マッキー牧元 うまいはエロい

<75>焼き色が美しい感動的なトースト/浅草「珈琲アロマ」

トーストの幸せを知ったのは、ロンドンだった。大学時代に10日ほどホームステイをしていたとき、毎朝ホストファミリーが焼いてくれるトーストに目を輝かせた。薄く、こんがりと焼けていて、バターの香り高く、食べれば軽快な音が響く。極めてシンプルなのに、毎朝しみじみと感動してしまう。

林望氏は、『イギリスはおいしい』(文春文庫)でトーストの真実を発見したことを書いている。そして、イギリス人がトーストをよく食べるのは、あまりにも寒いのでバターを溶かす方法を他に思いつかなかったから、とフランス人が言って笑っていることを揶揄(やゆ)していた。

イギリスでは古くから、トーストは料理の位置にあったが、普段日本では、トーストを料理としてはあまり意識をしない。ところが去年あたりより、高級食パンブームがきて、トーストを強く意識するようになった。

その先駆けである銀座の「セントル ザ・ベーカリー」では、食パンが3種類から選べる上、自分の好みのトースターも選べるのである。これは楽しい。

一方、古くからプロの心意気を感じさせるトーストがある。一つが惜しむらくは、市場移転とともに閉店してしまった築地の「珈琲店愛養」であり、もう1店が、浅草の「珈琲アロマ」である。

アロマは、食パン界の重鎮、田原町「パンのペリカン」製のパンを使う。老主人は、厚さ約2センチのパンをトースターに入れ、一定時間で取り出して裏返し、再び焼く。焼き上がると、素早くバターを塗って目の前へ運ぶ。その一連の動作はよどみなく、踊り名人の舞を見ているかのようである。

バターの香りが顔を包むバタートースト

バターの香りが顔を包むバタートースト

香ばしく焼き上がったパンは、表裏ともむらなく焼き色がついて美しい。かじればサクッと音がして、耳はタルト生地のように軽やかに崩れ、バターの香りが顔を包み、歯は、甘くもっちりとしたパンにめり込んでいく。

ペリカン特有の小ぶりな、9センチ四方に込められたおいしさに、顔は緩み、すぐさまもう1枚と頼んでしまう。

まずはこの基本のバタートーストを食べてほしい。次にジャムやチーズと進んだら、最後は、塩、マスタード、少量のマヨネーズを塗って、生タマネギとピクルスを挟んだ、ご主人考案の絶妙な「オニオントースト」をお試しあれ。

こういう質素な料理にこそ、作り手の心根が素直に現れるということを教わるのだ。

もはや一品料理として位置づけてもいい絶品のオニオントースト

もはや一品料理として位置づけてもいい絶品のオニオントースト

珈琲アロマのメニュー。バタートーストは110円とリーズナブル。オニオントーストは280円

珈琲アロマのメニュー。バタートーストは110円とリーズナブル。オニオントーストは280円

 

珈琲アロマ

    珈琲アロマ店舗画像  
【店舗情報】
東京都台東区浅草1-24-5
03-3841-9002
つくばエクスプレス「浅草」駅より徒歩2分、東京メトロ銀座線「田原町」駅より 徒歩4分、「浅草」駅より徒歩7分
08:00~18:00
定休日:木曜、第4水曜

PROFILE

マッキー牧元

1955年東京生まれ。立教大学卒。年間幅広く、全国および世界中で600食近くを食べ歩き、数多くの雑誌、ウェブに連載、テレビ、ラジオに出演。日々食の向こう側にいる職人と生産者を見据える。著書に『東京・食のお作法』(文藝春秋)『間違いだらけの鍋奉行』(講談社)。市民講座も多数。鍋奉行協会顧問でもある。

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