LONG LIFE DESIGN

ロングライフデザインの10か条(後編) ファンになりたいと思えるメーカー

 

デザイン活動家でD&DEPARTMENT代表・ナガオカケンメイさんのコラムです。「崎陽軒のシウマイ弁当」「野田琺瑯のポット」「みかん収穫用のカゴ」。これらに共通することは――。

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前回、僕の店、D&DEPARTMENTが扱う「ロングライフデザイン」のルールのような10か条について、その前半にあたる1から5までを紹介しました。1に、修理して使い続けられること。2に、価格が適正であること。3は、意思がある売り場で買う。意思がある売り場との関係があること。4は、メーカーに愛があること。そして5は、使いやすいこと、最新機能を売りにしていないこと、としてきました。今回はその後半の6から10をご紹介します。

写真はすべてナガオカケンメイさん提供

写真はすべてナガオカケンメイさん提供

D&DEPARTMENT は現在、国内に9店舗、国外に2店舗あります。その土地に長く続いている生活用品を紹介、販売しています。写真は韓国ソウル店の様子。昔から住んでいる人たちにとっては当たり前になっているものも、デザインセンスを盛り込んだ見せ方により、普遍の価値観として興味を持ってもらえます。

ロングライフデザインの10か条(後編) ファンになりたいと思えるメーカー

同じく韓国ソウル店で先日開催した、お客さんに参加を呼びかけた商品選定会。それぞれにあらかじめロングライフデザインの10か条を伝えた上で、お客さんが自分の土地らしいと思えるロングライフデザインをスタッフを含めた参加者みんなにプレゼンテーションしました。

6.安全・安心であること

これは言うまでもありませんね。とはいえ、世の中の安全への関心は多方面に広がっています。一般的な常識では考えられないような使い方によるケガなどについても、メーカーは気にしなければならなくなりました。僕は、ここが行き過ぎると、ものづくりがどんどんつまらなくなっていくと考えていて、危惧しています。

もちろん、危険なものは困ります。しかし、使う側がもう少し、気をつけることで、つまり、危険について関心を持つことで、少しユニークな生活道具の道は開けていきます。昨今のパッケージの過剰さも、もちろん、そういった使い手との意識の壁によるものとも言えます。安全に越したことはもちろんありませんが、昔の自動車が美しかったように(ポルシェなどの車が安全性を考慮してフロントバンパー部分をより長くするなどの、実現したいデザインと関係ない造作がプラスされている)作り手と使い手の両者の歩み寄りによって、ものづくりは「危険回避」思考だけの未来から、楽しい挑戦的なものへの可能性が開けます。

なので、ここで言う「安心・安全」は、D&DEPARTMENTにとっては、「ちゃんと遊び心もある」「美しさを忘れていない」ということをしっかり考慮したものと考えています。

ロングライフデザインの10か条(後編) ファンになりたいと思えるメーカー

 

ロングライフデザインの10か条(後編) ファンになりたいと思えるメーカー

車が好きなので、例えが若干、妙ですがお許しください。どちらもポルシェですが、上は993という型式で1993年から販売されていたものです。この二つの写真で見て欲しいのは、衝突した際などの安全性を増すために全体的に大きくなってしまった点。そして、車の先、バンパーの付近も、あえて無理をして伸ばしています。昔の車は可愛かったと思いませんか? 今のような安全性を高めた結果が一つ、デザインに影響しています。この993も「ポルシェを着る」と言われていました。それくらい室内空間がフィット(まぁ、狭いのです)していたと言えます。この章のうまい説明資料にはなっていないことは承知していますが、世の中のデザインは「安全性」を増せば増すほど、同じ形になっていくという感じを知ってもらいたく掲載します。

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もう一つ、極端な例です。これは岐阜県美濃地方で昔、輸出用に、限りなく軽い焼き物を作っていました。その当時のものが今も作られています。これは丸直製陶所のもので、薄すぎて透けることから、茶碗(わん)の底に芸者さんなどの彫り物をして、海外で人気の日本製土産として多く輸出していました。「極端」と前置きしたのは、これに熱いお茶を入れると熱くて持てません。ある意味、危険とも言え、もし、これをそう騒ぐ人が現れたら、製造を続けられなくなり、結果、この地方に伝え続けられる物語が途切れることになります。安全が全ていいとは僕は思いません。中には「風情」として危険を避けながら、味わうものもあるということです。丸直さん、変な例えに出してすみません!!

7.計画的に生産されていること

かれこれ20年前のこと。覚えていますか? 東京を中心にカフェブームが起こりました。20年後の今のようにです。駒沢公園の横にある「バワリー・キッチン」が震源元。朝4時までの営業で、ずっと長い行列ができていました。その後、ブームは去り、落ち着いたと同時に有名カフェがバタバタと店じまいをしました。原因は行列するお客を少しでも取り込もうと規模を拡大したり、キッチン設備を拡張したのです。これは生活用品の製造にも言えます。つまり計画的、自分の意思によるペースかどうか、ということです。

有名な話ですが、工芸デザイナー・森正洋さんの代表作で、長崎県の波佐見焼で作られる「G型醬油さし」はロングセラーの代名詞。どんなにヒットしても月の生産数を変えません。工場で働く人などを増やさず、長く作り続けたいために、ヒット中も、その計画生産を貫いたのです。つまり欲しい人に待ってもらったわけです。

人気のお蕎麦(そば)やさんは大抵「麺がなくなったら終了」です。この自分のペースを貫くことこそ、長く続けるための秘訣(ひけつ)。最近の観光に沸く京都やオリンピックを控えた東京などに見るホテル建設ラッシュも、そういう観点で見ると、やや不安がちらつきます。都市を、生活を長く素敵(すてき)に自分らしく続けるなら、自分のペースをしっかり意識した上で規則正しいことが、大切です。

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川越に行くと必ず立ち寄る超人気店「真打」。武蔵野うどんの代表選手です。ネットで検索する店の情報にもありますが、ここも「麺がなくなったら終了」と書かれています。自信を持って作れる量、質、そして人間力のバランスが提供できる「量」や「値段」となって表されていると言えますね。良心的なのは「予約」ができること。みんなに愛されるわけがわかります。週末は駐車場に入る車でちょっとした渋滞が起こるほど人気です。

うどんの話から少しそれますが、「待って買う」「予約して買う」って、実は製造側への負担を減らすことでもあります。売れるか売れないかわからない在庫を抱え、ひとまず量産したものが、結果、服ならばセールとなりばらまかれ、残ったものは廃棄。つまり、ゴミです。これからますます、受注生産、計画生産の時代になっていくでしょう。24時間営業なんかも、いま一度、みんなで考える必要がありますね。

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ロングライフデザインの代表選手なので、いろんなところで登場しています。写真右がG型醤油さしです。計画生産がしっかりなされたから、今に残り、絶妙な品薄感から貴重に販売されています。余談ですが、この商品は多くのコピー品を生んでしまいました。それほどによくできた生活道具と言えます。100円ショップでも似たものが売られていますが、G型醬油さしとは100パーセント違うものです。ご注意ください。

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待って買うことを考えた時、僕は真っ先にこの石川県金沢市のガラス作家、辻和美さんの「めんちょこ」を思い出します。ロングライフデザインなものには、金型などで作る量産品と、このグラスのように型を使わないものがあります。金沢21世紀美術館の近くにある辻さんの店「factory zoomer / shop」では、辻さんの商品を一堂に見ることができ、そこで買うことができます。しかし、手元に届けられるのは大体1年後。アートピースのような美しさがあり、1万円を切る値段。そんなグラスを1年待って買ってみませんか。これは計画生産というよりも「頼まれなかったら、作らない」ということでもあります。必要な時、必要な人に、必要な分だけ作る。なんて潔いのでしょう。ここにもロングライフデザインのヒントがありますね。

8.使う側が商品以外の関心を持てるか

これは簡単に言えば「ファン」になりたいと思える状態になっているかということです。商品を作るだけなら、ファンは生まれません。ファンは商品もそうですが、商品以外の様々な作り手の工夫や意識によって雲のようにわき立ち、現れます。広告代理店による計算されたキャンペーンやイベントなどによるものは、お金を投じ続ければ続きます。そうして立ち上がる想(おも)いの炎もいいのですが、やはり、長くそうした商品への想いを感じ取るには、前半の項目四つ目の「メーカーに愛があること」と一緒ですが、メーカー側がその想いを継続し続け、発信し続けるスタイルを考えなくてはなりません。つまり、かなりマメにケアし続けられるかということになるでしょう。

私たち生活者は、もはや、よくできた広告コピーなどにはだまされません。同じ使用者の声を聞き、評判を確かめることが簡単に、そして正確にできるようになってきたからです。そうなるとメーカーの誠実さと、生活者の広く長く想う心が重要となり、その間に何をするかが、商品以上に重要になってきます。「あの商品を手に入れると、継続したあの気持ちや、関係性も手に入れられる」とすることが重要でしょう。

ロングライフデザインの10か条(後編) ファンになりたいと思えるメーカー

「北海道の翼」とのキャッチフレーズで元気な「エア・ドゥ」の紙コップ。北海道を起点に創作をするデザイナーの佐々木信さん率いる「3KG」による人気のキャラクター「ベア・ドゥ」です。エア・ドゥの主となる商品はもちろん飛行機による旅客業。ただ空港から空港へお客さんを運んでいても良いのですが、こうした洒落(しゃれ)た気持ち、余裕を持っていることは、このブランド、企業に親近感を持たせることができます。サービス提供者とユーザーの間をこうしたユニークなアイデアで繋(つな)げられる企業って、本当にファンになってしまいます。これは一種の「長くお付き合いくださいね」という自己アピールとも言えるでしょう。単純に目的地へ乗せて運ぶ以上に、単なる飲み物を提供する以上に、個性を伝えるコミュニケーションを大切にする。素敵です。

ロングライフデザインの10か条(後編) ファンになりたいと思えるメーカー

鹿児島市にある天文館というエリアの鹿児島三越跡地に2010年4月に誕生した百貨店「マルヤガーデンズ」。鹿児島の働く女性を牽引して、先日、60歳の若さで亡くなられた玉川恵さんの力作とも言えるこの百貨店の外壁にご注目。建築家の竹内昌義(みかんぐみ)によるリノベーションとともに、この規模の壁面緑化は全国の先駆けとなり、見事に完成しています。

「地域住民に開かれた」的な言葉は最近、よく耳にしますが、これも一つの街とのコミュニケーション。百貨店と街、住人との間を「緑」で結びつけていると言えます。百貨店という築物を建て、様々なサービスを提供することも、地域の人にとっては重要なことですが、そこに、こうしたアイデアとそれを実行するイキな感性があることで、ファン心が芽生えます。年間に大変な手間と苦労によりメンテナンスされていることを思うと、応援したくなる存在になっていることはよくわかります。

9.環境に配慮されているか

これも「安全」の項目のところと同じく、当たり前ですね。しかし、これは昔ならば「自然環境」のことでした。それは今も大切なポイントです。そして現代の今、この「環境」の中に様々なことが入ってきました。例えば「労働環境」。タオルを作るのに綿花を栽培する。農薬を散布することで収穫の効率は上がりますが、大気や地面に農薬が影響を与える。ここに、地元農家が雇う、綿花を摘み取る人たちがいて、硬いトゲがケガにつながり、そこから農薬が傷口に……。ということなどや、小学生にも満たない児童労働の問題も、配慮すべき大切な「環境」となってきています。

先日、カセットコンロを作る工場を見学しに埼玉に行ってきました。「働いてくれる人が集まらない」という問題を言っていました。今や「高い賃金でも集まらない」とも。働く「環境」が重要視されていくことは、今後、ますます進むでしょう。自然環境への配慮。そして、働き手の環境の配慮……。そういうことに配慮されて生まれたものは、結果として人々に幸せをもたらし、自然も保たれる。作ればいい、売れればいいということではなくなってきている今、作ることも買うことも、何かと「環境」を意識しなくてはならない時代です。

ロングライフデザインの10か条(後編) ファンになりたいと思えるメーカー

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2010年9月から発売され、累計15万台のロングセラー商品、岩谷産業の「アモルフォ プレミアム」、僕も愛用しています。見学させていただいたのは、この工場です。この商品がロングセラーな理由は本当にたくさんあります。岩谷産業の主とする商品は「ボンベによるLPガス供給」ですが、その流れで「卓上コンロ」「カートリッジボンベ」を発案し、なおかつ「究極のカセットコンロを作る!!」という会社を挙げてのプロジェクト意識から誕生したもの。年間販売目標台数も、営業部もこの商品に関してはないのです。先ほどの「計画生産」というのがありましたが、これは無理をして売らない、けれど、究極を目指す、という考え。結果、ものすごいクオリティーのものが生まれ、それを欲しいという人が買っていく。素晴らしいものづくりです。

さて、環境への配慮の面でも素敵だったのでご紹介。この工場、夕方6時には終わりますが、集中力がとても必要な写真のセクションなどは、3時間ごとに休憩が設定されていました。働いている人の環境も「配慮すべき環境」です。過酷な労働は、結果、健康的な製品を生みませんし、何より「長くつづく」ことがむずかしくなります。案内してくださった担当の方によると、これからはもっともっと「楽しく」「無理なく」「短時間に」が働く環境の健全性、そして、製品の健全性に重要になってくるとのこと。もはや「環境への配慮」の環境は、「自然環境」だけではなくなっています。

10.形が美しいこと

デザイナーが集まる講演に呼ばれると、いつも僕はこの10か条を説明し、最後に「形が美しいこと」と締めくくります。デザイナーの多くは、おおよそ生活者の普段を知らず、デスクのパソコンと、依頼者の資料、注文条件などから形を作り出していると言えます。10か条の話をしてきましたが、デザイナーの多くは最後の10に注力していることが多いのです。なので、形以外の九つのことも、大切に考えようね、と呼びかけます。最終的に「美しく」なければいけないとは言いませんが、長く使っていくには、どこか美しさ、理にかなった形、バランスなどがあるでしょう。「用の美」という言葉がありますが、優れた機能性を追求していくと、自然と美しい形が現れる。そんなことも言われています。

さて、10はいわゆる「デザイン」のことですが、そのデザインの意味が変わってきています。そして、この10か条に書いた全てをのみ込んできています。つまり、デザインとは形のことだけでは、ますますなくなりつつあります。環境やユーザーへの配慮のないものは、デザインとは言わなくなってきたりもします。これはとてもいいことだと僕は思います。そして、この10か条を2000年に考え、ずっとこれまでショップで取り扱う商品の選定の基準として使ってきました。先ほども書きましたがデザインの意味はじわじわと変わってきていて、造形的な、奇抜で華を求められる世界のことよりも、社会的なことを包括するように成長してきました。生活をしっかり営むという意識の人たちが増えているとも言えるでしょう。

時代はますます、デザインはロングライフデザインになっていく。そんな風にも言えると思います。

同時に、デザインはより自由度を増すと思います。すでにそうなっているとも言えますが……。昔、ファッションとは「服」のことを指しました。しかし、今は多くのことに使われています。それと同じです。

そこで僕らD&DEPARTMENTも、形式ばった10か条では、未来の「デザイン」を表現できず、また、ここで凝り固めてしまうことへの懸念も感じ始めてきました。

前回、今回と少し気難しい話になっていますが、なんとか次回でそれらは終え、具体的な楽しい話ができたらと思っています。ということで、次回はなんと「10か条改め、4か条へ」です。明確な10のルールが、曖昧(あいまい)な四つに変貌(へんぼう)していく感じ、その理由をお話ししたいと思います。お楽しみに。

ロングライフデザインの10か条(後編) ファンになりたいと思えるメーカー

ロングライフデザインの10か条(後編) ファンになりたいと思えるメーカー

ロングライフデザインの10か条(後編) ファンになりたいと思えるメーカー

究極の美しさを求め、世界中のデザイナーがそこに挑んでいます。その究極のゴールは「自然」だと言われています。何億年にわたる生態系による、また、宇宙の摂理からくる条件を満たす形、仕組みは人間の力では到底生み出せません。その美しさは夕日に感動したり、海辺の波際に癒やされたりすること。日本でも「民藝」という運動がありました。生活の中で必然として改良を続けた結果、あぶり出しのように浮き出てくる形に「美」を見出そうというものです。三つの写真のものをそうした観点でいま一度、見てください。

一番上は横浜・崎陽軒のシウマイ弁当。次は月兎ブランドの野田琺瑯のポット。最後はみかん収穫用のカゴ。どれも改良に改良を重ねた結果の形があります。無理がないのです。

新幹線のデザインの半分以上は、想定しているスピードを実現するための空力実験から出てくると聞いたことがあります。人間のデザインは最後の最後。この10か条の最後だと、思います。9か条をクリアした結果、浮き彫りになる形を人間が最後に整える行為が、実は「デザイン」なのだと思います。

PROFILE

ナガオカケンメイ

デザイン活動家・D&DEPARTMENTディレクター
その土地に長く続くもの、ことを紹介するストア「D&DEPARTMENT」(北海道・埼玉・東京・富山・山梨・静岡・京都・鹿児島・沖縄・韓国ソウル・中国黄山)、常に47都道府県をテーマとする日本初の日本物産MUSEUM「d47MUSEUM」(渋谷ヒカリエ8F)、その土地らしさを持つ場所だけを2ヶ月住んで取材していく文化観光誌「d design travel」など、すでに世の中に生まれ、長く愛されているものを「デザイン」と位置づけていく活動をしています。’13年毎日デザイン賞受賞。毎週火曜夜にはメールマガジン「ナガオカケンメイのメール」www.nagaokakenmei.comを配信中。

ロングライフデザインの10か条(前編) ナガオカケンメイ「定価には意味がある」

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デザインはデザイン業界側から見ない方が健やかである。

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