インタビュー

岸井ゆきの「恋愛では駆け引きしない、ダメならダメ!」

直木賞作家・角田光代が2003年に発表した同名小説を映画化した『愛がなんだ』。主人公テルコを岸井ゆきのさんが演じている。岸井さんは、愛らしい笑顔とピュアなたたずまいが印象的で、ドラマや映画、最近では朝の連続テレビ小説『まんぷく』のタカ役も人気があった。彼女は、今作で演じたテルコについて「疑似恋愛しているようで、いろいろな感情がわき出て楽しかった」と振り返る。相手役のマモルを演じた成田凌さんとのエピソードや岸井さんの恋愛観など、ありのままに語ってくれた。

仕事、友人、趣味。何も捨てられないからこそ、テルコがうらやましい

岸井さん演じるテルコは、平凡な会社員。友人の結婚パーティーでマモルと出会い、瞬く間に恋に落ちる。仕事や友人を顧みず、マモルに振り向いてもらうことだけを考えるようになるテルコ。物語は、ごく普通の女性が陥った“究極の片思い”を描いている。

「原作を初めて読んだ時、私とテルコは違うと感じたので、演じるのは難しいかもと思いました。でも一歩踏み込んで見てみると、テルコの“人を好きになる気持ち”にはすごく共感できました。ただ、その熱量が他の人と違うんですよね。仕事、友人、趣味、普通は何も捨てられない。でもテルコはすべてを捨ててマモルに尽くしていく。私にはそれができないから、テルコをうらやましいと思うところもありました」

岸井ゆきのさん

テルコの「好きな人と同化したい」と言う考えに共感する岸井さん。「すごく尊敬している方のカリスマ性に憧れて、その人になりたいと思ったことはあります」【もっと写真を見る】

テルコとマモルは徐々に距離を縮め、恋人のような関係になる。しかし長続きせず、マモルは別の相手に心を移してしまう。

「撮影はストーリーと同じように、仲良くなっていくシーンから撮りました。撮影していない時間もテルコに近い状態でいたので、付き合い始めのカップルのような2人を演じている時は楽しかったけど、後半は辛いことや傷つくことをたくさん言われて考えてしまうことも多かったです。テルコじゃなきゃ経験できないような感情がたくさんあったので、辛いところもありましたがすごく楽しかったです」

成田凌さんとの「追いケチャップ」シーンでは、素が出てしまった

マモル役を演じているのが成田凌さん。テルコを翻弄(ほんろう)するマモルは、「付き合おう」の一言もないまま恋愛をスタートさせ、一方的に終わらせるという自分勝手で夢見がちな男でもある。

「成田くんとはあまり距離を詰めすぎない方がいいと思っていたので、それほど雑談をしないようにしていました。でも、成田くんはすごく優しくて。私の好きなお菓子を買ってきてくれるとか、小さな優しさが無意識に出てくる人なんです。その優しさがマモルに似ていて、『ああ、こんな気持ちになるんだ! お芝居に使おう!』と思って。成田くんは、全然意識していなかったらしいですけど(笑)」

『愛がなんだ』

マモル役の成田凌さん(左)。「成田くん自身にマモルを感じた。優しくて、憎めなくて。本人は全く意識していなかったみたいです」/映画『愛がなんだ』より (C)2019映画「愛がなんだ」製作委員会【もっと写真を見る】

成田さんとのシーンで印象的なのが、キッチンで料理を作るテルコの後ろに立ち、つまみ食いした後に「追いケチャップ」と言って、テルコにもケチャップを食べさせるシーンだ。成田さんの不意打ちの演技に「びっくりしました!」と、その時を振り返る。

「普通あんなこと思いつきます? あの瞬間は、テルコから素の私がはみ出しています!(笑) そんなハプニングや、ふと出てしまった役者の素の部分を今泉力哉監督は撮りたかったみたいで。だから成田くんだけに『このシーンで肩にあごを乗せて』とか、私にも『こうやってみて』とか脚本にないことをリクエストしていました。だから、どこまで演技なんだろうと思ったシーンがたくさんあります。成田くんも私も、計算して演技するタイプではなかったので、2人から自然に生まれる空気が、テルコとマモルの関係に似ているような気がしました。マモル役が成田くんで、本当に良かったです」

テルコの親友・葉子役には深川麻衣さん。『まんぷく』では姉妹役を演じていたが、深川さんと岸井さんは今作が初共演で、撮影もこちらが先だった。

「まさか朝ドラで姉妹役をやると思っていなかったから、不思議な縁ですよね。撮影は3日間くらい一緒でした。けんかするシーンもあったんですけど、あまり時間がなくてそれほど話もできなかったんです。でも深川さんは今泉監督と2度目だったので、今泉組の先輩という感じでしたね。葉子の恋人ナカハラ役の若葉竜也さんもそう。短い時間でしたが、最初からみんなで一緒にいたような温かい現場でしたね」

【動画】成田凌さんの「追いケチャップ」に「岸井はみ出た」(撮影・高橋敦)

恋愛では駆け引きしない。映画やドラマを見るだけでも満たされる

劇中で、人生初のラップに挑戦した岸井さん。現実と空想が入り交ざる印象的な場面でのラップは、「このシーンは無くなるんじゃないかと思っていました(笑)」と本音をこぼす。

「初めて台本を読んだ時から、勝手にラップはしないだろうと思っていたんです(笑)。でも監督は『このシーンは絶対に切れない』って。普段からすごく鼻歌を歌うんですが、それと変わらないだろうと思って挑みました。あのシーンは、街中で撮る長回しの1カット。照明が途中で変わって、幻想の中にテルコとマモルが登場するという要素の多いシーンです。撮影時期がサッカーのワールドカップの最中で街が騒がしく、撮影前に歌詞が変わったりもして、すごい緊張感の中で撮りました。

今しかない! と一瞬に集中して、実質1回の撮影で撮ったシーンでもあります。最初は、ラップに合わせるビート(音)もあったのですが、最終的に音もなくなり、私の声だけのラップになっています」

岸井ゆきのさん

今泉力哉監督は、“海に浮かぶ流木のような人”。「いい意味で軸がなくて境界線がない人。アイデアを出すと『じゃあ、それやってみよう』と、みんなで迷いながら大海原を漕(こ)いでいった印象です」【もっと写真を見る】

テルコとマモルのラブストーリーは、“着地点や正解のない”現代らしい恋愛でもある。岸井さん自身は、人生で恋愛をどの程度重視しているのだろう。

「私は駆け引きとか嫉妬は一切しないタイプなんです。ダメならダメ、よし、次に行こう! みたいな感じなので、恋愛を面倒だなと思ったことはありません。今は、毎日どんなに短い時間でも、映画やドラマを必ず見るようにしています。恋愛ものに限らずですが。正直、忙しくて時間がない時は、恋愛していなくても物語の中の幸せだけでも十分かもしれない(笑)」

映画『愛がなんだ』

(C)2019映画「愛がなんだ」製作委員会【もっと写真を見る】

誰かに感情移入して、「愛って何だ?」と議論してほしい

劇中で、テルコがマモルの手を褒めるシーンがある。岸井さん自身は、異性のどんな部分やしぐさに惹(ひ)かれるのか。

「私も確かに手は見ますね。だからテルコのセリフに何の違和感もありませんでした。でも私が一番気になるのは、言葉選びかな。相手がどういう言葉を使って話すのかが気になります。面白いこととかギャグとかではなくて、『こんなふうに言葉を使うんだ』ってなると心に残りますね。結構難しいポイントな気がするので、あまりピンとくることがないんですけど(笑)」

テルコの一方的な恋は、どんな結末を迎えるのか。予想できないラストを、ぜひ劇場でチェックしてほしい。岸井さんは「映画を見て、愛について話し合ってほしい」とメッセージをくれた。

「『愛って何だろう』という問いに対する答えは、一人一人違うと思います。だからみんなきっと、明確な答えは出せていない。でも、それだからこそ、少しでも人を好きになったことがある人なら、年齢や性別関係なく、この映画を見て感じるものがあるはずです。テルコ、マモル、葉子、ナカハラ、すみれの誰かしらに感情移入したり、『テルコの愛は、愛じゃない!』と批判してもいい。まだ恋をしていない人には『こんな恋もあるんだ』と知ってもらうのもいい。たくさんの人に見てもらって、『愛って何だろうね?』って話し合っていただけたらうれしいです」
(文・武田由紀子 写真・花田龍之介)

岸井ゆきのさん

ヘアメイク:星野加奈子、スタイリスト:岡本純子(アフェリア)【もっと写真を見る】

『愛がなんだ』作品情報

原作:角田光代「愛がなんだ」(角川文庫刊)
監督:今泉力哉
脚本:澤井香織、今泉力哉
キャスト:岸井ゆきの、成田凌、深川麻衣、若葉竜也、片岡礼子、筒井真理子、江口のりこ
配給:エレファントハウス
(C)2019映画「愛がなんだ」製作委員会
4月19日(金)テアトル新宿ほか全国ロードショー
公式サイト:http://aigananda.com/

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