偏愛人語

ケアホルム、ウェグナー、ヤコブセン――佐藤可士和が偏愛する北欧家具

こだわりのあるオトナとは、自分の好きなものを知り尽くしている人を指すのかもしれない。90年代以降のグラフィックデザインの潮流に大きな影響を与えてきたクリエーティブ・ディレクター佐藤可士和さん。一目でデザイナーの顔が思い浮かぶほど特徴的なデザインには、佐藤さんの価値観が強く反映されている。

「僕はとにかく“ミニマル”(最小限)が好きなんです」

 佐藤さんのデザインスタジオ「SAMURAI」は、ミニマルな空間を追求してデスクや椅子が北欧家具で統一されている。中でも偏愛しているという家具ブランドについて聞いた。

ミニマルな空間にマッチ 北欧の3デザイナー

——今回、“偏愛”するものとして北欧家具を挙げていただきました。そもそも家具への興味はいつ頃からですか?

佐藤可士和(以下佐藤) 僕の父は建築家で、実家はル・コルビュジエや柳宗理などがデザインした名作チェアがぽつぽつとあるような環境でした。幼い頃はさほど意識していませんでしたが、大学生になった辺りから家具全般に興味を持つようになって。そこからこれまで、いろいろな国のいろいろな時代の家具を相当数買ったと思います。

佐藤可士和さん

事務所であれ自宅であれ、家具のデザイン性でその空間の印象が決まるようなところがある。たとえばリビングならばソファとダイニングでほとんど決まってしまいます。空間自体をいちから自分で設計して作れるのなら少し違うかもしれませんが、たいていの場合、家具のインパクトがとても大きいですよね。だから引っ越すとなると家具から考えていきます。買い足すとどうしてもうまく合わないので、ガラッと総取っ換えするタイプです。

佐藤さんがオフィスで使っている北欧家具のごくごく一部。左からアルネ・ヤコブセンによるデザインの〈セブンチェア〉、ハンス・ウェグナーの〈PP701〉、ヤコブセンの〈ドットチェア〉、ポール・ケアホルムによる〈PK11〉〈PK9〉

佐藤さんがオフィスで使っている北欧家具のごくごく一部。左からアルネ・ヤコブセンによるデザインの〈セブンチェア〉、ハンス・ウェグナーの〈PP701〉、ヤコブセンの〈ドットチェア〉、ポール・ケアホルムによる〈PK11〉〈PK9〉

<<佐藤可士和さんの北欧家具コレクション>>

 

【ポール・ケアホルム】

椅子:PK9、PK11、PK22、PK25、PK31、PK33、PK80、PK91

テーブル:PK61、PK71

 

【アルネ・ヤコブセン】

アリンコチェア、セブンチェア、ドットスツール、スワンチェア

 

【ハンス・J・ウェグナー】

PP701ミニマルチェア

——いろいろ試して北欧の家具に行き着いたんですね。

佐藤 ええ、あらゆる家具を実際に使ってみて残ったのが、全て北欧の家具だったんです。今日ご紹介するのはポール・ケアホルム、ハンス・J・ウェグナー、アルネ・ヤコブセンのチェア。いずれもとても軽やかなデザインで、僕の好きなミニマルな空間にとてもよく合う。

3人はいずれもデンマーク生まれで、ケアホルムが1929年生まれ、ウェグナーが1914年、ヤコブセンが1902年生まれと、活躍した時代も重なっています。北欧全般の家具のなかでも、この頃のデンマークのデザイナーは尖(とが)っているというくらいにとびきりモダンな印象があります。

事務所では、スタッフ用に革張りにしたセブンチェアを使っていたり、大勢の来客用にスタッキングできるドットチェアをストックしていたりと、ヤコブセンのデザインによるものを数多く使っています。ウェグナーのPP701は、彼の中ではモダンなデザインで、僕は好きです。

ミーティングルーム。手塚貴晴+手塚由比の設計によるミニマルで美しい空間

ミーティングルーム。手塚貴晴+手塚由比の設計によるミニマルで美しい空間

彫刻的な美しさ……そして驚くほどの座りやすさ

——種類でいうと、3人のなかでもとりわけポール・ケアホルムの家具が多いですね。

佐藤 そうですね、ケアホルムのデザインはいちばん好きです。事務所の応接サロンでローテーブルのPK61を囲んでラウンジチェアのPK25や、スツールのPK33を使っているほか、ベンチのPK80も使用中。自宅のダイニングチェアやソファもケアホルムです。

ケアホルムの家具は、突き抜けてシャープかつシンプルなデザインで、使い心地が悪そうと言う方もいるのだけど、そんな方にはとにかく一度彼のデザインした椅子に座ってみてほしい。驚くほどに座りやすいんです。

たとえばスツールのPK33。座面の径が大きく、かつ中央に向かってくぼんでいて、座ってみるとお尻がすぽっと包み込まれるような感覚がある。かつ、高さが30センチほどとかなり低いのも特徴です。体がどこも無理することなく、心地よく座れることに驚くと思います。

スツールとしてはかなり低めで、日本人の体格にもしっくりくるそう

スツールとしてはかなり低めで、日本人の体格にもしっくりくるそう

——(座ってみる)おお! なるほど。かなり硬質でストイックな見た目からは想像もつかないほど優しい座り心地ですね。

佐藤 ラウンジチェアのPK25も素晴らしい。もとはケアホルムが学生時代最後の作品としてデザインしたもので、スチールでどの角度から見てもオブジェとして完璧なものを目指したといいます。一枚のスチールに切り込みを入れ、曲げることでできあがるフレームに、麻ひもを渡しかけて背面・座面をつくっている。

現在製品化されているPK25は、この原型のものを改良して、背面・座面もひもではなく革やキャンバスを張ったデザインになっているのですが、僕は原型のものが限定数復刻されたときに手に入れ、どちらも使っています。彫刻的に美しい、切れるようなフォルムで、座り心地はどうなのか?と思って座ると、これまたとてもいいんですよ。全身をゆったりと支えてくれて、いくら座っていても疲れない。

ラウンジチェア〈PK25〉の原型。スチールに切り込みを入れて曲げたフレームが、オブジェのような美しさ

ラウンジチェア〈PK25〉の原型。スチールに切り込みを入れて曲げたフレームが、オブジェのような美しさ

こだわりはネジ一本まで 妥協を許さぬケアホルムの美学

——ケアホルムデザインのどこがそんなに魅力なのでしょう?

佐藤 名作とされるラウンジチェアをいくつも試しましたが、不思議なことに、ケアホルムのデザインのものが、僕にとっては体にぴたっと合うスケール感です。

実は、雑誌の取材で、ケアホルムの自邸と、これらの家具がつくられている工場にうかがったことがあるんです。PK25のスチールを曲げていく作業も、ひもを渡しかける作業も職人の手と目がものをいう仕事。熟練した職人たちが、全く妥協することなく、精度の高い仕事をしているというのがひしひしと伝わってきました。スチールの脚が井桁に組み合わされたローテーブルのPK61は、ネジ一本に至るまでオリジナルでデザインされたものを製作しているんですよ! まさかネジまでとは思ってなかったのでのけぞりました(笑)。

ラウンジチェア〈PK25〉と、手前がローテーブル〈PK61〉。天板を細いスチールで支える、極限まで絞りきったデザイン

ラウンジチェア〈PK25〉と、手前がローテーブル〈PK61〉。天板を細いスチールで支える、極限まで絞りきったデザイン

使っているとほとんど見えないネジ一本に至るまでデザインされているという

使っているとほとんど見えないネジ一本に至るまでデザインされているという

ケアホルムは、建築への興味がとても強かったといいます。だから、まだスチールが家具の素材としては一般的ではなく、建材としての使用が主だったときに、家具にスチールを取り入れた。木などと一緒で天然素材のような繊細で美しい天然素材だと考えたそうです。デザインにも、建築的な部分が見られますよね。家具それぞれが、シャープで繊細な美しい構造体として成立している。この美しさと抜群の機能性を兼ね備えているのが本当に格好いいと思います。もちろんいろいろな見解はあると思うけれど、僕にとってはデザインの究極系のようなところがあります。

——今どのくらい、北欧家具を持っているんですか?

佐藤 今日挙げた3人のデザインの家具をどれくらい持っているのか……。考えたこともなかったけれど、お話ししたようにスタッフ用のチェアなどもありますから、事務所と自宅を合わせると100近くになるかもしれません。でも、それらの全てがアクティブな家具。どれも現役で使っていて、ただ眺めるために置いてあるというような家具はひとつもありませんね。僕、コレクター気質のようなものは全くないんです。結果的に数多く持っていますけど、使うことのできない何かを集めたいというような欲は、何に対してもありません。

そもそも“偏愛”というお題をいただいた時に真っ先に思いついたのは「整理」なんです。集めるよりは徹底的に整理したいタイプ(笑)。やっぱりその話も、少しだけしてもいいですか?(後編へ/3月14日公開)

(文・阿久根佐和子 撮影・花田龍之介)

佐藤可士和さん

佐藤可士和(さとう・かしわ)

クリエーティブ・ディレクター。1965年、東京都生まれ。博報堂を経て、2000年にクリエーティブ・スタジオSAMURAIを設立。国立新美術館、ユニクロ、楽天グループ、セブン-イレブンジャパン、今治タオルなどのロゴデザイン、ブランドクリエーティブディレクションなどを手がける。近年は武田薬品工業グローバル本社ビルの空間デザインなど大規模な建築プロジェクトにも多数従事。慶応義塾大学特別招聘教授、2016年度文化庁文化交流使。

バックナンバー

【vol.1】 落合陽一が語るカメラへの愛情

vol.2落合陽一インタビュー後編「僕しか美しいと思わなそうなモノが世の中いっぱいある」

【vol.3】 佐藤健寿がハマった美しい小径自転車モールトン

vol.4 スタイリスト野口強、数千枚のTシャツコレクション

vol.6 佐藤可士和インタビュー後編 「超整理術」の原点はガキ大将

【vol.7】 小林武史、Mr.Children『深海』も“ビンテージ”にこだわった

20年以上集めてコレクションは数千枚……スタイリスト野口強の尽きることないTシャツ愛

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佐藤可士和「超整理術」の原点はガキ大将の美しすぎる部屋

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