マッキー牧元 うまいはエロい

<78>罪悪感はナシ! 大量の炭水化物を摂取する幸福/有楽町「ジャポネ」

有楽町の「ジャポネ」で、「ジャリコをジャンボで(大盛り)」と、胸を張った。大盛りは、500gという無差別級である。

「どうだ、俺もまだまだいけるぜ」と、鼻息を荒くした。ところが隣の痩せたサラリーマンは、「ナポリタン横綱で」と言うではないか。さらにその隣の60代男性も「バジリコ横綱」(700g強)と、頼む。

大盛りを頼んだのに、敗北感を味わったのは、この店が初めてだった。うなだれて、大盛りで甘んじていた自分のふがいなさを恥じた。

「ジャポネ」に料理人は、二人いる。注文が入るとフライパンに、謎の液体を入れ、片手でつかんだゆで置きスパゲティを入れて、炒め始める。片手の感覚だけで、量を推し量れるのである。

次に具を入れ、味付けをし、強火にかけたフライパンを、何度も返して、出来上がる。横綱二人前なら、フライパンの総重量は2キロを超えるだろう。それを一日、百人前以上は作っているため、上腕二頭筋が隆々と盛り上がっている。

さあ「ジャリコジャンボ」が運ばれた。湯気をふわりと立て、近づけば、しょうゆの香りに顔が包まれる。太さ2.2ミリという太麺が、油にまみれ、てらりと光る。

「さあ食べろ! 男をみせろ」

ナポリタンとともに一番人気であるしょうゆ味の「ジャリコ」の布陣は、エビ、肉、しその葉、トマト、シイタケ、タマネギ、小松菜である。

食べれば、昆布茶だろうか、うまみの誘いがあって、フォークを持つ手が止まらない。アルデンテってなんですか?という柔らかさが、唇と舌を優しくなで、歯を喜ばす。

柔らかいが、太麺ならではの歯応えが、クセになる。熱々を勢いよくたぐっては、時折水を飲み、途中からタバスコやチーズをかけて、味の変化を楽しむ。

そう、このスパゲティは音を立てて食べなければいけない。イタリア料理店でのマナーなど忘れて、音を立てて食べなければいけない。静かに食べていると制覇できないからである。

さらに盛大にすすることによって、空気の流入が激しく起き、口中で香りが立つからである。かくして「ジャポネ」のカウンターは、「ズルズルルッ」という、壮大なハーモニーが響く。

昼時は多くの客でにぎわうジャポネの店内

昼時は多くの客でにぎわうジャポネ。店内はL字型のカウンターのみ

この迫力、イタリア人には理解できない、日本庶民の安住の地である。だが味は決して濃すぎない。様々なうまみが重なって、罪悪感なく、誰にも気兼ねなく、大量に炭水化物が摂取できる。そして食べ終わった後は、腹を満たしたのと同時に、征服の喜びがあって、それがクセになるのである。

別の日は、悩んだ揚げ句に、「ヘルシースパ」の辛め(唐辛子二本)を選んでみた。具は、小松菜、野沢菜、シイタケ、タマネギ、カイワレ、ゴマ、唐辛子と、野菜のみだが、たっぷりの炭水化物ゆえに、まったくもってヘルシーではない。

ジャポネの人気メニュー「ヘルシースパ」

小松菜、野沢菜、シイタケ、タマネギ、カイワレ、ゴマ、唐辛子が踊るジャポネの人気メニュー「ヘルシースパ」

 

これにもやはり、タバスコと粉チーズをかけるので、ヘルシーからさらに遠のいていく。そしてこの店に来て「ヘルシー」はないだろうと思うのか、誰も頼んでいないので、ちょっとした優越感を得られるのがいい。

有楽町・ジャポネ

十五席のカウンターに連日三百人近いお客さんが来るという人気のスパゲティ屋。昼時は長蛇の列。

・「ジャリコ」500円 
・「ヘルシースパ」550円  
・「ジャンボ(大盛り)」は150円増し 
・特盛りの「横綱」250円増し

上記のほか「ナポリタン」500円は、入念に炒め上げたケチャップ色の太麺が堂々たる量で楕円(だえん)の皿に盛り付けられる。甘みと酸味といったケチャップのよさが素直に出た味わい。所々焦げ気味になったスパゲティもよし。具は小さなエビにシイタケ、シャキッと炒めた玉ねぎに小松菜。小松菜の青い香りがアクセントになっている。

メニューにはないが、横綱の上に親方(900g)300円増し 理事長(1100g)350円増しもある。

【店舗情報】

東京都中央区銀座西2-2先 銀座インズ3 1F
JR「有楽町」駅、有楽町線「銀座一丁目」駅より徒歩2分
平日 10:30~20:00/土曜 10:30~16:00
定休日:日曜・祝日

PROFILE

マッキー牧元

1955年東京生まれ。立教大学卒。年間幅広く、全国および世界中で600食近くを食べ歩き、数多くの雑誌、ウェブに連載、テレビ、ラジオに出演。日々食の向こう側にいる職人と生産者を見据える。著書に『東京・食のお作法』(文藝春秋)『間違いだらけの鍋奉行』(講談社)。市民講座も多数。鍋奉行協会顧問でもある。

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