On the New York City! ~現代美術家の目線から見たニューヨーク~

衰退からの復興 ポルトガル・ギマランイスに見る文化・芸術の光

“ポルトガル最初の街”に見る先端アート

❶今回取り上げているギマランイス。❷ポルトガルの首都のリスボン

❶今回取り上げているギマランイス。❷ポルトガルの首都のリスボン

この3月、作品展などの用事でポルトガルの町、ギマランイス歴史地区に2週間ほど滞在した。今回は番外編として、当地で見た様々な美しさを紹介したい。

ギマランイス歴史地区はポルトガルの王が産まれた場所。日本の城下町のように城を中心に街が形成されている。中心部はほぼ石畳で、日中は照りつけるような日差し、夜は深いマリンブルー色の空が広がる。この風景は西洋絵画を勉強した人でなくとも、ロマンチックに感じてしまうだろう。

街には、ポルトガル名物の伝統的なタイル画「アズレージョ」(白いタイルに青い絵の具で描いた絵)が至る所にある。これ自体はドイツとオランダの技術のミックスだ。

この地区のメイン広場。写真では見づらいが右の城壁にはポルトガル語の白い文字で「ポルトガルが産まれた町」と書かれている

この地区のメイン広場。写真では見づらいが右の城壁にはポルトガル語の白い文字で「ポルトガルが産まれた町」と書かれている

横断歩道も石畳になっている

横断歩道も石畳になっている

この街では毎年10月の第一週に老若男女が参加する「NocNoc」という地域最大のアートイベントが開かれる。文化施設や企業のオフィス、各種店舗から住居まで、あらゆる場所を美術やパフォーマンスに使用する。

展示物はアマチュアからプロの作品まで様々。ポルトガル最古の木造家屋に直接入ることができるのもこのイベントの魅力の一つだ。

古い木造建築の木製の窓に展示された写真作品。ポルトガルで撮られたもの / Photo by Ó da Casa - Associação Cultural

古い木造建築の木製の窓に展示された写真作品。ポルトガルで撮られたもの / Photo by Ó da Casa – Associação Cultural

以前あった古いレストランをリノベーションした店内。地元育ちのオーナーが3年ほど前に開業した「サラ141」。若者向けのデザインだ

以前あった古いレストランをリノベーションした店内。地元育ちのオーナーが3年ほど前に開業した「サラ141」。若者向けのデザインだ

ギマランイスで見られる現代美術

この街には現代美術を見られる三つの美術館がある。

もっとも大きいのは、「芸術と創造のプラットフォーム/ジョゼ・デ・ギマランエスの国際芸術センター(Platform of Arts and Creativity International Centre for the Arts Jose de Guimarães Guimarães)」と名付けられた現代美術館だ。

現代美術館。古い石畳の街並みに建築物の直線とのコントラストが映える / All Right Reserved.

現代美術館。古い石畳の街並みに建築物の直線とのコントラストが映える / All Right Reserved.

建築物は真鍮(しんちゅう)でできている。上の写真は2012年の建設当初のもの。真鍮特有の経年の黒ずみが見られるが、おそらくこの変色も計算されたものだろう。建物の中にはホールもあり、イベントや映像の上映会なども行われている。

建物のデザインはピタゴラス・アーキテクツ(pitagoras-arquitectos)。このようなアイコニックなデザインの建物が日本にももっと増えて欲しいと個人的には思う。

常設展では詩人・谷川俊太郎氏とコラボレーションしたこともある画家ジョゼ・デ・ギマランイス(ギマランイスのジョゼという意味)の展示が。この美術館はジョゼ氏を記念して造られたものだとか / All Right Reserved.

常設展では詩人・谷川俊太郎氏とコラボレーションしたこともある画家ジョゼ・デ・ギマランイス(ギマランイスのジョゼという意味)の展示が。この美術館はジョゼ氏を記念して造られたものだとか / All Right Reserved.

現在は3つの展示が行われている。写真は「ウブの死」展。 展示作品以外の建築物なども見どころがある / All Right Reserved.

現在は3つの展示が行われている。写真は「ウブの死」展。 展示作品以外の建築物なども見どころがある / All Right Reserved.

二つ目はセントロ・カルチュアル・ヴィラ・フローア(Centro Cultural Vila Flor=花の村の文化センター)が所有する現代美術館だ。

この建物の敷地内に併設された劇場では、バレエからコンテンポラリーダンスまで幅広い公演が行われている。今回の来訪時にはポルトのアーティスト、ベアガード・アンド・テレベンティナの展示を行っていた

この建物の敷地内に併設された劇場では、バレエからコンテンポラリーダンスまで幅広い公演が行われている。今回の来訪時にはポルトのアーティスト、ベアガード・アンド・テレベンティナの展示を行っていた

ここは個人コレクターが力を持っていて、いい意味で偏った展示が見られる。大規模な繊維工場を改造した美術館で、裏庭から街を一望できる。

最後に紹介するのは、僕が滞在した施設「CAAA」(Centro para os Assuntos da Arte e Arquitectura=芸術と建築の出来事)。

 

右が僕の作品が壁面に展示された美術館「CAAA」。左の建物は作家たちがアトリエに使用している廃虚。30年ほど前はテキスタイルの工場だった

右が僕の作品が壁面に展示された美術館「CAAA」。左の建物は作家たちがアトリエに使用している廃虚。30年ほど前はテキスタイルの工場だった

CAAAのギャラリーの一つ。写真はテラ・デ・ペアオとジョアオ・オリヴィエイラさんらのパンタナール展の風景

CAAAのギャラリーの一つ。写真はテラ・デ・ペアオとジョアオ・オリヴィエイラさんらのパンタナール展の風景

1階にギャラリー、シアター、カフェ、2階には建築事務所、映像制作のプロダクション、テキスタイルのデザイン事務所、アーティストの滞在制作用の施設、図書室を備える文化施設だ。

12年に開催された「欧州文化首都」(毎年異なる都市で通年繰り広げられるEUの文化プロジェクト)では、ジャン・リュック・ゴダールやピーター・グリーナウェー、アキ・カウリスマキ、ポルトガルの巨匠ペドロ・コスタらの映画監督が、この施設の映像制作プロダクションを通して作品を制作した。

僕はこの施設で活動する人たちの文化意識の異常な高さに驚いた。そして、施設の規模も程よく大きい。現在の拠点である小さいNYのスタジオと比べながら、この場所で制作できたらどんなに楽しいだろうかとかなわぬ理想を思い浮かべた。

今まで配給してきた映画作品のポスターが並ぶオフィス。 小さな頃、父によく見せられていたクセの強い作品が集中していて、どのポスターを見てもときめく。これらのポスターの監督名を見ると、大衆的な映画作品に痛烈な批判をしてきた芸術性の強い世界的な映画界の巨匠たちばかり。そうした監督たちの新作をこのプロダクションは制作している

2階にある映像制作プロダクションのオフィス。過去の配給作品のポスターが掲示してある。 小さな頃、父によく見せられていたクセの強い作品が集中していて、どのポスターを見てもときめく。監督は大衆作品に痛烈な批判をしてきた、芸術性の強い巨匠らが多い

アーティストが1カ月単位で滞在製作する。写真は住居スペース

アーティスト向けの滞在施設。住居スペースはこんな感じ。アーティストはここに1カ月単位で滞在し、創作に励む

「CAAA」の向かいにある廃虚(元工場)も見学した。中に入ると、数人の地元のアーティストらがアトリエとして使っていた。窓から光が入ると廃虚はより一層美しく見える

「CAAA」の向かいにある廃虚(元工場)も見学した。中に入ると、数人の地元のアーティストらがアトリエとして使っていた。窓から光が入ると廃虚はより一層美しく見える

僕は今回の滞在で、ポルトガルに4度来たことになる。以前の滞在は12年の春・秋、そして13年に1度だ。

12年の欧州文化首都はギマランイスとマリボル(スロベニア)で開かれた。EUや国家から潤沢な資金が配されたことを受け、ギマランイスの街には各種の施設が建てられ、文化的に拡大した。ところが13年に訪れたときには、その規模はすっかり縮小していた。

だが、現在は“復興”の兆しを見せている。ポルトガル政府は今、国の政策として建築と映画に力を入れているからだ。

建築は日本よりも規制が緩いせいか、東京よりもエッジがきいていて独創性を感じる。CAAAはそれを象徴する施設と言えよう。ポルトガルを訪れることがあれば、ぜひギマランイスで建築やアートに触れてほしい。

 

五輪開催国が巨費を投じてインフラ整備や施設建設に力を注いだものの、開催後にそれらが廃虚になってしまったという話はよく見聞きする。20年に五輪を控えた東京でも“使い捨て”にならない都市計画を行ってほしい。文化の拠点としての勢いを取り戻しつつあるギマランイスの街に触れながら、ふと日本の未来へ思いをはせた。

ギマランイス近郊の都市ブラガにある日本食レストラン「Otsu-Biru」。バー部分はカウンターと床の模様をそろえたデザイン。魚の背骨をイメージしているそうだ。バーの大きな絵は僕が描いた「On the Farm – エシャロット -」。フランスの野菜、エシャロットを巨大に描いたモノクロの作品だ。内装デザインはCAAA内にある地元の建築事務所「Studio CAN」によるもの

ギマランイス近郊の都市ブラガにある日本食レストラン「Otsu-Biru」。バー部分はカウンターと床の模様をそろえたデザイン。魚の背骨をイメージしているそうだ。バーの大きな絵は僕が描いた「On the Farm – エシャロット -」。フランスの野菜、エシャロットを巨大に描いたモノクロの作品だ。内装デザインはCAAA内にある地元の建築事務所「Studio CAN」によるもの

PROFILE

伊藤知宏

1980年生まれ。東京・阿佐ケ谷育ちの現代美術家。日本政府から助成金を得てニューヨークへ渡米。武蔵野美術大学卒。東京や欧米を中心に活動。ポルトガル (欧州文化首都招待〈2012〉、CAAA招待〈2012-18毎年〉)、セルビア共和国(NPO日本・ユーゴアートプロジェクト招待〈12、14〉)、キプロス共和国(Home for Cooperation招待〈17〉)他。ギャラリー、美術館、路地や畑などでも作品展を行う。近年は野菜や花、音や“そこにあるものをえがく”と題してその場所にあるものをモチーフに絵を描く。谷川俊太郎・賢作氏らとコラボレーションも行う。ホルベインスカラシップ受賞。文化庁新進芸術家海外研修制度研修員(2018-19)および日米芸術家交換計画日本側派遣芸術家。

実験的なイベント「ザ・マイルロング・オペラ」に観客殺到 

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現代美術家が選ぶニューヨーク・チェルシーで見るべき14のギャラリー

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