小川フミオのモーターカー

こだわりの詰まった少しヘンなところが魅力的なセダン シトロエンCX

ヘンなクルマを造ることにおいて唯一無二の存在といえた(過去形)のがフランスのシトロエンだ。1974年発表の「CX」も例外ではない。どこが変かと言うと、新しいのか古いのか、よくわからないメカニズムだ。

(TOP画像:独特の形状のヘッドランプが強い個性になっている)

イドロプヌマティクによるサスペンションは車内のレバーでも車高調節が可能

イドロプヌマティクによるサスペンションは車内のレバーでも車高調節が可能

先進性では「イドロプヌマティク」(英語だとハイドロニューマチック)という、油圧と窒素ガスを使ったシステムを使っていた。サスペンションシステムをはじめ、パワーステアリングやブレーキも、やはり油圧と窒素ガスで動かしていた。

ハッチバックではなく、リアウインドーの下に荷室用のリッドが備わる

ハッチバックではなく、リアウインドーの下に荷室用のリッドが備わる

空力を強く意識したスタイリングも個性的で、特にダッシュボードがおもしろい。速度計とエンジン回転計は数字が書かれた円筒が回る方式を採用。ウィンカーもバンパーもライトのオンオフも、一般的なレバーでなく、人さし指と中指を使ってまるでピアノの鍵盤のような固定式のスイッチを操作した。ステアリングホイールから手を離さなくて済むから、というのが理由だったとか。

日本仕様は時速100キロを超えると速度計の下地の色がレッドに変わるので夜間はうっとうしい

日本仕様は時速100キロを超えると速度計の下地の色がレッドに変わるので夜間はうっとうしい

灯火はヘッドランプの上向き/下向き切り替え、内側に押し込むスイッチはフラッシング、下のレバーはメーン、サブ、それにオフの切り替えで、すべて指で操作できる

上のスイッチはヘッドランプの上向き/下向き切り替え、内側に押し込むスイッチはフラッシング、下のレバーはメーン、サブ、それにオフの切り替えで、すべてステアリングホイールから手を離さず操作できる

右上の引き金型のレバーはドアのリリース用

右上の引き金型のレバーはドアのリリース用

一方で古い部分がある。一つはエンジンだ。1930年代に設計されたものを使っていた。もう一つはペリメーター式のフレーム。車体とシャシーが分離している形式のフレームで、戦前は当たり前だったが、70年代にこの形式を採用していた乗用車はごく少ない。

シトロエン自身も、実はペリメーター式フレームを戦前にほぼ廃止していた。CXが市場を引き継ぐことになった「DS」(55年)も、さらにいえば「11CV」(34年)や「15CV」(38年)といったモデルも、いまの乗用車で当たり前のモノコック構造だった。CXは、古い形式を復活させたことになる。そこがシトロエンのおもしろいところだ。70年代のCXにペリメーターフレームを採用した理由を、同社は「ロードノイズ低減のため」としている。

オフロード4WDにはペリメーターフレームが採用されることがあるが、それは強度の確保とともに、さまざまな車体を載せられるからという理由からだ。CXにも、ホイールベースを伸ばしたリムジンをはじめ、ステーションワゴンや商用のワゴンなど、さまざまなボディーがあった。

エンジンについていうと、フランス車は1980年代まではOHVが多かった。ドイツ車や日本車は、70年代にはOHVから離れて、SOHCやDOHCといった高回転型の高性能エンジンに移行していた。それと対照的だ。OHVには、低回転域で太いトルクが出るのと、軽量で堅牢というメリットがあった。当時のマーケットはCXのような大型車にスポーツカーのような性能を求めなかったのである。

全長4630mmのボディーと2845mmのホイールベースは当時としては立派なサイズで、室内は後席を含めてたっぷりと空間があった。窒素ガスと油圧による乗り心地のよさはとりわけ高速走行で大きな魅力だった。

パワーアシストでつねに直進位置に戻るステアリング機構を持ち(慣れるまでやや違和感があるが)巡航性能は抜群である。シャープに走るクルマではないが、遠くまで旅するには最高なのだ。

いまでもけっこう人気があるのだが、その理由は私にはよくわかる。先日、東京の街角で見かけたが、かなり目をひいた。全高1360mmしかない低い車体を持つ独特なスタイリングは魅力を失っていない。

ブレックと呼ばれるステーションワゴンはルーフが一段高くなっているなど機能的なデザイン

ブレックと呼ばれるステーションワゴンはルーフが一段高くなっているなど機能的なデザイン

シトロエンは、CXの開発にお金をかけすぎて、途中で資金難に陥ったという。つまりは、こだわりぬくという意地を感じさせる希有な製品である。

(写真=シトロエン提供)

PROFILE

小川フミオ

クルマ雑誌の編集長を経て、フリーランスとして活躍中。新車の試乗記をはじめ、クルマの世界をいろいろな角度から取り上げた記事を、専門誌、一般誌、そしてウェブに寄稿中。趣味としては、どちらかというとクラシックなクルマが好み。1年に1台買い替えても、生きている間に好きなクルマすべてに乗れない……のが悩み(笑)。

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