私の一枚

人はそれぞれ違って当然 ラジオDJ秀島史香を変えたベルギー

2016年5月から約1年間、夫の仕事の関係でベルギーのヘントという街で暮らしました。これは当時5歳だった娘が撮った1枚。やはり仕事の都合でロシアのサンクトペテルブルクから来ていたご家族を自宅に招待した時の写真です。

写っているのは、娘のお友達のソフィア、そのお母さんのエカテリーナ、ソフィアの弟のミーシャ、そして、この時ちょうどロシアから来ていたおばあさま。「それならぜひ日本料理を」と考えて、のり巻きでおもてなしをしました。のりもお米も巻きすも、地元のスーパーにありました。

日本にいる時にはのり巻きを作ったことがなかったんです(笑)。それがまさか、ロシアのおばあちゃまにふるまう日が来ようとは……。

肩書も友人もいないスタートから重ねた出会い

これが社会人になってから初めての海外生活でした。ラジオのパーソナリティーという肩書もなく、友達もいない国でどう人間関係を構築するのか、学生時代に戻ってもう一度やり直すような気分でのスタートでした。やっぱり最初はちょっと緊張していたと思います。

実は、引っ越す直前にベルギーの空港でテロが起きました。娘と2人で日本に残るという選択肢もありましたが、人生の一大決心で行くことを決めました。もしあの時、怖いからと行くのをやめていたら、その後のすてきな出会いは一生経験できなかったと思います。

ベルギーの人達は本当に気さくで、街ゆく人とも、たまたまカフェで席が隣り合った人とも、目が合えば自然に会話が始まります。「おいしそうだね、何食べてるの?」とか、「何を読んでるの?」とか、バリアを張らずに人との会話を楽しむその空気がとても心地よくて、自分を閉じている場合じゃない、みんなと同じように開いていこう、いいお手本だから真似していこうと思いました。

エカテリーナの家族のようにベルギー以外の国から来ていた友人にも恵まれて、互いの家を訪ね合いました。お互いに年齢も知らないけれど、ワインで乾杯して、いろんな話をして笑いあって。その時間の中にコミュニケーションのとり方を考え直すきっかけがたくさんありましたし、言葉の選び方や想像力をめぐらせるトレーニングにもなったと思います。

人はそれぞれ違って当然 ラジオDJ秀島史香を変えたベルギー

ヘントで出会った“ママ友”達と

価値観の違いを気にしても無駄なこと

そんな経験が、初めて本を書くきっかけでした。音楽コラムの連載をしていた時の担当編集者さんが、「いつかコミュニケーションの本を書きましょうね」とずっと言ってくださっていたんです。ベルギーに行ってから子育ても少し落ち着いて時間もできましたし、ベルギーの人達のフレンドリーさやコミュニケーションの心地よさに触れて、人との接し方や新しい関係の作り方について改めて考えさせられたことで、「今なら書けそう」と思えました。

ヘントは学生の街で、至るところにカフェがあって、そこで学生さん達がみんなパソコンを広げて勉強しています。子供を学校に送ったその足でカフェに行って、学生達に混ざって原稿を書きました。家から半径1kmぐらいにあるカフェは行き尽くしたと思います。本を書くことは、自分の経験を振り返るよい時間になり、ラジオの仕事を考え直すきっかけにもなりました。

それまでの私は、まわりの人に自分と同じ価値観を期待してしまうところがありました。仕事でも人間関係でも、自分と違う意見が返ってくると過度にへこんだり悩んだり。「なぜわかってもらえないんだろう」と落ち込んだりすることがあったのです。

でも、ベルギーでの経験をきっかけに、意見が違うということに「良い」も「悪い」もないことに気づきました。人それぞれ価値観が違って当然で、意見が違うからといって勝手にしょんぼりしたり怒ったりするのは、とても無駄なことだと思うようになりました。

人はそれぞれ違って当然 ラジオDJ秀島史香を変えたベルギー

初の著書『いい空気を一瞬でつくる 誰とでも会話がはずむ42の法則』(朝日新聞出版)

年齢を重ねてからでも成長できる

相手が自分のことをどう思っているか。みんなそれを気にし過ぎるから、しんどくなるのではないでしょうか。「こういう答えなら人に好かれるかな」「これが世間的に正しい答えかな」と考えることは、ほんとうに意味がない。他人や世間の目線ばかり考えていたのでは、「誰のための人生?」と思います。

顔が見えず、声だけで伝える仕事をしているからこそ、ありのまま、素のままの自分を出すこと。バリアーを張らずに、私は私としてマイクに向かうこと。それまでもわかっていたつもりでしたが、ベルギーの環境は、改めてそのことの大切さに気づかせてくれました。

年齢を重ねると、人生の行き先がなんとなく見えてくるというか、こうやって仕事をして終わるのかなって思うようになりますよね。でも、ベルギーで「そんなことないよ」と教えてもらえた気がします。いまは、人は歳を重ねてからでもどんどん成長できると思っています。

20年前の私だったら、きっとベルギーに行っても、みんなカッコいいなって思うばかりで、「私はチビだし目も髪も黒いし」といじけていたと思います。年齢は重ねてみるものですね。

人はそれぞれ違って当然 ラジオDJ秀島史香を変えたベルギー

 

ひでしま・ふみか 神奈川県茅ケ崎市出身。慶応ニューヨーク学院卒。慶応義塾大学法学部政治学科卒。小学6年生から高校卒業までをニューヨークで過ごす。大学在学中にラジオDJデビュー。以後、ラジオのパーソナリティーやTVのナレーションなどを多数担当。現在は、Fm yokohama『SHONAN by the Sea』(毎週日曜6:00~)、JFN各局『Please テルミー! マニアックさん。いらっしゃ~い!』でパーソナリティーを務める他、テレビ東京『二軒目どうする?~ツマミのハナシ~』(毎週土曜24:50~) 、NHK Eテレ『あしたも晴れ!人生レシピ』(毎週金曜20:00~)、『Design Talks Plus』(毎週火曜22:50~)などの番組でナレーションを担当多数。2017年発売の著書『いい空気を一瞬でつくる 誰とでも会話がはずむ42の法則』(朝日新聞出版)がロングセラー中。

PROFILE

髙橋晃浩

福島県郡山市生まれ。ライター/グラフィックデザイナー。ライターとして有名無名問わず1,000人超にインタビューし雑誌、新聞、WEBメディア等に寄稿。CDライナーノーツ執筆は200枚以上。グラフィックデザイナーとしてはCDジャケット、ロゴ、企業パンフなどを手がける。マデニヤル株式会社代表取締役。

三浦翔平が若き日のピカソと自分を重ねたスペイン&フランス旅

トップへ戻る

音楽プロデューサー亀田誠治の“転機のモヒカン” きっかけは椎名林檎の一言

RECOMMENDおすすめの記事