小川フミオのモーターカー

イタリアのクルマづくりの伝統を感じさせるセダン「ランチア・テーマ」

歴史を通じて最も好ましいイタリア車は? そうたずねると、フェラーリとかランボルギーニが挙がるかもしれないが、ランチアは外せない。1906年に創業し、自動車史に残る技術の数かずを採用したクルマづくりを続けてきた。1984年の「ランチア・テーマ」も思い出ぶかい1台だ。

(TOPの写真:テーマ8.32は86年から92年までつくられた)

テーマは80年代の高級セダンの主流となるべく開発された。テーマという名で高級セダンが開発されると聞いて、私たちが期待したのは、この連載で触れてきたように、おとなしめだけれどセンスのいいスタイリングと、気持ちのいい操縦性と、快適な乗り心地といった“ランチア”のイメージに沿ったモデルだった。実際は、コスト削減のため、当初よりスウェーデンのサーブと共同開発でプロジェクトが組まれたのだ。途中で、フィアットとアルファロメオも合流し、結局「プロジェクト4」という名前が与えられた。

ルーフに雨どいのないプレスドアを採用したデザイン

ルーフに雨どいのないプレスドアを採用したデザイン

テーマのデザインを手がけたのはイタルデザインである。けれんみのない落ち着いたセダンスタイルで、時代を経ても古びてみえないのがジョルジェット・ジウジアーロの手腕だろう。

2リッター4気筒ターボやV型6気筒などのエンジンのバリエーションがあり、素直で自然な感じのドライブフィールだった。インテリアは、クッションの厚いシートなど、品の良いセダンというよき伝統を継承していたのだ。

テーマ8.32は5段マニュアル変速機搭載(イタリアで見かけるこのクルマには電話が必ず装備されていた)

テーマ8.32は5段マニュアル変速機搭載。イタリアで見かけるこのクルマには電話が必ず装備されていた

特筆すべきは、86年に追加された「テーマ8.32」というモデルである。フェラーリのエンジンを搭載しており、車名の「8」は8気筒を、「32」は気筒あたり四つのバルブ(8×4)を意味していた。

このエンジンをテーマに搭載するにあたっては、いくつかの変更が加えられ、フェラーリ328では270馬力だった出力が、テーマでは215馬力におとされていた。なにしろミドシップで後輪駆動のスポーツカー用に開発されたエンジンを、前輪駆動のセダンに搭載したのだ。このパワーでも十分すぎるほどだった。

ベースはフェラーリのエンジンだがクランクの角度やカムのプロファイルなどが専用に変更されていたV8

ベースはフェラーリのエンジンだがクランクの角度やカムのプロファイルなどが専用に変更されていたV8

とりわけ、エンジンと車体の間に入るマウントの調整は苦労したようだ。硬いと震動がモロに伝わってしまい、とても高級セダンとは呼べなくなる。ランチアのエンジニアは出来るだけソフトにすることを選んだが、今度はアクセルペダルの踏み込みの緩急で3リッターV8エンジンがぐらぐら動くのがわかるようになってしまった。

全長4560mmでいまの水準からすると比較的コンパクト

全長4560mmでいまの水準からすると比較的コンパクト

テーマ8.32は革張りの内装も豪華だった。最高級セダンをつくるなら、性能も内装も最上を目指そうという気持ちと、クルマを楽しもうという遊び心が出会って生まれたクルマである。イタリアのクルマづくりはまことに興味がつきない。

ピニンファリーナのデザインで86年に追加されたステーションワゴン

ピニンファリーナのデザインで86年に追加されたステーションワゴン

テーマには、後にステーションワゴンモデルも加わり、好ましいアッパーミドルクラスのセダンだった。結局95年までつくられ、「カッパ」(ランチアは伝統的にギリシャのアルファベットを車名にする)へと道を譲る。でもエレガントさではテーマのほうが上で、私はちょっとがっかりしたものだ。

88年にマイナーチェンジを受けてフロントマスクも変更された

88年にマイナーチェンジを受けてフロントマスクも変更された

(写真=FCA提供)

PROFILE

小川フミオ

クルマ雑誌の編集長を経て、フリーランスとして活躍中。新車の試乗記をはじめ、クルマの世界をいろいろな角度から取り上げた記事を、専門誌、一般誌、そしてウェブに寄稿中。趣味としては、どちらかというとクラシックなクルマが好み。1年に1台買い替えても、生きている間に好きなクルマすべてに乗れない……のが悩み(笑)。

クルマ好きが胸を高鳴らせた幻のコンセプトカー いすゞ・ベレット1600MX

トップへ戻る

日本メーカーが話題の新車を発表して健闘 NY国際自動車ショーレポート

RECOMMENDおすすめの記事