マッキー牧元 うまいはエロい

<74>京都、大阪の絶品「あんかけうどん」がもたらす至福のひととき……

「何も入ってないじゃないか」。これが今から30年前に京都で「あんかけうどん」が運ばれて来たときの印象である。

京都の「あんかけうどん」といえば、ショウガとあんしかない。さらに「けいらん」と呼ばれる料理では、それが卵とじとなる。

「たぬき」は、天かすではなく、油揚げ(きつね)とショウガとあんになり、「のっぺい」になると、シイタケ、かまぼこ、青菜、ショウガとあんで、店によっては麩(ふ)であったり湯葉や卵焼きなどが入る。

東京ではあんかけうどんと言えば具だくさんなあんかけうどんを指す。そんなあんかけうどんを想像して頼んだものだから、京都でそれらを見たとき面食らった。

しかし京都の人は合理的で倹約家である。何も具が入らないあんかけうどんをこよなく愛しているのである。

京都に通ううち、次第にそのシンプルさが気にいるようになった。

だしの味とやわいうどんの蜜月には、もうショウガのアクセントがあるだけでいい。そう思うようになってきた。

幸せな味わいが続く……京都「おかる」のたぬき

京都「おかる」のたぬき

京都「おかる」のたぬき

写真は京都「おかる」の「たぬき」である。これが少しややこしい。京都では「たぬき」といえば、この揚げのきざみがはいったあんかけうどんを指すが、大阪では、揚げの入ったそばをたぬきと呼ぶ。やはり化かされるだけに煙に巻かれてしまう。このだしのうまさを、いつまでも熱々のままとろりと胃に流し込む幸せをあじわうと、いつ化かされてもいいと思ってしまうのである。

そうだな、酒を一本もらって、だし巻きというより、だしに半身浴しているようなだし巻きで一杯やってから、おもむろに「たぬき」をいただく。これがおすすめです。

京都「おかる」のだし巻き卵。皿に広がるのは美味なるだし

京都「おかる」のだし巻き卵。皿に広がるのは美味なるだし

口の中で優美な舞を舞う 道頓堀「今井」のあんかけうどん

一方大阪であんかけうどんと言ったら道頓堀の「今井」でしょう。ここのあんかけうどんも潔い。こちらの「あんかけうどん」は美しい。鏡面のように光り輝いて、山奥の湖面のように澄んで静まり返っている。

道頓堀「今井」のあんかけうどん

道頓堀「今井」のあんかけうどん

「ああ」。一口飲んで、ため息が漏れた。舌をいたわり、体中の細胞へ深く染み入っていく滋味があって、幾度すすっても充足のため息が出る。そのだしとしなやかなうどんがからんで、口の中で優美な舞を舞う。

麺がべっこう色のだしに絡みつく

麺がべっこう色のだしに絡みつく

ふうふうと息をかけながらゆっくり食べ進む。はふはふと言いながら、静かに食べる。そして一人、小さな幸せをかみしめる。そう、あんかけうどんは、一人で食べるに限ると思う。

<<絶品「あんかけうどん」東京編はこちら>>

おかる

祇園にある京うどんの店、あんかけうどんは芸者への出前として、冷めずに届けられるところからはやったとも言われる。「おかる」ではあんかけうどんは、様々なバリエーションが増え、「チーズ肉カレーうどん」も人気。

【店舗情報】
京都府京都市東山区八坂新地富永町132
075-541-1001
京阪本線「祇園四条」駅より徒歩3分、「三条」駅より徒歩7分、阪急京都本線「河原町」駅より徒歩6分
昼:11:00~15:00 夜:17:00~翌2:30(金・土は17:00~翌3:00)
定休日:無休

道頓堀 今井 本店

大阪を代表するうどん屋。そのべっこう色のゆるぎなきだしのうまみは別格である。だしが命とする大阪うどんの白眉(はくび)。

【店舗情報】
大阪府大阪市中央区道頓堀1-7-22
06-6211-0319
地下鉄御堂筋線「なんば」駅より徒歩5分
11:00~22:00(L.O.21:30)
定休日:水曜(祝日の場合は営業)
WEB:www.d-imai.com

PROFILE

マッキー牧元

1955年東京生まれ。立教大学卒。年間幅広く、全国および世界中で600食近くを食べ歩き、数多くの雑誌、ウェブに連載、テレビ、ラジオに出演。日々食の向こう側にいる職人と生産者を見据える。著書に『東京・食のお作法』(文藝春秋)『間違いだらけの鍋奉行』(講談社)。市民講座も多数。鍋奉行協会顧問でもある。

<73>東京で探すのは至難の業 「あんかけうどん」が食べられる名店

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<75>焼き色が美しい感動的なトースト/浅草「珈琲アロマ」

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