ノジュール

<第67回>古くて新しい、ものつくりの町「蔵前」へ

「ダンデライオン・チョコレート」の3種類のチョコレートブラウニー(左)とクラマエホットチョコレート(右)

「ダンデライオン・チョコレート」の3種類のチョコレートブラウニー(左)とクラマエホットチョコレート(右)

東京の下町に多くの外国人観光客が訪れる今、あらためて注目したいのが「蔵前」です。
江戸時代に幕府の御米蔵があったことに由来するこの名前は、昭和の時代には大相撲の本場所が行われる「国技館」があった場所としても、なじみ深いかもしれません。倉庫や古いビルが多く、どこか江戸を感じさせる一方で、ここ数年は建物をリノベーションしたショップやアトリエが次々に誕生。新しいものつくりの町として注目を浴びてきています。
すっかり暖かくなって下町歩きも楽しい季節に、新しい潮流を感じながら巡ってみませんか。

    ◇

隅田川が東に流れる蔵前は、浅草・両国・御徒町のどこからも徒歩圏内。おもちゃや花火の問屋が並び、昔ながらの職人が暮らす町でもあります。江戸時代から物流の拠点でもあった蔵前には商人が集まり、その商品を扱う問屋が栄えたのは自然の流れでした。
そして、5年ほど前からはものつくりをする若い作家が集まって「クラフトの町」として注目されています。

「MAITO/真糸」の桜染めは、桜の枝を素材として作られる

「MAITO/真糸」の桜染めは、桜の枝を素材として作られる

まずご紹介するのは、カラフルな色合いのストールが並ぶショーウィンドが印象的な「MAITO(まいと)/真糸」。ここは染色工房を構える草木染の専門店で、染色家の小室真以人(こむろまいと)さんが9年前に開業した店舗です。自然の材料による染色と、メイド・イン・ジャパンにこだわって、日本中の職人たちと協力して商品つくりをしています。昔ながらの技法に加えて、新たな材料や技法によって染め上げられた商品は実に鮮やか。日本で初めて成功したという「桜染め」は、桜そのものの色合いが美しい逸品です。

「CAMERA」のお菓子は、毎日店舗で手作りされた優しい味わい

「CAMERA」のお菓子は、毎日店舗で手作りされた優しい味わい

国際通りを進むとドアが大きく開かれた白いカフェが目に入ってきます。ここ「CAMERA(カメラ)」のカウンターには甘い香りの焼き菓子が並んで、店内のスペースの半分にはカラフルな革製品が展示されています。店主の田村美和子さんの焼き菓子を提供するこのカフェでは、ご主人の革製品の展示販売もされているそうで、“さまざまな出会いの場”を目指したカフェは、すでに地元の人たちの憩いの場として根付き始めているようです。

さらに路地に入っていき、こぢんまりとした倉庫や問屋の店先を進むと、女性客が次々に入っていく建物を発見。「ダンデライオン・チョコレート」は、築50年以上の倉庫をリノベーションしたチョコレートファクトリー。サンフランシスコのBean To Bar(ビーン トゥ バー)チョコレート専門店の日本第一号店で、カカオ豆とオーガニックのキビ砂糖だけで作ったチョコレートが話題となって、訪れる人が後を絶たない人気店です。Bean To Barとはカカオ豆を厳選して、焙煎(ばいせん)から製品化までを自社で一貫して行うスタイルのこと。そのカカオをブレンドせずに作るのがこちらの特徴で、まさにメイドイン蔵前のチョコレートといったところでしょうか。フルーティーなアロマやナッツのような香ばしさを感じるチョコレートは、苦みもほどよく、フレッシュな味わいが楽しめます。

「カキモリ」の万年筆用のオリジナルインクは、微妙なニュアンスの色合いが楽しめる

「カキモリ」の万年筆用のオリジナルインクは、微妙なニュアンスの色合いが楽しめる

次に向かうのは、大きくとられた窓が目を引くおしゃれな店舗。ここ「カキモリ」は、文具好きにはすでに広く知られた存在です。オーナーの広瀬琢磨さんは、蔵前が今のように注目される以前から、職人の集まるこの地に注目して店舗をオープンした人のひとり。オリジナルの商品は、地元の職人たちの技によって作られているものも少なくありません。一番の人気商品は、オリジナルのオーダーノート。表紙はもちろん、中の紙やリング、留め具まで好みのタイプを選んでその場で製本してもらえます。さらにこちらでは、独自に制作した地元の散策マップを無料で配布。蔵前という町を盛(も)り立てたいという思いも強く感じられるのも、下町らしいといえそうです。

「水犀」の自然光が入る、気持ちのいいギャラリー空間

「水犀」の自然光が入る、気持ちのいいギャラリー空間

同じビルの3階にあるギャラリー「水犀(みずさい)」は、この3月にオープンしたばかり。陶器を中心にさまざまな作品を展示・販売しているアートスペースです。エレベーターを上がると広がる心地よい空間では、ゆったりと心静かに作品を鑑賞することができます。定期的に作家の個展も企画されるそうなので、蔵前のアートスポットとして楽しみな場所のひとつとして押さえておきたい一軒です。歴史や伝統を大切にしながらも、無理をせず丁寧に等身大のライフスタイルを目指す人たちにとって、この町は居心地がいいようです。蔵前の楽しさは、そんな空気も感じながらゆっくり歩くところにあるのかもしれません。

ノジュール4月号では「春の東京、下町再発見!」を巻頭特集にすえ、懐かしさと新しさが同居する東京の下町の今を、さまざまな旅のアイデアとともにご紹介しています。1日丸ごと楽しめる旅のモデルプランも充実です。誌面の一部は、立ち読みページのあるホームページからもご確認いただけますので、この機会にどうぞ訪れてみてください。

ノジュール:鉱物学の専門用語で硬くて丸い石球(団塊)のこと。球の中心にアンモナイトや三葉虫の化石などの“宝物”が入っていることがある。

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