つくりびと

畳の新たなブームとなるか、畳雑貨で楽しむ経年変化 松葉畳店・伊藤知美さん

はるか昔の日本で生まれ、現在も親しまれる畳。外国から伝来し、姿形を変えて育つ文化も多い中、畳は日本固有のものといえよう。ところが、畳を生産する農家は年々減り、現在、国内で流通している約8割が中国産。まさに今、日本の文化に危機が訪れている。

そんな中、静岡県焼津市にある「松葉畳店」による畳を使った雑貨が、若い世代を中心にじわじわと人気を集めている。

天然素材の持つ心地よさを生活雑貨で提案する

天然素材が持つ心地よさを生活雑貨で提案する

手がけているのは、「松葉畳店」創業者の三女で雑貨部門を担当する伊藤知美さんだ。畳をアレンジして作るブックカバーやポーチ、バッグといったアイテムは、有名セレクトショップや百貨店からもオファーが。新たな畳のブームを予感させる畳雑貨への思いを聞いた。

い草を使った雑貨の企画からデザイン、製造、販売まで行う松葉畳店の伊藤知美さん

い草を使った雑貨の企画からデザイン、製造、販売まで行う松葉畳店の伊藤知美さん

“古臭い”から“かっこいい”に変えたい

静岡県焼津市にある松葉畳店

静岡県焼津市にある松葉畳店

伊藤さんの父で、会社勤めだった松葉榮さんが脱サラをして静岡市内の老舗畳店で5年間修業、その後1977年に創業した「松葉畳店」。榮さんの三女として生まれた知美さんは、商業高校卒業後、県内の建設会社や靴メーカーでの勤務を経て、ワーキングホリデーでニュージーランドへ。帰国後は、不動産会社に勤めながら結婚や出産などを経験。“畳の道”に進むことなく、社会人生活を送っていたという。

「畳が一般的に不人気なのは、当然認識していました。不動産会社で働いていたとき、和室をフローリングに変えると入室が決まることもあり……畳屋としては複雑な気持ちもありつつも、時代の流れ的に仕方ないなって。だって私自身も中学時代、親が家を増築する際、絶対に自分の部屋はフローリングがいいとお願いしたくらいですから(苦笑)。でも父は、勝手に和室のようなふすまをつけた。『私のイメージした洋間じゃない!』 と、すごく怒った記憶もあります」

松葉畳店では、国産・熊本のい草を使って畳を作る

松葉畳店では、国産・熊本のい草を使って畳を作る

それでも実家を離れて一人暮らしをする際、あえて和室の部屋に住んだり、結婚してからの賃貸住居にも父親にわざわざ畳を入れてもらったりと、畳への愛と思いは知美さんの中に自然に組み込まれていたという。

「畳の何が好きかと言われるとはっきりと答えられない。昔から身近にあることが当たり前だったから。でもやっぱり畳があるだけで落ち着くんですよね。不意にゴロッと横になれるし、い草の香りも緑の色もいいですし」

畳への思いは潜在的なもの

畳への思いは潜在的なもの

畳への愛着を感じながらも、どこかで古臭いイメージを持ち続けていた知美さん。しかし、あることをきっかけに、その意識に変化が生まれたという。

「ある時、テレビを見ていたら人気クリエーターさんの自宅が映っていたんです。で、そのリビング全体に畳が敷かれていて。やばい、かっこいい! 我が家もそうしたい!って感動したと同時に、私は畳屋の娘なのに何やってるんだろう、やっぱり畳だよなぁと思い直して。畳だってオシャレな使い方をすれば、今抱かれているダサい、古臭いというイメージを変えられるかもしれないと思ったんですよね」

その後、知美さんはマイホームを建てる際に、リビングを畳にした。そして2014年、古臭いイメージを覆すために、父の反対を押し切って家業の松葉畳店に転職した。

やるべきことは、畳という素材に興味をもってもらうきっかけをつくること

松葉畳店の一角にあるギャラリー。アイテムの購入もできる

松葉畳店の一角にあるギャラリー。アイテムの購入もできる

思い立ったら即行動派の知美さん。転職した1カ月半後に、地元のマルシェで畳を使った雑貨を販売することに。い草の香りが漂うブックカバーやコースター、ポストカードは次々と売れ、大きな反響を呼んだ。

「職人の父のように畳そのものを作るというより、今の私にできるのは、畳という素材に興味を持ってもらうきっかけをつくること。畳の触り心地や香りに触れてほしかったので、まずは生活に密着した雑貨を作ろうと思ったんです。でも値段のつけ方もわからないし、ましてやミシンすら使ったことなかった(苦笑)。畳のもとになるゴザって一方向にしか曲がらないし、布のように折り返して縫製するのも難しい。あまり自由度がきかないから、実は扱いにくい一面もあったりします。でも“絶対に大丈夫”という根拠のない自信があった。それは私だからできる、ということじゃなくて、実際に畳のある生活を家族や友達としてみたら『心地いい』『癒やされる』『懐かしくて落ち着く』ことを実感し、畳の持つポテンシャルの高さに気づけたからかも」

ミシンの使い方は、お母さんや知人などに教わったそう

ミシンの使い方は、お母さんや知人などに教わったそう

マルシェから1年経った頃、熊本の畳農家を巡る中で、畳作りに欠かせない“へり”にいろんな色や模様があることを知り、雑貨作りに生かしていく。

現在雑貨に使用しているのは、このようなバラエティーに富んだへり。倉敷で製造されているものを取り寄せている

現在雑貨に使用しているのは、このようなバラエティーに富んだへり。倉敷で製造されているものを取り寄せている

「家業で使っていたへりは地味なものだったので、こんな多種多様なへりがあること自体が新しい発見でした。それに畳って使えば使うほどつやが出るし、色も経年変化していく。まるで革製品みたいだなって。今思えば、そんなことも知らないで、よくもまぁあんなに自信があったものだと思いますね(笑)」

革製品のような経年変化を楽しめる

革製品のような経年変化を楽しめる

実際に伊藤さんが数年愛用している名刺入れを見れば、一目瞭然。青々としていたい草は、年を重ねると優しい色合いに。滑らかな触り心地はそのままに、こうした経年変化こそが“愛着”に変わって、畳が身近な存在になっていく。畳雑貨作りを手がけるうちに、そんなことに気付いていた知美さんが畳雑貨を作る上で大切にしているのは、バランスだという。

例えば、ブックカバー。左右に貼ったへりは、柄のものと無地のものをチョイスし、あえてアシンメトリーにしている。そうすることで、かわいらしさを持ちながらも、シンプルでかっこいいアイテムに仕上げている。

使い勝手のいいブックカバー

使い勝手のいいブックカバー

いつかは床材としての畳をはやらせたい

ゴザとへりのバランスを見て縫合していく

ゴザとへりのバランスを見て縫合していく

さらにもうひとつ、知美さんに驚くことが。松葉畳店に転職して1年経った頃、知美さんの活動を一番近くで見守っていた夫が突然畳職人になると宣言したのだった。

「自分の給料がやっと払えるくらいでしたし、別に畳雑貨が軌道に乗っていたわけじゃないんですよ。そんな時、夫が退職を決めてきたと言うんです……。さすがにそれはやめてほしいと言いましたが、本来彼は石橋をたたいて渡るタイプ。そんなチャレンジを口にすること自体、意を決してのことだと思うし、それ相応の覚悟があるんだと悟りました」

い草からはどこか懐かしい香りが漂う

い草からはどこか懐かしい香りが漂う

一人で立ち上がったものの、なぜか夫婦そろって家業を継ぐことになった知美さん。今は、農家が廃棄してしまうい草を使ったオブジェの開発も行っている。

「畳に使えない100cm以下のい草は廃棄になっちゃうんです。農家さんが丹精込めて育ててくれたのに、これではもったいない。だから生活のアイテムとして再生させたいと思って。メーカーさんや企業の量産には決してかなわないけれど、私たちがいいものを使っていいものを作れば、農家さんにも還元できるはず。こうして作ること自体に価値を見いだしていけたらいいなって」

い草を使ったオブジェTATTE

い草を使ったオブジェTATTE

畳の魅力を知るきっかけづくりを行う知美さんに、最後に「つくること」について聞いてみた。

「私にとってつくることは、実際に手を動かすということよりみんなを巻き込んで楽しませること。畳の魅力を発信して再発見してもらった結果、『やっぱり畳って落ち着くよね。素敵だよね』って思ってもらえることが今の最大の喜びですね。ゆくゆくは畳を床材としてはやらせて、『え、部屋に畳入れてないの?』くらいになれたら最高ですね」

ほかの雑貨の写真はこちら

知美さんの手によって畳がもっと身近なものに

知美さんの手によって畳がもっと身近なものになっていくのだろう

撮影/野呂美帆
取材・文/船橋麻貴

唐津とアメリカの2拠点活動で生まれる変化
陶芸家・中里花子さん

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