原田泰造×コトブキツカサの「深掘り映画トーク」

クリント・イーストウッドが「老い」を真正面から描く
監督主演最新作『運び屋』

映画好きのお二人、ネプチューンの原田泰造さんとコトブキツカサさんが、最近観た作品について自由に語る対談企画。今回は、3月8日に公開されるクリント・イーストウッドが監督・主演した最新作『運び屋』について、試写を観たばかりのお二人が熱く語ります。

コトブキ 90歳で麻薬の運び屋をしていたという男の実話をベースにした作品ですけど、クリント・イーストウッドにしてみたら「これはもう俺が映画化するしかないだろ」って思ったんじゃないですかね。泰造さんはいかがでした?

原田 もう大満足だよ! 監督としてのイーストウッドも凄いけど、今回は役者としてもスゴかった。役者って、普通は年齢を隠したがるものじゃない。ファンとしても、ずっとそのままでいてほしいというのもあるし。でも、この映画のイーストウッドは、惜しみなく自分の老いをみせてるし、その佇(たたず)まいがカッコいい。

コトブキ イーストウッドが演じるアールは90歳で、今年で88歳になるイーストウッドの実年齢より2歳上なんで、老け役ってことになりますね(笑)。イーストウッドの世間的なイメージって、寡黙で、一匹狼でっていう感じだと思うんですけど、このアールという男は、もうちょっと軽やかなんですよね。オープニングから悪態ついてるし、シモネタもガンガン言うし。

原田 この映画のポスターを見ると、イーストウッドが険しい顔してて、「実話」「麻薬の運び屋」って文字が飛び込んでくるからちょっとバイオレンスな内容を想像しちゃうけど、本編はもっとユーモアがあって、笑えて、泣けて、深い。

映画『運び屋』

©2018 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

コトブキ アールは、農園をやってたけど、時代の流れに取り残されて手放すことになった。それまで仕事ばっかりしてたから、家族とも折り合いが悪くなってるという状況。そこでメキシコの犯罪組織のメンバーと知り合って、麻薬の運び屋をやることになっていく。アールは農園でメキシコ人を雇ってたんですけど、運び屋としては逆にメキシコ人に使われるというのが、時代の流れみたいなものを象徴してますよね。

原田 ちょっと不思議に思ったのが、アールが道路でエンストして困ってる黒人の手助けをしながら、嫌味なく、というか、ごく自然に差別的な言葉を使うシーンがあるじゃない? あれは、あえて入れたのかな?

コトブキ あれはアールという老人が、そういう地域でそういう時代を過ごしてきたということを示したかったんじゃないですかね。差別意識は無いけど、ある種染み付いた習慣的なものでああいう言葉を使ってしまう。

原田 そうか。ちょっと時代に取り残された老人というね。

コトブキ ギャングから連絡用にスマホを渡されたけど、メールが出来ないっていうエピソードが出てきますけど、そこと同じような意味なんでしょうね。

原田 そんな時代錯誤なアールが、若いメキシコ人ギャングたちからだんだん認められていく所がいいんだよね。大ボスにも気に入られるし……。あのボス役を演じてたのはアンディ・ガルシアだったでしょ? あれ、この組織の実態はイタリアマフィアなのと思って、ちょっと混乱したんだけど。(編注:アンディ・ガルシアはマフィアが主人公の映画『ゴッドファーザーPartⅢ』(1990年)に出演している)

コトブキ いやいや、あれはメキシコカルテルのボスですよ。ガルシアが出てきたら、みんなイタリアマフィアというわけではないです(笑)。

原田 そうか(笑)。確かにあのアジトもメキシコっぽかったもんね。あそこにアールも呼ばれて、女性とダンスするシーンとか妙にイキイキしてて、なんか「こういう生き方もいいよな」って思わせるんだよね。みんな犯罪に手を染めているにもかかわらず。

コトブキ アールには悲壮感が無いんですよね。運ぶ道中の見張りのギャングたちと、ポークサンドを食べるシーンでも、怖い顔して付いてきてる連中に「お前ら、人生楽しんでるのか」って話しかけるんですよ。年老いて、仕事も無くして、家族との仲も悪くて、麻薬を運んでる爺さんが「お前ら楽しめよ」って言うのは、皮肉も効いてるし、ある種の説得力もあるんですよね。

原田 あの見張り役をやってたマニー・モンタナという俳優、すごく上手かったよね。アールと二人きりで話すシーンも、すごく印象的だった。あのとき、二人の間には友情のようなものが芽生えてるんだけど、映画としてはその行く末までは描かない。そういうところがイーストウッドの映画だなって思うし、心に残る。

コトブキ イーストウッドは良い演技を引き出しますよね。僕の持論で「役者出身の監督は早撮り」っていうのがあるんです。俳優をしていた経験があると、リテイクしてもいい演技なんて出てこないってことがわかってるから、1テイクでどんどん撮っていく。

原田 アンディ・ガルシアも、けっこう大胆な表情をするシーンがあったじゃない? あれも1テイク目だったのかな。

コトブキ そうじゃないですか。ガルシア的には、一発目にちょっとオーバーにカマした演技をしたら、オッケー出ちゃったという(笑)。

原田 かもしれない(笑)。「あれ、もう1回やらせてくれないんだ」って思ったんじゃないかな。

実の娘も出演、家族がテーマのリアリティー映画

映画『運び屋』

©2018 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

コトブキ この作品は「家族」が一つのテーマになってるじゃないですか。数年前に『ミセス・イーストウッド&カンパニー』という、イーストウッド一家に密着したリアリティ・ショーが放送されてたんですよ。イーストウッドの若い奥さんがバンドのプロデュースをしていて、そのメンバーを家に泊めたりするんで、イーストウッドが苦い顔するっていう(笑)。

原田 そんなのがあるんだ(笑)。『運び屋』でも、アールが奥さんから「なぜ家族と過ごしてくれなかったのか」って責められて、アールが「家にいても何をしたらいいのかわからなかった」って弁明するんだけど、あの気持ちはちょっとわかるんだよね。家族を大事にしなきゃっていうのは、本当にわかるんだけど、仕事で輝きたいという気持ちもあるから。

コトブキ 仕事と家庭のバランスですよね。それはイーストウッド自身も直面してきた問題なんだと思います。もっといえば、今回の映画でアールの長女役を、イーストウッドの実の娘のアリソンが演じているんですよ。これはもうちょっとしたリアリティ・ショーですよ。それに、麻薬捜査官役を演じたブラッドリー・クーパーとも、映画人として師弟関係にありますからね。

原田 実の娘だったんだね。そう考えると、アールが捜査官に「仕事ばっかりしてるんじゃない」っていうのは、リアルな言葉だってことだよね。

コトブキ イーストウッドとブラッドリー・クーパーの関係は、僕の中ではロバート・レッドフォードとブラッド・ピットに似てると思うんですよ。レッドフォードとブラピは『リバー・ランズ・スルー・イット』で監督・主演の関係になって、『スパイゲーム』で共演してるんですけど、そういったオモテの関係性もあれば、映画人としての志も継承してるんです。レッドフォードはサンダンス映画祭を作って、若手の作家を応援してるじゃないですか。ブラッド・ピットもその精神を受け継いで、プランBエンターテインメントっていう製作会社をつくって、渋いけどいい映画をたくさんプロデュースしてたりするんですよ。アメリカ映画って、こうやって継承されていくんだなっていうのを、僕たちはいま目の当たりにしているといいますか。

原田泰造さんとコトブキツカサさん

原田 年齢を重ねてくると、誰かに継いでもらいたいっていう気持ちになるんだろうね。「家族を大事に」っていうのも、おじいちゃんになって初めて理解できるのかもしれない。映画の中のアールはひょうひょうとしてるんだけど、やっとそれに気づいたし、それと同時に仕事も果たそうとするし、そのためにはいつ捕まってもいい、いつ死んでもいいって思ってる。かなり不器用だけど、彼なりの罪滅ぼしでもあるんだろうね。

コトブキ これはイーストウッドが繰り返し語っている「贖罪(しょくざい)」というテーマですよね。それに泰造さんが言ったように、アールはユーモアを交えてるけど「死」というのも濃厚に漂ってる。死を悟っているというのは、老人ならではですし、この作品はその先まで描こうとしている。

原田
 そう考えると、今の若い人たちのほうがいろいろ悟ってるよね。「仕事より家族が大事」なんてことは、もうとっくに知ってるというか。あの世代が90歳で悟ることを、そんなの当たり前だよって感覚で理解してる。

コトブキ 確かに、いまの若い世代はガツガツ働くよりも、家族との時間を大事にする傾向がありますね。

原田 俺が芸人になるってときに、親父から「お前がやる仕事は、家族の死に目に逢えない仕事だから、そこらへん覚悟しろ」って言われて、俺もずっとそうだなって思ってたんだよ。でも、ある頃から日本も変わってきて、この仕事でもけっこう休めるんだよね(笑)。芸人でも夏休みとって家族と過ごすとか、育休取るとかも当たり前になって、周りもそっちのほうを尊重する雰囲気になった。あぁ、もうそういう時代なんだなって感じるよね。

コトブキ とはいえ、家族が大事って映画で訴えながらも、イーストウッド本人は88歳になってもバリバリ仕事してるわけですからね。その情熱がすごいですよ。

原田 これだけ人生を映画に捧げてる人もいないと思う。だからこそ、イーストウッドにはこれからもどんどん映画を撮ってほしいよね。

(文/大谷弦、写真/野呂美帆)

『運び屋』ポスター

『運び屋』
監督:クリント・イーストウッド
脚本:ニック・シェンク
出演:クリント・イーストウッド ブラッドリー・クーパー ローレンス・フィッシュバーン マイケル・ペーニャ ダイアン・ウィースト アンディ・ガルシア アリソン・イーストウッド タイッサ・ファーミガ
公開日:3月8日(金)全国ロードショー

<あらすじ>
90歳になろうとするアール・ストーン(クリント・イーストウッド)は金もなく、ないがしろにした家族からも見放され、孤独な日々を送っていた。ある日、男から「車の運転さえすれば金をやる」と話を持ちかけられる。なんなく仕事をこなすが、それはメキシコ犯罪組織によるドラッグの運び屋だった。気ままな安全運転で大量のドラッグを運び続けるアールに、麻薬取締局の捜査官(ブラッドリー・クーパー)の手が迫る……。

PROFILE

  • 原田泰造

    1970年、東京都出身。主な出演作に、WOWOW「パンドラⅣ AI戦争」(18)、映画「スマホを落としただけなのに」(18)、NHK「そろばん侍 風の市兵衛」(18)、映画「ミッドナイト・バス」(18)、NHK連続テレビ小説「ごちそうさん」(13-14)、NHK大河ドラマ「龍馬伝」(10)など。

  • コトブキツカサ

    1973年、静岡県出身。映画パーソナリティとしてTV、ラジオ、雑誌などで活躍中。年間映画鑑賞数は約500本。その豊富な知識を活かし日本工学院専門学校 放送・映画科非常勤講師を務める。

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