いしわたり淳治のWORD HUNT

あいみょん、ポップとディープの境界を軽やかに飛び越える抜群のバランス感覚

音楽バラエティー番組『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)で披露するロジカルな歌詞解説が話題の作詞家いしわたり淳治。この連載では、いしわたりが歌詞、本、テレビ番組、映画、広告コピーなどから気になるフレーズを毎月ピックアップし、論評していく。今月は次の4本。

 1 “ほら もうこんなにも幸せ”(あいみょん『ハルノヒ』/作詞:あいみょん)
 2 “ドキドキワクワクできるアルバム” (スター トゥインクルプリキュア)
 3 “話の種”
 4 “ホンビノス貝”

最後に日々の雑感をつづったコラムも。そちらもぜひ楽しんでいただきたい。

いしわたり淳治 今気になる4つのフレーズ

“ほら もうこんなにも幸せ”(あいみょん『ハルノヒ』/作詞:あいみょん)

先日、『関ジャム完全燃SHOW』の収録であいみょんに初めて会った。その回はシンガー・ソングライター特集で、私とmabanuaさんがプロのクリエーターの視点で、あいみょんにあれこれ質問することによってシンガー・ソングライターの曲作りや私生活に迫るという趣旨だったのだけれど、あいみょんという生き物が規格外の天才肌で、私たちの質問がほとんど機能しなくて笑ってしまった。いや、確かに打ち合わせの段階から、私も番組のスタッフに「一応、彼女への質問を考えはしましたが、おそらく彼女は全部を感覚でやっているだろうから、変に考えすぎたりこちらに話を合わせたりしないでとくれぐれもお伝えください」と添えていたのだけれど、そんな心配はまったくの杞憂(きゆう)で、こちらが思っていた何十倍も、本当に気持ちいいくらいに感覚だけで音楽を作っている、超自然体のすてきな女性だった。

彼女の話を聞いていて、つくづくバランス感覚がいいなと思った。ニューアルバムで言えば、『マリーゴールド』に代表されるようなメジャーシーンで広く聴かれるようなシングル曲を作るポップセンスと、『from四階の角部屋』のようなとがった感性で描かれるダメな恋愛の歌を作れるセンスとが、何の違和感もなくまったくの並列で存在している。本来、この二つの間には、黄河ほどの大きな見えない川が流れていて、ほとんどのアーティストはこの川をうまく渡りきれずに途中で沈没したり、一度渡ったが最後、二度と元の岸に戻れずに本来の居場所を見失ったりすることがよくある。でも、彼女はこの両岸を、まるで近所の小川で水遊びでもするようにひょいひょいと楽しそうに飛び越えてみせる。そんな感じがする。

彼女の新曲『ハルノヒ』は、『映画クレヨンしんちゃん 新婚旅行ハリケーン 〜失われたひろし〜』の主題歌。言うまでもなく子供も大人も見るメジャー映画だが、彼女は当然のようにそこに完璧にアジャストしている。個人的にはサビの「ほら もうこんなにも幸せ」というフレーズが好きだ。きっと誰もがそう言える人生を探している。 

“ドキドキワクワクできるアルバム” (スター トゥインクルプリキュア)

ある日曜の朝。息子たちが『仮面ライダージオウ』にどハマりしているので、放送の始まる朝9時頃にテレビをつけてあげると、その前の時間帯に放送していた『スター トゥインクルプリキュア』のエンディングが映った。初めて見たのだけれど、プリキュアはどうやら毎週、最後に占いのようなことをやっているようである。

そしてその占いによると、しし座は今週運勢がとても好調で「ワクワクしそうな1週間」になるのだという。私はしし座である。へえーと思って画面の文字を読み進めると、ラッキーアイテムの欄に「ドキドキワクワクできるアルバム」と書いてあって、朝っぱらから爆笑してしまった。

ここで言う“アルバム”が写真のことなのか音楽のことなのかは分からないけれど、この際そんなのはもうどっちでもいい。「ワクワクしそうな1週間」のラッキーアイテムが「ドキドキワクワクできるアルバム」という、ピュアすぎる至極まっとうな提案が素晴らしいなと思った。目からうろことはこのことで、これはもはや占いの域を超えている。ドキドキワクワクするアルバムを聴きながら過ごしたら、運勢が良かろうが悪かろうが、そりゃあドキドキワクワクして過ごせるに違いない。

よく朝の情報番組なんかでも占いを見かけるけれど、「思い通りにいかない1日。よかれと思ってした行動が裏目に出そう。ラッキーアイテムはスニーカー」みたいな辛気臭いことを言われることが多い。でも、考えてみてほしい。思い通りにいかないかもしれない恐怖を、わけも分からずにスニーカーに頼って1日過ごすのと、ドキドキワクワクできるアルバムを聴いて過ごすのと、どちらが良い1日になるだろう。おそらく後者だろう。

ドキドキワクワクできるアルバム。これ以上のラッキーアイテムはないかもしれない。よし、今日もひとつドキドキワクワクできる音楽を作ろうじゃないか、と心に誓った。

“話の種”

子供の頃、近所の商店街に新しい店がオープンしたりすると、私の親たちの世代はよく「話の種にちょっと行ってみるか」みたいなことを言っていたなあと、ふと思い出した。そして、この「話の種に」という言葉を、いつの頃からかあまり聞かなくなった気がする。

そもそも「話の種に」という考え方は、日頃の雑談を楽しんでいる人の発想なのだと思う。そう考えると、今は雑談を楽しいと思っている人が減った、ということなのかもしれない、という気がしてくる。

仕事中はなるべく必要最低限の会話しかせず、仕事終わりに飲み会に誘ったり、恋人がいるのかを尋ねたりしただけで、何とかハラスメントと名付けられて嫌われたりもする時代。触らぬ神にたたりなしではないけれど、今は「余計な会話はしない方が身のため」という考え方が広く浸透しているような気がする。

とはいえ、じゃあ気になる店がオープンしても誰もその店に行かないかというとそんなことはない。ただ、その動機が、今までのように「話の種に」ではなくて、自分の「インスタに載せるため」だとか、自分にとっての「社会勉強として」だとか、何かしらの具体的な利益に直結しているような感じがする。

それを浅ましいとは言わないけれど、皆が何でもかんでも自分にとって利益がないと行動しない、みたいになってしまったら、それはちょっと粋じゃないというか、何だか少し人として寂しいなあと思う。行ったけどたいしたことなくて無駄足だったとしても、それをただの愚痴や悪口ではなくて、笑い話に昇華して皆に「話の種」として提供するような気持ちは、いつも忘れないでいたいなと思う。

いつも心に“話の種”を。今後、楽しく雑談をするだろう誰かのために、ちょっとしたサービス精神を忘れずに暮らしたいものだ。

“ホンビノス貝”

貝が好きだ。はまぐりを炭火で焼きながら日本酒を飲む、なんて最高のぜいたくである。

はまぐりによく似た貝で、ホンビノス貝という貝がある。外来種ではあるけれど、今は東京湾でも取れ、安価な割に美味で料理の用途も広い、とても優秀な貝である。でもやはり名前がよくないのか、どこか愛されていない感じがある。仮に「ホンビノス貝炭火焼」と書かれても全然おいしそうに見えないから、なんだか可哀想で仕方がない。貝好きの私としては、このホンビノス貝を日本になじむ表記に変えてみても良いと思う。

本マグロなんかに倣って、「本びのす貝」というのはどうだろう。いや、もう一歩踏み込んで「本緋乃洲貝」なんて当て字もいいかもしれない。ぐっと日本っぽさが出た。

それと同じように「バナメイエビ」もどうにかしてあげたい気がする。数年前の食材偽装問題で「芝エビ」の替え玉として一躍有名になってしまったバナメイエビ。デビューの仕方が悪かったからか、いまいち愛されていない感じがある。こちらもどうにかしてあげたい。いかにも純和風に「花明海老」なんてどうだろう。

いや、どうだろうって、私はいったい誰に言っているのだろう。ははは。

《mini column》「令和」の時代が始まる

新元号が「令和」に決まった。日頃から仕事で言葉を扱っているからか、これまで様々な人から「いしわたりさんなら新元号は何てつけます?」と尋ねられた。とはいえ、いくら考えたところで当たるわけもないし、真面目に答えてもたぶん「へえー」だの「ふーん」でおしまいなので、いつもふざけて適当なことを答えていた。

いろいろと適当なことを答えた中で、個人的に気に入っていたのは「えいあい」だった。漢字は「栄愛」でも「永愛」でも「英合」でも何でもいい。単に言葉の響きとして「AI元年」みたいになるのが面白いなと思った。時が経って「えいあい20年」とかになった時、ああ、人工知能がいよいよ本格化したあの頃から、もう20年が経ったんだねえ……みたいになって、カウントしやすくて面白いのではないかと思ったのだ。

そんな感じで、私はふざけた予想ばかりをしてきたのだけれど、発表当日の朝のテレビの特別番組を見ていたら、言語学者の金田一秀穂さんが「宇拓(うたく)」という予想をしていて、わお、なんと斬新な字面とおしゃれな音の響きだろう! と心の底から感動した。さすがは言語学者である。

PROFILE

いしわたり淳治

1997年、ロックバンドSUPERCARのメンバーとしてデビュー。全曲の作詞とギターを担当。2005年のバンド解散後は、作詞家としてSuperfly、SMAP、関ジャニ∞、布袋寅泰、今井美樹、JUJU、少女時代、私立恵比寿中学などに歌詞を提供するほか、チャットモンチー、9mm Parabellum Bullet、flumpool、ねごと、NICO Touches the Walls、GLIM SPANKYなどをプロデュース。現在オンエア中のコカ・コーラCM曲「世界はあなたに笑いかけている」(Little Glee Monster)や、情報番組『スッキリ』(日本テレビ系)のエンディングテーマ曲「Electric Kiss」(EXO)の作詞も担当するなど、さまざまな音楽ジャンルを横断しながら通算600曲以上の楽曲を手掛ける。

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