働き方のコンパス

「仕事のやる気がでない」ときは、周りについて行けば大丈夫です

「働き方のコンパス」は、ビジネスパーソンの悩みに、哲学者や社会学者、経済学者などの研究者が答えていくシリーズです。それぞれの学問的な見地から、仕事の悩みはどう分析できるのでしょうか。今回の回答者は、社会学者の富永京子さんです。

「仕事のやる気がでない」ときは、周りについて行けば大丈夫です

今回の回答者

社会学者
立命館大学 産業社会学部 准教授
富永京子さん
若くして立命館大学産業社会学部准教授となった社会学者。主に社会運動や政治活動について、生活領域からアプローチする研究をおこなっている。大学に就職したはいいものの、自身も優秀すぎる同僚たちについて行けず悩んでいる着任5年目。 

今回のお悩み

 Q.仕事へのモチベーションが低下しています

文系学部を卒業し、製薬会社でMR(医薬情報担当者)として働き始めて6年。MRを選んだのは、父親もこの職業だったこと、待遇がよく安定していることなどが理由でした。しかし、6年間で医薬品市場環境が激変してしまい、国内市場は大幅な縮小傾向、製薬業界の明るい未来が見えません。個人的な懸念としては、これからのキャリアが不透明なこと。一定数の人員削減や給与が下がるなど、これからの生活を考えるなかで、いつ人員整理をされるかわからないという不安があります。また、薬学部卒の優秀な同期が数多くいるなかで、はたして出世できるのか、という焦りもあって、モチベーションの維持がかなり難しいです。働く上でのモチベーション維持についてアドバイスをいただけたらうれしいです。(28歳、男性、製薬会社 MR)

A.「まわりについていく」が一番の動機でも、問題ありません

モチベーションには2つのタイプがある

相談を読んで、あなたはそんなに自発的なタイプではないのかな、というイメージを持ちました。それは「父親もMRだった」「優秀な同期が数多くいる」というあたりからです。

「文系学部を卒業してMRになった」「優秀な同期が数多くいる」という感じ、私も覚えがあります。私は学部が北海道大学経済学部経営学科で、大学院から東京大学の社会学研究室に進学し、同期が皆ものすごく優秀だったんです。そういう環境にいると、人のモチベーションは二つのタイプに分かれるのかな、と思いました。

一つは自分の経験をむしろポジティブに捉え、あまり周囲を気にせずプラスを積み上げていくタイプ。もう一つはそうではない、「なんとかして、まわりについていこう」というマイナスをゼロにするタイプ。私は後者でした。きっとあなたもそうなのだと思います。

後者は、自発的、内発的なモチベーションが生まれにくい。前向きにやる気を出すのではなく、自分を追い立てるような気持ちでがんばるタイプ。そういうタイプは、抱えている「焦り」そのものが、結果的にいわゆるモチベーションになっているのかなと感じました。

ただ、私と違うのは、きっとあなたは、ご自身で思っているよりも優秀な社員なのだと思います。だから市場がだいぶ冷え込んできた今でも、人員整理の憂き目にはあっていないわけですよね。「自分はすごくない」という気持ちがあり、余計なプライドがないので、上司としては一緒に働きやすいのかもしれません。ある意味で、弱みが強みとして機能しているんだけれど、そこに自覚がない人なのだと思います。

そして、自分のレベルを基本的にマイナスに置いているので、実際にはそこまで周囲の競争は激しくなくても、主観的に競争を激しいものだと感じているような気がします。しかし、ご自身は辛いと思いますが、そのほうが競争的な組織社会ではうまくやっていける気もします。一般的なイメージで恐縮ですが、そういう意味でMRは向いている職業だと思いますよ。

準拠集団に影響を与えられやすい人

「働く上でのモチベーション維持についてアドバイスを」とのことですが、私から言えることがあるとすれば、「モチベーション」という言葉は無理に使わなくてもいいでしょう。モチベーションというと、どこか積極的な「やりがい」というか、内発的に生まれてくるものというイメージがありますよね。たぶん、あなたもそうした意味でこの言葉を選んだのだと思いますが、それはきっと、あなたの感覚とは違うと思います。

モチベーションという言葉にとらわれているから、しんどくなってしまうのです。むしろ、「仕方ないけどがんばるか」くらいのスタンスでいるほうがあなたには合っているのではないでしょうか。

私の見立てでは、あなたの一番の行動動機は、ご家族であれ、同僚の方であれ「まわりについていく」ということなのだと思います。集団について論じる際に、「準拠集団」と「帰属集団」という概念があります。

ある人の価値観や行動に強い影響を与える集団のことを、その人の「準拠集団」といいます。また、これとは別に「帰属集団」もある。これは、その人が実際に所属する集団なのですが、重要なのは、このふたつが一致しない場合があるということです。

あなたは、帰属集団と準拠集団をぴたりと一致させたい、と強く思うタイプなのではないでしょうか。だから、周囲の使っている言葉や、価値観や、動機づけといったものに感化される。MRになったのも、まわりの影響ではないですか? 今はきっと、会社の同僚が準拠集団となっているのでしょう。

現代社会では集団の重要性が低下する一方、個人に重きが置かれていて、何か内発的にモチベーションを持っている人のほうが良しとされる風潮がありますが、そんなことはないんですよね。集団に依拠して行動することは、全然悪いことではありません。過去の社会はそういうものだったし、そういう人も必要です。

「俺ができたんだからお前もできるはず」

「自分は帰属集団に準拠している人間だ」という自覚を持ったほうがいいと思います。その方が生きやすいからです。無理に内発的なモチベーションを持とうとすると、自分を見失ってしまいます。

あなたはこのまま、「まわりの優秀な同期についていかなきゃ」という焦りを動機にして働いていて良いと思います。リストラされるなら、そのときはそのとき。先にリストラされた同僚に話を聞いて、多くの人が転職している会社、または業界にいきましょう。ここでも、帰属集団に準拠するのです。でも私は、あなたはそのままこの会社でがんばり続ける気がしています。そして優秀な同期よりも、出世するかもしれませんね。

もしそうなった場合、一つだけ注意してほしいことがあります。それは、「自分はがんばればできたんだから、君もできるはずだ」と部下に努力を押し付けないこと。帰属集団に準拠することを押し付ける、と言ってもいいかもしれません。マイナスをプラスにするモチベーションでがんばる人は、それをしがちなのです。私自身も、そういう上司になりそうで今からおそろしい(笑)。お互い、気をつけましょう。

悩めるあなたにこの一冊

高田利武『他者と比べる自分―社会的比較の心理学』(2011年、サイエンス社)

「仕事のやる気がでない」ときは、周りについて行けば大丈夫です

準拠集団の理論と密接な関係を持つと言われているのが、比較という観点です。本書は社会学というより社会心理学の本になりますが、準拠集団論に加え、社会的比較の議論を扱っています。とりわけ上方比較と下方比較の議論は、今回の説明とは違う観点からあなたの悩みを把握するヒントになるかもしれません。他の人と「比較」することを避けられないなら、いっそ比較せざるを得ない自分を分析し、ポジティブな力に変えていきましょう。

(文・崎谷実穂)

富永京子(とみなが・きょうこ)
1986年生まれ。2009年、北海道大学経済学部経済学科卒業。2015年、東京大学大学院 人文社会系研究科 社会文化研究専攻 社会学専門分野 博士課程修了。2012年から2014年まで、日本学術振興会特別研究員。現在、立命館大学産業社会学部准教授。社会学的な視点から、人々の生活における政治的側面、社会運動・政治活動の文化的側面を捉える。著書として『社会運動のサブカルチャー化』(せりか書房)、『社会運動と若者』(ナカニシヤ出版)、『みんなの「わがまま」入門』(左右社、近刊)。

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