MY KICKS

ミズノ社内がざわついた「ウエーブライダー 1」の復刻 

や、スニーカーは私たちの生活に欠かすことのできない“生活必需品”。どんな人にも愛着ある一足があり、そこには多くのこだわり、思い出、物語が詰まっているはず。本連載では、様々なスニーカー好きたちが「MY KICKS(=私の一足)」をテーマに語り尽くします。

牧野雅臣(まきの まさおみ)さん
1974年生まれ。98年ミズノ株式会社に入社。競技用シューズやウェアのセールスを担当した後に、スニーカー部門である事業企画1課の立ち上げに参加。MDとしてミズノのスニーカーのブランディングなどを担当している。

『ミタスニーカーズ』国井さんが掘り起こしたミズノの名作

創業1906年。実に110年以上の歴史を誇る日本の老舗スポーツ用品メーカー「ミズノ」が、満を持して「スニーカー」の市場に参入したことをご存じだろうか。中でも注目を集めている動きが、1997年に発売されたランニングシューズ「ウエーブライダー 1」の復刻だ。

言わずもがな、ミズノはこれまでに数多くの競技用シューズを手掛けてきている。しかしデイリーユースを想定したアイテムは限られており、黒やベージュの中高年向けシューズなどが中心。普段履きに活用できる競技用のシューズはあれど、10〜30代のファッション感度の高いユーザーをターゲットとした「スニーカー」的なアイテムはラインアップしてこなかった。また「スポーツシューズは常に最新進化系を目指すべき」という考えから、過去の名作シューズの復刻も行ってこなかったという。

ウエーブライダー1のカラーバリエーション “90’S ATHLETIC”(¥14,800+税)には、オリジナルモデルが発売された90年代を意識したカラーやパターンが取り入れられている

ウエーブライダー1のカラーバリエーション “90’S ATHLETIC”(¥14,800+税)には、オリジナルモデルが発売された90年代を意識したカラーやパターンが取り入れられている

そんな状況を変えたのは『スポーツの時以外にもミズノのシューズを履きたい』と願うユーザーからの声だった。顧客から後押しされる形で、ミズノはファッションに特化したスニーカー部門「事業企画1課」を立ち上げる。そのオリジナルメンバーの一人が、牧野雅臣さんだ。

「我々もミズノの社員ですから、誰よりもスポーツ用シューズのことは知っているつもりでした。ところが、現在流行している『スニーカー』の世界は、我々がいる『競技用シューズ』の世界とは全く異なる価値観で物事が動いていたそこで人気スニーカーショップ『ミタスニーカーズ』の国井栄之(くにいしげゆき)さんに相談することにしたんです。2017年のことでした」(牧野さん)

ボリューミーなルックスとは裏腹に、手にとって見ると意外にも軽量

ボリューミーなルックスとは裏腹に、手にとって見ると意外にも軽量

国井さんといえば、全世界のスニーカーヘッズに影響を与えるトレンドセッターであり、スポーツメーカーはもちろん、高級ファッションブランド「ジバンシィ」とのコラボレーションでスニーカーをリリースした経験を持つ業界の重鎮。その国井さんがミズノに授けた秘策は、現在22代目を数えるランニングシューズ「ウエーブライダー」の初代モデルにあたるウエーブライダー 1の復刻だった。

「2017年前半の時点で、国井さんは厚底シューズやダッドシューズの流行を読まれていました。その流れに合うアイテムということでウエーブライダー 1を選んでいただいたんです。もちろん我々も含めてミズノ社員は、1年後のトレンドがどうなるかなんて分かっていませんからあんな昔の靴が本当に売れるのか』とざわついていましたね(笑)」(牧野さん)

「復刻のために多額の費用をかけて、ウエーブライダー1の木型や金型を作り直したんです。常に機能の進化を第一に考えてきたミズノにとっては、ちょっとした冒険でしたね」と牧野さん

「復刻のために多額の費用をかけて、ウエーブライダー 1の木型や金型を作り直したんです。常に機能の進化を第一に考えてきたミズノにとっては、ちょっとした冒険でしたね」と牧野さん

「用具」を手掛けてきたメーカーだからこそミッドソールの「構造」に注目できた

牧野さんが愛用する「Wave Rider 1 1 OG」。97年に発売されたオリジナルモデルのカラーリングを忠実に再現したモデルだ

牧野さんが愛用する「ウエーブライダー 1 OG」。97年に発売されたオリジナルモデルのカラーリングを忠実に再現したモデルだ

国井さんが「ウエーブライダー 1」を選んだ、もうひとつの理由。それはこの靴がミズノが誇るテクノロジー「ミズノウエーブ」構造を初めて搭載したアイテムだったからだ一般的なスニーカーメーカーは、アッパーやソールの「素材」を重視しがち。しかし長年にわたってバットやグラブといった「用具」を手掛けてきたミズノの研究開発チームは、その豊富な経験からソールの「構造」に着目してゆく

「ミッドソールの素材を柔らかくすると、クッション性は高まりますが、足がグラつきやすくなってしまうんです。このグラつきを防ごうとして硬い素材を使うと、今度はクッション性が損なわれる。そこでミズノはクッション性と安定性を両立する構造『ミズノウエーブ』を開発したんです」(牧野さん)

軽量化を目的に肉抜きされているため、内部の「ミズノウエェーブ」パーツが露出している

軽量化を目的に肉抜きされているため、内部の「ミズノウエーブ」パーツが露出している

人は走る時に、かかとの外側から着地し、親指で蹴り出す「プロネーション」と呼ばれる捻り(ひねり)運動を行うことで膝(ひざ)への負担を軽減している。しかし疲労によって足首や膝が内側に倒れ込んでくる「オーバープロネーション」と呼ばれる現象が起こると、関節を痛める原因になる。ミズノウエーブには、この「オーバープロネーション」を防ぐ機構が採用されているのだ。

上から白ベースに黒のグラデーションが入ったミッドソール、黒のミズノウエーブのパーツの下にミッドソール、その下に黒のアウトソールが配置されている

上から白ベースに黒のグラデーションが入ったミッドソール、黒のミズノウエーブのパーツの下にミッドソール、その下に黒のアウトソールが配置されている

最新モデルの「ウエーブライダー 22」(¥12,900+税)には大きく進化した「ミズノウエーブ」が搭載されている。「競技やレベルによってウェーブの形状は異なっているんです」と牧野さん

最新モデルの「ウエーブライダー 22」(¥12,900+税)には大きく進化した「ミズノウエーブ」が搭載されている。「競技やレベルによってウェーブの形状は異なっているんです」と牧野さん

「波形の固いパーツを柔らかいミッドソールで挟むことで、ソール全体が前後方向には湾曲しつつも、左右には撓(しな)らない構造にしているんです。アウトソールに関しても、最初にかかとの外側で衝撃を吸収し、前に向かって力がスムーズに流れ、親指で蹴り出す動きを助ける形状になっています。履いていただければわかりますが、足が自然と前に出ていく感覚があるはずです」(牧野さん)

カカトが外側(画像上方)に向かって傾斜しているのも、オーバープロネーションを防止するため

かかとが外側(画像上方)に向かって傾斜しているのも、オーバープロネーションを防止するため

スニーカーブランド「ミズノ」が注目を集め始めている

「発売当日はミタスニーカーズさんに足を運んだんですが、オープン前から列が出来ているのを見た時は本当に嬉しかったです」と牧野さんは振り返る

「発売当日はミタスニーカーズさんに足を運んだんですが、オープン前から列ができているのを見た時は本当にうれしかったです」と牧野さんは振り返る

2018年2月10日、20年ぶりにウエーブライダー 1がよみがえった。その第一弾となるミタスニーカーズとのコラボレーションモデルには情報解禁の瞬間から注目が集まり、発売当日のミタスニーカーズには開店前から多数のファンがつめかけたという。優れたパフォーマンスモデルでアスリートからの評価を集めてきたミズノだったが、このヒットにより同社を取り巻く環境は大きく変化しつつあるようだ。

「今までは直営店かスポーツ店しか販路がなかったんですが、ウエーブライダー 1のヒットをきっかけに色んなことが変わってきました。先日の展示会では、非常に多くのセレクトショップさんからオーダーしていただくこともできました。ハイファッションの世界にいらっしゃる方々からパフォーマンスシューズである『ウエーブ・プロフェシー』にも注目が集まっていますね」(牧野さん)

サイドには、走る鳥の姿と惑星の軌道をモチーフにデザインされたミズノのロゴマーク「ランバード」が光る。その下からカカトに向かって走る白の細いラインにはリフレクター素材を採用

サイドには、走る鳥の姿と惑星の軌道をモチーフにデザインされたミズノのロゴマーク「ランバード」が光る。その下からかかとに向かって走る白の細いラインにはリフレクター素材を採用

ミタスニーカーズはもちろん、「ドーバーストリートマーケット」「GR8」といった国内の人気ショップ、アムステルダムの「Patta」、パリの「ザ・ブロークン・アーム」をはじめとする世界的な人気を誇る海外のショップからも熱視線を集めているミズノのスニーカー。

しかし牧野さんは、現状を冷静に見ている。

「我々はスニーカーの世界では新参です。ハッキリ言って物珍しさで買っていただいているというのが現状だと思っています。ですから今は地道に丁寧にカッコいいアイテムを出し続けることで、イメージを作っていく時期。いつか『歴史あるミズノがスニーカーなんて意外性がある』ということではなく『スニーカーとして掛け値なしにカッコいい』と感じていただくことが目標ですね」(牧野さん)

ミズノという老舗企業、そしてスニーカーシーンに新風を吹き込んだ「ウエーブライダー 1」。牧野さんは、この一足をこう語る。「ミズノがスニーカーシーンに切り込む突破口となる一足であり、現在のミズノのテクノロジーに連なる原点となる一足ですね

牧野さんのフェイバリットアングルは正面。タンの上部には今では使用されなくなった「ワードM」ロゴ、その下にはリフレクターが光る

牧野さんのフェイバリットアングルは正面。タンの上部には今では使用されなくなった「ワードM」ロゴ、その下にはリフレクターが光る

ミズノ公式サイト
https://www.mizuno.jp/
ウェーブライダー 1 OG「Mizuno Wave Rider 1 OG」
¥17,000(+税)

取材・文/吉田大
撮影/今井裕治

PROFILE

吉田大

ライター・編集者。大学卒業後、児童書出版社勤務を経て、フリーランスに。ファッション、アート、音楽、ストリートカルチャーから、政治経済、社会問題、テクノロジー、グルメに至るまで、多岐にわたるジャンルにおいて、長年に渡り執筆活動を続けている。趣味は自転車と立ち食いそば店めぐり。お酒や煙草を嗜まないストレート・エッジな生活を送っている。

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