マッキー牧元 うまいはエロい

<73>東京で探すのは至難の業 「あんかけうどん」が食べられる名店

寒い日が続くと、「あんかけうどん」が食べたくなる。熱々のあんが絡んだうどんを、フーフーと息をかけながら、ハフハフ食べる。体の深部から温まって、心も柔らかくなる。そんなあんかけうどんを食べたい。そう思うのだが、東京であんかけうどんを食べることは、まずかなわない。メニューにないのである。街場のそば屋で用意しているところは、あまりない。一応申し述べておくと、このあんかけうどんとは、京都や大阪で食べるそれである。

「カレーあんかけうどん」「なすあんかけうどん」「黒酢あんかけうどん」「麻婆あんかけうどん」は、あんかけうどんではない。おいしい出汁(だし)をあんにし、揚げと九条ネギの細切りとしょうがを入れたものが、あんかけうどんである。世界中の食文化が結集している東京だが、関西風あんかけうどんを探すのは、至難である。

江戸の心意気が漂う神田まつやの一杯

そこで僕は老舗のそば屋に行く。まず1軒目は、神田まつやである。メニューには、「あんかけうどん」が堂々とあるではないか。“そば前”(そばを食べる前に酒を楽しむこと)ならぬ“うどん前”としゃれて、焼きのり、わさび菜、冷やし豆腐をつまみに、かん酒を一本飲む。

そしていよいよあんかけうどんの登場である。関西のシンプルなあんかけうどんとは異なり、江戸風あんかけうどんは具が多い。

神田まつやのあんかけうどん。卵焼き、シイタケ、かまぼこ、ナルト、麩(ふ)、タケノコ、青菜が、濃いべっこう色のつゆに沈んでいる

神田まつやのあんかけうどん。卵焼き、シイタケ、かまぼこ、ナルト、麩、タケノコ、青菜が、濃いべっこう色のつゆに沈んでいる

卵焼き、シイタケ、かまぼこ、ナルト、麩(ふ)、タケノコ、青菜が、濃いべっこう色のつゆに沈んでいる。薬味のしょうがとネギをいれ、まずつゆを飲む。息を吹きかけながら、慎重に飲めば、とびきり熱いつゆが静かに舌の上に広がっていく。見た目はしょうゆ色だが、きりりと味が締まった甘辛味で、江戸の心意気が漂っている。

ちきしょう、うまいじゃないかとつぶやきながらすするうどんは、中細で柔らかく、どろりとしたあんと同化するように崩れていく。こっくりとした上品な深みが、冷えた体や心を温める。甘辛い下地の味がしみた分厚いシイタケも、卵の甘みが生きた卵焼きも、江戸ならではの濃さや甘さだが、後味がきれいで、味に粋がある。

僕はたまらなくなって、かん酒をお代わりした。実はここのあんかけうどんは、日本酒のさかなとしてもいけるのですね。

酒のさかなになるあんかけうどん

さてもう一軒は、神田にある「室町砂場」である。ここでも“うどん前”としゃれよう。お通しの梅くらげ、卵焼きにお新香で一杯やってから、あんかけうどんである。

室町砂場のあんかけうどん。具材は卵焼きにエビ、シイタケ、かまぼこ、三つ葉、麩など

室町砂場のあんかけうどん。具材は卵焼きにエビ、シイタケ、かまぼこ、三つ葉、麩など

こちらは、卵焼きにエビ、シイタケ、かまぼこ、三つ葉、麩という布陣である。とろみ具合が強く、うどんを持ち上げる手が重い。うどんはどこまでも柔らかく、この主張のなさがあんのとろみと合うんだな。卵焼きは上品な味わいで、シイタケはしっとりと味がしみている。

こちらも酒のさかなになる。おじさん一人、あんかけうどんをつまみにして、かん酒をゆっくりとやる。そんなゼータクな午後があってもよろしいじゃございませんか。

次回は関西の『あんかけうどん』事情です。

神田まつや

創業明治17年の東京を代表する老舗そば屋。常に混雑しているが、見事なサービスによって、的確なタイミングで料理やそば類が運ばれてくる。昼間からそば前客が多い。「ごまそば」や「花巻」など、そばはどれもいい。そば以外では天丼がオススメ。

【店舗情報】
東京都千代田区神田須田町1-13
03-3251-1556
丸ノ内線「淡路町」駅、都営新宿線「小川町」駅より徒歩1分、JR「神田」駅より徒歩5分、JR「秋葉原」駅より徒歩6分
月~金  11:00~20:00 (L.O. 19:45) 土・祝  11:00~19:00 (L.O. 18:45)
定休日:日曜(祝・祭日は営業)
WEB:kanda-matsuya.jp/

室町砂場 本店

明治2年創業の、東京を代表する老舗そば屋。「天もり」発祥の店としても知られる。こちらもキビキビとしたサービスが心地よい。

【店舗情報】
東京都中央区日本橋室町4-1-13
03-3241-4038
JR「神田」駅、「新日本橋」駅より徒歩3分、銀座線「三越前」駅より徒歩3分
平日 11:30~21:00(L.O. 20:30)土曜 11:30~16:00(L.O. 15:30)
定休日:毎週日曜、祝日、第三土曜

PROFILE

マッキー牧元

1955年東京生まれ。立教大学卒。年間幅広く、全国および世界中で600食近くを食べ歩き、数多くの雑誌、ウェブに連載、テレビ、ラジオに出演。日々食の向こう側にいる職人と生産者を見据える。著書に『東京・食のお作法』(文藝春秋)『間違いだらけの鍋奉行』(講談社)。市民講座も多数。鍋奉行協会顧問でもある。

<72>カキのレベルが段違い……
両国「江戸蕎麦 ほそ川」の「かきそば」

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<74>京都、大阪の絶品「あんかけうどん」がもたらす至福のひととき……

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