いしわたり淳治のWORD HUNT

指原莉乃、「結婚願望はある?」に対する素晴らしい返答

音楽バラエティー番組『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)で披露するロジカルな歌詞解説が話題の作詞家いしわたり淳治。この連載では、いしわたりが歌詞、本、テレビ番組、映画、広告コピーなどから気になるフレーズを毎月ピックアップし、論評していく。今月は次の5本。

 1 “日によります”(指原莉乃)
 2 “ロックンロール!”(内田裕也)
 3 “私は私に誓います”(ゼクシィCM)
 4 “パンケーキ食べたい”(夢屋まさる)
 5 “やばせばびです”(山瀬まみのモノマネをする人たち)

最後に日々の雑感をつづったコラムも。そちらもぜひ楽しんでいただきたい。

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いしわたり淳治 今気になる五つのフレーズ

“日によります”(指原莉乃)
平成の終わりとともにHKT48を卒業した指原莉乃さん。恋愛解禁になったことで、卒業にまつわるインタビューでも、よく「結婚願望はありますか?」と聞かれていた。それに対して彼女は「日によります」と答えていて、なんて素晴らしい返答だろうと思った。

普通、「ありますか?」という質問の答えは、「ある」か「ない」かである。百歩譲ってぼやかすとしても「まだ分かりません」みたいな感じだろう。でも、そんなぼやけた回答では面白くも何ともない。だからといって、「ある」と答えてしまったら「じゃあ、理想の結婚生活は?」みたいな面倒な話になるだろうし、「ない」と答えたら答えたで「どうしてないんですか? 過去に何かあったんですか」なんて、それはそれで込み入った話にもなっていく。

その点、「日によります」はすごい。「ある」とも「ない」とも言っていないし、話が変に長引かないし、そもそもその言葉自体がキャッチーだし、そして何より、回答としてかなり真理を突いている。

多くの独身女性の結婚願望は大なり小なり「日による」だろうし、逆に既婚女性に「結婚してよかったですか?」と聞いたとしても、多くの人の本音は「日による」なのではないだろうか。ぼやかしながらもキャッチーで真理を突いている。彼女のセンスの良さはこういうささいな一言の中にも隠れているのだなと感心した。

“ロックンロール!”(内田裕也)

先日、内田裕也さんがお亡くなりになった。内田裕也さんといえば、あの「ロックンロール!」というキメぜりふである。その言葉を彼が繰り返し唱え続けた本当の意味は私たちには知るよしもないけれど、ご本人の強い思いの込められた言葉なのだということはまっすぐに伝わってきた。

とはいえ、ある時から内田さんの「ロックンロール!」を聞くたびに、頭のどこかでは「話すたびに最後に“音楽のジャンル”を叫んでいるなあ」と妙に冷静に聞いている自分もいた。そしてその度に、例えば北島三郎さんが何か話したあとに「演歌!」と叫んだり、和田アキ子さんが「アッコに、おまかせー!」とピースを出した後に「リズム&ブルース!」と叫んだりする姿を空想して、ひとり心の中で面白がっていた。

でも、そう考えると、実際に声に出して叫んだときに様になる“音楽ジャンル”なんて、やっぱり「ロックンロール」以外にないんだなと改めて思い知らされる。「ロックンロール」という言葉自体が持つ特別な “パワー”。それを体現した人が内田裕也さんという人だったのかなとしみじみ思う。心からご冥福をお祈り致します。

“私は私に誓います”(ゼクシィCM)

結婚情報誌『ゼクシィ』の新しいCM。結婚式当日に式場に向かうまでの身支度の様子、控室での準備、式の本番と映像が移り変わり、その後ろで青葉市子さんが歌う「あなたと 幸せになることを 私は私に誓います」というフレーズが流れる。とても幸せそうなCMで、一見何もおかしなところはないのに、このCMを見るたび、何だか胸がざわざわする。

この違和感の正体は何なのだろうと考えた時、やはり「私は私に誓います」の部分にあるのではないかと思った。教会すなわち神様の前へこちらから出向いていって、「(神様ではなく)私は私に誓います」というのが、ちょっとびっくりというか、本当にこの女の子は幸せになれるのかな……と心配になってしまうのである。

私はSNSみたいなものは一切やっていなくて、それはひとえに「私の日常なんかに誰も興味ないでしょうに」という理由に他ならず、もし仮に興味のある物好きな人がいらっしゃったとしても、私の気分次第ででたらめに移ろう発言なんかにその人の貴重な時間を費やして頂くことがこの上なく申し訳ない、と思ってしまう。この連載の最後のちょっとしたコラム部分ですら、毎回何を書いたらいいのか悩んでいるほどである。そんな調子なので、周りにいる毎日SNSを楽しげにやっている人たちのことを、どこか宇宙人を見るような感覚で眺めている。

そんな、自己承認欲求高めの、自分をいちばんに大切にする傾向の強い今の時代に、この「私は私に誓います」という言葉はとても合っていると思うし、広告コピーとしても美しいと思う。でも、さすがにそれを神様の前で言うのは……マナー違反じゃない? もし天使たちがSNSをやっていたら炎上騒ぎになっているのでは?

“パンケーキ食べたい”(夢屋まさる)

そういえば去年はお笑い系の流行語が少なかったんだよなあと思って、今年は現時点で何かお笑い系で流行している言葉はあるのかしらと考えてみたのだけれど、現時点ではまだ爆発的に流行しているものはないように思う。つい数年前までは流行語といえば、当たり前のようにお笑い芸人のフレーズがばんばん選ばれていたのに、いったいどうなってしまったのだろう。

それでも何もないかと言うと、そんなことはない。個人的によく使っているのは夢屋まさるさんの「パンケーキ食べたい」じゃないかなと思う。このフレーズの何が面白いんだか……はさておいて、この言葉はものすごく使い勝手が良いと思う。

誰かに「何食べる?」「何食べに行く?」と質問したり、されたりする機会は思いの外多い。そのたびに頭の中で「パンケーキ食べたい」のメロディーが流れる。大人になると自分の食べたいものを皆にゴリ押しするのはすこし気が引ける。でも、ものすごく食べたいものがあって、譲りたくない気分の時もある。そんなとき、笑いながら「やーきにーく食べたい」なんて歌い続けながらポップにゴリ押しする、というのはある種の平和的な解決なのではないかしらと個人的に思っているのだけど、どうでしょう。まあ、その人のキャラによるところは多分にあると思いますが。

“やばせばびです”(山瀬まみのモノマネをする人たち)

口を大きく開けるとのどにのどちんこがぶら下がっている。これを正式には口蓋垂(こうがいすい)というらしい。口蓋垂の役割は二つある。一つは食べ物が鼻に抜けないようにすること、もう一つは言葉をうまく発音するためなのだそうである。

発音における口蓋垂の役割を簡単に説明すると、例えば「ぱぴぷぺぽ」といった音は口蓋垂が上がったまま発音するので、鼻をつまんでも奇麗に「ぱぴぷぺぽ」と発音できる。しかし「まみむめも」のような音は、口蓋垂を下げて音を鼻の方へ抜くことで発音するので、鼻をつまむと音がこもって「ばびぶべぼ」に近づいてしまう。つまり、鼻をつまむと「パパ」は言えても、「ママ」はうまく言えずに「ババ」に近くなるということである。

この話を聞いたとき、皆が山瀬まみさんのモノマネをするときの「やばせばびです」という、あのせりふが頭をよぎった。そうか、あの「やばせばびです」は、口蓋垂と鼻づまりの関係によって生まれたのかもしれない、と。もしそうだとしたら、それはつまり、もし山瀬まみさんが口蓋垂を上げたままで発音できる音だけの名前、例えば「ささきさや」とかだったとしたら、あの名作(?)モノマネはこの世に存在しなかったということなのである。いや、だからどうということもない。ただ、ふと、そう思ったのである。

《mini column》またひとつ消えていく

自分がよく買っていた商品が生産を終了したり、近所の店が仕入れなくなったりするということが、いつの頃からか増えた。それはつまり世間の好みと自分の好みがだんだんズレて来ているということに他ならず、自分の職業柄、あまりよろしくないことなのではないかと、物がひとつまたひとつ消えていく度、地味に嫌な気分になっていた。

そんな話を友人としていて、「昨日もさあ、いつも買ってたキムチが店から消えてたんだよ。この前は梅干しが消えたし、その前はソバが消えたし、その前はノリが消えたし……」と言ったところで、友人に「っていうかさあ、買ってるの、ジジイの食べ物ばっかりじゃない?」とつっこまれて、「たしかに!」と爆笑してしまった。

まだ若いくせにやけに年寄りみたいな食べ物を好むから、その食べ物におけるメインターゲットのお年寄りのニーズからはちょっと外れた、ニッチな味わいのものを私は選びがちなのだろう。そりゃあ店からも消えていくわけである。と思ったら、なんだか妙に合点がいって、今後もう何が消えてももう怖くない気がしてきた。ちなみに最近は、シイタケにハマって、あらゆる料理に入れて食べている。シイタケ最強説。舌の高齢化が止まらないこのごろである。

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PROFILE

いしわたり淳治

1997年、ロックバンドSUPERCARのメンバーとしてデビュー。全曲の作詞とギターを担当。2005年のバンド解散後は、作詞家としてSuperfly、SMAP、関ジャニ∞、布袋寅泰、今井美樹、JUJU、少女時代、私立恵比寿中学などに歌詞を提供するほか、チャットモンチー、9mm Parabellum Bullet、flumpool、ねごと、NICO Touches the Walls、GLIM SPANKYなどをプロデュース。現在オンエア中のコカ・コーラCM曲「世界はあなたに笑いかけている」(Little Glee Monster)や、情報番組『スッキリ』(日本テレビ系)のエンディングテーマ曲「Electric Kiss」(EXO)の作詞も担当するなど、さまざまな音楽ジャンルを横断しながら通算600曲以上の楽曲を手掛ける。

あいみょん、ポップとディープの境界を軽やかに飛び越える抜群のバランス感覚

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