大御所シェフのいつものごはん

美味なる3条件を満たした珠玉のピッツァ

卓越した技術・味覚・知識を持つ料理界のトップランナーが、行きつけの飲食店を明かす当連載。今回はフレンチレストラン「モナリザ」のオーナーシェフ河野透さんが通うイタリアン「パルテノペ」を紹介します。

今回の大御所シェフ

フレンチレストラン「モナリザ」のオーナーシェフ河野透さん

河野 透さん

1957年宮崎県生まれ。82年に渡仏、パリの「ジャマン」「ギー・サヴォワ」、スイスの「ジラルデ」など屈指の名店で働き、ジョエル・ロブションらカリスマシェフたちの全盛期の仕事をリアルタイムで吸収する。

90年広尾「レストランひらまつ」シェフに就任、94年より恵比寿「タイユバン・ロブション」初代日本人料理長をつとめ、97年に恵比寿に「モナリザ」を独立開業、2002年には丸の内ビルディング内に2号店を開く。現在「九州シェフズクラブ」の一員としてチャリティー活動にもいそしんでいる。

【大御所シェフが通う店】パルテノペ(恵比寿)

JR恵比寿駅東口から徒歩5分、扉を開けるとそこは南イタリア

JR恵比寿駅東口から徒歩5分、扉を開けるとそこは南イタリア

1990年、「レストランひらまつ」のシェフとして帰国した河野さんの話題で、日本のフレンチ界は騒然だった。働いた店は名だたる3つ星、2つ星ばかり6軒。しかもジョエル・ロブションに実力を認められたまな弟子だったからだ。

師匠ゆずりの「完全主義者で、神経質」が、河野さんのイメージ。それがスリムな体形とよくマッチしていた。ところが、以前はいくら食べても太らなかったのに、この4、5年はついに腹まわりが気になりだして、賄いの主食を抜くなど、節制しているそうだ。それだけに、外食するときは、いつもは我慢している粉ものを堪能する。

ピッツァやパスタが食べたいとき、出かけるのが「パルテノペ」。南イタリアのナポリ料理とピッツァの専門店である。

「真のナポリピッツァ協会」認定店の看板。通し番号は世界共通

「真のナポリピッツァ協会」認定店の看板。通し番号は世界共通

テーブル、椅子、調度品のすべてが現地からの取り寄せ

テーブル、椅子、調度品のすべてが現地からの取り寄せ

パルテノペ総料理長の渡辺陽一さんは、ナポリを中心に約10年イタリアで暮らし、現地でシェフもつとめた。2006年に「真のナポリピッツァ協会」日本支部を立ち上げ、ピッツァの発祥地であるナポリの伝統技術を広めるのに貢献した立役者だ。

河野さんは、恵比寿店がオープンした2001年から通っている。

「イタリアンは、たくさんできて話題になっては、気がついたら閉店していることが多い。そのなかで、パルテノペは、いちばん安定している。この店でしか食べられないスペシャリテ(*)も多いです」

*シェフの思い入れがある、レストランの看板メニュー

「おいしくて、止まらなくなる」磯の香りが立ちのぼるパン

岩のり入りの小さな揚げパン「ゼッポリーネ」400円(税別、以下価格表記は同)

岩のり入りの小さな揚げパン「ゼッポリーネ」400円(税別、以下価格表記は同)

スペシャリテのひとつが、「ゼッポリーネ」。岩のりが入った、一口大の揚げパンだ。海草を食べる文化を持たないイタリアで、唯一のものらしい。

パン生地は、普通のパンとはまったく違う。水分量を最大限に増やし、天ぷらの衣くらいのゆるい状態なのが特徴で、表面はサクッ、なかはフワフワと軽く、もちっとした食感になる。そこから磯の香りが立ちのぼって、たまらない。磯辺揚げパンという感じだ。

「絶妙においしくて、止まらなくなる」と河野さん。この味にほれこんだあまり、レシピを研究して、自分の店でオリジナルの海草パンと、海草バターまで出しているそうだ。

割るとなかには気泡がたくさん。だから軽くてフワフワだ

割るとなかには気泡がたくさん。だから軽くてフワフワだ

たった1分15秒程度で焼き上げる 絶対的定番のピッツァ

ナポリピッツァの代表、「マルゲリータ」1400円

ナポリピッツァの代表、「マルゲリータ」1400円

20種類ほどあるピッツァのなかで、河野さんの絶対的定番が「マルゲリータ」だ。トッピングは、トマトソース、モッツァレラ、バジリコの3種。もっともオーソドックスでクラシックなナポリピッツァである。

「ここは生地が特別おいしいから、具はシンプルなのが最善の選択」と河野さん。たしかに、トマトソースの爽やかな酸味、モッツァレラのまろやかなうまみ、バジリコの香りが、上品だが主張のある生地とあいまって、文句なしにおいしい。素朴というより、洗練された味だ。

窯内は思いのほか広い。最適温度である420〜430℃の場所で焼く

窯内は思いのほか広い。最適温度である420〜430℃の場所で焼く

裏側を見て、焼き目が均等についているのが上出来のしるし

裏側を見て、焼き目が均等についているのが上出来のしるし

イーストの量を最小限に抑え、時間をかけて発酵させた生地からは、焼く前から小麦粉のえもいわれぬ熟成香が感じられる。これを手でやさしく伸ばし、具を素早くのせ、薪が燃えさかる窯に入れる。窯内は天井が600℃、奥は500℃の超高温。たった1分15秒程度で焼き上げる。

渡辺さんによると、おいしいナポリピッツァの見分け方は、ざっくり言って、次の3点。

1・「額縁」と呼ばれるふちの部分が、不定形にボコボコとふくらんでいること。生地がきちんと発酵した目印になる

2・裏側全体に、焼き色の斑点が均一についていること。ふちだけ黒く焦げていたら、温度が高すぎた証拠

3・モッツァレラには焼き色がついていないこと。純正ではないモッツァレラを使っている場合は、焼き色がつく

チーズがこんがり焼けていると、おいしそうに見えるが、実は逆なのだった。また、市販のピザ用トマトソースは味が濃いのに対し、パルテノペのトマトソースは、イタリアントマトをつぶして塩で調味するだけと超シンプル。余計な味がないから、具と生地がより引き立つのである。

フォークとナイフで自分好みのサイズに切るのがナポリ式

フォークとナイフで自分好みのサイズに切るのがナポリ式

直径約3cmの極太パスタ いまだかつてないかみ応え

フォークからはみ出す特大パスタのパッケリ

フォークからはみ出す特大パスタのパッケリ

最近、河野さんがはまっているパスタが、「パッケリ」だ。ナポリ地方にしかない珍しい特大のマカロニで、直径なんと約3cmと極太。ゆでると、さらに太くなる。厚みもあるので、いまだかつてないかみ応えだ。

こうした強い弾力を持つパスタには、しっかりした味のソースを合わせるのがセオリー。ナポリ料理としては例外的に、生クリームを使ったポルチーニ風味のソースをたっぷりとからめる。あまりに大きいので、ナイフで切って食べる人もいるそうだ。

「やみつきになるパスタ」と河野さんが言うように、かむほどに小麦のうまみが出てきて、濃厚なのに、食べ出すと止まらない。のど越しやコシを楽しむスパゲティとは対極の、肉のような食感に魅了される。

「茹で野菜いろいろのドレッシング和え」1000円

「茹で野菜いろいろのドレッシング和え」1000円

健康に留意する河野さんには、ピッツァやパスタのお供に、野菜料理が欠かせない。豊富なサラダメニューから選んだのは、ゆでた野菜をドレッシングであえたひと皿だ。

野菜は、1種類ずつ、パスタ専用のボイラーでゆでる。パスタをゆでる湯には、かなりの量の塩を入れるが、その塩気がよい下味になり、野菜の味がぎゅっと凝縮される。そのぶん、ドレッシングの塩味は控えめにするのがポイントだ。

素朴な料理なのに、絵画のように美しいのは、野菜の自然な造形のなせる技。それぞれの野菜の、いちばんおいしい瞬間をとらえてゆで上げる繊細さも、美しさを際立たせる。

飲食店経営を約20年継続 トップシェフたちが大切にしていること

「ナポリピッツァの伝道師」と呼ばれる渡辺陽一さん

「ナポリピッツァの伝道師」と呼ばれる渡辺陽一さん

食後に、河野さんと渡辺さんが語り合ったのは、店を続けることの難しさと、技術を継承することの重要性だった。全国の飲食店で、10年続くのはごくわずかで、廃業する理由を突き詰めれば、大半が人材不足なのだそうだ。

どの業種も人材の確保が難しい現在の日本で、とりわけ飲食業は深刻な状況に直面している。その荒波のなかで、創業22年になるモナリザと、19年のパルテノペは、もはや立派な老舗。ふたりとも、現地で培った技術や知識をスタッフに伝えることに専心してきた。

「そのためには、まず自分が健康であること。1日1日を大切に、だから1食もおろそかにせず大切にしています」という河野さんの言葉が、説得力を持って心に響いた。

(撮影・小島マサヒロ)

店舗情報

パルテノペ 恵比寿店
東京都渋谷区恵比寿1-22-20恵比寿幸和ビル
東京メトロ日比谷線「恵比寿」駅より徒歩7分、JR「恵比寿」駅より徒歩5分
080-8144-8832
営業時間:【平日】11:30~14:30(L.O.14:00)/18:00~22:30(L.O.21:30) 
【土曜・日曜・祝日】11:30~14:30(L.O.14:00)/17:30~22:00(L.O.21:00)
定休日:年末年始、夏季休業日
公式サイト:https://partenope.jp

大御所シェフのお店

モナリザ 恵比寿店
東京都渋谷区恵比寿西1丁目14-4 1F
JR、東京メトロ日比谷線「恵比寿」駅より徒歩3分
03-5458-1887
営業時間:11:30~15:30(L.O.13:30)/17:30~23:00(L.O.21:00) 
定休日:無休
公式サイト:http://www.monnalisa.co.jp/

<<連載のバックナンバーはこちら>>

 

PROFILE

畑中三応子

編集者、ライター、フードジャーナリスト。『シェフ・シリーズ』『暮しの設計』(ともに中央公論社)の元編集長。料理本を幅広く手がけるかたわら、流行食関連の研究や執筆も行う。著書に『ファッションフード、あります。——はやりの食べ物クロニクル』(紀伊國屋書店、ちくま文庫)、『カリスマフード 肉・乳・米と日本人』(春秋社)など。第3回「食生活ジャーナリスト大賞」では「ジャーナリズム」部門の大賞を受賞。

フレンチの大御所が絶賛する赤身牛ステーキ

トップへ戻る

圧倒的な手間と手頃な価格で日々行列 有名パティシエも通う「国分寺そば」

RECOMMENDおすすめの記事