インタビュー

阿部純子が一人二役で主演 日露戦争時代の看護師と捕虜の秘められた恋

日露戦争が起きた1世紀以上前、日本に複数あったロシア兵捕虜収容所。日本で初めて作られた松山市の捕虜収容所を舞台に、ロシア兵と日本人看護師の数奇な運命を描いたラブストーリーが映画『ソローキンの見た桜』だ。阿部純子さんが、主人公の日本人看護師ゆいを演じる。

阿部さんは、昨年の『海を駆ける』に続いて2度目の『&M』への登場となる。『孤狼の血』や公開中の『サムライマラソン』にも出演し、実力派女優として注目が集まる阿部さんにインタビューした。日本とロシア、二つの国を舞台に描かれた愛の物語は、阿部さんにとってどんな作品になったのだろうか。

【動画】阿部純子さんインタビュー(撮影・高橋敦)

一シーンごとに日露のスタッフで「どうしたいか」を話し合った

ロケ地は日本とロシア、スタッフとキャストも両国から参加し製作された日ロ合作プロジェクトとなった。メガホンを取るのは、ロシアで映画製作を学んだ井上雅貴監督。前作『レミニセンティア』は、全編をロシアで自主制作して話題となった新鋭監督だ。

「井上監督は、ロシアと日本をつなぐ映画監督です。撮影は日本語とロシア語、英語が飛び交う現場でした。1冊の台本に対してロシア人、私たち日本人それぞれの解釈があるので、1シーンごとに『どうするべきか』ではなく『どうしたいか』を話し合いながら作りました。

監督の言葉で印象的だったのは、『日本人とロシア人の価値観、どちらも尊重して作っていこう』です。『こうしたい』という方向性をお互いにすり合わせて撮影することで、シーンに深みが出たのではないかと思います」

映画『ソローキンの見た桜』

映画『ソローキンの見た桜』より (C)2019「ソローキンの見た桜」製作委員会

阿部さんが演じるのは、日露戦争が起きた20世紀初めの看護師ゆいと、現代のTVディレクター桜子。一人二役で、異なる時代に生きる女性2人をしなやかに演じている。

「井上監督から台本をいただいてすぐに読み、ぜひ監督とお仕事をさせていただきたいと思いました。主演で一人二役、良くも悪くも頑張らなくちゃというプレッシャーは少し感じていました。実在した松山の捕虜収容所が舞台だったので、演じることの責任の重さを感じました。壮大な物語だからこそ、ひとつひとつ丁寧に作り込まないといけないなと思いました」

阿部さんは、撮影前にロシア人の日記や原作を読み、当時の写真や資料にも目を通してから現場に臨んだそうだ。

「家族への思い、人をいたわるゆいの気持ちを自分に落とし込んで、当時の女性像をしっかり表現したいと思いました。家族を失った悲しみだけじゃなく、今できることをやろうとする、ひたむきで前向きなゆいの姿勢を尊重しなければと注意して演じました」

阿部純子さん

ロシア兵と一緒に踊るダンスシーンが印象的。「ロシアのダンスを踊るのは初めて。踊ってみると、言葉の壁を越えてつながることができて、とても楽しかったです」

斎藤工さんからのアドバイスで始めたSNS

物語は、TVディレクター桜子がロシア人墓地を取材する場面から始まる。桜子は祖母・菊枝から、自分のルーツがロシアにあることを聞かされる。菊枝は、祖母・ゆいの日記を読み、その内容に驚く。そして時代はさかのぼり、日露戦争時代へ。看護師のゆいは、ロシア兵ソローキンの手当てをする。しかし、ソローキンはゆいの弟の命を奪った船に乗っていた兵士だった。ソローキン役を演じるのが、ロシアの演技派俳優ロデオン・ガリュチェンコ。

ソローキン(ロデオン・ガリュチェンコ・左)とゆい(阿部純子)

ソローキン(ロデオン・ガリュチェンコ・左)とゆい(阿部純子)(C)2019「ソローキンの見た桜」製作委員会

「ロデオンさんは、役の名前『ソローキンさん』と呼ばせてもらいました。私も、『ゆいさん』と呼んでもらって。ロデオンさんを含め、ロシアの俳優の方はみんな演劇の基本を学校や舞台で学んでいるので、演技のレスポンスが柔軟なんです。私の芝居に対するコメントやアドバイスもしてくださって、とても勉強になりました。

ロデオンさんは現場ではチャーミングな一面もありました。芝居中に突然固まって、まわりをびっくりさせたり(笑)。言葉の壁もありましたが、それを取り払って笑わせてくれて、現場が和みました」

桜子の上司・倉田役は斎藤工さんが演じた。俳優のみならず監督としても活躍する斎藤さんからは、こんなアドバイスをもらったという。

「斎藤さんとはロシアで1週間、日本では数日、計10日間ほどご一緒しました。いろいろな話をさせてもらって、とても勉強になりました。例えば、現代は表現の仕方が多岐にわたっているので『インスタグラムとかツイッターで、自分を表現していったほうがいいんじゃないの?』というアドバイスには、すごく納得しました。SNSを通してグローバルに広がっていける時代だからこそ、自分の表現が広がっていくかもしれないと気づきました。

そして、ロシアで撮影中、たくさん写真を撮りました。インスタグラムにアップして、それを見ていいなと思ってくれる人もいるかもしれないし、つながりも増えていくかもしれない。これからも続けていきたいと思います」

自身はゆいとは正反対のタイプ「恥ずかしくて気持ちを伝えられない」

敵国の捕虜であるソローキンに次第に惹(ひ)かれていくゆい。ソローキンも、ゆいの悲しみを取り除きたいと思いを募らせる。親から政略結婚を進められる中、ソローキンはロシア革命に参加するため、ゆいを連れてロシアへ帰ろうと考える。禁じられた2人の愛は、どんな結末を迎えるのか。

「最後まで見ると、ゆいが本当に幸せだったかどうかは分かりません。でも愛した人が幸せになるための選択をしたゆいは、とても強いと思いました。容易にまねができる生き方ではないと思います。でも、彼女のように凜(りん)と生きられたらいいなとは思いますよね。

ゆいはとても行動的で、私とは正反対。私は、恥ずかしくて好きと言葉で伝えられないタイプ。気づかれなくてもいいと思っているくらいです。ロシアの俳優の方にそれを伝えたら、すごく困った顔で『言葉で愛を伝えなくてどうするの?』と言われて(笑)。ロシアの俳優さんたちはすごくロマンチックなんです。スタッフが誕生日の時に、現場にいた女性全員にバラの花をプレゼントしてくれて。文化が違えば、愛の形も変わるんだなと思いました」

『ソローキンの見た桜』主演・阿部純子さん

ロシアでの撮影で、サンクトペテルブルクを訪れた。「ロシア文化の中心地と言われる場所。エルミタージュ美術館、冬宮殿がすごく美しくて素敵で、映画の中にいるような感覚でした」

自由に恋愛ができない時代背景や文化の中で、ひそやかに育まれたラブストーリー。100年の時を経て明らかになる主人公たちの運命は、きっと見た人の胸を熱くさせるだろう。阿部さんは最後に、本作への思いを語ってくれた。

「ありきたりな言葉かもしれませんが、本当に忘れられない作品になりました。これほど力のある演技派の役者の方に味方していただき、スタッフの皆さんも毎日ほとんど寝ずに作品に全力を注いでくれました。

私が着ていた看護師の衣装は、全て手作りです。ゆいの実家だった武田ろうそく店の中も、美術さんが丁寧に作ってくれました。衣装と美術のスタッフのおかげで、とても演じやすかったです。私が主演させていただきましたが、皆さんに助けていただいたおかげで、完成までたどり着けたと思っています。

作品の舞台は戦争中の時代ですが、現代にもつながる愛の形や複雑な感情が描かれているので、今を生きるあらゆる世代の方に楽しんでいただける作品だと思います」

(文・武田由紀子 写真・花田龍之介)

『ソローキンの見た桜』作品情報

監督・脚本・編集:井上雅貴
キャスト:阿部純子、ロデオン・ガリュチェンコ、山本陽子(特別出演)、アレクサンドル・ドモガロフ、六平直政、海老瀬はな、戒田節子、山本修夢、藤野詩音、宇田恵菜、井上奈々、杉作J太郎、斎藤工、イッセー尾形
配給:KADOKAWA
(C)2019「ソローキンの見た桜」製作委員会
2019年3月22日(金)角川シネマ有楽町ほか全国ロードショー
公式HP:https://sorokin-movie.com/

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