いしわたり淳治のWORD HUNT

クリスタル・ケイ『わたしたち』の新鮮な違和感 女子同士の“連帯”が歌われるきっかけになるか――

音楽バラエティー番組『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)で披露するロジカルな歌詞解説が話題の作詞家いしわたり淳治。この連載では、いしわたりが歌詞、本、テレビ番組、映画、広告コピーなどから気になるフレーズを毎月ピックアップし、論評していく。今月は次の5本。

 1 “わたしたち”(クリスタル・ケイ『わたしたち』/作詞:Kanata Okajima)
 2 “あゝ 私の小岩”(モヤモヤさまぁ~ず2)
 3 “全力マン”(アンタッチャブル山崎弘也)
 4 “俺か、俺以外か。”(ローランド)
 5 “気だるい味”(バイきんぐ小峠英二)

最後に日々の雑感をつづったコラムも。そちらもぜひ楽しんでいただきたい。

いしわたり淳治 今気になる5つのフレーズ

“わたしたち”(クリスタル・ケイ『わたしたち』/作詞:Kanata Okajima)
バファリンのCMソング、クリスタル・ケイの『わたしたち』。サビの「わたしたち わたしたち 悩みは尽きないけど」という歌詞が流れてきたとき、すごく新鮮な違和感があった。

というのも、男性アーティストが「おれたち」「僕ら」みたいな仲間感・連帯感を歌にすることは、スポ根もののドラマの主題歌しかり、これまでもテーマとしてそんなに珍しいものではなかった気がする。しかし、それを女子に置き換えたとき、「わたしたち」という主語で書かれた歌は案外少ないように思う。それでも女性アイドルグループであれば自分たちのことを指す意味で「わたしたち」が主語になっている歌もあっただろうと思う。でもこの曲は、違う。ひとりの女性シンガーの歌である。こういった歌はこれまでにあまりなかったのではないだろうか。

私は女子ではないから、女子のことがあまり理解できてはいないと思うけれど、女子ならではの面倒な人間関係に疲れ切って「男子っていいよね、単純で。生まれ変わったら絶対に男がいいな」と話している女子に会ったことは何度かある。これまで女子が女子同士の連帯感をテーマした歌が少なかった理由は、この辺にもあったのかなとなんとなく思う。

でも、SNSが普及して普段自分が属している集団の外側にも趣味や話の合う仲間を見つけやすくなったりだとか、そういった時代の移り変わりとともに女子の友情のあり方もだんだん変わってきている感じもする。

もしかしたら、これから歌の中で女子同士の連帯感が歌われることが増えてくるのかもしれないなと、この曲を聞いてなんとなく思った。

“あゝ 私の小岩”(モヤモヤさまぁ~ず2)

2月24日放送のテレビ東京『モヤモヤさまぁ〜ず2』で、小岩周辺を特集していた。CMが明けるたび、「小岩周辺をぶらぶらするさまぁ〜ず」というナレーションが流れ、その後ろで『青い珊瑚礁』のサビ「あゝ私の恋は」が流れていた。まあ、ダジャレなのだけれど、でもこれを「私の小岩」だと思って聞くと、意味としても完璧に成立している。あら、なんて素晴らしい、と思った。

ただそれだけのことなのだけれど、思えば、こんな風にだじゃれを「いいな」なんて思ったのは生まれて初めての経験かもしれない。自分が中年になったからなのか、何だかダジャレに対して徐々に寛容になってきている気がする。作詞家という職業柄、言葉あそびや韻を踏むのは苦手ではない。ある日突然、ダムが決壊したように自分の口からダジャレがあふれ出てきたらどうしよう。自分がゾンビにかまれて、「違うんだ! おれは本当はこんなことしたくないんだ!」と言いながら恋人にかみ付く、みたいな感じで、「違うんだ! おれは本当はこんなこと言いたくないんだ!」と言いながらダジャレを言う、みたいな未来がやってきたらどうしよう。おお、怖っ。

“全力マン”(アンタッチャブル山崎弘也)

2月24日放送の日本テレビ『スクール革命!』でのこと。「クイズ!できる?できない?」の中で「ナマケモノはいざとなったら素早く動けるか?」という問題が出題された。それに対して“できる”の札をあげたザキヤマさんは、「怠け者は怠けているだけですから。自分の命が危ないってなった時、一番早く逃げられるのは意外に怠け者ですから」と答えた。でも、正解は「できない」。するとザキヤマさんは「じゃあ、怠け者じゃないじゃん! 全力で生きてるよ、あいつ! 全力マンだよ!」と言った。

ミツユビナマケモノは1日の8割は動かず、食事も1日に木の葉を約136グラムだけ、1週間に1度排泄(はいせつ)のために地上に降りる。そんなひっそりとした暮らしを、彼らは全力でやっている。もしも動物が訴訟を起こせたとしたらナマケモノは、不名誉な名前をつけたとして人間たちを訴えることができるだろう。それでも、たぶん彼らが求める損害賠償は喫茶店のランチセットについてくる気休め程度のサラダ分くらいの木の葉しか求めないだろうけれど。

ナマケモノはいつも全力。いつもがんばっている。これからは彼らのことを見る目が変わりそうである。

“俺か、俺以外か。”(ローランド)

今年の流行語の最有力と言っても過言でないホスト界の帝王・ローランドさんの「世の中には二種類の人間しかいない。俺か、俺以外か」という名言。

彼の特異なキャラクターに持っていかれがちだけど、とても言葉に敏感で、ユーモアにあふれた人だと思う。この言葉も、とても有効な倒置法の使い方である。どこが話のポイントなのかが明確でキャッチーだ。

一般的に「話がつまらない」とか「おしゃべりが下手」と言われるような人が、こんな感じのことを言おうとしたら、「どこにも俺の代わりはいないぜー」とか「誰がなんと言おうと俺は俺だからさー」みたいに話すのではないかなと思う。しかし、これでは面白みもなく、相手にも「あ、そう」と流されてしまうのではないだろうか。

肝心なのは、何を伝えるかよりも、どう伝えるかである。伝え方にその人の「個性」が出て、その「個性」こそが自己紹介になって、相手との心の距離を近づけるのである。

自己紹介というのは何も「私の趣味はガーデニングで、特技は一輪車です」というように事実を伝えればいいというものではない。極端な話、これを「休日はベランダで岡本信人さんばりに葉っぱを摘んじゃあバリバリ食べてます。で、一輪車に乗って水をまいてまーす」と話されたほうが、聞かされた方としてはがぜん、興味が湧く。

ありきたりの自己紹介をすんなり言い終えてしまう人より、うまく出来ずにみんなからやんやつっこまれている人の方が、結果的に本当の意味での「自己紹介」が素早く終わっている、ということも多々ある。出会いの多い春。自分ならではの“ちょうどいい違和感のある自己紹介”を考えてみるのも楽しいかもしれない。

“気だるい味”(バイきんぐ小峠英二)

2月25日放送のテレビ東京『逆襲のビリーちゃん〜最下位に学ぶ人生の歩き方〜』でのこと。「明星 一平ちゃん夜店の焼きそば」シリーズの人気のなかった異色の味を特集していた。

クリスマス時期に出したショートケーキ味が「マズい!」と話題になって逆にヒットしたことに味をしめて、甘いシリーズはいけると踏んで満を持して発売した「みたらし団子味」が大コケしたらしい。スタジオで試食した小峠さんは、「んー……。食べもの食べたときの表現に合ってるかどうか分かんないんですけど……気だるい味っすよね」と言った。

グルメ番組が乱立する昨今、料理を食べたときのコメントは飽和している。そんな中、この「気だるい味」という感想はものすごく新しいなあと思った。甘いだのしょっぱいだの味のことをまったく言わず、食感だののどごしだのといったことすらも言わず、ただ「気だるい」という感覚が心に浮かんで、それを瞬時に口に出せるセンス。

ソムリエは「自分で感じた感覚をどんなお客様、どんな国のソムリエであろうと理解し合える情報に言語化し、他の人がそれを実際に飲まなくても文字だけでどのような味わいであるか想像できるように伝える」のが仕事だと聞いたことがある。さすがに「気だるい味」の一言では外国人にまでは伝わらないとは思うけれど、みたらし団子の味を知っている日本人には、それなりに伝わる表現という感じがする。

番組ではもう一つ「一平ちゃん」の人気のなかった味として「瀬戸内レモン味」を紹介していたけれど、これを試食した小峠さんは「注意しないと味がしないですね。味が遠いんですよね」と言っていた。味が遠い。素晴らしい瞬発力と語彙(ごい)力。今いちばん食レポを見たい人である。

《mini column》もしひとつだけいいことがあるとしたら

花粉症の季節である。今まで知らなかったのだが、両親が花粉症である場合、高い確率で子供に遺伝するのだそうだ。両親が花粉症であるからなのか、息子も四六時中、鼻を詰まらせ、涙を流し、目を腫らしていて、何だか申し訳ない気分でいっぱいである。

見かねて息子を耳鼻科へ連れて行くと、薬とともにいくつかアドバイスをもらった。その内容に衝撃を受けた。「生野菜やくだものは控え、湯船には入らず、肉や卵などの動物性たんぱく質を3食で必ず取る」といったことが花粉症の症状の改善につながるというのである。しまいには「鼻をかんではいけません。垂れてきた鼻水を拭うだけの方がよいです」という。

そんなこと、私も今まで様々な耳鼻科に行ったけれど、一度も聞いたことがなかった。だったらそれ、早く言ってよーと、思ったが果たして本当なのだろうか。一応、信頼して実践してみてはいるけれど、そもそももらった薬も効いているから、効果のほどはよく分からないままである。

何ひとついいことのない花粉症。もしひとつだけいいことがあるとしたら、将来、卒業式でもし泣いてしまったとしても、その涙を花粉症のせいにできる、ということくらいかな、と鼻を詰まらせていびきをかいている息子の寝顔につぶやいた。

PROFILE

いしわたり淳治

1997年、ロックバンドSUPERCARのメンバーとしてデビュー。全曲の作詞とギターを担当。2005年のバンド解散後は、作詞家としてSuperfly、SMAP、関ジャニ∞、布袋寅泰、今井美樹、JUJU、少女時代、私立恵比寿中学などに歌詞を提供するほか、チャットモンチー、9mm Parabellum Bullet、flumpool、ねごと、NICO Touches the Walls、GLIM SPANKYなどをプロデュース。現在オンエア中のコカ・コーラCM曲「世界はあなたに笑いかけている」(Little Glee Monster)や、情報番組『スッキリ』(日本テレビ系)のエンディングテーマ曲「Electric Kiss」(EXO)の作詞も担当するなど、さまざまな音楽ジャンルを横断しながら通算600曲以上の楽曲を手掛ける。

『U. S. A.』以上!? DA PUMP新曲のキャッチーなフレーズ

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あいみょん、ポップとディープの境界を軽やかに飛び越える抜群のバランス感覚

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