私の一枚

音楽も演技も大切なのは「呼吸」 渡辺大知が憂歌団・木村充揮から教わったもの

音楽も演技も大切なのは「呼吸」 渡辺大知が憂歌団・木村充揮から教わったもの

中学時代からの憧れの存在、木村充揮さんと

憂歌団のボーカル・木村充揮さんとのツーショットです。2015年の秋、アコースティックの弾き語りイベントで初めてご一緒した時に撮っていただきました。木村さんは、僕が音楽をやりたいと思うきっかけになった、僕の憧れの人です。

この日は、アンコールで憂歌団の曲を一緒に演奏しました。もう木村さんが素晴らしすぎて、自分はまだまだダメだと思い知らされました。でも、ただ憧れていた自分が、同じステージで戦うところまで来られた気がしてうれしかったです。ようやくスタートラインに立てたと思えました。

友達との会話とは違う新しい会話のドアが開いた

音楽は子供の頃からよく聴いていました。SMAPは一時期ファンクラブに入っていたほど大好きで、中学3年までに出たアルバムは全部持っていました。ギターを少し覚えてからは、スピッツや小田和正さん、YUIさん、槇原敬之さんもよく聴きました。いわゆるポップスが好きでしたね。

でも、ポップスなら何でもよかったわけではなくて、情感がこもっていて、歌うことで戦っている感じがする人たちが好きでした。好きな音楽とそうではない音楽が自分の中ではっきりと分かれていて、でもその違いはどこにあるのか、自分が本当に好きなものは何なのかがわからずに、うずうずしていた中学時代でした。

そんな時に、偶然テレビで憂歌団の昔の映像を見て衝撃を受けました。4人の男たちが呼吸を確かめ合いながら演奏している姿がカッコよくて、血が騒ぐような、今まで音楽を聴いて感じたことのない感覚に包まれました。たまたま父親が憂歌団のレコードを持っていたので、かなり聴きました。SMAPもスピッツも槇原敬之さんも小田和正さんもずっと好きでしたけど、好きな世界がもう一つできたような感じでした。

ある時、子供の頃から通っていた近所の散髪屋のおっちゃんに「憂歌団が好きだ」って話をしたんです。そしたら、「じゃあこういうのも好きかもね」と言って、でっかい紙袋にブルースやソウルのCDをパンパンに入れて貸してくれました。まさか昔から知っているおっちゃんがそういう音楽が好きだとは思いませんでしたけど、学校で友達と話していることとは違う新しいドアが開いた気がしました。そして、カッコいいものはテレビにだけ集まっているわけじゃないというか、受け身では出会えない、自分で探していかないと広がらない世界があることを知りました。

気持ちいいかよくないかの感覚を大切にする

音楽で木村さんから教わったのは「呼吸」を大事にすること。例えば、リズムはただ機械的に「1、2、3、4」と並んでいるわけじゃなくて、1と2の間がちょっと長かったり、3と4の間でちょっと早い波が来たり、その連続で心地よさが生み出される感覚です。

ギターのチューニングも「みんな機械に頼り過ぎや」と言っていましたね。チューニングがピッタリだからいい音楽というわけではない。ズレているかどうかよりも、気持ちいいのかよくないかの感覚を大切にすべきだということを言っていて、すごく影響を受けました。

ここ数年、役者としての仕事も多くいただけるようになりましたが、演技もこれと同じだと思います。機械的に合わせるのではなくて、そこに流れている波に乗る感じ。これは身体表現すべてに関わってくることじゃないですかね。せっかく人と作るものですから、セリフとセリフの間に流れている間や呼吸をいつも大事にしたいと思っています。

音楽も演技も大切なのは「呼吸」 渡辺大知が憂歌団・木村充揮から教わったもの

話題の映画やドラマへの出演が続く渡辺大知さん

『寝ても覚めても』で考えた“セリフのないセリフ”

例えば、映画『寝ても覚めても』ではALS患者の役を演じました。病気で言葉を発することができなくなってしまう役なので、後半はまったくセリフがありません。でも心の中には“セリフのないセリフ”があって、それを考えながら、目の前にいる唐田えりかさんや田中美佐子さんと呼吸を合わせることを意識しました。

演じるにあたって、ALS患者の方にお話を聞きに行き、強く心を動かされたことがあります。それは、体がほとんど動なくても、言葉を発することはできなくても、呼吸を通じて何かを伝えることができるということです。呼吸でも伝えられることがある、そう思った時に、木村さんから教えてもらった「呼吸」の感覚と、「セリフのないセリフ」を演技することが自分の中でつながりました。

「役者に手を出したミュージシャン」にはなりたくなかった

バンドも俳優もすることに関しては、自分の中にずっと葛藤がありました。演技はやっていて楽しいし、むしろ自分に向いているのではないかとすら思っていましたが、「みんなはどう思うだろう」というのが気になって。

それに、ミュージシャンがドラマや映画に出ると、その人の人間力が役柄を超えてしまっている時が多いと思います。僕はあんまりそれが好きじゃなくて、自分が役者をやるならそうは見せたくないと思っていました。役者の仕事をやっている時は役者として見られたいというか、『役者を楽しんでいる自分』と『役者に手を出したミュージシャンにはなりたくない自分』の間にズレがあったというか。

でも木村さんは、「役者もガンガンやったらええと思うで」と言ってくれました。「ショーケンも昔はバンドをやっていて、その後に役者になったけど、バンドマンが役者をやっている感じには思わんかったし、自然にかっこええなあって思えた。だから全然気にせんとガンガンやったらええと思うで」と。

さすがに「すごい人と比べてくるな」とは思いましたけど(笑)、でもなんか、「せやな」と思いました。自分がおもしろいと思えるか、信じられるかをちゃんと見極めて、最大限楽しんでやろうと思えるようになりましたし、これからも臆することなく参加していこうと思っています。

音楽も演技も大切なのは「呼吸」 渡辺大知が憂歌団・木村充揮から教わったもの

バンド活動休止後はソロとして活動中。7月には渋谷でライブを開催する

音楽で発明をしなければソロでやる意味がない

黒猫チェルシーは去年で活動休止になりましたけど、今はソロとして新しい曲を作って、少しずつライブも始めています。バンドをやっていた頃には作れなかったような曲もできてきています。

せっかくソロでやるわけですから、他の人があまりやってないことをやりたいですし、音楽である種の発明をしなければ、ソロでやる意味がないとも思います。そういうふうに思えるのも、憂歌団と木村さんに出会い、音楽の底知れなさを教えてもらったからだと思います。

音楽と役者の両立で、たまに頭がこんがらがりそうになる時もありますけど、くらいついて、自分に目を向けてもらえるだけの力をつけなくちゃいけないですね。バンドという“家”のようなものがない状態になったぶん、旅人のようにいろんなところに出向いて、自分の表現を発信していきたいです。

わたなべ・だいち 1990年、兵庫県神戸市生まれ。ロックバンド「黒猫チェルシー」のボーカルとして2010年メジャーデビュー。映画やアニメの主題歌を手がけ人気を獲得する一方、俳優としても活動し、映画『色即ぜねれいしょん』では日本アカデミー賞新人俳優賞を授賞。以後、『勝手にふるえてろ』(2017)、『寝ても覚めても』『ギャングース』(2018)等の映画、NHK 連続テレビ小説『カーネーション』(2011)、『まれ』(2015)などの作品に出演。今後も主役を務める『僕の好きな女の子』(又吉直樹原作)に加え、『わたしは光をにぎっている』など話題の映画への出演が決まっている。ソロ・アーティストとしては7月12日(金)には東京・渋谷7th Floorにてライブ『渡辺大知presents 夏の花火のプラネタリウム』を開催。

■渡辺大知Official Site http://daichiwatanabe.com/

PROFILE

髙橋晃浩

福島県郡山市生まれ。ライター/グラフィックデザイナー。ライターとして有名無名問わず1,000人超にインタビューし雑誌、新聞、WEBメディア等に寄稿。CDライナーノーツ執筆は200枚以上。グラフィックデザイナーとしてはCDジャケット、ロゴ、企業パンフなどを手がける。マデニヤル株式会社代表取締役。

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