伊藤万理華 ×『MdN』 元編集長 ・本信光理 「乃木坂46 Artworks だいたいぜんぶ展」のクリエーションを語る!

2019年1月11日(金)~5月12日(日)の期間、東京・六本木の「ソニーミュージック六本木ミュージアム」にて開催されている「乃木坂46 Artworks だいたいぜんぶ展」。乃木坂46にまつわる約9万点の膨大な資料を集め、代表的なものが並べられた展示は、倉庫をモチーフとして設計されている。

今回、同ミュージアムで、乃木坂46の卒業生で今は俳優として活躍する伊藤万理華さんと、同展のディレクターを務めた雑誌『MdN』の元編集長・本信光理さんの対談を実施。伊藤さんは「もう卒業しているのに出てきてすいません」と恐縮しつつも、彼女の視点で展示から感じるクリエーションの魅力について語ってくれた。 

「だいたいぜんぶ展」は乃木坂46のファンでなくとも興味を引く設計に

本信光理(以下、本信):万理華さんは今日で来場2回目ですけど、率直にどうでした? 

伊藤万理華(以下、伊藤):ミュージックビデオ(MV)用に作られた衣装ってライブなどで使われないので、ふつうは生で見られないものですよね。映像作品の中だけの衣装が実際に展示してあるセレクトに、改めて衝撃を受けました。

乃木坂展

写真は3月上旬に撮影した際の展示の様子。現在は模様替えをしている【もっと写真を見る】

本信:乃木坂46は、よく衣装の展示をしているけれど、ほかと同じものになってはいけないと思ったから『ガールズルール』のMVに出てくるレアな衣装を展示するようにしたんです。あと、メインでつるして展示してある5点の衣装には靴下やローファーをつけて、トータルなコーディネートを見せるようにしているんですよ。

伊藤:握手会やライブで制服衣装などを着ることがあるのですが、特にライブだと早着替えの制約上、決められたローファーや靴下じゃないことがあるんです。でも本当はこういうコーディネートなんだよ、っていうところがちゃんと見られるようになっていますよね。

乃木坂展本信:もちろん乃木坂46のファンに喜んで欲しいし、あまり知らない人が来ても、「乃木坂46の衣装ってこんなにすてきなんだ」と思ってもらえるように、両方のラインをちゃんとキープしようとしています。歴代のCDジャケットのさまざまな資料も展示しているんですけど、どれが一番好きですか?

伊藤:うーん、迷いますね……。(乃木坂46の)最初の頃のジャケットは、初回盤 Type A〜C、通常盤といった4枚でストーリー性を持たせていることがあって、それが好きで。例えば『何度目の青空か?』。あの頃はまだ自分は10代でしたけど、「合唱の練習風景」というコンセプトの説明を受けた時にちゃんと解釈できましたし、ただの撮影ではなく、ストーリーの中に入って曲と一緒になる感覚がありました。

本信:展示で、万理華さんも写っている『何度目の青空か?』のアザーカットを並べているじゃないですか。物語を演じている瞬間をたくさん撮影した、映像的なジャケットだなって印象を確かに受けました。

伊藤:『バレッタ』『おいでシャンプー』も好きで、それはクリエーティブな視点がちりばめられているから。そこに愛情を感じるし、やってて面白いと思っていました。

本信:個人的にも、『何度目の青空か?』は完成度が本当に高いな、と。自分は2001年頃に松浦亜弥やモーニング娘。でアイドルに興味を持って、それからアイドルのジャケットは目に入る範囲ですがチェックはしてきました。ただ、アイドルグループのジャケットで良いと思えるものって、実はあまり多くなくて……。

そういった中で、乃木坂46のジャケットからは良いものを作ろうという気持ちが伝わってきた。最初にMdNで『ガールズルール』を取り上げさせてもらって、その後1stアルバム『透明な色』のジャケットを見た時に、このグループは何かあるなと思って、過去の全シングルのフォトグラファーのクレジットを調べたんですよ。

伊藤:ええー!! 全部ですか? 

本信:はい。で、全シングルのクレジットを調べたら、撮影者の名前がすべて違った。でもアートディレクターは基本一緒。つまり一人のアートディレクターがシングルごとに、目的に合わせてフォトグラファーを配置していることに気付いた時、このグループはアートワークにおいて本気で何かやろうとしているなと思ったんです。割とクレジットから制作の意図は読みとけるので見てみてください。それで、すぐさま「特集をやらせてください」と連絡をしました。

この展覧会は伊藤万理華さんのような人に来て欲しい

乃木坂展伊藤:乃木坂46はアイドルなんだけど、クリエーターさんの自由度が高くて好きなものを作っているイメージでした。それにメンバーが合わせていく。今野さん(今野義雄。乃木坂46運営委員会委員長)がすごくこだわっていて、1stシングルの時からずっと、ジャケ写は必ず意図を自分で説明して、こういうことをやりたいんだってことを提案してくれるのですが、熱意がすごい!

本信:その今野さんからある日、「今日の夜空いてますか?」って電話がかかってきて。今野さんから電話がかかってくる時って、大きな案件の相談か、進行中の仕事での、本気のダメ出しかのどちらか(笑)。なので、この時も「これはとんでもない何かが来るな」と思いつつ電話を取ったのがこの展覧会の始まりだったんですよ。

伊藤:なんで本信さんを指名されたのか、すごく分かる気がしています。MdNでの特集も、一番見て欲しいところを表現してくれたって思うんです! 高い熱量で制作されていたから注目して欲しかったし、メンバーが可愛いという切り口ではなく、デザインやアートワーク全体という視点で特集しているのは一番最初がMdNだったので。私個人としても、やっと特集されたと思って。

本信:その特集記事での取材時に、はじめて万理華さんと話したんですよね。その時に、万理華さんのような、クリエーティブなものが好きな若い子にこそMdNを読んで欲しいなと思った。

MdNでもやっていたことだし、展覧会もそうなんですけど、ファンの中でも女の子が一人で見に来ても楽しいとか、友だちや恋人と来ても楽しんで欲しいと考えた時に、根っこにあったのは万理華さんみたいないろいろなアンテナを張っている女の子。万理華さん基準で考えたというか、僕にとって想像しやすい相手なんです。万理華さん、実際にこの「だいたいぜんぶ展」を見た正直な感想は? 

伊藤:見たいポイントが凝縮されていると思いました! 衣装の展示はフォトジェニックだし、欲しいところを突いているなと(笑)。もし自分が乃木坂46に関わっていなくても行くと思うし、注目していたと思います。グッズにもすごくこだわっていますけど、私にTシャツの(デザインの)オファーが突然来ましたよね!? 卒業してるのに(笑)。

乃木坂展

伊藤万理華さんデザインのTシャツ。雑誌『OVERTURE』内での、伊藤万理華さんの特集で掲載されていた絵を、本信さんが気に入って発注

本信:乃木坂46というグループのこれまでを振り返る展覧会だから、卒業したメンバーでも良いと思ったし、普通のTシャツを作っても嫌だなと思ったから、万理華さんにお願いしたんですよ。僕は以前、万理華さんが描いていた絵のことを覚えていたから、それがTシャツになったらみんな欲しいはず、という勝算もあった。

伊藤:マネジャーさんを通して、私が昔描いた力作の絵が送られてきたのですが、「こういう方向性で、抽象的なものを全面に描いて、それを僕が着たいんです!」という発注書が付けられていて(笑)。ただ、自分はもう卒業している身だったので迷いました。

今も、自分は卒業してしまったのに、こういう対談をしていてもいいのかなと思っているんですけど……。でも、「だいたいぜんぶ展」は卒業していったほかのメンバーもきっと楽しめるし、そのメンバーを応援している人も楽しめると思うから、受けようと。乃木坂46の歴史を見られるのは嬉しいです。(自分が)忘れ去られていない感じがして……(笑)。

企画を作る時はいつも「タイトル」から

本信:最初から決めていたわけじゃないのですが、結果として、卒業したメンバーも含めた歴史をアートワークを通して見せるという形になったんです。そういえば、「だいたいぜんぶ展」の展示のコンセプトについてまったく説明してないですね(笑)。その話をする前に、前提条件としてそもそも僕は展覧会にあまり行かないタイプなんです。行きます? なにかめんどくさくないですか?

伊藤:興味があれば行きますけど……めんどくさい。

乃木坂展

乃木坂展本信:展覧会のディレクションをするに当たって考えたのは、実際に行くのは面倒くさいという、僕みたいな出無精の人間が、どうやったら足を運ぶか。乃木坂46の展覧会といっても、僕は無精なのでゆるいものだと絶対に行かない。かなりマニアックな資料をただ陳列しています、という展覧会でも行かない。じゃあ、どうやったら自分は行くのか。という視点で、面白く感じられる「タイトル」から先に考えたんですよ。

伊藤:タイトルから企画が作られていったんですか?

本信:そう。どういうタイトルだったら人が来るかなというところから考えた。なかなか思い浮かばなかったところで、クリエーティブのスタッフとファミレスで何度も話を重ねたりして、「『だいたいぜんぶ展』とかどうですか?」って言われて、「これだ」と。

伊藤:ゆるくていいですよね。「乃木坂46展」だけだと、ファンの方は来てくれるかもしれないけど、名前は知っているけど……というぐらいの人が来るかは分からないと思う。「乃木坂46 Artworks だいたいぜんぶ展」と言われると、行けそうな気がする。

伊藤万理華 ×『MdN』 元編集長 ・本信光理 「乃木坂46 Artworks だいたいぜんぶ展」のクリエーションを語る!

©乃木坂46LLC

本信:タイトルが決まって、「だいたいぜんぶ」ってどこにあるかと考えた時に、頭に浮かんだのは倉庫でした。倉庫だと、資料や衣装がだいたいそろっているから。倉庫をモチーフにしたらどうなるかを考えるのと同時に、タイトルがゆるくて会場内のグラフィックや宣伝ビジュアルもゆるいと、全体的にきちんと引き締まったものにならないから、そこはタイトにしようと考えたんです。

ベースをモノトーンにするなどストイックな雰囲気に振って、そこにタイトルのゆるい言葉が上手くかみ合って、ほどよいところに着地するよう、バランスを取っていく。マニアックな話なんだけど、タイトルの文字も「AXIS font」という体温を感じないクールなゴシック体、工業製品のようなゴシック体を使っているんです。

伊藤:タイトルに入っている「Artwoks」、デザイン関係が好きな人の興味を引くと思いますし、ここもバランスが取れてますよね。

本信:編集者としての経験からですが、タイトル一つ作ればだいたいの構成ができちゃう。中身はそこから派生したものを考えればいい、という作り方を雑誌でもやっていました。同じ要領で作っていった感じです。

ファンと、ファン以外にも刺さるよう配置された展示のバランス

乃木坂展本信:展示を最初から順番に見ていくと、CDジャケットが制作されていく過程が分かるようになっているんですよ。裏テーマなんだけど、デザインや制作の学びの場にもなっているという。

伊藤:それを一番最初から掘り下げていて、メンバー募集のオーディション広告まで置いているのはびっくりしました(笑)。思った以上にガチだなって印象……特に台本や小道具に関してですね。

自分が参加しているものも結構、展示されていて、当時をすごく思い出しました。これを展示するのか!っていうものまであるし。なんでこれに着目したの?って思うのですが、本信さんはいつもそういう提案をされているから、きっと意図があるんだって(笑)。

本信:クリエーターもメンバーも、実は面白いと気付いていないものに対して、「ここが面白い」と言うのが一番の仕事だと思っているから、そう思ってくれたのは嬉しいです。マニアックなものを展示すると、いろいろな人が驚いてくれるんですよ。

伊藤:私はめちゃくちゃ反応しましたよ! 『君の名は希望』の制服衣装をトルソーに着せた展示で、全メンバーがフォーメーション通りに並んでいるところが細かいな、とか。

下のほうには並び順が記載されていて、結構前に卒業したメンバーの名前を書いていたりしますよね。単にクリエーティブなところを見せるだけじゃなくて、細かな気配りも含めて、ファンのことをちゃんと思って構成されているなあって。ファンが求めるものと、まだ乃木坂46をあまり知らない人の琴線に触れるところのバランスが本当にいいです。

本信:バランス感覚の話だと、万理華さんがクリエーティブな視点とファンが求める視点を意識し始めたのは、辞める間際になってからだよね。

乃木坂展伊藤:そう。どんどんファン目線がなくなって、個人的なところで独走していたんですけど(笑)、卒業間際に個展(「伊藤万理華の脳内博覧会」)をやらせていただいて、何を展示したら来場者さんが喜んでくれるか、自分は何を見せたいか、というところの調和を自分なりに考えてプロデュースした経験が大きかったかなあと。

本信:乃木坂46に在籍していた最後のほうで、クリエーティブなものをやりたいという方向に気持ちがシフトしているのを感じ取って、「展覧会でそういうものを押し付けられたらファンは大丈夫かな?」と思いながら見に行ったんですよ。そうしたら、「伊藤万理華はこういう部分がタレントとして求められて、魅力的だ」という部分を自分で解釈し直してからプロデュースしているのを見て、驚くとともに安心しました(笑)。

万理華さんはアイドル的な要素も武器だし、ストイックな表現者としての要素も武器だというところを自分でちゃんと把握されていると理解できたから、卒業しても大丈夫だなって思えた。

伊藤:親目線!(笑)。「だいたいぜんぶ展」って、一見マニアックなところを押し付けているようにも見えるけど、クリエーティブな文脈と、乃木坂46に必要なものだけがそろっているんです。会場の最後に、大きなモニターでライブの映像を見られるところがあって、そこも良いなあと思ってて。

全部のプロセスを見終わった後に、展示されている衣装を着てみんなが踊っている映像が、完成形としてありますよね。展示の最後に、大きい画面と爆音でパフォーマンスを体験できて嬉しいし、あそこに乃木坂46が凝縮されていると思います。         

一つ一つの展示ではなく、すべてのプロセスを経た先にある「見どころ」

本信:展示で気をつけたのが、制作過程で使用されたラフなどを額装して飾らなかったこと。マニアックな資料ばかりだから、それが段ボール箱に収まった形をのぞいて見てもらうことで、「貴重な資料を見ている」という演出にもなるという思惑があったんです。

伊藤万理華 ×『MdN』 元編集長 ・本信光理 「乃木坂46 Artworks だいたいぜんぶ展」のクリエーションを語る!

乃木坂展

会場内に展示されている資料の一部。ラフ案や赤字の入ったものなど、制作過程が見えてくるものが並ぶ

伊藤:額装されたら気が引けちゃうけど、箱に資料が入っていて、それはあくまで過程なんだよという見せ方を強調しているのもポイントですよね。

本信:ぜひ平日の夕方くらいに来てもらいたいな、と。そのほうがゆっくり見ることができるので。

伊藤:1人で! 1人か2人で平日がオススメ!(笑)。友だち何人かで来るよりも、じっくりと見たほうがちゃんと理解できますよね。どこかのスポットを見てもらうのではなく、全体を通して見てもらう展示だから、一番魅力が伝わりやすいかなあ。

本信:プロセスを楽しめる展覧会だから、何か一つだけというよりは「だいたいぜんぶ展」と言っている通り、全部を見てからやっと面白くなってくる。普通は、例えば「海外からこの絵がやってくる」という一つ、二つの展示の推しがあって、それにぶら下がった形で組み立てられることが多いと思うけど、そうじゃなくて、一つ一つのマニアックなものが集まった展示なので。そこを目指して作ったから、空間を含めた集合体として楽しんでもらえればなと思います。

伊藤:展示されているものが全部で3回変わりますけど、それはどういう意図だったんですか?

本信:中にあるものをちょこちょこ入れ替えていったほうが、倉庫っぽいかなって。

伊藤:なるほど、臨場感がすごくありますよね。ちょうどライブをやっていて、衣装が無くなってしまったから今展示しているものは制服が多い、とか。ライブに行った人が見ると「あれを着たから今ないんだ」ってなるかも。

天才肌のパフォーマー   伊藤万理華のこれから

本信:今は卒業して俳優業をされていますよね。

伊藤:5月に、『映画 賭ケグルイ』のオリジナルキャラクターを演じさせてもらうんですけど……いや、俳優を名乗るのは恐れ多いというか……ぼちぼちやらせていただいています。

本信:万理華さんは昔から謙虚だけど、そこは自信を持っていきましょう! 僕から最後に言いたいのは、万理華さんは小難しいことを話す人じゃなくて、パフォーマーとして天才肌の人なんです。表現者として抜けがいい。万理華さんの本分はそこだと思っている。

だから、この万理華さんとの対談という企画も、話をいただいたのはありがたいのですが、万理華さんに申し訳ないという気持ちもあって。だから、あんまりみんな、こういう記事に万理華さんを呼ばないで!(笑)

伊藤:最後、それですか!?(笑)。私も卒業生という立場なので、もう乃木坂46ではない人間が乃木坂46について何かしゃべるのはおこがましいと日々思っていて。だから今日の対談も私が(乃木坂46について)語っていいのかと心配だったのですが、自分の考えていることを本信さんと久しぶりに話せてよかったです!

(文・&M編集部 岡本尚之 写真・稲垣純也)

乃木坂展

伊藤万理華(いとう・まりか)
1996年2月20日生まれ。2017年12月に乃木坂46を卒業し、現在は俳優として活動中。2019年5月公開の『映画 賭ケグルイ』に犬八十夢役で出演が決定している。

本信光理(もとのぶ・ひかり)
1973年東京生まれ。2001年にエムディエヌコーポレーション入社。グラフィックデザイナーにさまざまな情報やノウハウを提供する月刊誌『MdN』に配属となる。2010年より編集長。2013年にMdNを大きくリニューアル。音楽、マンガ、アニメ、フォント、アイドルなど多彩なテーマでクリエーションを特集する編集方針が話題を呼ぶ。2019年3月をもって退社、フリーの編集者に。

【開催概要】
タイトル:乃木坂46 Artworks だいたいぜんぶ展
会期:2019年1月11日(金)~5月12日(日)
時間:10:00~20:00(入場は19:30まで)※会期中無休
会場:ソニーミュージック六本木ミュージアム(東京都港区六本木5-6-20)
アクセス:東京メトロ六本木駅より徒歩7分、麻布十番駅より徒歩10分
公式サイト:https://smrm.jp/

 

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