偏愛人語

佐藤可士和「超整理術」の原点はガキ大将の美しすぎる部屋

各界のキーマンはどんなものを「偏愛」しているのか――。クリエーティブ・ディレクター佐藤可士和さんからは、長年親しんできた「北欧家具」について熱いトークがあった。ところが、家具の魅力を語り尽くしていよいよお開きというタイミングでのこと。

「実は僕の本当の偏愛は北欧家具とは別にありまして……」(佐藤さん)

えっ、今さらですか!?  突然のことにうろたえていると、佐藤さんはさらにこう続ける。

「モノがあったほうが分かりやすいと思って北欧家具を挙げましたが、実は“整理”が本当の偏愛なんです。その話も少しだけさせてもらってもいいですか……?」

もちろんですとも! ということで、後編は全く予期せぬ展開で始まった、佐藤さんの整理愛に関するお話です。

価値観一変! 小3で出合った“衝撃の部屋”

 ――「整理」を偏愛ですか。なんだか面白そうな話ですね。

佐藤可士和(以下佐藤) はい。事務所も自宅も「整理」には相当なこだわりがあります。でも、それって説明できる写真が撮りづらいかなと思って……(笑)。でも、僕が何に対してもコレクションしたいという欲が全くないことも、「整理が好き」ということの延長線上にあるように思います。使いもしないものを持っていることに僕は意味が見いだせないんです。

インタビューを行ったSAMURAIのミーティングスペース。視界に入るのは、テーブル、椅子、照明くらい。モノが少ない

インタビューを行ったSAMURAIのミーティングスペース。視界に入るのは、テーブル、椅子、照明くらい。モノが少ない

椅子の配置場所も細かく決められていた。スタッフが専用の定規を当て並べていく

椅子の配置場所も細かく決められていた。スタッフが専用の定規を当て並べていく

――いわゆる「整理整頓」がお好きということですか。子どもの頃からのくせですか?

佐藤 小学校3年生のときのある出来事がきっかけなんです。放課後、とある友だちの家に遊びに行った時のこと。勉強はできないけれどケンカは強くて、いつも服は泥だらけというような、ガキ大将のお手本のような子で。成績もそんなによくない子だったので、部屋もいろいろ散らかっているんだろうなあと思っていたんです。ところが、遊びに行った彼の部屋が、それはそれはきれいに整頓されていて! 

おもちゃも本もあるべきところにきちっと収まり、机の上には教科書とノートがビシッと重ねられ、鉛筆も美しく削られて長い順に並べられている……。ほかの友達の家へ行っても皆ぐっちゃぐちゃの部屋だったし、僕も同じ。それまでは家でも「片づけなさい」ってきつく言われていましたが全然聞いていなかった。ところが、そのガキ大将の部屋があまりに衝撃的に片づいていて、「なんて格好いいんだ!」と(笑)。

佐藤可士和さん

そのショックがあまりに大きく、影響を受けて、僕も家に戻ってまずは漫画を整理したのを覚えていますね。当時、(週刊少年)ジャンプ、マガジン、サンデーといろいろな漫画を読んではそのままにしてあったのを雑誌ごとに分ける、みたいなところから始めて、号数順に並べ、帯がなくなってるものがあれば全て帯をとり……。漫画の本棚がきれいになったら、次は机の上、部屋……。そうやって整理するエリアを広げて今に至ります。

――その友達の家での出来事がよほどの衝撃だったんですね。

佐藤 どうして遊びに行ったんだったか、そもそもお互いの名前ももう覚えていないだろうというくらい、特段仲がよかったわけでもない子なんですけど。そのきれいな部屋は普段の彼からしてものすごく意外だったし、自分やほかの友達に比べて大人っぽいなあと感心しました。彼が僕の整理整頓のポテンシャルを引き出してくれたのは間違いないです(笑)。

SAMURAI設立前に勤めていた博報堂では、机の上に何も乗せないことが爽快になってきて、電話以外何も乗ってない、辞めた人の机みたいでしたよ(笑)。会社に行くと僕の机を使っていない机だと勘違いして、他の人がコピーを書いていたりしました。

――デザインすることと、整理整頓とは結びつくところがあるように思います。

佐藤 整理することとクリエーティブなことが完全に連関し始めたのは、2000年に独立してSAMURAIをつくった時ですね。今いる事務所は引っ越しを重ねて6カ所めですが、最初の時はまだ独立したてでお金もないし、自分で図面を引いて業者さんを探して作ってもらいました。その時に改めて、モノをなくしていくことで空間を作ることができるんだな、と気づいたんです。

佐藤可士和さん

貸しビルの一室をフローリングにして、壁や天井を白く塗って。ごく普通の部屋なのだけど、そこに山のように持っていた本や資料を詰め込むのではなくて、全くモノをなくしてしまうとかえって空間が面白く見えてくることに気づきました。それで大量の本は後輩にあげてしまったり(笑)。整理するだけでデザインされていくんだな、と、まざまざと実感したんです。それまでに手がけた仕事でも、そういう経験をしたことはあったのだけど、まだぼんやりとしか認識できていなかったのが、事務所の空間を作っていくなかでバチッとはまった感じがありましたね。ああ、小学生からやってきたことが、今わかったぞ!と。

折しもデジタルが本格的に普及し始めた頃でもあって、仕事のなかでPCが占める割合が増えていっていました。デジタルと整理はとても相性がいいので、そこからはかなり意識的に「整理」に夢中になりました。

何もかもシンプルでミニマルが美しい

――今、お話を伺っているこのミーティングルームも、かなり美しく整頓されていますね。整頓というか……、全く余計なモノがない!

佐藤 大きなデスクと椅子以外には何もありませんからね(笑)。この事務所は手塚貴晴+手塚由比さんに設計していただきました。僕の後ろにあるこの棚は、気に入っているところのひとつです。長い壁の一面を全て、取っ手のない白の扉をつけて収納にしてあります。入り口から奥へ行くにつれて天井の高さが高くなるのですが、その変化に合わせて棚の高さも変わっていく。もちろん扉を開けてもすべて整頓されていますし、どこに何が入っているかも完全に把握していますよ!

ミーティングスペースを取り囲む真っ白い壁。そこを押すと……

ミーティングスペースを取り囲む真っ白い壁。そこを押すと……

中は収納棚に。過去に手がけた作品や各種の資料が収められている

中は収納棚に。過去に手がけた作品や各種の資料が収められている

――本当ですか……! 整理について何か決めていることはありますか?

佐藤 収納するなら同じボックスだとか、袋を使います。整理された状態も美しいのが理想です。なにもかも、なるべくシンプルでミニマルな方がいい。整理するのもエクストリームに突き抜けていくと美しいし、僕が好きなのはそういうものなのだと思います。前回お話ししたケアホルムのデザインが好きなのも、おそらくはエクストリームに突き詰めた感じがあるからなんだろうな、と。つまるところ、整理好きが今ある僕の大部分を形作ってくれた、と言えるのかもしれませんね。

(文・阿久根佐和子 写真・花田龍之介)

<佐藤可士和さんインタビュー・前編はこちら>

佐藤可士和(さとう・かしわ)

クリエーティブ・ディレクター。1965年、東京都生まれ。博報堂を経て、2000年にクリエーティブ・スタジオSAMURAIを設立。国立新美術館、ユニクロ、楽天グループ、セブン-イレブンジャパン、今治タオルなどのロゴデザイン、ブランドクリエーティブディレクションなどを手がける。近年は武田薬品工業グローバル本社ビルの空間デザインなど大規模な建築プロジェクトにも多数従事。慶応義塾大学特別招聘教授、2016年度文化庁文化交流使。

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