偏愛人語

20年以上集めてコレクションは数千枚……スタイリスト野口強の尽きることないTシャツ愛

ッコいい大人は、たいてい自分だけのこだわりを持っている。彼ら、彼女らの「偏愛」に耳を傾けながら、自分らしく生きるためのヒントを学びたい。

今回登場するのは、90年代以降のメンズファッションを牽引(けんいん)してきたトップスタイリスト野口強さん。肩まで伸びるロングへアーにサングラス、上下はモノトーンのTシャツにデニム。こだわりの強さから長年同じスタイルを貫いている。そんな野口さんが、20年以上ハマっているものとは――。

「そこでしか買えない」感のあるものが欲しい

──今日は野口さんの「偏愛」についてお聞きします。長年ハマっているものはありますか?

野口強(以下、野口) 結果的に何かなあ。写真かな……でもやっぱりTシャツか。この数年、自分のクローゼットの中をどんどん絞り込んでいて、2ケースくらいあればいいと思っているんだけど、Tシャツだけは捨てられない。レコードコレクターが何千枚も持っていたりするけど、それくらいはあるかもしれません。

野口剛さんインタビュー写真

──Tシャツを集め出したのはいつごろでしょうか?

野口 集め出したというか、もともと暑がりで冬でもニットなんて着ないし、ボタンダウンも苦手だし、ずっとTシャツしか着てなかった(笑)。そこから広がっていっただけで、それ以上の深い意味はありません。意識して買うようになったのはハタチくらいからかな。買う場所は特に選ばず、古着屋でも買うし、展示会やセレクトショップでも買う。

──モノが面白ければ大量生産されているTシャツでも買いますか?

野口 それは買わない(笑)。どこでも買えるようなものには興味がないし、やっぱり「そこでしか買えない」感が欲しいよね。今日着ているTシャツもLAに行ったとき移動書店の物販で買ったもの。コーリー・ブラウンっていうライアン・マッギンレーのアシスタントをしていたカメラマンが作ったものです。

──いわばみうらじゅんさんのお土産物Tシャツみたいな一期一会を求めている?

野口 そうそうそうそう(笑)。人とかぶらないし。だからもうサイズが合わなくても買ったりすることがある。中古レコードのジャケ買いみたいなもので、買い逃したらもう手に入らない。実際それで後悔したこともありますし。

野口剛さんインタビュー写真

──買いがちなジャンルというのはあるのでしょうか?

野口 さっきも言ったように写真が好きなのですが、若い頃は高価な写真集が買えなかったから、その代わりに写真プリントのTシャツを買ってました。今でも好きですね。

──紙とTシャツ地ではプリントの質感がずいぶん異なると思います。

野口 やっぱりクオリティーが気になるから「ラバープリント(*)だと買わない」とかルールは決めてますね。今でも気に入ってるのは、ブルース・ウェーバーの写真をプリントしたTシャツやホイットニー美術館の展覧会で買ったリチャード・アヴェドンの写真のTシャツ、あとはヒステリック・グラマーの写真プリントTシャツのシリーズとか。あのくらいプリントのクオリティーが良ければいいんですけどね。

特にブルース・ウェーバーのTシャツは、写真にくわえてピンクやブルーのグラフィックデザインが施されていて、すごくよくできていた。買ったのは80年代かな。着ては洗ってを繰り返して、もう生地がスッカスカだけど。

*Tシャツプリントの定番の手法。表面にインクを乗せたような質感で伸縮性や耐久性もある

ブルース・ウェーバー氏の写真をプリントしたTシャツ

ブルース・ウェーバー氏の写真をプリントしたTシャツ

ナンバーナイン9周年記念時のヒステリック・グラマーとのコラボTシャツ。コートニー・ラブの手書きのメッセージ入り

ナンバーナイン9周年記念時のヒステリック・グラマーとのコラボTシャツ。コートニー・ラブの手書きのメッセージ入り

<<記事の最後に野口剛さんのTシャツコレクションがあります>>

──今でもよく着られる?

野口 たまに着るけど貧乏くさすぎて(笑)。Tシャツって経年で焼けたり脂で黄色くなってきたりするので、先日まとめて麻布十番の有名なクリーニング店に出したんだけど、まあ、ものの見事にキレイになりましたよ。30枚くらいで10万円近くしましたけど。

野口剛さんインタビューカット

──じゅうまんえんっ! それだけ維持費がかさむとなると、ガンガン着ることをためらってしまいませんか。

野口 でも着てなんぼでしょ。Tシャツにはコレクション目的もあるけど、基本的に1回は絶対に着てるかな。

──そこまで好きが高じると自作してしまいそうですが。

野口 実際にうちの事務所スティーロ(Stie-lo)で作ったことはありますよ。カメラマンとのコラボレーションで、ボディーからプリントまで全部自分たちで決めて。もともとスカスカの生地が好きだし、そっちの方がプリントのノリもいいんで。

スティーロ企画のTシャツ。写真はロバート・メイプルソープ氏

スティーロ企画のTシャツ。写真はロバート・メイプルソープ氏

スティーロ企画のシリーズ。写真家はエレン・ヴォン・アンワース氏

スティーロ企画のシリーズ。写真家はエレン・ヴォン・アンワース氏

 

──透けても気にならない?

野口 いや、ヘビーオンス(*)の生地でも、スカスカというか厚みを感じさせない生地ってあるんですよ。洗ってもいつまでもキレイな感じのTシャツが好きじゃなくて、やっぱりくたくた感がいいよね。

*生地の厚さの単位

──こうしたTシャツへの偏愛にはご自身の価値観が強く反映されていますか。

野口 うーん、どうだろうな。深く考えたことはないけど、1着4、5万円しても欲しいと思ったときは高いなあと思いながらも買うし、20年前のTシャツが復活するならクリーニング代に10万円かかっても惜しくない。それだけお金を費やせるということは、そこに自分の価値観や人間性が表れているのかもしれないですね。

(文・熊山准 撮影・花田龍之介)

野口剛さんプロフ写真

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