オトナたちに捧げる、現代インターネットのススメ。

トレンドは、ナチュラルに“盛る” 進化していく「カワイイ」を生み出す技術

りょかちさんが、平成のインターネット文化を振り返る企画。今回のテーマは、海外でも通じる日本語となったキーワードの一つ“カワイイ”について。自撮りのAR(拡張現実)アプリの代表であるSNOW Japanの事業統括の崔智安さんと、プリントシール機トップメーカーで自撮りアプリ「moru」の開発を手がけるフリュー株式会社の華岡千尋さんと鼎談します。

りょかち 平成を振り返って、お二人が“カワイイ”の変遷について感じるところはありますか? 華岡さんから聞かせてください。

華岡 プリが遊びのベースにあって、そこに写メがきて、自撮りアプリがきたという流れだと思っています。女の子が“盛れる”、こうやれば可愛くなる、というポイントをつかんだ技術が飛躍的に伸びてきました。例えば、まつげがしっかり出るようにするには、カメラのピントをきちんと合わせて、高画質で撮影できないと実現できません。女の子の胸に刺さるポイントを抑えながら技術がそれをかなえる形で進歩してきたのが平成という時代だったと感じます。

りょかち いまはどんな顔にする技術が人気ですか? やはり小顔ですか?

華岡 小顔は本当に人気ですね。そして、小顔の作り方や目の作り方でもトレンドがあります。自撮りをしている子たちを見ていると、最近はナチュラルが好まれる傾向があります。“moru”も“自然に盛れる”という特徴が女の子から支持されています。

それはなぜかというと、身近な友達にも、不特定多数にも見せるために撮っているからです。本人を知っている友達が見たら違和感を覚えるような自撮りはしたくないんですね。

りょかち そうか、色々な人に見せるからですね。

華岡さん

華岡 女の子たちは、“盛れて”いる、つまり自分が思う最大限に可愛い仕上がりを見せたいのだけれど、「不自然じゃない?」と言われたくもないので、とても気を付けていますね。

りょかち SNOWさんも自撮りのアプリのトップランナーですが、最近の傾向はありますか? 一番記憶に残っているのは動物フィルターでしたが、最近人気のフィルターはありますか?

崔 2015年11月半ばにSNOWはローンチしたのですが、2016年の4月には、アップルストアでDL数が1位になりました。データを見ても、犬や猫、中でも、2016年の一番のヒットはネズミでした。SNOWはいろいろな定義をされますが、技術的にはAR(拡張現実)アプリです。現実世界にないものをSNOWを通して付け足して、可愛さを演出できることがサービスのわかりやすい特徴です。年々、コンテンツのトレンドが変わっているのですが、2016年はネズミで、2017年、2018年は何だったのかと考えると、いろいろなコンテンツが足し算されていると思います。今でもネズミは人気があってよく使われているからです。何かを使えなくすると、問い合わせが結構きます。「これがないと生きてられないです」なんて声をいただくこともあります。

SNOWで今でも人気のネズミのフィルター(SNOW Japan提供)

SNOWで今でも人気のネズミのフィルター(SNOW Japan提供)

りょかち その気持ちはわかります。「なんでこれ使えなくなっちゃったんだろう」って悲しくなります。

変化していく“カワイイ”の概念

崔 長く使い続けられるものはありつつ、2018年でいうと、日本の全体で「カワイイ」という概念が少し変わってきたように感じます。キーワードは「韓国」です。K-POPやドラマ、韓国のファッションの人気が高まったことで、「韓国らしさ」が日本のそれまでの“可愛さ”に追加されたようです。韓国でカワイイとされてきたものは、これまでの日本の可愛さとは少し違っています。ちょっとオトナっぽくて、シンプルな気がします。日本ではそれは「カッコいい」と呼ばれていたのですが、いまはBLACKPINKを見ても「カワイイ」と言いますよね。

華岡 本当にその通りだと思います。

崔 そしてまた、Instagramの流行も影響していると思います。初期のInstagramは、可愛さとはちょっと距離があるSNSだったと思うのですが、今は可愛いものが投稿されるようになりました。スタイリッシュとされたものが、カワイイとされるようになったわけです。SNOWの中でも、ここ数年でInstagramに載せやすいフレームやフィルターが使われるようになりました。具体的に言うと、枠がついていて英語の文字が上書きされるようなものです。

華岡 確かに、昔だったらシンプルと言われたようなものが、いまは「カワイイ」に直結しているなと感じますね。プリも、落書きがシンプルになっていっています。

りょかち わたしが高校生の女子にインタビューした時にも、いまはプリクラに落書きしないと聞きました! どちらかというと顔の修正にすごく時間をかけている。私が高校生だった時代には、時間ぎりぎりまで文字を書き込んでいました。それこそ後でSNOWでできるようになる、ネズミのような耳やヒゲを自分で書き込んでいました。

華岡 昔だったら技術者の大人たちが好きだった背景ぼかしとかポートレートのようなプロ向けの加工が、女の子たちに好まれるようになりましたね。iPhoneの内蔵カメラでもポートレートモードで撮影できますよね。高度な技術に触れやすくなったことや、一眼レフを持つ若い子も増えたことが影響していると思います。SNOWでも、撮影した後でポートレートのように加工できますね。

崔 最近の中高生は、「やっぱりスマホはiPhoneがいい」と言っています。ただ、最新機種は高価なので、それに比べて安価に手に入る過去の機種を使う人はまだまだ多いようです。それでも最新機種が持つポートレート撮影機能が流行していると、自分でもやってみたくなりますよね。そこでSNOWでは、AI(人工機能)を使って、顔と体を認識させて背景をぼかす「一眼効果」を持たせました。

りょかち そうした機能も、一眼レフカメラ好きが増えている若者の傾向を見て実装させているわけですね。

華岡 いまの子たちは、「リアルな質感を残したい」という軸と、「盛りたい」という軸の両方を求めているなと思います。

崔 みんな“わがまま”なんですよね。今おっしゃった二つの概念は、本来相反したものだと思うんです。思春期なので、肌荒れやニキビを隠したい気持ちはあるけれど、最近はあんまりいじりすぎてしまうとそれはよくない。「加工してない風」に加工したいというニーズも高くなっている。確かに、最近SNOWの中でも、「自然に盛る」ということがトレンドです。

華岡 どうしてそうなるのか、もう一つ理由があると思っています。いまは“他撮り”や集合写真も撮りますよね。昔だったら、ブログに貼ることはあっても、様々な角度から撮った自分や他の人の顔を同時に並べるようなことはあまりありませんでした。それが今ではInstagramが流行し、複数枚の写真を並べて載せる場面が増え、その並べた写真で自分の世界観を表現する時代になった。ですので、その環境下で、より自然に “盛れる”ことが実現できないかと私たちも考えています。

りょかち いまプリクラも中高生はたくさん撮っていますよね。スマホでの自撮りや他撮りとどういう使い分けをしているのでしょうか。私は、自撮りアプリをはじめて以降、スマホで撮影した写真ばかりが残っている。やっぱり手軽ですし……。

華岡 そうですね、プリは今も変わらず撮っていただいています。中高生というイメージが強いかもしれませんが、今は大学生世代の子もメインターゲットで、結構遊んでくれていますよ。プリ機の特徴は、ハイスペックだからこそ実現できる“盛り”と、クローズドな空間での撮影を通じて思い出を残せる&仲良しの証になる“特別感”にあるのだと思います。もちろん日常的に撮る人もたくさんいますが、卒業式や花火大会などの特別な日に撮るという記念用途も多く、両方の使われ方をしていると思います。世代ごとだと、中学生は「憧れ」、高校生は定番の「遊び」、大学生は「記念」といった感じで主な用途が移り変わります。

一方でカメラアプリは、いつでもどこでも誰とでも、その瞬間の空気を残す気軽さや利便性が受け入れられています。だから、プリとアプリでは求められる“盛り”が違います。画像加工の仕方も変えているんですよ。

カメラアプリmoruのイメージ

カメラアプリ「moru」のナチュラル盛りイメージ(左)としっかり盛りイメージ(右)=フリュー提供

りょかち わたしは自撮りを始めて良かったなと思うのは、自撮りアプリが流行して自分が可愛く残せるから、自撮りをするようになってからの思い出の写真がたくさん残っていることです。それ以前のものは全く残ってない(笑)。残しても可愛くないから、見返したくならないし。それを考えると、「カワイイ」を追求するカルチャーは、女の子たちの思い出を残すことにすごく貢献していると思います。お二人は、若者の動向を調査するためにどんなことをしていますか?

リテラシーが高くなった中高生たちのニーズに応える

崔 会社としてはマーケティング担当の部署でユーザーインタビューやアンケートを行っています。私個人は、できるだけ日常の中高生の生態を感じられるように、週に1回ぐらいの割合で原宿に行っています。原宿や渋谷は週ごとに変化している印象があります。一ヶ月ぐらい行けずにいると、店が無くなっていることもあります。歩いている人のファッションも季節ごとにどんどん変わっていきます。1日原宿にいることで、1000人、2000人のビジュアルを見ることができますよね。感覚論なので説明しづらいのですが、そうすることで、近い距離で同じ感覚を持とうと思ってます。毎回タピオカ飲んでます。この服装も、原宿を歩いていても違和感がないようにです(笑)。

華岡 フリューでは、当初よりプリの開発のためにユーザーインタビューをずっとやっていて、moruについても生の声をしっかりと聞いています。社内には専用の可愛らしい内装のお部屋がありまして、リラックスしてお話してもらえるよう心掛けています。いまの女の子の口からは「画質がいい」とか「手ブレする」とか、かつてはプロだけが使っていたカメラの専門用語がどんどん出てくるので、スマホネイティブ世代ならではのリテラシーの高さを日々感じますね

崔 いまの中高生はリテラシーがとても高くなっていますよね。話をしていると、こちらが開発側なのですが、若い人は発想が自由で、私よりプロダクトをよく理解しているように感じます。彼らのことを、成人ではないという意味で「子供たち」と社内でユーザーをそう呼んでいたのですが、もういまではユーザーを子供とは呼ばないようにしようとしてますね。

りょかち 話を未来に向けると、例えば「ZEPETO」(編集部注:顔写真を取り込むと、自分そっくりの動く3Dアバターを作ってくれるアプリ。開発はSNOW Corporation)はなぜ人気が出たのか。これからもっと同種のサービスが増えていくのでしょうか。

崔 SNOWもZEPETOも、私たちでなくてもいずれどこかの企業が開発して世に出るものだったと考えています。我々は、トレンドや技術の進歩をサービスに落とし込むことが得意分野だったので、一歩先んじることができました。

ZEPETOはアバターアプリと呼ばれています。日本語では「もう一人の自分を作ってもう一つの世界で生きるアプリ」と定義しています。ユーザーの使い方をみていると、現実では校則で金髪ができない中高生でも、アバターであればK-POPのアイドルのようなファッションや外観が実現できる。だからアバターを毎日着替えさせて、髪の色を変えて遊ぶ。

いまの人たちは、デジタルの世界でもアイデンティティがあって、それをブランディングしたいという欲求を持っています。これはZEPETO のようなアプリだけではなく、SNSでも同じです。例えば、SNOWを使うと、「リアルの自分より見た目がちょっと良い自分」というキャラクターができるので、それを使ってInstagramの中で生きていることになるわけです。

りょかち 自分の写真を使わなくても、もう一つの世界で生きることができてしまいますよね。私は自撮りではためらってしまってサンタのコスプレができなかったのですが、ZEPETOのアバターだったらできそうです。

トレンドは、ナチュラルに“盛る” 進化していく「カワイイ」を生み出す技術

崔 人間には二面性があるので、デジタルの自分と、プライベートな自分、それぞれあるのは当然です。現実の世界では限界があっても、デジタルの中では変わっていく。SNOWが日本での自撮り文化を作ったとまでは言えないかもしれませんが、AR的なサービスを皆さんが使えるステージを作り上げたとは言えると思います。私たちは、新しいテクノロジー、中高生から見ると「新しい遊び」を提供していきたい。テクノロジーだけではなく、ライフスタイルを提供する会社であり続けたいです。大人と中高生では同じサービスでも使い方は異なりますよね。SNOWもZEPETOも、さらに面白い遊び方ができると思います。今はまだまだスタート時点だと考えています。

華岡 私たちはいま、「GIRLSをHAPPYに」という思いで様々なプロジェクトに取り組んでいます。プリ撮影やmoruでの自撮りで“盛れてる”自分を知って、自分を好きになったり自信が持てて、現実にかわいくなっていく。そんなきっかけになる“魔法の鏡”を作って、届け続けたいですね。

次に流行するコミュニケーションは何か

りょかち 今回の企画で皆さんにそれぞれ質問しているのですが、インターネットはどのように人を変えたとお考えですか。

崔 最も変化したものは、人と人の距離感ではないでしょうか。私が小学生の時はまだ手紙やカードでやり取りをしていました。それが中学生になるとEメールで友人とやり取りするようになりました。大学生の時は、Eメールを開くたびに、好きな人からメールが届いていないかなんて考えました。そして、LINEが普及すると、メアドではなく「LINEのアカウントを教えて」と聞くようになりました。次第に会話に近いコミュニケーションができるようになっています。次は、文字を超越したコミュニケーションが普及していくと思います。いまでも若い人のSNSの使い方は、ビジュアルを使ったコミュニケーションが中心に変わりつつあります。平成生まれの人たちは、「メアドって何?」とか、「電話って必要ですか」と思っているでしょうね。

華岡 私も自分自身を振り返ると、高校生ぐらいまでコミュニケーション下手で、その悔しさをばねに今の仕事をしているところがあります。ネットの普及によって、自分に合った手段を選んで自分を出せるようになったことは大きいのではないでしょうか。仮に何かにコンプレックスがあっても、同じようなコンプレックスを持っている人同士でつながることができる。細かいところで、仲間探しができるようになった。

りょかち ネットが生まれたことで、居場所が見つかるようになったということですね。お二人とも本日はありがとうございました。

トレンドは、ナチュラルに“盛る” 進化していく「カワイイ」を生み出す技術

■崔智安さんプロフィール
SNOW Japan事業統括。ソウル(江南)生まれ。
​テレビ番組のディレクターを経て有名企業やアーティストのCM、PV などを演出し、2015 年9 月ARカメラアプリ“SNOW”の日本展開アドバイザーを経て16 年4 月、Snow Corporation 日本統括に就任。
趣味:タピオカ、スニーカー。

■華岡千尋さんプロフィール
武蔵工業大学 (現:東京都市大学) 大学院 電気電子情報工学科 修士課程修了。国内家電メーカにおいて液晶テレビの画質調整に携わった後、半導体メーカにて自撮り用スマートフォンのカメラ画質調整に従事。現在、プリントシール機メーカー最大手のフリューにてカメラアプリ「moru」の写り調整を担当。「moru」は2018年7月iOS向けに、2019年3月Android向けにサービスを開始している。

https://itunes.apple.com/jp/app/id1367814648

https://play.google.com/store/apps/details?id=jp.furyu.moru

トレンドは、ナチュラルに“盛る” 進化していく「カワイイ」を生み出す技術

PROFILE

りょかち

1992年生まれ。京都府出身。神戸大学卒。学生時代より、ライターとして各種ウェブメディアで執筆。「自撮ラー」を名乗り、話題になる。新卒で某IT企業に入社し、アプリやWEBサービスの企画開発に従事。現在では、若者やインターネット文化について幅広く執筆するほか、若年層に向けた企業のマーケティング支援も行う。著書に『インカメ越しのネット世界』(幻冬舎)。

出版業界で最後に残るのは編集だけ、コンテンツ戦国時代をどうサバイバルするか

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