天才人語

「常人には思いつかないロジックの飛躍がある」 ライムスター宇多丸が仰天した天才たち

日本のヒップホップシーンを牽引(けんいん)し続けるラッパーであり、いまや日本を代表するラジオパーソナリティーの一人でもある、RHYMESTER(ライムスター)の宇多丸。切れ味鋭いラップ、そして独自の批評眼から繰り出されるトークは、数多くのリスナーをとりこにしている。

平日は毎日TBSラジオ『アフター6ジャンクション』のパーソナリティーを務めるかたわら、結成30周年を迎えたライムスターでは野外フェスを主催し、47都道府県ツアーも実施するなど多忙を極める。

多岐にわたる活動を通して音楽や映画など様々なカルチャーの第一人者に多く会っている彼に、「天才らしい天才」に共通するポイントを語ってもらった。

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天才が繰り出すあり得ないロジックの飛躍

——宇多丸さんはこれまで、音楽活動やラジオ番組などを通していろんな才能に出会っていると思いますが、どういう人を「天才」と定義していますか?

宇多丸 僕の周りには「こいつは天才だ」っていう人がとにかく多いんですよ。たとえば三浦大知くんがそうですね。20年前から「こんなにすごい天才がいる」と言い続けて、ようやく世間の認識が追いついてきた。一方で、たとえばKREVA(KICK THE CAN CREW)なんかは、僕の中では努力型の天才というカテゴリーに入ります。

もちろん天才だって努力してないわけじゃないんですよ。ロジックの積み重ねもある。でも、普通の人から見ると「それって(発想や行動が)すごく飛躍してないですか?」みたいに思っちゃうところがある。そういう、凡人には見えないブラックボックス的な飛躍がある人が、いわゆる天才だと思いますね。

もっと大きくくくって言えば、何か一つのことだけを集中して考え続けることができる人は、みんな天才的だと思うんです。そういう人はたくさんいますが、今回は狭い意味での天才らしい天才、一般的な天才像に近い人の話をしようと思います。

宇多丸さん

——どなたでしょう?

宇多丸 まず一人目は、さかいゆうですね。彼とはなんだかんだで知り合ってもう10年以上経ちます。

さかいゆうさんプロフ写真
さかいゆう
高校卒業後、18歳の時に突如音楽に目覚め、20歳で上京。22 歳の時、単身でLA に渡り独学でピアノを始める。唯一無二の歌声と、SOUL・R&B・JAZZ・ゴスペル・ROCKなど幅広い音楽的バックグラウンドをポップスへと昇華させる、オリジナリティ溢れるサウンドが魅力の男性シンガー・ソングライター(オフィシャルサイトより)

——出会ったきっかけは?

宇多丸 Mummy-D(ライムスター)がマボロシというユニットで一緒にやってる竹内朋康から「すごいやつがいる」って紹介してもらったんです。最初はCDをもらって、「でもライブの方がすごいんだよ」と言われたので、渋谷のライブハウスに一人で見に行ったら、とにかくぶっ飛ばされた。それで個人的に話をするようになって番組にも呼ぶようになったという感じです。

——さかいゆうさんは2009年にメジャーデビューしていますが、それ以前からの知り合いなんですね。

宇多丸 さかいゆうという人は、シンガー・ソングライターになった経緯がまず天才的なんです。18歳まで音楽に興味なかった人なんですよ。地元の高知で人並みに音楽を聴きながら育ってきた。でも、18歳のときに親友が亡くなって、遺品整理をしに行ったら、エリック・クラプトン、ジミ・ヘンドリックス、Mr. BigなどブルースやロックのCDが一杯あった。で、その中にあったクラプトンの『UNPLUGGED』のビデオをみんなで見て、「こんな楽しそうな大人がいる!」ってミュージシャンになりたいと思った。ここまではいいとして、それから彼が何をしたかっていうと、橋の下に行って歌ってみたって言うんです。そうしたら子供たちが集まってきたって。まずこの時点で「何事?」って感じじゃないですか(笑)。

——映画のオープニングみたいなエピソードですね。

宇多丸 ミュージシャンを目指していた親友の死をきっかけに、その遺志を継ぐように歌を歌ってみたら、それが天賦の歌声だった。しかもライブハウスとかじゃなくて、橋の下で歌ってみたら子供たちが集まってきたという。この時点で天才ストーリーの序章みたいな感じじゃないですか。

で、彼が次にとった行動もすごい。上京して2年した後にいきなりアメリカに単身渡って、ゴスペルを歌ってるような教会に毎日通ったんですって。身寄りも何もなければ、当時はピアノも弾けなかったし、英語もしゃべれない状態だった。でも、そこで見ているうちにピアノの運指を覚えたと言うんです。もちろん練習もしたとは思いますが、先生について正式に習ったんじゃなくて、見てるうちにできるようになったという。それを聞いて「あれ?  天才なのかな?」って(笑)。

宇多丸さんインタビュー写真

——たしかにブラックボックス的な飛躍がありますね。

宇多丸 そういうキャリアの初期段階でも天才性があるし、それは彼のパフォーマンスを一回でも見ればわかるんですよ。単に歌がうまいだけじゃなくて、とにかく自由なんです。演奏前にずっと適当な感じでしゃべってるんですよ。で、「じゃあ……」って歌い始めると天使かと思うような歌声が響いて、それが終わったら、ピアノを遊び弾きしながらまたゆるい感じで話が始まる。ライブ全体で醸し出す雰囲気もすごく自由で、そこにも天才性を感じます。

——決められた手順とか枠組みに乗っからず、音楽と一体になっているような感じがある。

宇多丸 そういうパフォーマンスのすごさもあるけど、それだけでもなくて。彼なりのロジックでいろんな物事を分析して語るのがすごく面白いんですよ。その視点の角度が天才的というか、「そんなものの見方する?」っていうところがある。たとえば「やっぱりバッハはグルーブ・ミュージックなんですよ」って、たぶんクラシックの専門家じゃ絶対しないようなクラシック分析を聞かされたことがあって。でも、現代の音楽の主流がグルーブ・ミュージックとなっていることを踏まえて音楽史を考えるなら、それも一つの真理をついた分析に思える。あまりにもぶっ飛んでいますが、僕はそういう面白い理屈が大好きなんです。

 

宇多丸さんインタビュー写真

——たしかに、天才というのは、ただぶっ飛んでるとかよくわからない才能があるということでなく、独特のものの見方がベースになっているというのはあるかもしれないですね。

宇多丸 僕が好きなのはそういう人なんですよ。突拍子もないことって、世の中にはそんなにないんです。単なる奇行をぶっ飛んだ行動だと勘違いしている人は結構いるんだけど、そうじゃなくて、ものの見方とか分析の仕方、その提示の仕方……とにかく切り取り方こそが大事なんです。それは表現の本質でもある。同じものを見ても、同じものを語っても、そこに「えっ!?」って思わせる切り口がある。だから何について話しても面白い。そこにさかいゆうの天才性を感じるんですよね。

海外のクリエーターも心酔 異色の映画監督

——他にも宇多丸さんが天才だと考える方はいらっしゃいますか?

宇多丸 アニメ監督だったら湯浅政明さんですね。一人のファンとして思うことですが、天才的としか言いようがないひらめきがある。

湯浅政明(ゆあさ・まさあき)
1965年、福岡出身。日本のアニメーション監督、サイエンスSARU代表取締役。2004年、『マインド・ゲーム』で映画初監督を務め、第8回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞など、国内外で多数の賞を受賞。『四畳半神話大系』『夜は短し歩けよ乙女』『夜明け告げるルーのうた』など監督作品多数。

——湯浅監督のどういうところに引かれたんでしょうか?

宇多丸 湯浅さんはどの作品でも、非常に実験的なことを全面的に展開しているんですね。で、そのぶっ飛んだ実験性そのものがエンターテインメントになっていて、わかりやすい作品の魅力につながっている。

宇多丸さんインタビュー写真

——湯浅監督作品で特に感銘を受けたものを挙げるならば?

宇多丸  全作品ですね。選べない。『マインド・ゲーム』も、『四畳半神話大系』も、『夜は短し歩けよ乙女』も『夜明け告げるルーのうた』もよかったし『DEVILMAN crybaby』もすごかった。ただ、僕としては『マインド・ゲーム』は2000年以降で最も重要な日本映画の一つだと思いますね。

『マインド・ゲーム』がどういう作品かを当時見たときの印象で言うと、ファンタジア・ミーツ・吉本興業・ミーツ・クレヨンしんちゃんです。「なにそれ?」って思われるんじゃないかと思うんですけれど、本当にそうなんですよ。ディズニーの『ファンタジア』と、吉本興業と、『クレヨンしんちゃん』が一体になっている。そして、全体としては人生論や運命論みたいなとても哲学的なことを語っている映画です。今田耕司さんとか藤井隆さんが出てきて、死ぬほどしょうもないギャグをたくさんやって、描き方のタッチとしては『ファンタジア』的な純アニメーションの喜びにもあふれている。そして映画を見終わった時、最終的には「運命とは果たしてチョイスできるものか、それとも決められたものか」という問いが残る。何を言ってるかわからないと思いますが、そういう作品なんです。

宇多丸さんインタビュー写真

 

――先ほど「実験性がエンターテインメントになっている」とおっしゃってましたが、たとえばどういった点にそれを感じたんでしょうか?

宇多丸 たとえば途中でセックスシーンが出てくるんですけど、単に男と女が腰を動かしているところを描いているのではなくて、「性の喜びってこういう感じでしょ?」っていう表現なんです。セックスで個の意識がなくなるような感覚、初めて好きな人と結ばれた時に感じる爆発するような喜びというものを、実験的手法なのに誰もが飲み込める形として描いている。アバンギャルドでありつつ、それがポップである。アートとエンターテインメントが一体化した感じです。「見たことのないものを見たら楽しい」という、アートの本質的な喜びに到達しているんですよね。 

(c)2004 MIND GAME Project

(c)2004 MIND GAME Project

(c)2004 MIND GAME Project

(c)2004 MIND GAME Project

――アニメ描写には、ある種の常識やフォーマットのようなものがあるわけですよね。それとは別のやり方でアニメーション本来の快楽性のようなものを表現しているということでしょうか。

宇多丸 そうですね。アニメの型を取っ払うような実験的なことをやってるんだけど、それがアニメーションの根源的な喜びに触れるようなものでもあって、実際に見て楽しい。そういう彼の作風が世界の若手アニメーション作家に勇気を与えているようで、今、実は世界中に湯浅フォロワーのクリエーターがいます。でも、僕としては湯浅監督のすごさに対して、日本での一般的な知名度があまりにも低すぎるから、是非皆さんに知ってほしいという気持ちはありますね。それはさかいゆうも同じです。

宇多丸さんインタビュー写真

 

藤井隆、加山雄三……全体像が巨大すぎる天才たち

——他にもこの人のすごさがあまり世間に知られていないと思う人はいますか?

宇多丸 それで言うと、藤井隆さんもそうですね。コメディアンとしてお茶の間の人気者でもあるし、俳優としても大成功されていますが、意外とそのすごさが知られていないのが彼の音楽活動です。音楽プロデューサーというか、音楽作品のトータルプロデューサーとしての藤井隆は天才。彼がいかに本当の意味でのアーティストかっていうことは、みんな知らないだろうと思います。藤井さんにも他の人には絶対タッチできないロジックの飛躍がある。

——どういうところにそれを感じるんでしょう?

宇多丸さんインタビュー写真

宇多丸 藤井さんは物腰は柔らかいけれど、すごく強いこだわりと美学があるんですよ。音楽活動では「ナンダカンダ」がよく知られていて、あの曲で紅白まで出てるので、みんなそれで知った気になっていますが、でもそれは彼の序章でしかない。もちろん「ナンダカンダ」は名曲ですけど、その後に彼が出したアルバムの数々がJ-POP史上に残る名盤で、しかも聴けば聴くほど彼の驚くべき鉄壁のセルフプロデュースへの意志が感じられます。アルバムごとにコンセプトをがらっと変えていますが、最新アルバムの『lightshowers』もすごかった。

——90年代のJ-POPをコンセプトにしたアルバムですよね。

宇多丸 そうそう。僕が藤井さんからCDをいただいたときに、ジャケットに書かれているたくさんのタイアップを見て「すごいじゃないですか、タイアップの数。全曲についてるじゃないですか!」と驚いたら、藤井さんがニヤリと笑って「宇多丸さん、よく見てください。本当の企業、一つもないです」って。つまり、全曲に架空のタイアップがついてるというアルバムなんです。しかも、その架空のタイアップCMを異常なほどのハイクオリティーで作って、映像にあるホームページのアドレスとか電話番号とか、そこの先にも全部つながるようになっていて。もはやモダンアートの世界なんですよ、やってることが。今回のテーマは90年代のJ-POPだからコマーシャルでかかってるような曲にしようってところから、そこまでやる。狂気ですよ、完全に。

——藤井隆さんは音楽レーベルのSLENDERIE RECORDも主宰されてますね。

宇多丸 しかもこないだそこからリリースしたのが女優の鈴木京香さんですよ。それを聞いて、「何という狙いどころなんだろう」と。ここですよ! ここに飛躍がある。藤井さんは前から「僕は女優さんが歌う曲が好きなんです」と力説されてましたけれど、そこで「鈴木京香ときたか! 天才め!」って思います。藤井さんも相変わらず常に一歩先を行っていると思うし、その全体像があまりにも巨大すぎて世間に理解されきってない感じも含めて、天才だと思います。

——世間に理解されきってない感じ、というと?

宇多丸 天才って、その人の全体像があまりに巨大で、凡人の当てはめる枠が当てはまらない感じがあるんですよ。それも、さかいゆう、湯浅さんにも共通しているところだと思いますね。もうちょっと前の世代だと加山雄三さんだと思うんですけれども。

——加山雄三さんも天才だと思いますか?

宇多丸 天才すぎるでしょう。全体像が巨大すぎて、誰も把握できない。もちろんみんなが知ってる「若大将」なんだけど、そんなのは彼のごく一部でしかない。ご本人も「うっかりこれで売れちゃったからこれでやるしかなくてさ」って言ってますからね。理工学系の知識も半端じゃないし、プレジャーボートが焼けちゃったってニュースもあったけれど、あれも自分で設計したものなんですよね。最新科学にも詳しくて、SF作家か科学者か?ってくらい。

宇多丸さんインタビュー写真

——加山雄三さんがかなりのゲーマーでPSVRの「バイオハザード」にハマってるという話を聞いたことがあります。

宇多丸 そうそう、船の上にPSVRが積んであるんですよ。「船の上でPSやるんですか?」って聞いたら、「VRでサメが襲ってくるやつあるだろ。あれをやらせて超ビビらせて。で、VRゴーグルを外した後に『このあたり、ほんとにサメがいるんだよなぁ』って言ったときのビビリ方見るのが最高なんだよ」って(笑)。そういう少年みたいなところも最高だし、とにかく頭がいい。これは山下達郎さんの加山雄三評なんですけれど、いわば“日本のダ・ヴィンチ”なんですよ。加山さんも、まさに僕が言う「天才らしい天才」のカテゴリーに入る人だと思います。

——宇多丸さんはそういうたくさんの天才を目の当たりにしてきたわけですが、ご自身はどういうタイプと位置づけてらっしゃるんですか?

宇多丸さんインタビュー写真

宇多丸 僕は「友達に面白い人が一杯いることについては自信あります」というタイプですね。僕本人はそうでもないんだけど、周りに才能がある人が一杯いるんで、そういう人の話を聞いて「あはは」と言ってる感じです。

——4月にはTBSラジオ『アフター6ジャンクション』が始まって1年になります。ライムスターの音楽活動を続けつつ、月曜日から金曜日まで3時間の生番組を続けるというのも並大抵のことではないと思います。

宇多丸 番組に関して言えば、僕だけでアンテナ張ってるわけじゃなくて、スタッフ総出で、チームで動いてることなので。いわば「さいとう・プロ」(漫画家さいとう・たかを氏のプロダクション)みたいなものですね。ラジオを聞いてる人もそれは納得していただけるんじゃないかな。

宇多丸さんインタビュー写真

僕自身、自分自身に才があるというよりも、面白いものを紹介したり、そのハブ的な存在であったりすることの方に才があるとは思います。「何かを面白いと思うこと」にかけては才能があるかもしれない。もちろん、運もありますけどね。とにかく面白い友達が多い。みんな寄ってたかって面白い話をしてくれるから最高にラッキーって、本当に思います。そこについては自信がありますね。

(文・柴那典 撮影・小島マサヒロ)

プロフィール

宇多丸(うたまる)
1969年、東京出身。89年に、ラッパーのマミーD、DJジンとの3人でHIPHOPグループ「RHYMESTER」(ライムスター)を結成。93年にデビューし、今日に至るまでの日本ヒップホップシーンを牽引。2007年、TBSラジオ『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』でラジオパーソナリティーとしてもその名を広め、現在はTBSラジオで平日18~21時に生放送されるワイド番組『アフター6ジャンクション』でメインパーソナリティーを務める。グループとしては3月27日にアルバム『BEST BOUTS 2 RHYMESTER Featuring Works 2006-2018』をリリース。

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