今求められているのは自分にとってよいコスメ。晋遊舎の広告を一切入れない雑誌づくり

広告を入れない雑誌があることをご存じだろうか。ユーザー目線でテストを繰り返し、その結果に基づいた商品批評をする「MONOQLO」「家電批評」など、株式会社晋遊舎が発行する雑誌たちだ。

コンビニや書店で並んでいるが、その中には、企業からお金をもらったPR記事は一切ない。ハイブランドの商品から、ドラッグストアの隅でひっそり売られている商品までを全て横並びに検証をしていくことで、ユーザーにとって本当に価値のある混じり気のない情報のみを発信してきた。

さらに、同社が“良いモノ”だと独自に認めた製品に対しては、企業にそのことを示す認証マークの使用を許可するビジネスも行っている。

同社は、2018年からテスト誌創刊10周年記念事業として、各媒体の“検証精度”を極限まで上げることを目的とした「LAB.360プロジェクト」をスタート。社員として研究員2人を外部検証機関より招き、2019年2月28日に、社内に独自のテスト施設である専用ラボ「LAB.360(ラボドットサンロクマル)」を開設した。

晋遊舎のラボ

晋遊舎の社内に設けられたLAB.360(ラボドットサンロクマル)=晋遊舎提供

同社の雑誌はこれまで、家電やお金・暮らしに特化してきたが、最近、ダントツで伸び率が高いのは「コスメ部門」だという。

実際に読んでみて驚いた。普通コスメ雑誌というのは特集企画であっても有名メーカーの新作や定番商品がズラリと並ぶのに対し、晋遊舎のビューティー雑誌『LDK the Beauty』にはまったく無名の商品がわんさか出てくる。しかも高評価(ベストバイ)なのは大抵こういった商品なのだ。思わず自身が使っている化粧品を片っ端から探してみたが、最近奮発して買った化粧品が700円の商品よりもテスト結果が悪かったことに愕然とした。あんなに他のコスメ雑誌やSNS広告ではべた褒めされていたのに……。

「買い物はエンタメであるべきだ」、そう語るのは、晋遊舎代表取締役の西尾崇彦さん。

なぜラボを作ったのか、広告のない雑誌で収益はどのようにあげているのか。今回は西尾さんに加え、編集局の木村大介さん、ラボ研究員の松下和矢さんにインタビューした。

商品を横並びで適正にテストすることで本来のスペックを洗い出す

――これまで家電やお金など、暮らしに関する雑誌が多かった印象がありますが、なぜコスメをやろうと思ったのでしょうか。

西尾 実は、数あるジャンルの中でもコスメ・ビューティーというのは、ユーザーの購入基準が「価格」ではなく「商品の性能」である代表格なんです。

そのため、雑誌もwebも様々な専門メディアがありますが、その全てが広告と付録で成り立っている状況でした逆を言えば、弊社が今までやってきた「広告を一切出さない」というモデルがないので、乱立するコスメジャンルに入り込む余地があるということです。そういったところから、LDKビューティーの制作に踏み出しました。

――なぜ「広告なし」にこだわるのでしょうか。

木村 広告を出さない(=スポンサーがいない)からこそ、商品を同じ条件でテストし、読者にとって本当に良い情報を届けることができます。

そして、もうひとつの我々のコンセプトが「本気でものづくりをしているメーカーさんが作った“隠れた名品”を世に送り出す」というものです。

やはり大きいメーカーさんは、広告宣伝費を大量に投入することができるので、売り場ではいい場所を取るし、SNS広告もたくさん打てるし、とにかく露出がすごいので、皆そのコスメを知っている。でも、テストをしてみたら知名度が高い割には性能に大差がなく、金額に見合っていないものもたくさんあります。逆に、地方の小さなメーカーさんや、言い方が悪いかもしれませんがプロモーションが上手ではないメーカーさんの商品はどんなに良くてもなかなか認知度をあげることは難しい。どの商品でもあることですが、特にコスメそれが顕著なんですよね。

皆さん「知っているから買う」が王道じゃないですか。最近ネットでみるからとか、CMしてるとか、友達が使っているからとか……。でも、誰も知らないところに良いモノが隠れていることは少なくないんですよ。それってメーカーにもユーザーにも、すごくもったいないと思うんです。

――なるほど。広告がないからこそ、どんなメーカーさんの商品でも平等に、横一列で検証することができるということですね。

木村 はい。検証時の商品ラインナップに、売れ筋・ど定番の商品を入れるのはもちろんですが、その中で忖度してテスト結果を調整するなどはありえません。あまり話題にはならないけど長く売っている商品や、質実剛健なメーカーさんで面白いものがあるかもしれませんから、意識してそろえるようにしています。たまに全く有名じゃないものがずば抜けて良かったりすることがあります。

――どうしても少し高くて有名なものの方が良い気がしてしまいますが、そうとは限らないということですね……!

木村 以前、『LDKビューティー』でマスカラの企画をやったときに、ずば抜けて点数が高い商品がありました。でもまったく見たことがない商品で、聞いたらスタッフが「たまに店頭で見かけるけど使っている人は見たことがない」枠でいれたものだったんですね。よくよく調べてみると、それは「スヴェンソン」という育毛剤やかつらを作っているメーカーさんが作っているマスカラでした。その会社は、毛髪のことをものすごい研究していて、その延長線上で作った商品だった。レベルが高い訳だと納得しました。

これは後から聞いた話ですが、あまりにその商品が売れないので、販売の収束を図るために、『LDKビューティー』が発売される数日前には在庫を投げ売りする準備をしていたそうなんです。しかし、『LDKビューティー』でマスカラ部門1位と紹介されてから一気に商品が動き出し、急遽投げ売りセールは止めたとのことでした。

その後も、継続して売れ行きが良いそうなので、本当に良いものを世に紹介できたというのは、我々としてもとても存在意義を感じました。

そういう意味でも、コスメは非常におもしろいですね。まさに複雑怪奇です。

雑誌『LDK』と『LDKビューティー』(左)

雑誌『LDK』と『LDKビューティー』(左)

出版業界では型破りな広告ゼロ雑誌。マネタイズは紙・電子の売上げと認証マークの3本柱

――「広告なし」と聞いてまず気になったのがマネタイズ方法です。収益の内訳はどのようになっているのでしょうか。

西尾 現在は、紙書籍の売上げ・電子書籍の売上げ・ベストバイマーク(認証マーク)の3本柱ですね。最近ようやく三つが同じくらいのバランスになってきました。雑誌の売上げに関しては、正直紙だけでは相当厳しいですね。弊社の場合は電子書籍が強く、月刊誌でいえば、『モノクロ』『家電批評』『LDKビューティー』は日本の中で10本の指に入るくらいの収益をあげている媒体です。ですから電子書籍からの収益はとても大きいですね。ただ、やはり紙の媒体を出版していることでユーザーから得られる信頼は非常に厚いので、どちらもバランス良く大切にしていきたいです。

――ベストバイマーク(認証マーク)とは何でしょうか。

西尾 「LDKビューティーで1位をとりましたよ!」というマークの使用権のことです。商品にシールを張ったり、webや店頭でのポップに掲載したりと、全てのプロモーションにお使いいただけます。『LDKビューティー』の知名度が広がっているのと共に、ベストバイマークがあるだけで売れ行きが大分変わるようです。

――ベストバイマークだけで、雑誌の売上げと並ぶ利益があるんですね。

木村 ビューティーに関しては、この1年で相当メーカー側の認知度というか、対応がかなり変わりましたね。

コスメ業界には、ここまで客観的にテストをして結果を出しているメディアが今までなかったので、そこに対しての期待感は小売さんからもメーカーさんからも感じています。

企画はSNSからみつける。求められているのは、自分にとって良いコスメ

――『LDKビューティー』を読んで、企画がとにかくリアルな悩みに直結しているなと思いました。ファンデーションひとつとっても、カバー力だけでなく、薄付きでツヤ感のあるもの、とにかく汗に強いものなど……。企画はどのように考えているのでしょうか。

木村 なりたい肌って人それぞれなんですよね。もちろんまつげや、眉毛、リップだってそうです。そう考えたときに行き着いた答えは、みなさんに必要なのは「良いコスメ」ではなく、「自分にとって良いコスメ」ということでした。ですから企画を考える際はリアルな悩みというのを最も重要視しています。

まず最初にチェックするのはSNSの美容アカウントですね。今どういう話題が盛り上がっているのか? その話題の原因となるのはどんな悩み・不安があるのか? を洗い出し、それらを元にモニターさんを集めた座談会でリアルな意見を集め企画にしています。

自社内に専用ラボを開設した理由

――専用ラボはなぜ作ろうと思ったのでしょうか?

西尾 最初に案が出たのは2017年の12月でした。丁度『LDK』の露出が増えてきた頃で、テストの精度を高めたかったというのが一番の理由です。また、ラボの開設と共に、研究者として暮らしと生活に関わる商品テストに強い検証機関出身の二人に入っていただきました。その道のプロフェッショナルとして、以前から弊社のテストについて検証や取材で協力関係にあり、弊社の媒体の特性をよく知ってくれている方々なのでとても助かっています。

――ラボを作って感じている良い点を教えてください。

木村 テストのスピード感と正確な検証ができるようになったことですね。今までは、検証方法から編集部が考えたり、外部へ取材をした上でテストを行うことが多く、テストの前段階に時間をかけなくてはいけませんでした。しかし、ラボを作って研究者の2人に入社してもらってからは、テストの趣旨を伝えると最良な検証方法を考えてもらえ、万が一その検証方法がダメになった際に、代替案をすぐにだしてもらえるので、スピード感も精度も格段にあがりました。

――ラボと聞いたときにもっと固い場所かと思っていたら、とてもキレイでおしゃれで驚きました。ここにもこだわりがあるのでしょうか。

松下 ここで行う試験は全て、雑誌に載せるためのものです。つまり読者がワクワクするような写真が非常に大事です。もちろん試験方法は、業界の基準・方法に則したやり方というのが前提ですが、それだけでは見た目が正直地味で、読者にとって面白くないんですよね(笑)。

私達がつくるものは「正確なエンタメ」でありたいと思っています。読者が本当に知りたいのは、成分分析ではなく、あくまで「使ってみてどうだったか」です。

正直、私達のテストは理系の人からみたら突っ込みどころがあるかもしれません。本当に穴なく完璧にするなら、レポートや報告書のような形が一番です。でもそれだと、読む気にならないですよね(笑)。「読者目線」を第一に、的確でビジュアル的に映えるよう検証方法を試行錯誤しています

晋遊舎のラボ

晋遊舎の西尾崇彦社長(左)、ラボ研究員の松下和矢さん(中央)、編集局の木村大介さん

買い物はエンタメであるべき。作るべきなのはおもちゃ屋さんのチラシ

――これから買い物の方法も変わってきそうです。

西尾 本来、買い物はエンタメであって楽しいことなんです。

しかし、現代はモノが溢(あふ)れ、軽く検索しただけで似たような商品がたくさん出てくる。そのせいで、買い物は「楽しい」から「選ぶのが面倒」になっている気がします。

子供の頃、おもちゃ屋さんのチラシ見るのってすごく楽しかったですよね。あのくらいの品数が一番「選ぶこと」を楽しめるんですよ。

私達の使命は、増えすぎてしまった選択肢の中から、テストで本当にいいものを厳選して「おもちゃ屋さんのチラシ」をつくることだと思っています。

選択肢をもう少し狭めてあげることで、買い物本来の楽しさを取り戻していただきたいですね。

          ◆ 

取材後、ドラッグストアのコスメ売り場に寄ってみた。

目立つ棚や大きなポップは大手メーカーの商品が並び、そして少し隅の棚に目をやると、見たこともないものから、中学生のころから売っているものまで所狭しと並べられており、改めてコスメ商品の多さに驚く。確かにこの中から「自分にとって良い商品」を見つけるのは難しい。今までは口コミや広告を信じて、とりあえず買って試すを繰り返すしかなかったが、今はもうその必要はない。買い物を楽しみながら、最短ルートで自分のなりたい顔になれる、そんな時代が確実に近づいている。

(文・山城さくら、TOP画像・gettyimages)

山城さくら

ライター

地方で事務員として働いていたが、もっと好きなことに時間を使いたいと思い28歳で思い切って脱サラ。現在はフリーランスとして本業を決めず様々なジャンルにチャレンジしている。念願だった「憧れシティ東京」での暮らしをスタートさせつつ、週1のキャンプで都会暮らしと大自然を満喫中。

twitter:https://twitter.com/skrninjin?lang=ja

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