オトナたちに捧げる、現代インターネットのススメ。

出版業界で最後に残るのは編集だけ、コンテンツ戦国時代をどうサバイバルするか

りょかちさんが、「平成のインターネット文化振り返り」をテーマにさまざまなジャンルの方と対談するシリーズ。今回は、幻冬舎が運営するブロックチェーン・暗号通貨メディア『あたらしい経済』編集長の設楽悠介さんと、「ケータイ小説」のヒットから現在に至るまでの「読むコンテンツ」の変遷を振り返ります。

ガラケーというデバイスに最適化していた“ケータイ小説”

りょかち 設楽さんはいつごろからwebコンテンツ制作やネットコンテンツに携わるようになったのですか? 

設楽 社会人になったころから趣味でWEBデザインをしたり、プログラムを独学で勉強したりしていました。だから前職の求人広告営業の仕事の時はバナーや掲載枠を売るために、会社に内緒でこっそりクライアントの採用サイトのデザインを手伝ったりしていたこともあります。それからしばらくして、幻冬舎に書店営業として転職したんですが、当時幻冬舎にはHTMLとかプログラムをかける人がいなかったので、営業部にいながらネット全般に関する仕事もありがたいことにいろいろまかせていただきました。

当時(2005年)は、出版業界全体の売り上げは、下り坂になりつつはあったけれど、いまよりはまだまだ景気が良かった印象があります。とはいえ、この業界でも「インターネットもちゃんとやらないとね」という空気が出てきていました。幻冬舎にもいろいろなインターネット企業からオファーがあり、当時は村上龍さんの書籍『13歳のハローワーク』のWEBサービス化をスタートアップと一緒に取り組んだり、サイバーエージェントさんやライブドアさんと合弁会社を作ってネット×出版の分野に携わってきました。

そんな書店営業をしながら、ネット系の仕事もしているうちに出版業界ではケータイ小説のブームが訪れ、ある時、いきなり見城社長から電話がかかってきて、「売れてるからお前もケータイ小説作れ、ネットに詳しいだろう」という話になり、ケータイ小説の編集もしたりしました。その後TOKYO FMさんと組んで、10代限定の「蒼き賞」という文学賞をラジオ番組と、ネットを連動させて共催したりもしましたね。その賞も候補をラジオ番組と並行してガラケーサイトにリアルタイムで連載して1位を決めるような企画でした。当時はまさに出版業界にもネットの波がきている時期だったので、振り返れば出版×ネットのコンテンツの仕事をいろいろしてきたと思います。

りょかち ケータイ小説を読み直してみたのですが、書き方が少し特殊ですよね。他の小説じゃ絶対にない文体。まるで、メールの文章のような。

設楽 当時のケータイ小説は文字数や改行の仕方など、ガラケーというデバイスに最適化した書き方をしてましたよね。スマホのフリックとは違って、ガラケーで小説を読むには親指で下ボタンを押しながら、1プッシュで1行ずつスクロールさせて読まなければならなかった。そのことを踏まえて、例えば、主人公が恋人と10年ぶりに再会するような場面では、次の文章までに10行ぐらいの空白があって、セリフがなかなか出てこない。そこにはある種の臨場感がありましたね。そしてこれは意図して無いと思うのですが、ずっと読んでいると、物語の後半でガラケーの性能上、バッテリーが温かくなってくるんですよね。そこもなんだか感情移入できてよかった。

りょかち ガラケーならではですね(笑)。

設楽 ケータイ小説がベストセラーになっていたころ、当時の出版社のおじさん・おばさんたちは、「なんやねんそれ」と、ちょっと鼻で笑っていたような雰囲気を感じました。「あれは、中身の小説が買われているのではなくて、一度webで読んだ読者が、いわばアイテムとして買っているんだ、亜流だ」みたいな感覚だったと思います。でも今考えると多くの本が、そして音楽もそうですがそのような要素が強くなってきていますよね。

それ以前にも、『電車男』や『鬼嫁日記』のようなネットから生まれたコンテンツが小説化されていましたが、まだその頃は完全にアイテム化はされていなかった。

今振り返ると、あの頃のケータイ小説はネットでどうやってコンテンツをマネタイズするか、という課題の一つの答えが潜んでいたような気がします。そういう意味で最先端だったかもしれないですね。その後の映画や音楽や書籍などのコンテンツの売り方のヒントがあったと思います。

りょかち 『Deep Love』や『鬼嫁日記』は私も読んでました。面白かったですよね。ドラマにもなっていたし。『恋空』は、まったく本を読んでいなかった同級生が学校で読んでいたことを覚えてます。

りょかちさん

ユーザーが作り上げていった小説投稿サイト

設楽 『電車男』が社会現象になり、最近の作品で例えるなら『シン・ゴジラ』や『君の名は』クラスのミリオンセラーになったのは、そうした普段は本を読まない層でも「面白いらしいから」と手に取るぐらいの話題になったからですよね。ちなみにりょかちさんは、ネット上で最初に読んだコンテンツは何ですか?

りょかち 私は小学6年生で自分のパソコンをもらったのですが、当時はブログが大流行していて。名前も知らない人のブログを読むことがとても好きでした。あと、吉本ばななさんとか有名人でもブログをやっている人がいて、そういうのを楽しんで読んでいました。そのうちスマホを持つようになって、中高生になると、周りもスマホを持ち出したからか一般の友達でもブログをはじめるようになり、人気ブログではなくて、自分たちの仲間内のブログを読み合うようになりました。

設楽 ガラケーは使ってましたか?

りょかち 中学校ぐらいまで持ってました。ケータイ小説も読んでました。いわゆる「ヤンキー」も多い学校に通っていたのですが、『恋空』とかはそんな派手な女の子たちも熱心に読んでいた印象が強いですね。

設楽 今は「小説家になろう」という小説投稿サイトがあるのですが、最近は、“異世界転生もの”がたくさん掲載されています。特に確か「小説家になろう」は異世界転生もののサイトとして作られたわけではなかったと思います。でも次第にそのジャンルの作品の投稿数が増え、そのジャンルを好きな読者も集まり、そのジャンルで出版化してベストセラーがでることでまたそのジャンルを書く人が増えて、という感じでサイトのカラーが作られてきました。まさにCGM(Consumer Generated Media)ならではですよね。

りょかち 確かに!(笑)ケータイ小説はみんな恋人が死んだり、妊娠したりいじめられたりしてた(笑)。ケータイ小説も一種の傾向がユーザーによって作られていきましたよね。

コンテンツ時代に出版社が生き残るために

設楽 ケータイ小説ブームの頃は、大人たちのあんなの小説じゃないみたいな風潮がありましたが、それでも僕はコンテンツが読まれることはよいことだと思っていました。もちろん確かに小説の質という意味では高いものではなかったですが、そこが入り口になって、本格的な小説に興味を持っていった人も多かったと思います。

また今ではだいぶ変わってきていますが、当時は特に作品をネット上で無料で公開することの抵抗感が強かったと思います。でも小説やエッセイみたいに、今まで出版社が紙に印刷して売っていたコンテンツ時代にあった、“最適な場所”というのは本来読者が選ぶもので、作り手である出版社側が強制するものではないはずです。

出版社にとって大切なのは、読者が文字コンテンツへの興味を失ってしまわないことです。そうならないように魅力的なコンテンツを媒体にとらわれず作ること、そして読者に沿ったビジネスモデルを考えることが出版社が生き残る大切な仕事だと思ってます。

設楽悠介さん

りょかち ネットコンテンツ出身の書籍の著者も増えています。読者と本の関係性についてはどう思いますか、最近では出版のやり方はどう変わったのか。

設楽 いかに本を売るのかという点でいうと、昔みたいに当日まで情報を明かさずに発売日に本屋に並べて新聞広告を打って販促するという方法はまだ年配の方向けのコンテンツでは有効ですが、若い読者にとっては有効ではなくなってきています。

だからそのコンテンツの情報を事前にたくさん出して、発売前から読者コミュニティを作って温めてから本を出すという流れにどんどんなってきていますよね。これは本に限らず、映画や音楽もそうなってきていると思います。今売れているコンテンツは、それをちゃんとできているコンテンツです。

また今はネットで多くの情報が無料で読めてしまいますが、そのコンテンツも飽和していて玉石混交になってきている。この状況の中で改めて本というコンテンツの強みが活かせる時代になってきていると感じます。

本には、ひとつのテーマが体系化して書かれていて、一冊を通じてそれを楽しめる、学べる良さがあると思っています。本当に情報があふれているしノイズも多いので、ネットだけで正しく体系化された情報をインプットするのは結構しんどいですよね。

受け取る側は、雑誌の編集長をやっているぐらいの気持ちで、情報を選ばなければいけない。その点、本は著者や編集者がどのようにこのコンテンツを伝えるのが最適か、試行錯誤して作っています。そこに非常に時間をかけている。そこが本というパッケージの優位性だと思ってます。

りょかち ネットは検索しても出てくるのは広告だらけになって、雑多過ぎて何がなんだかわからなくなっていると感じます。編集者の重要性は高まっているのではないでしょうか。じゃあ、パーソナライズされたレコメンド情報だけを受け取ればいいのかというと、私はそうではないと思うんですね。それでは、一生自分の興味の内から出ることができない。センスある識者に、これは知っていたほうがよい情報なのだと薦めてほしい。そうして新しい発見が欲しい。今でも書店をめぐると偶然の出会いがあって面白いです。

設楽 AIが個人の求める情報を先読みして提示してくれるような時代になるかもしれないとは思いますが、そうなっても人がコンテンツを編集することの価値は残ると思います。webメディアが主流になって雑誌が売れないと出版社の人たちは嘆いているけど、洗濯機があるのに洗濯板をもう使わないことと同じ。もう元には戻りません。出版業界にとって一番怖いのは、web上の文字コンテンツよりも、ユーザーの消費行動が映像や音楽やゲームなどに取って代わられることだと思います。

そしてコンテンツ業界の壁がどんどんなくなってくると思ってます。出版社が音楽や映像を作ったり、映像メーカーが文字を読むようなコンテンツを作ったりというふうになってくるはず。技術的にも今はほとんど障壁がないですからね。そこで残るのはいかにコンテンツを企画しパッケージングするか、つまりコンテンツ業界の各プレイヤーがもっている編集力ということになると思います。コンテンツ業界の戦国時代突入ですね、ワクワクします。 

りょかち そうなってくると文字コンテンツのプロデュースの仕方やアウトプットの媒体は変わるかもしれないけれど、作家のモチベを上げるとか、プロデュースする方法を考える役割の人として、編集者は必要ですよね。

設楽 だから出版業界の次の世代の編集者は、媒体にこだわらず著者が伝えたい内容に最適なアウトプット先を選ぶことができる能力が必要になるでしょうね。今月は本を作っていて、来月は動画を作って、みたいにフレキシブルに動ける人が求められていると思います。

りょかちさんと設楽悠介さん

インターネット自体のアップデートが必要

りょかち なるほどです。最後に、みなさんに聞いている質問なのですが。インターネットは人の何を変えたと思っていますか。

設楽 ネットは人を「ある程度」までは自由にしたと思っています。不平等を昔よりは減らして、効率化して、新しい仕事も作った。ただ一方、大きいものが強くなりすぎるという結果も生んだ。上のレイヤーを取れば勝つという構図です。初めの頃は混沌としていたネットの世界に、どんどんルールやセキュリティ技術が追いついてきて、夢がかなうようになり、本屋さんはネット書店に、中古品屋がメルカリに、手紙がメールに、LINEにと置き換えられてきました。しかし、一番の果実を、GAFA(google、Apple、Facebook、Amazon)に代表される、プラットフォームである強者が取っている点では、実は中央集権的だった昔と変わっていない。一旦ネットが世界に拡大してみんな自由になったんだけど、そして今も自由なように感じるんだけど、本当は自由じゃないみたいな感覚。

多くの人が、GAFAに全ての自分の情報を無料で預けて、その代わりに利益も持っていかれることに対して、少しずつ疑問を持ち始めている。

だからこそ、ブロックチェーンのような技術が出てきているのだと思っています。もうちょっと中央を弱くして、安全に自分で自分の情報やコンテンツを管理できる仕組み。ブロックチェーンはインターネットが肥大するとこういった問題が起こることをだれかが予想して事前に用意しておいた時限制御機能みたいだなと私は感じています。

インターネットは人を変えて自由にした、でももっと自由になるためにインターネットの新しい技術であるブロックチェーンがもっと本質的に人を自由に変えてくれることに期待しています。そしてネット上のコンテンツのあり方もぜひ変えていってほしいです。

りょかち インターネットは非中央集権的な世界を構想したわけですけど、インターネットが産まれて、進化する中で、想像していなかった“バグ”も沢山産まれてきた。それがブロックチェーン技術によってメジャーアップデートされようとしているということですね。そういう意味では、まだまだインターネットは変わっていくし、インターネットが変えようとしていた世界の過程に私達は存在している。これからの進化に合わせてわたしたちもどんどん変わっていくんだろうなあ。

PROFILE

りょかち

1992年生まれ。京都府出身。神戸大学卒。学生時代より、ライターとして各種ウェブメディアで執筆。「自撮ラー」を名乗り、話題になる。新卒で某IT企業に入社し、アプリやWEBサービスの企画開発に従事。現在では、若者やインターネット文化について幅広く執筆するほか、若年層に向けた企業のマーケティング支援も行う。著書に『インカメ越しのネット世界』(幻冬舎)。

設楽悠介さんPROFILE

「あたらしい経済」編集長/幻冬舎コンテンツビジネス局部長

しだら・ゆうすけ 暗号資産/ブロックチェーンに特化した幻冬舎のWEBメディア「あたらしい経済(NEW ECONOMY)」を運営。その他の主な担当プロジェクトは「13歳のハローワーク公式サイト」「ピクシブ文芸」「NewsPicksアカデミア」など。また幻冬舎グループの漫画出版社である「幻冬舎コミックス」、クラウドファンディング出版を実施するCAMPFIREとの合弁会社「エクソダス」などの取締役を兼務。また個人活動としてNewsPicks野村高文とのビジネスユニット「風呂敷 畳み人」を組み、Voicyでビジネスを着実に実行するスキルを提供する「風呂敷 畳み人 ラジオ」をはじめとした、数々のビジネスコンテンツを発信中。「風呂敷畳み人サロン」「サウナサロン」などのオンラインサロンを主宰。

■「あたらしい経済」 https://www.neweconomy.jp/ 

■Twitter https://twitter.com/ysksdr

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