ミレニアルズトーク Millennials Talk

100%コミットしてもできるかわからない、ファッションビジネスへの挑戦 石井リナ×恩地祥博

社会問題からセックスまで。現代を生きる女性に様々な選択肢を提案するエンパワーメントメディア「BLAST」。その運営会社であるBLAST Inc.のCEOを務めながら、SNSコンサルタントとしても活躍する石井リナが、ミレニアル世代にフォーカス。

特に1990年前後に生まれた人は、インターネット・ネイティブな環境で培った柔軟な感覚で、様々な新しい働き方に取り組んでいる。学生時代にガラケーを持ち、インターネットの普及とともに育ってきた人々は、どんな価値観を持ち、何を思考しているのだろうか。世代の狭間に生まれ、時にハブとなり得る「ミレニアル世代」を深掘りする。

今回は、ファッションブランドのビジネスディベロップメントを行う、弱冠24歳の経営者・恩地祥博との対談。ファストファッションとラグジュアリーブランドが、全く異なる戦略をとる中で、その中間に位置するブランドはどのような手段で生き残るのか。生産からPR、そして感情的な理由にまで話題は広がった。

「この絵文字チャラいからやめて!」ってつっこまれる

石井:恩地くんは24歳にして社長だけど、いま具体的にはどんなことをやっているの?

恩地:今やっていることは、ファッションブランドの経営です。具体的にはセールスとかPRとか、売ったり認知を広げたりっていう外向きのことですね。デザイナーは別にいます。あと「DEW」というインドネシアのファッションウェブマガジンの日本でのビジネスディべロッピングを担当しはじめました。日本のブランドとタイアップする時の提案とか、キャスティングしたりスケジュール決めたりプロダクションも担当もします。

100%コミットしてもできるかわからない、ファッションビジネスへの挑戦 石井リナ×恩地祥博

https://www.instagram.com/p/BuJNgdmngED/

石井:ファッションをビジネスサイドから支えてるんだよねもともとは海外でインターンしていたんだよね。

恩地:そうです。大学2年生が終わって一年休学してニューヨークへ行って、ファッションPRの稲木ジョージさんのもとで一年間アシスタントをしていました。もしかしたら意外に思えるかもしれないけど、ジョージさんって繊細なんですよ。モデルさんにPRの相談をするときに、「この絵文字チャラいからやめて!」ってつっこまれる、みたいな(笑)。

石井:それ、ちなみにどんな絵文字?

恩地:😳これですね(笑)。リレーションを大切にして、絵文字ひとつにも気をつける。そういう姿勢は本当に今の自分に生きてますね。

そもそも「キャスティングとは?」みたいな初歩の初歩から彼に教えてもらって、やらせてもらいました。入って2週間で「今から皆につなげるからイベントの案内を送っといて」とか言われて、いきなり30人ぐらいグループLINEに投入されたのは……いきなり任せすぎだ、とも思ったんですけれど(笑)。

石井:ジョージさんがつなぐぐらいだから、トップインフルエンサーの方ばかりだよね。恩地くんが経営しているブランドのショーのフロントロウには可愛い女の子たちが並んで、その女の子達が実際にそのブランドの洋服を着ていて。それもあって数多くのファッションメディアにも露出していて、恩地くんすごいなって感心した。

恩地:ファッションスナップさんは「美女集結!」という見出しでトップで取り上げてくれました。WWDさんとかdroptokyoさんにも掲載してもらって、本当にありがたかった。ジョージさんとは今でも仲良くさせてもらっているんですけど、「あんたやるじゃん」と言ってもらえましたね。

彼女に私服がダサいって言われ、今でもファッションに対してコンプレックスがある

石井:ジョージさんのアシスタントを離れて、学生のときから今の会社に参画して、代表になったけど、どういう経緯だった?

恩地:知人にボスを紹介してもらったとき、ボスはシンガポールにいたので、僕は学校の授業を抜け出して廊下で30分間Skypeでビデオチャットをしたんです。そのときに「君を社長にする」って言われて決まったんですよ(笑)。Skypeの一カ月後に初めて実際にボスにお目にかかりました。

100%コミットしてもできるかわからない、ファッションビジネスへの挑戦 石井リナ×恩地祥博

石井:いろんな経営者と話すけれど、恩地くんはめちゃめちゃレアケースだよね。どうしてその30分間で決まったんだろう? 私だったらそんなに早く決断できないかも。

恩地:ケースとして珍しすぎて、誰に何を相談したらいいのかぜんぜんわからないんですよ(笑)。自己紹介をして、勢いで「できますやります! 必ず形にする」みたいなことを話したかも。次の日にはもうサインして。親友には「それ詐欺じゃないの?」とか言われたんですけど(笑)。その方は普通に有名だったし、大丈夫だろうなって。もともと僕はファッションブランドの経営に興味があって、だからニューヨークのFIT(ファッション工科大学)でブランドマネジメントを勉強した。もともと日本のLVMHみたいな会社を作りたいという思いを彼にぶつけました。

石井:そこからファッションの世界に入っていくんだね。

恩地:ファッションに興味を持ったきっかけは、高校の時に付き合ってた彼女に私服がダサいって言われたことで、今でもファッションに対するコンプレックスがあるんですよ。ファッション業界って、おしゃれでイケてる人たちが集ってるイメージじゃないですか。自分は物を作ることも得意じゃないし、別にセンスがあるとも思ってないので、ビジネスの側面でそこに貢献して、ブランドをつくることができたらいいな、と。

石井:彼女にダサいって言われたときは、どんな服を着てたの?

恩地:上下白で、ブーツを履いてました。これ言うのめっちゃ恥ずかしいんすよまじで(笑)。

石井:それはちょっとダサいかもしれない(笑)。

恩地:僕、野球部だったんですけど、男同士のイジり合いが激しくて。「おまえダサいっていわれたんだろ」とか言われて傷に塩を塗られました(笑)。悔しくて雑誌を読んだり、お洒落な友達と買い物に行ったりして、洋服が変わると見られ方が変わってくるというのを実感したんです。最初は、A Bathing ApeとかSupremeとか、かっこいい人が着てるから着てみよっかな、みたいなかんじで、それが僕のファッションの原体験ですね。

石井:私は今までダサいって人に言われたことはない気がするんだけど、過去を振り返って思い出してみると、結構恥ずかしくなる。高校生のときはBgirlブームで、Tommy Girlとかを堂々と着てたな……。

恩地:リナさん、マジでおしゃれですもんね。

石井:いえいえ……でもファッションはすごく好き。最近、所得が許す限りは洋服を買おうと思って。もちろん大切にすることを前提にね。「UNION」の編集長をしている、百々千春さんていうスタイリストの方が5年くらい前にやってたGINGER ALEっていうブランドがあって、お洒落で可愛かったんだけど数年でなくなってしまって。

買うことってリスペクトだと思うし、服を選ぶ時って「これを着る未来」を想像することでもあるから、それって健全な希望だよなあとも思う。

石井リナさんと恩地さん

恩地:僕はそこまで考えずに身につけてるかも(笑)。ファストファッションは好きじゃないし、ブランドはこういうふうに成り立ってて、いろんな厳しさや思いを抱えながら形になるってことを伝えたいんです。作り手へのリスペクトが足らないというか、デザインをパクって売ってる安い服に満足するのってかっこわるいよ、と伝えたい。

石井:ファッションは好きだけど、ビジネスとしてはめちゃめちゃコストがかかるよね。今の時代にファッションをビジネスとして成り立たせるのって、本当に難しいことじゃない?

恩地:長期的な目で見るしかないと思っています。数年で育つものじゃない。微量でもいいからちゃんと売り続けるとか、ブランドとしての思想や哲学が、少しずつ広がっていくことを大事にしたい。ITに比べると洋服は絶対に原価がかかるし、作ったものしか売れないし、基本的には在庫を持たないといけない。こんな難しいことなんでやってるんだ! ってたまに思うんですけどね(笑)。もちろん受注ベースでやっているブランドとか、デジタルを駆使したD2Cブランドとか、様々な形で新しいブランドが生まれているけど、それらが全てのブランドに当てはまるやり方ではないと思っていて。

石井:そのあたり、もっと詳しく教えてほしいな。

恩地:アパレルブランドってキャッシュフローが難しいんです。特に、デザイナーが個人でやっているような小さなブランドが有名になりはじめて、急にオーダーがたくさんつきはじめるタイミングが実は一番難しい。実際に洋服が売り場に並ぶまで、工場→ブランド→お店という具合に物が動くんですけど、お店からブランドへお金が入る一カ月前に、ブランドから工場へ先にお金を払わなきゃいけないんですよ。一時的にですけど数百万単位のお金をデザイナー個人が負担することになる。そんな金額いきなり払えないじゃないですか。お金を借りようにもなかなか集まらないし、工場に対する支払いが遅れると納品が遅れてお店に並ぶのが遅くなって……そうするとシーズン立ち上がりの一番良い時期を逃すので、なかなか商品が売れずにブランドが衰退してゆくんです。もっと言うとお店がお金を払ってくれないとか、入金が遅れちゃいますとかのリスクまで背負わないといけないケースだってあります。

そこを資金や人的なリソースで支援して、ブランドをもっとスケールアップしていきたいっていうのが、僕らの会社のミッションなんですよ。

デザイナーの持つイメージをそのままインスタに反映させることが、ブランドにとって最善ではない

石井:日本人はロゴが好きだからか、ストリートシーンとあまり紐づいていない、ロゴが先行しているブランドもあったりするよね。

恩地:そういうのもブランドだし、僕らがやってるのもブランドだし。そもそもブランドってなんなんでしょうね。極論ですが、ファッションブランドって究極の“詐欺ビジネス”だと思ってます。ラグジュアリーブランドは、生産自体は定価の10%以下で行われていたりもします。広告費とかファッションショーとか、いろんなコストをかけて「信じさせる」ということがブランドなんですよね。僕らはまだそういうフェーズではないし、適正な価格で売っていますが、高価だとしてもそこにお客さんが納得して、喜びを感じて、そして買ってくれるものこそがブランドなのでは、と思っています。

石井:なるほどなー、それは難しいよね。ブランドをつくる上でインスタグラムの影響は大きいし、環境もどんどん変わっている気がするんだけど、実感としてはどう?

恩地:もはやインスタで全てが決まる、と言っても過言ではないですよね。バイヤーもインスタを見て仕入れを決めて、そのままDMで連絡取り合ったりします。みんなずっとチェックしてるんじゃないかな。少なくとも僕は1日2時間はインスタひらいてますよ(笑)。

石井:恩地くんはインスタを運用するときに、どういうことを考えているの?

恩地:ブランドのアカウントの運用に関して言えば、デザイナーの持っているイメージや世界観をそのままインスタに反映させるのが、ブランドにとって一番良いわけではない、ということですかね。インスタのセオリーってあるじゃないですか。色とか構図とか。ある程度そこに合わせなくちゃいけない。でも、それはデザイナーの理想とは少しズレがあったりして、そこが難しいところです。

100%コミットしてもできるかわからない、ファッションビジネスへの挑戦 石井リナ×恩地祥博

石井:まさに、ビジネスとクリエイティブがぶつかる部分だ。

恩地:そうなんです。いま、セレクトショップで売るのもすごく難しいんですよ。もちろんお店もビジネスとして売れるもの優先になるので、ショップに固有の提案がなくなってきているんです。最近だとお店が手がけるオリジナルブランドだって普通になってきてますし。正直、誰でもブランドが作れる時代ですから。そうなってくると、新しい提案をしたいブランドってなかなか流通しなくなってしまう。ただ、そもそもショップでのオーダー数を気にしてナーバスになる必要はないんですよね。うまくいかないときに新しい一歩を踏めるかどうかってことが大切で。

石井:すごくいいマインドだね。

恩地:僕はもちろん数字が伸びたらハッピーですが、ぶっちゃけ数字が落ちても大して落ち込みません。落ちるときにはみんなが「ヤバイ」って分かるから、大きな変化をもたらす判断ができる。今は直接お客さんに売ることができるし、そこを強化していかなきゃいけないんですよね。お店に依存していると、2年後にはもうブランドがない、みたいなことさえ現実にありえるので。

100%コミットしてもできるかわからない、ファッションビジネスへの挑戦 石井リナ×恩地祥博

石井:今ってユニクロなどのファストファッションが好調だけど、一方でラグジュアリーブランドも最高益を出してたりして、中間層がどんどん苦しくなっているよね。そういう中で、ブランドをやり続ける意味とか価値ってどういうふうに考えてる?

恩地:悩みまくってますけど、感情的なものが一番の理由です。ほんとにめちゃくちゃ夢のある事業だし、僕はめちゃくちゃブルーオーシャンだと思っています。ドライに考えたらファッションブランドじゃないほうが稼げる。だけど、僕は大学に入った時から「日本のLVMHを作りたい」って考えてきました。その当時思い描いてたやり方はもう古くなってしまっているし、常に新しいやり方を柔軟に考えなければいけないし、自分が若いからこそ、思い切って挑戦していきたい。そこをできる人は他にいないと思っているので、挑戦ですね。

石井:恩地くんは、冷静と情熱を併せ持ったマインドがすごいよね。他の業界の友人は、アジアを見ないとグローバルに行けないって話してて、日本だけが取り残されている感覚がある。グローバルを見るのも一つの手かもしれない。

恩地:アジアのマーケットを取りたいってのはもちろんありますね。中国もインドネシアもベトナムも興味があります。インドネシアでは、いま35歳以下の人が60%とかですよ。所得も上がってるし、ファッションに対する興味が増えてきてるので、そういうところを狙うべきかな。そして、なんだかんだ言って心の支えになってるのが、sacaiやTOGAというブランドの存在です。20年続けてきて、あの規模にまで成長しているわけだから、僕にはまだ10年以上ある。ブランドとして成功したよねって言われたいじゃないですか。まだまだやれることたくさんあるし、それを心の支えにしています。

石井:私もやりたいことたくさんあって、一つ一つ形にしていこうと思っているところだから勇気付けられるな。

恩地:100パーセントでコミットしてもできるかどうかわからない。そういう世界の中で自分がトップとしてやっていくのって覚悟も挑戦も必要ですよね。お互いがんばりましょう!

100%コミットしてもできるかわからない、ファッションビジネスへの挑戦 石井リナ×恩地祥博

編集後記

SNSの登場とファストファッションの台頭によって、ファッション・シーンは大きな変革を遂げている。2019年に入り、LVMHグループを筆頭にしたラグジュアリーブランドと、ファストファッションがどちらも伸び、中間層が苦戦している状況だ。しかし、その中間層にこそ多様な生態系が生まれ、様々なブランドが独自の創造性を発揮し少なからぬ人々が支持している。恩地祥博が言うように、ビジネスとしてファッションを成立させることは難しい。しかし、それでも彼ら二人が語る言葉が熱を帯びるのは、ファッションに対する愛があるから。若き社長の言葉の端々には、冷静なビジネス視点とブランドをつくることへの情熱があふれていた。経済合理性から逸れた道の先には、多様な価値観を内包する豊かな社会の姿がきっとある。

(文/長嶋太陽、撮影/なかむらしんたろう)

会社員を辞めて知った、生みの苦しみと喜び 石井リナ×foxco

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