LONG LIFE DESIGN

初めまして、ロングライフデザイン。ナガオカケンメイが40歳目前に疑ったこと

デザイン活動家でD&DEPARTMENT代表・ナガオカケンメイさんのコラムが始まります。テーマは「LONG LIFE DESIGN(ロングライフデザイン)」。初回は「LONG LIFE DESIGNとは何か」や、ご自身が関心を持ったきっかけなどを紹介します。

ナガオカケンメイさん

グラフィックデザイナーとして18歳から働き始め、現在54歳。この年になって気づくことも多いですが、一番の関心はこの連載のテーマ「LONG LIFE DESIGN」です。

興味が湧き始めたのは今から15年ほど前。環境のことも、継続性のことも考えず、とにかく”個性的なもの”をデザインと勘違いしながら、どんどん新しいもの、流行に沿ったものを量産していたような時代を経て、40歳に近づくにつれ、そこに疑いが生まれ、長く使い続けられ愛されることが大切だという思いに至りました。

きっかけはリサイクル屋さん巡り

きっかけは趣味のリサイクル屋さん巡り。最初はガラクタのような業務用の普段の生活では見かけないものや形に興味があり、例えば大きな給食センターで使うようなステンレスのボウルとか、鍋とか、学校の体育で使う跳び箱とか、改めて見て楽しんでいました。

そこにまさに今、テレビCMで毎日宣伝しているようなものが置いてあり、その消費のスピードに最初はびっくりしました。新製品がもう、中古販売店で売られていたからでした。

そして、これらのほとんどが日本人のものを買う価値観、生活意識、そして、デザイナーが生み出したものであると感じ、徐々に、ショックに近い感情に変わっていきました。そして、「本当に、こんなにも新しいものばかり、必要なのだろうか」と考えていくうちに、自分の職業である「デザイナー」について考えるようになりました。

そして、ある日、「新しいものは必要だけれど、みんながみんな、新しいものに向かう必要はない」という考えに至り、自分だけでも「新しく作り出さない」というテーマでデザイナーをやってみようと思ったのでした。

「ずっと愛されているデザイン」

まず、最初に取り組んだのが、すでに世の中に生まれているデザインを有効に見直すことでした。すると、「流行が去ってもずっと世の中に愛されているデザイン」についても興味が湧き、そうしたものこそ、本来のデザインの正解じゃないかと思うようになっていきました。それが「LONG LIFE DESIGN」でした。

「LONG LIFE DESIGN」とは、和製英語。日本でデザインを選定し評価する仕組みの一つ「グッドデザイン賞」の中に戦後生まれた考え方。今でもグッドデザイン賞の部門の一つに、残っている考え方。これをもっと広めることで、日本人のデザインについての考え方を見直すことができるかもしれない、また、デザイナーも全く新しいものを、消費経済の中で無理やり生み出すことばかりじゃなく、「長く使い続ける」ことと、「デザインビジネス」を掛け合わせた新しい価値観、ものを買う考えに発展させられないだろうか、と、思い始めました。

「D&DEPARTMENT」の売り場に立つと

ナガオカケンメイさん

僕はその「LONG LIFE DESIGN」をテーマに、お店「D&DEPARTMENT」を経営しています。製造され世の中に生まれ30年以上経過しているものを中心に、中古も扱っています。その売り場に立つと、いろんなものが見えてきます。

例えば、「使い捨て」という考えが30年ほど前から普通に存在するようになり、バブル経済を経て、私たちは今、日本のものづくりに強く惹(ひ)かれています。それは、落ち着いて考えると、僕は「日本人にあったものとの向き合い方」に戻ってきているのではないかと思うのです。

つまり、戦後からバブル期の「デザイン」はまさに「流行と消費」「むやみに作られた憧れ」に向けられていました。それが落ち着いた今、「デザイン」の多くが海外のものを指していた時を経て、日本人の多くが、実は身の回りにある、例えば「伝統工芸」もデザインなんじゃないかと気づき始めていて、国の「ジャパンブランド育成支援事業」も追い風になり、それらに注目していくうちに、デザイン、ものの背景にある「歴史」という新しい価値観を見つけるのでした。

ものには故郷があり、育った時間がある

ものには故郷があり、育った時間がある。ものを情報やトレンドで買うことで、満足していた時代を経て、そのものでどういう暮らしができるのか、また、壊れたら直して使い続けることが、実は真の豊かさなのではないか、と。

多くのお店にいらっしゃるお客さんと対話していると、もう、「デザイン」とは昔のような奇抜で、多少の使いづらさをデザイナーの著名性にごまかされるものではなくなってきていると感じました。本当に使いやすいもの。長く愛して使い続けられるもの。そういうものと一緒に暮らすことこそ、豊かな生活になってきている。

多くの先進国がたどった道と同じように、日本も成長を経て、ここまでたどり着いたとも言えます。今、まさに中国などが、日本と同じように「新しいもの」への欲求から「長く使えるもの」への豊かさに興味が移行しているようです。

ナガオカケンメイさん

「ロングライフデザイン」が大切だという経済的な話をもう一つすると、今、若者を中心に「都心」への憧れよりも、自然が豊かで家賃の安い場所での健やかな暮らしが注目されています。というか、もう、かなりの意識高い若い世代は、行動に移しています。ここには二つの要因があります。

一つは「貨幣経済の崩壊」です。昔は人口の多い都市のためのものをローカルは供給し続けてきました。ざっくりというと「エネルギー」と「食料」です。その人口集中した都市に、消費が発生し、じっくりと腰を据えたものづくりは土地の高騰に耐えきれず、都心を離れるのですが、今や、通信環境、流通環境はものすごい勢いで進化し、どこででも仕事ができ、結果、本当に暮らしやすい場所に移住する人が増えている。すると、エネルギーも食料も都市に供給せず、自分たちで使う分だけ産めば良くなる。

もう一つは、上記したことによる「メディアの崩壊」があります。これも経済のボリュームゾーンにいる若い人たちのテレビや新聞、雑誌離れが加速。もはや個人発信、個人売買の時代に入り、マスのメディアの位置付けも激変し、流行はメディアによって操作、発生させることが徐々に難しくなってきた。その反動で「その土地にあるもの」「自分の価値基準」など必然的に関心が高まってくる。

地方で続く織物などの伝統産業が、東京や世界のファッションの動きに刺激され、地方にいながら斬新で新しいスタイルを生んでいく。

つまり、都市の役割が変わりつつある。もっというと「流行」などの作られた憧れや、不自然なスピードを拒否しても、楽しく暮らしていけるようになってきたということで、じっくり、無理のない生活の実現により、本来見えるはずの価値に向き合えるようになってきたと言えると思います。

ここで、改めて「長くつづいている素晴らしい個性」が見直され、つまり、消費型「デザイン」は、徐々に「LONG LIFE DESIGN」に変わってきたと言えると思うのです。

「長く使い続ける」という考えが、「デザイン」に追加され始めている

ナガオカケンメイさん

この連載は、デザイナーである僕が専門的な「デザイン」の話をするというものではありません。「デザイン」はすでに「ファッション」のように多様に使われる考え方になっている。「新しいもの」を指すこともなくなりつつある。工芸品なんかもデザインと言ったり、働き方や店での接客なんかも「デザイン」と呼ばれたりしています。そんな中で「長く使い続ける」という考えが、「デザイン」に追加され始めている。

私たちの暮らしの中に「LONG LIFE DESIGN」は考えとしてどんどん入ってきていると思い、そのいろいろをここに書いていけたらと思っています。時には生活道具のこと、時には形のない考え方のようなお話をしていきたいと思っています。

「LONG LIFE DESIGN」の座布団にどっしり座り、新しさや時代を楽しむ

「LONG LIFE DESIGN」が私たち生活者の価値観の根底にあることで、流行の見方も違ってくるでしょう。変化の激しい時代にあっても、いつの時代も変わらない価値。受け継がれ続けるもの。そういうものこそ、生活の基礎としていく方が、価値観が揺るがず、時代を、生活を楽しめるのではないかと思うのです。流行を意識する楽しさは、同時に取り残される不安、ついて行けない後ろめたさにつながって、オシャレや、新しいことを取り込めなくなったりする。それは根底に「変わらない価値観」がしっかりないからだと思うのです。

「LONG LIFE DESIGN」を座布団のようにしてどっしりと座り、新しさや時代を楽しむ。定番のジーンズに最新のジャケットを着こなす。それこそがオシャレであり、自分らしい生き方の楽しみ方ではないかと思うのです。

さて、連載第1回の今回は、僕がどうしてこのテーマ「LONG LIFE DESIGN」をご紹介したいかをご案内差し上げました。これからもいろんな「長くつづく」を書いていきたいと思っています。どうぞ、よろしく。

撮影・稲垣純也

PROFILE

ナガオカケンメイ

デザイン活動家・D&DEPARTMENTディレクター
その土地に長く続くもの、ことを紹介するストア「D&DEPARTMENT」(北海道・埼玉・東京・富山・山梨・静岡・京都・鹿児島・沖縄・韓国ソウル・中国黄山)、常に47都道府県をテーマとする日本初の日本物産MUSEUM「d47MUSEUM」(渋谷ヒカリエ8F)、その土地らしさを持つ場所だけを2ヶ月住んで取材していく文化観光誌「d design travel」など、すでに世の中に生まれ、長く愛されているものを「デザイン」と位置づけていく活動をしています。’13年毎日デザイン賞受賞。毎週火曜夜にはメールマガジン「ナガオカケンメイのメール」www.nagaokakenmei.comを配信中。

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流行に背を向け、時代はしっかり見る。ナガオカケンメイの思考

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