれは何だったんだろう」と考えてしまう。

コトブキ 僕も映画を紹介する仕事をしているので、たくさんの知り合いから「『スリー・ビルボード』の、あのラストはどういうことなの?」と聞かれました。実際、僕もよくわかりませんでしたが、「あれがアメリカンニューシネマ(編注:従来のハリウッド方式とは異なる作品群)ってことじゃないですか」と答えたら、みんなその一言で納得してくれましたけどね。

原田泰造さん

原田 緊張感でいうと、『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』もすごくなかった? 1作目の方が緊張の度合いが強めだけど、2作目はベニチオ・デル・トロの存在感がすごい。存在感のある俳優といえば、いま一番好きなのは韓国のマ・ドンソク。『犯罪都市』も最高だった。

コトブキ 出ましたマ・ドンソク! 彼は「俺たちの!」って冠をつけたくなるような、久々の存在感のある役者ですよね。

原田 『ファイティン!』もおもしろかったよね。もう、マ・ドンソクの存在感って、渥美清さんの寅さん級だと思うんだよね。二枚目ではないかもしれないけれど、すごく味があって、憎めなくて、どこか哀愁が漂っている。どの作品でも、もうこの人じゃなきゃダメだって思わせるくらいのパワーがある。だから彼が韓国でブレイクして、主演作がどんどん作られてるいまの状況はうれしいよね。

コトブキ ということは、泰造さんの最優秀男優賞はマ・ドンソクに!

原田 グザヴィエ・ドラン監督の『たかが世界の終わり』のヴァンサン・カッセルもカッコよかったんだけど、あれは公開が2017年なんだよね……。ということで、今回はマ・ドンソクで!

コトブキ ついでに最優秀女優賞は?

原田 『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』のお母さん役の人かな。

コトブキ アリソン・ジャネイですね。あの演技でアカデミー賞の助演女優を受賞しました。ずっとタバコを吸っていて、迫力ありましたよね。

原田 最近は、タバコを吸うシーンが映画に出てくるだけで時代を感じるよね。タバコというものが、時代背景を象徴するアイテムになっちゃったんだろうね。

コトブキ では、洋画部門1位は?

原田 1位は……『15時17分、パリ行き』にしようかな。

コトブキ イーストウッドですか! 渋いですね。

原田 あの映画は予備知識を持たずに観て、後から主役の3人が、実際に事件に遭った本人たちだと知って驚いたんだよね。最初に撃たれた夫婦も、本人たちが演じていると聞いて、クリント・イーストウッドは恐ろしいことするなって思った。クライマックスの、ピストルを構えられた瞬間に走っていくシーンでも、本人は演じながら絶対にその当時のこと思い出している。だから、役者ではないのにあの表情が出せるんだよね。あの映画について考えてみると、あれはもう演技や映画のすごさというよりも、人生のすごさだなって思う。

コトブキ フランスの大統領から勲章をもらうシーンでは「映画化されるとしたら、俺の役はデンゼル・ワシントンかな」とジョークを言っていましたよね。本当に映画化されて自分で演じることになるとは考えてなかったでしょうからね。

原田 イーストウッドは『ハドソン川の奇跡』とか実録ものが多いけど、この作品で実録ものを突き詰めたのだと思う。本人を起用したことについては、いろいろな意見があると思うけど。

コトブキ ある意味で問題提起というか、「役者とは?」とか、「リアルな演技とは?」という本質的な問いを突きつけられますよね。

原田 「体感」について、別の面からのアプローチだよね。ある出来事を映画にしましょうってなったときに、その出来事に遭遇した本人が感じたことが一番リアルであることは間違いない。だからこそ、それを観る観客にもその体感が伝わるということなのかな。CGでなんでも表現できるようになっても、越えられないものがそこにあるということだよね。

コトブキ 『ボヘミアン・ラプソディ』も再現モノじゃないですか。でも、あのスケールと演出と俳優の演技で、本物のライブを見ているような感覚になる。

原田 本物以上に本物感があるよね。

コトブキツカサさん

コトブキ それでいうと、『アリー/ スター誕生』は、当初はクリント・イーストウッドが撮る予定だったんですけれども、それを愛弟子というか後継者のように思ってるブラッドリー・クーパーに譲ったそうです。そして、レディー・ガガが演じた役を、最初はビヨンセがやる予定だったんですよ。

でも、絶対ビヨンセじゃダメなんですよね。『アリー/ スター誕生』を観ると、もはやレディー・ガガのドキュメント映画みたいです。主人公はとにかく自信がなくて、鼻の大きさがコンプレックスみたいな設定ですが、レディー・ガガ本人もルックスに自信がなくて、整形しようとしていたと告白してます。ブラッドリー・クーパーだって、映画と同じようにプライベートでいろいろあったわけですよ。だから主演の2人と、劇中の役が完全にシンクロしてるように感じる。だから演技とかじゃないリアルさが出ているし、伝わってくるんですよね。

原田 ドラマの『北の国から』で、地井武男さんが演じた役のモデルになった方の奥さんが亡くなったから、脚本もそのように書き換えられたと聞いたことがあるけど、監督はそこまでしてリアルさを求めたんだよね。そして、撮影直前に地井さんの奥さんも亡くなって、あの迫真の演技が生まれた。

コトブキ 『カメラを止めるな!』も、役者やスタッフが現実とシンクロしているような映画ですよね。こうしてみると、2018年の映画界は「リアル」と「体感」がキーワードだったと言えそうですね。映画を観るという体験が改めて求められているし、作る側も、それに応えられる、よりリアルな生き様を感じさせるような作品が増えている。

原田 技術が進んで、3DとかVRとかも出てきたけれど、結局は作り手側のリアルな熱さを見せてもらった方が、観客の体感度は高い。そんな原点に戻っているのかもしれないね。

(文・大谷弦、写真・野呂美帆)

原田泰造とコトブキツカサ

今回トークに登場した作品たち

『犬猿』(18年/日本 監督:吉田恵輔)

『ごっこ』(18年/日本 監督:熊澤尚人)

『寝ても覚めても』(18年/日本・フランス 監督:濱口竜介)

『ブンミおじさんの森』(11年/タイ・イギリス・フランス・ドイツ・スペイン 監督:アピチャートポン・ウィーラセータクン)

『斬、』(18年/日本 監督:塚本晋也)

『ファントム・スレッド』(18年/アメリカ 監督:ポール・トーマス・アンダーソン)

『スリー・ビルボード』(18年/アメリカ・イギリス 監督:マーティン・マクドナー)

『ボーダーライン:ソルジャーズデイ』(18年/アメリカ 監督:ステファノ・ソリマ)

『犯罪都市』(18年/韓国 監督:カン・ユンソン)

『ファイティン!』(18年/韓国 監督:キム・ヨンワン)

『たかが世界の終わり』(17年/カナダ・フランス 監督:グザヴィエ・ドラン)

『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』(18年/アメリカ 監督:クレイグ・ガレスピー)

『15時17分、パリ行き』(18年/アメリカ 監督:クリント・イーストウッド)

『ハドソン川の奇跡』(16年/アメリカ 監督:クリント・イーストウッド)

『ボヘミアン・ラプソディ』(18年/イギリス・アメリカ 監督:ブライアン・シンガー)

『アリー/スター誕生』(18年/アメリカ 監督:ブラッドリー・クーパー)

『カメラを止めるな』(17年/日本 監督:上田慎一郎)

PROFILE

  • 原田泰造

    1970年、東京都出身。主な出演作に、WOWOW「パンドラⅣ AI戦争」(18)、映画「スマホを落としただけなのに」(18)、NHK「そろばん侍 風の市兵衛」(18)、映画「ミッドナイト・バス」(18)、NHK連続テレビ小説「ごちそうさん」(13-14)、NHK大河ドラマ「龍馬伝」(10)など。

  • コトブキツカサ

    1973年、静岡県出身。映画パーソナリティとしてTV、ラジオ、雑誌などで活躍中。年間映画鑑賞数は約500本。その豊富な知識を活かし日本工学院専門学校 放送・映画科非常勤講師を務める。

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 映画の力で生まれた一体感

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