小川フミオのモーターカー

過去の事故調査データを一般公開したボルボ その事故対策技術を現地で取材 

クルマを運転する上で、考えておかなければならない大事なことが衝突に対する安全性だ。もう少し厳密に言うと、交通事故でクルマが衝突したとき、乗員がどれぐらい保護されるか、である。スウェーデンのボルボは、2019年3月、世界中からジャーナリストを招いて、この課題に対する同社の取り組みと、最新の知見を披露した。

ボルボは衝突安全対策分野でのパイオニアの一つとして知られる。1950年代には社内に事故調査チームを立ち上げ、本社のあるイエテボリから100キロ圏内で起こった、ボルボ車がからんだ事故のリサーチを始めた。車両開発に役立てるためだ。

そのボルボは現在「E.V.A.イニシアチブ」を打ち出している。「Equal Vehicles for All(イコール・ビークル・フォー・オール)」の頭文字を取ったもので、例えば安全面では、「ボルボ車に乗る人は等しく守られるべき」という意味になる。

3月にあったジャーナリスト向け発表会の目玉は、同車のSUV「XC90」のクラッシュテストだった。強化ガラスで隔てられてはいたものの、黄色く塗られた車両が箱形のアルミニウムのバリアに衝突する様子をすぐ近くで見ることができた。バリアに激突した車両は大きく跳ね上がると、コースから外れて着地した。

過去の事故調査データを一般公開したボルボ その事故対策技術を現地で取材 

手前が女性型クラッシュダミー

車体は前部が大きく壊れて変形し、前から見てもどのモデルかはっきりわからないぐらいだ。それでも4枚のドアは問題なく開き、車内ではエアバッグに包まれるようにして3体のクラッシュダミーがシートに座っていた。外見ではどのダミーも無傷に見える。この後、取得したデータに基づいて、人間だったら頭部や胸部、脚部が損傷したかどうかや、頸椎や脊髄がどれぐらいの衝撃を受けたかなどを分析するのだ。

過去の事故調査データを一般公開したボルボ その事故対策技術を現地で取材 

衝突実験後の車体に見入るボルボカーズのサミュエルソンCEO

このテストでの特筆すべき点が二つあった。一つは衝突させる速度が時速80kmに引き上げられていたこと。もうひとつは、女性や3歳児を模したダミーを載せていたことである。テスト会場に同席していたボルボのホーカン・サミュエルソン社長兼CEOは、「通常は時速60キロぐらいで行うクラッシュテストですし、実際の事故時にはドライバーはたいていブレーキを踏むので、衝突速度は時速30キロ程度です。しかしそうでないこともあります。安全については目標を高く設定しなくてはなりません」と語った。

クラッシュテストは膨大な費用がかかると、以前、聞いたことがある。ボルボでは新車について60回から70回、同様のテストを繰り返すという。

ボルボ・セーフティセンターを統括するシニアバイスプレジデントのロッタ・ヤコブソンさんは「E.V.A.イニシアチブで私たちが注目しているのは、女性の安全です。小柄な女性のほうが事故時の怪我の度合いが大きいという報告があります。従来は、男性サイズのクラッシュダミーをテストに使っていたせいではないかと考えています」と説明した。

さらにサミュエルソンCEOは、事故時の安全性確保と並行して、事故原因を取り除くことに注力するとして、次のように説明した。

「事故の原因の多くは、速度超過、注意力散漫、飲酒にあります。どの事故も歩行者を巻き込みますから深刻な結果になります。そこで私たちは先進技術を使い、速度標識と連動して車両のスピードを抑制するシステムや、ドライバーの表情を読み取ったうえで運転の遂行能力があるか判断するカメラ連動型のシステムを導入します」

過去の事故調査データを一般公開したボルボ その事故対策技術を現地で取材 

人間の行動を分析し対策を講じるのが交通事故減少に働くとするサミュエルソンCEO

これらの技術は、まもなく量産車に採用されるそうだ。

そして、今回の発表会と同じころ、ボルボは自社がまとめた交通事故調査データを公開した。ボルボの調査が始まった50年代にまでさかのぼると、対象車両は4万3000台、乗員は7万2000人に及ぶ。ホームページにアクセスすると、事故の調査結果がPDFでダウンロードできる。現在公開されているデータは1970年から2018年までが対象で、公開対象は今後も増えていくそうだ。

サミュエルソンCEOは、「このデータがより安全な車作りへとつながることを望んでいます。人命にかかわることで大事なのは情報共有です」と話す。

ボルボの情報公開について、ある日本の自動車メーカーの技術者に感想をたずねると、「安全性の研究を怠っているメーカーはないでしょうが、ボルボがデータを車両の開発にどう結びつけているかなど、私たちにも参考になる点はいろいろあると思います」と話してくれた。

過去の事故調査データを一般公開したボルボ その事故対策技術を現地で取材 

奥は50年代のシート(ボルボは59年から三点式セイフティベルト採用)で手前が最新のもの

 

(写真提供=Volvo Cars)

PROFILE

小川フミオ

クルマ雑誌の編集長を経て、フリーランスとして活躍中。新車の試乗記をはじめ、クルマの世界をいろいろな角度から取り上げた記事を、専門誌、一般誌、そしてウェブに寄稿中。趣味としては、どちらかというとクラシックなクルマが好み。1年に1台買い替えても、生きている間に好きなクルマすべてに乗れない……のが悩み(笑)。

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