「働き方改革」から「休み方改革」へ 「定年」後の充実した暮らしに向けてPR

4月からの働き方改革関連法の施行を前に、多くの職場でまだ十分とは言えないものの、働き方改革は進みつつある。私たち働き手一人ひとりに立ち返ってみると、どうだろうか? それぞれに合った「働き方」を考え直していく時代が来ているのかもしれない。すなわち、目の前の仕事への取り組み方だけでなく、長期的なキャリアプランも見すえて、働き方への意識を変えていくことが求められる。

平成の次の時代のキャリアを、どう設計していくべきなのか。それをわかりやすく解説したコラムの連載が、明治大学の情報発信サイト「Meiji.net(メイジネット)」で始まった。著者は経営組織論や人材マネジメントの専門家で、明治大学専門職大学院グローバル・ビジネス研究科の教授を務める野田稔氏。連載のねらいを語ってもらった。

明治大学専門職大学院グローバル・ビジネス研究科の教授を務める野田稔氏

明治大学専門職大学院グローバル・ビジネス研究科の教授を務める野田稔氏

【Point 1】「定年」を超えて、残り30年をどう生きる

私は人事や組織の専門家として、経営者や社員の方々とお会いする機会が毎日のようにありますが、彼らと話をしていて驚くことがあります。それは、意外にも多くの人が、キャリアに関する意識は昭和の頃からあまり進歩していないということです。

典型的なのは、コラムの第1回目でも取り上げたのですが、定年制度があることを当たり前だと思っていて、60歳を超えたら仕事を辞めることに疑問を持っていないということです。男性の平均寿命が58歳だった1950年代、55歳定年(当時)はほぼ生涯働き続けることができるという、終身雇用に近い意味がありました。しかし、今や「人生100年時代」は大げさではなくて、60歳まで働き続けたとしても、定年後多くの人に30年を超える長い人生があるのです。

60代になって会社勤めの苦役から解放されたとしても、自由になると同時に自己責任が伴います。ふと気づくと、何をしたら良いのかわからない。残りの約30年をどうやって生きるかを設計できていないと、そこから先は幸せや充実感を得ることもなく、苦しい日々が待っているかもしれません。

今回の連載にタイトルを付けるとするなら「人生100年を愉快に生き抜こう」。これまで必死に働いてきた方々にも、楽しくて充実した第二の人生を過ごしていただきたい。それが、連載に込めた私のメッセージです。

【Point 2】次のステージの準備は早いうちから

現実に目を向ければ、人生100年の時代を迎えるには、今の年金だけではやはり足りません。例えば、大企業で定年まで勤めると、夫婦2人で年金が約23万円支給されますが、これだけではギリギリの生活です。生保文化センターの調べでは、多くの人にとって豊かさを感じながら暮らすためにはあと13万円ほど必要になります。定年後収入がない方は、その足りない部分を退職一時金やそれまでの貯金を切り崩しながら生活することになります。そうなると年間156万円、30年間では4680万円必要になります。しかし、この足りない13万円を何らかの形で定年後も稼ぐことを想定してみたらどうでしょうか。夫婦がそれぞれ月6万5千円を稼ぐのは、そんなに難しいことではないと思います。完全に働くのをやめてしまうのではなく、ほんの少しだけ稼ぎ続ける、と考えることで、がぜん老後の“経済的安全性”が増すのです。

そうは言ってもただ、お金のためだけに働くのは面白くないから、やりがいや楽しみを感じながら働くことを模索してみてはいかがでしょうか。大切なのは、セカンドキャリアに備えるために、早くから何かを学んだり、会社以外の人と交流したりすることでしょう。若いうちからいろいろな経験を積んで、自分の可能性を確認しておくべきです。60代になってから考えるのでは遅すぎます。

退職は「リタイア」ではなく「次へのスタート」、新しいステージへのエントリーなのです。私の知り合いには、50代になって落語にハマってしまい、今は席亭(落語の主催者)をやっている元編集者もいます。そんなに大儲(もう)けができているわけではないようですが、赤字にもなっていないようです。そのうち、ほんの少しだけ儲けが出るようになれば、まさしく趣味と実益を兼ねた経済的安全性の確保というわけです。楽しみながらやっていくと新しい境地が開けて、またその次のステージに行くことができる。そういうのが、楽しい100年の生き方なんでしょうね。

【Point 3】日々の仕事から生涯へ、「休み方改革」の実践

「休み方改革」を進めたい、そのように私は考えています。政府が進める「働き方改革」を、私たちは「休み方改革」にしなければいけません。休み方を時間の長さで分類すると、まずは「(1)就業時間中の休み」が挙げられます。人間の集中力は8時間も続きませんし、この間に何回もブレイクを入れて、リフレッシュすることが大切です。

次の「(2)一日の中の休み」は、今回の働き方改革で一日の労働時間が改善されつつあります。仕事や生活時間以外の時間をどう使うかが、これからの私たちにとって課題となります。「(3)一週間の中の休み」は、週休2日を連続して取ることがオススメで、48時間休むことが“リクリエイト”につながると思います。「(4)年の中の休み」は、平日5日と土日を合わせて計9日ほどの休みを年2回ほど取ると、家族や友人といった会社以外の人間関係が“リクリエイト”できるのではないでしょうか。

さらに、「(5)就労期間中の休み」は、定年などで退職するまでの間にリカレント(社会人になってから再び学ぶこと)を受けるような時間が取れているか、ということです。人生の節目で、大学院に通ったり放浪の旅をしたりして“リクリエイト”する時間を取るべきですが、それが日本人は皆無に近い。最後の「(6)人生の中の休み」では、人生の後半を充実させることが急務でしょう。自分の成長ややりがい、社会貢献を実感できるようなことを真ん中に据え、さらに愉快な人生を目指したいものです。

野田稔氏

【Point 4】人生に「ワーク」「ライフ」「ソーシャル」を

聞いた話によると、長野県の伊那地方では「仕事」と「働く」という言葉を使い分けているそうです。「仕事」というのは、コトに仕えて、その対価としてお金をもらうこと。「働く」とは、文字通り「人」が「動く」ことによって「傍(はた)」を「楽(らく)」にする行為です。だから、仕事も働きの一環ではあるのですが、それ以外の家事労働、地域の活動やボランティアなども、全て働くことに含まれます。

伊那の人たちは、一生懸命に「働く」人を評価する。いわば「ワーク」と「ライフ」と「ソーシャル」の統合なのです。人生が充実しているかは、お金を稼ぐことだけではない。伊那では「あいつは仕事ばかりしてちっとも働かない」という面白い表現があるそうです。仕事(お金稼ぎ)ばかりでは半人前、ということでしょうか。ワーク・ライフ・バランスではなく、“ワーク・ライフ・ソーシャル・インテグレーション”という意味で、年齢を重ねても充実して働くことは可能だと考えています。

長くなりましたが、このようなことを考えるのが私の専門で、学問としても非常に楽しい分野です。現在働いている皆さんにも、ぜひ参考にしていただければと思います。

Meiji.net(メイジネット)
野田稔氏 連載コラム「#1 なぜ、定年過ぎても働かなくてはいけないの?」

PROFILE

野田 稔(のだ・みのる)

明治大学専門職大学院 グローバル・ビジネス研究科 教授
[研究分野]経営組織論、HRM(人的資源管理)・人材育成論

1981年に一橋大学商学部卒、野村総合研究所入社。1987年一橋大学大学院修士課程修了。野村総合研究所復帰後、経営戦略コンサルティング室長、経営コンサルティング一部部長を経て2001年3月退社。多摩大学経営情報学部教授、株式会社リクルートの新規事業担当フェローを経て、2008年4月より現職。リクルートワークス研究所特任研究顧問を兼任。多くのテレビ番組にコメンテーターとして出演しているほか、『組織論再入門』(ダイヤモンド社)、『中堅崩壊』(ダイヤモンド社)、『二流を超一流に変える「心」の燃やし方』(フォレスト出版)、『野田稔のリーダーになるための教科書』(宝島社)、『あたたかい組織感情』(ソフトバンククリエイティブ)など著書多数。

Mr.Children『深海』もYEN TOWN BANDも“ビンテージ”にこだわった 小林武史が偏愛する「アナログ感」

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