ノジュール

<第66回>この春は“ハート形のお花見”で話題のお寺へ

ハート形の猪目窓の向こうに、桜の薄紅色がこぼれる美しい眺め。

JR宇治駅からバスを乗り継いで行く山あいにありながら、今、女性たちが続々と訪れている人気の寺院「正寿院(しょうじゅいん)」。ここ数年は、ハートの形をした「猪目窓(いのめまど)」が写真映えすると話題になっています。春は華やかな桜とともに楽しめる絶好の機会。ここでは美しい天井画ももうひとつの見どころで、訪れる人たちの心を捉えて離しません。

    ◇

正寿院は高野山真言宗に属するお寺で、京都府の南東部、宇治市に隣接する宇治田原町にあります。町は日本緑茶発祥の地として知られる茶どころで、町のあちこちには緑の茶園が見られ、お茶の町だということが実感できる土地。そんな家々が立つ集落の一角に正寿院の客殿があり、ここでハートの猪目窓が迎えてくれます。
このお寺は約800年前に、今は廃寺となっている医王教(いのうきょう)寺の塔頭(たっちゅう)寺院として建てられたと伝わり、本堂には50年に一度ご開帳される秘伝の本尊・十一面観音菩薩(ぼさつ)立像(町指定文化財)が安置されています。厨子(ずし)の扉は閉じられていますが、十一面観音の指に結ばれた「結いの紐(ひも)」が内陣の前まで垂らされていて、その紐を両手に挟んで願うことで、本尊とのご縁が結ばれると言われています。

江戸時代に種子曼荼羅(まんだら)が描かれた、本堂内陣の天井画

江戸時代に種子曼荼羅(まんだら)が描かれた、本堂内陣の天井画

内陣の天井をのぞき込むと、江戸時代に描かれた曼荼羅の天井画が見られ、1枚1枚に梵字(ぼんじ)と蓮(はす)が描かれているのだとか。300年もの間、毎月28日の縁日に護摩が焚かれているので、天井は真っ黒。でもよく見てみると、蓮のような形が表現されているのが分かって、ありがたい気持ちになってきます。

そしていよいよ客殿へ。板の間の奥に「則天(そくてん)の間」と名付けられた畳敷きの部屋が広がり、いちばん奥にあるのがお目当ての猪目窓。その形はまさしくハートで、灯篭(とうろう)やその周囲の桜がハートの形に切り取られて見え、なにか立体的に浮き出ているようにも感じる美しさです。

春と秋はライトアップが実施される。拝観ははがきでの事前申し込みによる抽選制

春と秋はライトアップが実施される。拝観ははがきでの事前申し込みによる抽選制

「猪目とは、奈良時代から日本に伝わる伝統的な文様のひとつです。30種類ほどあるといわれ、丸みを帯びたハート形だったり、よく見ればハートのような形だったりしてさまざまです。猪目がなぜハート形をしているのか。猪(いのしし)の目に似ているとか、菩提樹(ぼだいじゅ)の葉の形など諸説あります」と副住職の久野村大輔(くのむらだいすけ)さん。猪などの獣の目は災難を取り除くという信仰があり、釈迦とゆかりの深い菩提樹も縁起がいいことから、猪目は飾り金具や額縁などの建築装飾に使われてきたそうです。この客殿の猪目窓は訪れる人たちの幸せと建物の安全を願って、5年前の建て替えを機に造られたものです。

猪目窓の御朱印は春夏秋冬の4種類

猪目窓の御朱印は春夏秋冬の4種類

今ではこの猪目窓を目当てに全国から人が訪れ、とくに女性に人気だといいます。実際にハート形の窓に映る景色を見ていると、なんだか幸せな気持ちになってきます。しかも、春は淡いピンクの桜と一体化するのですから、幸福感は倍増するでしょう。さらに猪目窓の御朱印も楽しみのひとつ。「福を呼ぶ」という思いを込めて、名前を入れてもらえるのがうれしいポイントです。猪目窓がデザインされたオリジナルの御朱印帳や、ハート形をした水引猪目お守など、猪目にちなんだ授与品もあるので、どうぞお見逃しなく。

猪目窓デザインの御朱印帳も人気だ(2枚1文)

猪目窓デザインの御朱印帳も人気だ(2枚1文)

もうひとつ、客殿には天井画を鑑賞できる魅力もあります。「寝転がって見てもらっていいですよ」という久野村副住職のお言葉に甘えて、ここはごろり。桜や朝顔、ひまわりなどの花、鯉(こい)のぼり、渡月橋などが描かれた美しい色彩の日本画が天井を埋め尽くしています。なかには京都らしい芸妓(げいぎ)の姿も描かれていて、実際に寝転んで眺めていると、天井画との距離がぐっと近く感じられて楽しいもの。これら天井画のテーマは「花と日本を感じる風景」。約160枚のなかには書も含まれていますので、探してみるのも一興です。あらためて天井画の下に座って、庭を眺めていると、手水鉢(ちょうずばち)から流れる水の音や鳥のさえずりが静けさのなかに響いて、とても耳に心地よいもの。庭の奥には桜の木々が借景のように目に映って、花の盛りを思わせます。
「五感を研ぎ澄ませて、人も自然の一部であることをこの部屋で感じていただきたいです」と久野村副住職。桜はもちろん、周囲の山並みや手入れされた庭、風景が描かれた天井画をじっくりと味わいながら、春のひとときを満喫できるお寺です。

「花と日本の風景」をテーマに160枚が描かれている、客殿の天井画

「花と日本の風景」をテーマに160枚が描かれている、客殿の天井画

ノジュール3月号では「春と桜と物語の旅路」を巻頭特集にすえ、日本に暮らしてよかったと感じられる桜の楽しみを、さまざまな旅のアイデアとともにご紹介しています。さらに今なら年間購読料がおトクになる「Web割引」も実施中。ノジュール購読をスタートしていただく絶好のチャンスです。誌面の一部は、立ち読みページのあるホームページからもご確認いただけますので、この機会にどうぞ訪れてみてください。

■ノジュール:鉱物学の専門用語で硬くて丸い石球(団塊)のこと。球の中心にアンモナイトや三葉虫の化石などの“宝物”が入っていることがある。

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