タオルに続いて今治全体のブランディングへ 佐藤可士和が明かす“レア”な戦略

情報過多の時代に、どうすればブランド価値を高めていくことができるのか――。

多くの企業やビジネスパーソンが抱える悩みに、一つの答えを出そうとしている人がいる。クリエーティブ・ディレクター佐藤可士和さんだ。

2006年から手がける今治タオルのブランディング・プロジェクトは、産地・今治の名を飛躍的に高めることに成功し、現在はタオルメーカー各社の個性を際立たせていくフェーズに移っている。

18年10月からは今治市のシティー・ブランディングを担うプロジェクト「今治ブランド戦略会議」の総合監修も担当し、今治市のマスターブランド(都市ブランド)構築に乗り出した。

佐藤さんは今治の存在感をどうやって高めていこうとしているのか。メディア発表会の場で構想が明かされた。

今治タオルの戦略モデルをシティー・ブランディングにも応用

今治市も他の自治体同様、若者が減っている。2013年からの5年間で市内の人口は約7700人減少。同期間における40歳以下の人口割合は、38.4%から35.6%に下落した。

「就職先や暮らしの拠点として若者に目を向けてもらえるよう、まちの魅力を高めていかなければならない」。今治市の菅良二市長は危機感を強める。

局面打開に向けて今治市は昨年10月、「今治ブランド戦略会議」を設置。佐藤可士和さんを総合監修に迎え、都市ブランドの構築に動き始めた。そして今年3月、今治市のシティー・ブランディング・キャンペーン「アイアイ今治キャンペーン」の構想と第一弾企画を発表した。

「アイアイ今治キャンペーン」のロゴを掲げる関係者。左から佐藤可士和さん、JAおちいまばりの木原嘉文さん、今治タオル工業組合の井上裕基理事長、菅良二今治市長

「アイアイ今治キャンペーン」のロゴを掲げる関係者。左から佐藤可士和さん、JAおちいまばりの木原嘉文さん、今治タオル工業組合の井上裕基理事長、菅良二今治市長

キャッチコピーは“I’m into Imabari!”「今治に夢中」「今治にハマっている」という意味合いで、佐藤さん自身の気持ちを表したコピーでもあるという。キャンペーン名はキャッチコピーの頭文字から取られている。

「今回のブランディング・キャンペーンは、今治在住で地元の魅力を発信したい人や、僕のように外から来て今治にハマっている人が知恵を出し合い、一緒に新しい価値を創出していく――そんな“共創型”の取り組みにしたいと思っています」(佐藤さん)

花火のような明るいロゴも、今治のコンテンツの個性の強さや楽しさに加え、今治に夢中な人同士の「共創」から生まれるひらめきを表現しているという。

「アイアイ今治キャンペーン」のロゴ

「アイアイ今治キャンペーン」のロゴ

「共創」は「今治タオル」のブランディング・プロジェクトでもメインコンセプトになっていた。それをここでも踏襲したのには訳がある。

「今治タオルをはじめ、サイクリストの聖地と呼ばれる『瀬戸内しまなみ海道』や『FC今治』、『村上海賊』やゆるキャラグランプリ王者の『バリィさん』、B級グルメの『今治焼豚玉子飯』――今治にはこの10年で魅力的なコンテンツがたくさん増えました。けれども、おのおのが独自でPRを行っているため対外的な認知が広がらず、地域のイメージアップとの結びつきが弱かった。これはタオルメーカー各社が質の高い商品を作りながら、個別にPRしているだけで、タオルの産地としての発信力が弱かった10年前の今治タオルを巡る状況に似ています。

そこで、今治タオルのブランディング戦略同様、それぞれのコンテンツを一つのブランディング・キャンペーンのもとにまとめて発信し、認知度や訴求力を高めて、まち全体を盛り上げていこうと考えました」(佐藤さん)

インタビューに答える佐藤可士和さん

個別のコンテンツを束ねることで、今治に多様な価値がそろっていることをアピールしやすくなる。また、コンテンツ同士でコラボレーションもしやすくなり、それぞれのファンが別のコンテンツに触れる機会も増える。これが戦略の狙いだ。

今回発表されたブランディング・キャンペーンの第一弾企画も、この戦略に則ったもの。

今治タオル本店のバックヤードを全面改装したカフェ「imabari towel CAFÉ(今治タオルカフェ)」で、JAおちいまばりが運営する直売所「さいさいきて屋」、今治の食材にこだわるデリカ「TORICO」、コーヒー館「時計台」とコラボした限定メニューを3月24日まで提供。利用者の異なるコンテンツを融合することで、それぞれのファン層の拡大を狙った。

2019年3月9日にオープンした「imabari towel CAFÉ」

2019年3月9日にオープンした「imabari towel CAFÉ」

「アイアイ今治キャンペーン」第一弾企画として期間限定で提供されたメニュー。上:さいさいきて屋の「しまなみロール」、左下:TORICOの「TORICO‘S DELI BOX」、右下:珈琲館時計台の「アイアイ今治ブレンド」。コラボレーションを通じて今治タオルファンとそれぞれのグルメファンとの出会いの場を創出した

「アイアイ今治キャンペーン」第一弾企画として期間限定で提供されたメニュー。上:さいさいきて屋の「しまなみロール」、左下:TORICOの「TORICO‘S DELI BOX」、右下:珈琲館時計台の「アイアイ今治ブレンド」。コラボレーションを通じて今治タオルファンとそれぞれのグルメファンとの出会いの場を創出した

「パリ・ブレスト」の今治版を構想

「今治ブランド戦略会議」は、今後どんなキャンペーンを予定しているのか? 発表会の場では様々な構想が語られたが、中でも注目度が高そうなのが自転車関連の企画だ。

広島県尾道市と愛媛県今治市を結ぶ全長約60kmの自動車専用道路「瀬戸内しまなみ海道」は、「聖地」と呼ばれるほどサイクリストの間で人気が高い。瀬戸内しまなみ海道振興協議会の調査によれば、しまなみ海道を訪れるサイクリング客数の推計値は、平成23年度の17万4935人から平成27年度には32万5853人にまで増加している。こうした状況を受け、同会議が構想している企画の一つが「今治ブレスト(仮)」だ。

標高307.8mの亀老山展望公園のパノラマ展望台ブリッジから見える「来島海峡大橋」。世界初の三連吊橋で中央の橋がしまなみ海道にあたり、サイクリングコースとしても高い人気を誇る

標高307.8mの亀老山展望公園のパノラマ展望台ブリッジから見える「来島海峡大橋」。世界初の三連吊橋で中央の橋がしまなみ海道にあたり、サイクリングコースとしても高い人気を誇る

「ブルべ」と呼ばれる自転車レースイベントの中で最高峰に位置づけられる「パリ・ブレスト・パリ」では、レース中に「パリ・ブレスト」と呼ばれるリング状のスイーツが提供される。「今治ブレスト」はそれに想を得た企画で、市街のカフェなどとコラボし、今治産の素材を使ったスイーツなどをサイクリング客に提供する。

「自転車レース開催時であればエネルギー摂取用の食べ物として、普通のサイクリングであれば今治ブレストが食べられるカフェをサイクリングコースとして巡ってもらいながら食事を楽しんでもらえればうれしいです」と語るのは、今治ブレストの発案者である株式会社グローシャの山本美樹さん。

今治ブレストの発案者である株式会社グローシャの山本美樹さん

今治ブレストの発案者である株式会社グローシャの山本美樹さん

「提供されるメニュー(=今治ブレスト)がかわいければ、SNSでシェアされてサイクリングファン以外にも広がっていくのでは」と佐藤さんも期待を寄せる。

今回発表された第一弾企画も、構想中の「今治ブレスト」も、「食」を掛け合わせた企画だ。その理由を聞くと、「“食”は強いエクスペリエンス(経験、体験)を伴う。だからこそコンテンツとしても強力で、(ブランディング戦略上)可能性を感じた」(佐藤さん)。

この先も強度の高いアイデアを全国、海外に向けて発信していく。それと同時に考えなければならないのが、内部に視線を向けた施策。地元の若者のつなぎとめやUターンを促すことがキャンペーンの大きな目的の一つだからだ。

ブランディングには、外に向けたコミュニケーションだけでなく、発信側(地元の人間)が自分たちの魅力を理解し、活動を続けるモチベーションを保つことが重要になります。いわゆるインターナルブランディングと呼ばれるものです。今回でいえば今治市民の皆さんに地元の魅力を改めて実感していただき、理解を深めてもらい、発信者になってもらうところまでを考えていかなければいけない」(佐藤さん)

地元の人たちが自らの取り組みをアイアイ今治キャンペーンの枠組みで発信できるよう、キャンペーンロゴの使用マニュアルを整え、ロゴデータも使いやすいようにまとめた。市民を積極的に巻き込んでいくことで、キャンペーンの規模を拡大していくためだ。

JAおちいまばりが運営する直売所「さいさいきて屋」にも、「アイアイ今治キャンペーン」の顔出しパネルが。市内の様々な取り組みを本キャンペーンと絡めて発信し、まち全体を盛り上げていく

JAおちいまばりが運営する直売所「さいさいきて屋」にも、「アイアイ今治キャンペーン」の顔出しパネルが。市内の様々な取り組みを本キャンペーンと絡めて発信し、まち全体を盛り上げていく

このシティー・ブランディング・キャンペーンは期間を定めず長期的に続ける。当面は東京五輪が行われる2020年に向けて今治のブランド力を高めていく。「共創型でまちを盛り上げていく試みは全国的にも珍しい。僕自身、どんな新しい動きが生まれるか想像がつかない」と佐藤さん。変化を続ける今治の未来に、これからも注目していきたい。

(文・&M編集部 下元 陽 撮影・今治ブランド戦略会議)

\おまけ/

今回メディア発表会が行われた複合施設「テクスポート今治」には、今治タオル本店のほか、今治タオルの品質などを知ることができる「今治タオルLAB」も併設されている。ここの体験コーナーが面白かったので紹介したい。

今回のメディア発表会が行われた「テクスポート今治」に併設されている「今治タオルLAB」(撮影=下元陽)

「テクスポート今治」に併設されている「今治タオルLAB」(撮影=下元陽)

体験コーナーには下の写真のようにタオル片が並べられている。左から「今治タオルブランド 品質基準 合格品」「不合格品(柔軟剤使用過多)」「不合格品(糊抜き不十分)」

一見同じように感じるが、それぞれ吸水性が異なり、水に浮かべた時の反応は全く違った。その様子は動画をご覧いただきたい。

体験コーナーに並べられているタオル片。左から「今治タオルブランド 品質基準 合格品」「不合格品(柔軟剤使用過多)」「不合格品(糊抜き不十分)」。これらを水に浮かべると……?(撮影=下元陽)

体験コーナーに並べられているタオル片。左から「今治タオルブランド 品質基準 合格品」「不合格品(柔軟剤使用過多)」「不合格品(糊抜き不十分)」。これらを水に浮かべると……?(撮影=下元陽)

【動画】今治タオルの吸水性実験

今治タオルブランドの合格基準は、タオル片を水に浮かべて5秒以内に沈み始めること。いわゆる「5秒ルール」と呼ばれるものだ。

筆者が合格品のタオル片を水に浮かべた時は1秒足らずで沈み始めた。吸水性が高いとうわさには聞いていたが、実際に生で見ると、そのインパクトはなかなかものだった。

<75>焼き色が美しい感動的なトースト/浅草「珈琲アロマ」

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