中国メーカーとイタリア人デザイナーの協働は結実するか 上海国際自動車ショー現地レポート

イタリアと中国が探る理想の関係

2019年4月16日に開幕した上海国際モーターショー。前回のレポート記事に続き、今回はコンセプトカーを中心に、会場全体の様子を紹介する。

(TOPの写真はカルマ・ピニンファリーナGT)

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会場で「Gテック上海」という聞き慣れないブースを発見した。展示されているクルマは2019年3月のジュネーブ・モーターショーでイタリアの「GFGスタイル」社が公開した「カンガルー」である。

GFGスタイルは、トリノにあるカーデザイン会社だ。「20世紀のレオナルド・ダビンチ」と称される著名デザイナー、ジョルジェット・ジウジアーロ氏と長男ファブリツィオ氏が主宰している。彼らが長年経営した「イタルデザイン」社をフォルクスワーゲン・グループに完全売却した後、2015年に新たに立ち上げたスタジオだ。

ブースで旧知のGFGスタイルの関係者を見つけた。「Gテック上海」とは何かと尋ねたところ、「中国企業との折半出資の会社」という。「いつ設立したのか?」と聞くと「今日これから」と笑いながら答えた。

「Gテック上海」は、「長城汽車」系で、2003年に設立されたエンジニアリング企業「長城華冠」とGFGスタイルの合弁である。ジウジアーロ父子がイタルデザイン社時代から手がけた車は量産車が約300台、コンセプトカーが約200台にのぼる。だが、GFGスタイルは創業4年。事実上の再スタートである。中国企業との合弁会社の設立は、強力な支えとなるに違いない。今年81歳を迎えるジョルジェット・ジウジアーロは、「生きていてよかった」と言って筆者を笑わせた。

いっぽう同じトリノのデザイン会社「ピニンファリーナ」は、中国企業2社のスタンドに1台ずつ車両を展示するかたちで参加した。

1台は「萬向集団」によるスポーツカーブランド「カルマ」のスーパースポーツ・クーペ「GT」だ。カルマと聞いて聞き覚えのある読者もいるかもしれないが、同ブランドは破綻(はたん)した米国のフィスカー社を2015年に引き取ったものである。

もう1台は燃料電池車を製造する新会社「グローブ」のためのコンセプトカーだ。前者はピニンファリーナのイタリア・トリノにある本社スタジオ、後者は上海センターの作品である。

2011年の受託生産部門撤退をはじめ、大胆な機構改革を行ってきたピニンファリーナが、中国ビジネスに重きを置いていることを改めて示した。

新たなビジネスモデルを模索するイタリアの著名カーデザイナーと、技術の次にデザインの洗練を求める中国企業。双方の探り合いが見て取れる。

もちろん、中国で辛酸を舐めたデザイナーもいる。かつてイタリアの著名デザイン会社で重役職にあった人物は、数年前コラボレーターとともに中国に活路を求めた。だが2018年に会うと「もう二度と彼らとやることはない」と話す。彼の話の節々から、デザイン料の支払いを巡って問題が生じたことが匂った。

それでも大きな流れとしては、イタリア人デザイナーの中国志向は今後も続くというのが正しい見方だろう。

 

外国人デザイナーを積極的に登用

BYD  EシードGT

BYD EシードGT

デザインに関連していえば、近年中国企業は、外国人デザイナーのヘッドハンティングを果敢に進めてきた。2018年9月には、ロールス・ロイスを率いていたジャイルズ・テイラー氏が、中国第一汽車(一汽)のグローバルデザイン副社長兼チーフ・クリエイティブオフィサー(CCO)に電撃移籍した。一汽といえば、「紅旗」の製造元でもある。英国を象徴する超高級車を手がけたあと、中国のフラッグシップを造る企業に、ということでカーデザイン業界を騒然とさせた。

BYDでは、元アウディのヴォルフガング・エッガー氏が2017年からデザインチームを率いている。かつて“コピー車”造りで知られた衆泰(Zotye)もしかりだ。フォルクスワーゲンで活躍し、パサートCCでレッドドット・デザインアワード受賞歴があるマーティン・クロップ氏を2018年8月に迎えた。

BYDのコンセプトカー「EシードGT」におけるサイドのリフレクションに見られるように、彼らが手がけた車には挑発的ともいえる大胆な造形が確認できる。一部の作品は、明らかに欧米製コンセプトカーを凌(しの)ぐサーフェス構成をみせる。

ところで、中国ブランドが巧みなのは、彼ら外国人デザイナーを、プロモーションとしてカタログや会場写真などで積極的にアピールしていることだ。

日本メーカーでは、まだ外国人デザイナーに副社長級の地位を与えるまでに至っていない。また彼らの名前を前面に打ち出し、ベストセラーとなった日本車はない。中国で、外国の逸材を獲得したメーカーがどのような効果を獲得するかは、目下のところ未知数で、見守るしかない。

ただし、その答えを探るには、上海の街を走る車を観察するとよいかもしれない。北京汽車や上海汽車、そしてBYDといった、いわゆる純粋中国車が、2年前の2017年に訪れたときよりも格段に目立つ。より外国人デザイナーのセンスが反映された車が走りだすのも時間の問題だろう。ちなみに、路線バスは、国家政策を受けてひと足早く電動化が加速し、スタイリッシュな新型車両が走り始めた。

その脇を若者たちがこぐ無数のシェアリング自転車が颯爽と走ってゆく。前回のレポート記事で紹介したレクサスLMのようなミニバンを用いたライドシェアもさらに盛んになってゆくだろう。実際に2019年2月、フォルクスワーゲンとライドシェア大手「滴滴出行」は、上海で合弁会社を設立している。

カーデザインの洗練とともに交通という広義のデザインもすさまじい勢いで革新され、東京の2.8倍の人口を巻き込んでゆく。上海は、巨大なデザイン・ラボラトリーに思えてくるのである。

(文/写真=大矢アキオ Akio Lorenzo OYA)

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