小川フミオのモーターカー

軽自動車という制約の中で性能をとことん追求したスズキ・アルトワークス

モータージャーナリストの小川フミオさんが、過去に世界各地で製造・販売された数々のクルマの中から、印象に残る名車を紹介する連載です。今回は、1990年代から始まった日本の軽自動車ブームの先駆けとなったアルトワークスを振り返ります。

(TOPの画像は2代目アルトワークス、前輪駆動の「RS/X」)

1990年代における日本車の特徴はというと、ひとつは軽自動車の氾濫(はんらん)だ。それもスポーツモデルがどっと登場した。その時の立役者が「スズキ・アルトワークス」だろう。

そもそもアルトは1974年、スズキ・フロンテの商用車として発売された。商用登録車ゆえの安い税金を武器に「47万円」の低価格を前面に押しだしたことで、女性を中心に人気を得た。

アルトワークスのオリジンをたどっていくと、85年9月に2代目アルトに設定されたアルトターボにたどりつく。企画のスズキと言われるだけあって、アルトでは商用車登録の利点を使い売り上げを伸ばし、一方のターボは、維持費が安い軽自動車の枠の中で、めいっぱいスポーティーなドライブを楽しむモデルとして開発されたのだった。

初代アルトワークスはラリーカー的な雰囲気だ

初代アルトワークスはラリーカー的な雰囲気だ

高性能モデルで市場が開拓できるとスズキが読んだ背景には、先行するダイハツの存在がある。85年8月に発売されたミラ・ターボTR-XXはインタークーラー付きターボチャージャーを備え、52馬力のハイパワーを誇るモデルだった。

ハイパワーでかつ維持費が安い軽のスポーツモデルは、自動車に大いなる関心を持っていた当時の20代を中心とするユーザーに高く評価された。初代アルトターボは86年7月にインタークーラー付ターボチャージャーとDOHCヘッドを組み合わせるまでに“進化”。最終的に87年2月に、衝撃的な64馬力の高性能エンジンと4WDとを組み合わせたアルトワークスRS/Rが登場したのだった。

2代目アルトワークスに設けられた4WD搭載の「RS/R」

2代目アルトワークスに設けられた4WD搭載の「RS/R」

88年にアルトが3代目にフルモデルチェンジした際、アルトワークスは独立した車種となって2代目が発売された。アルトが角形ヘッドランプのちょっと欧州調のフロントマスクだったのに対して、アルトワークスは丸型ヘッドランプにドライビングランプを埋め込んだ深いエアダムを備え、ボンネットにはエアスクープが開けられていた。

写真は初期形の「RS/R」だが91年にリアブレーキがディスク式となる

写真は初期形の「RS/R」だが91年にリアブレーキがディスク式となる

エンジンは当初547ccの3気筒SOHC(58馬力)とDOHC(64馬力)の2本立てで、90年に軽自動車の排気量が引き上げられるとアルトワークスも657ccの64馬力となった。64馬力に据え置かれたのはメーカーの自主規制ゆえだ。

出力は64馬力のままでも、加速性をはじめとするエンジンのキャラクターづくりをはじめ、シャシー強化によるステアリング特性の見直し、サスペンションシステムの設定や高性能ブレーキ採用など、スポーツモデルづくりのためにメーカーがやれることはたくさんあった。

硬い足回りに、高回転型のエンジン、それにドッカンと炸裂する感覚で加速をもたらすターボチャージャーの設定。こんな面白いクルマはない、と私は思ったものだ。

2代目アルトワークスのさらにユニークな点は、性能を追究していった結果、ワークスR(92年)という競技用のベース車にたどりついたことだ。4WDのRS/Rから装備をはぎとって軽量化し、クロスレシオの5段マニュアル変速機を備えた。どんどんピュアになっていったのだ。

「RS/R」のダッシュボード

「RS/R」のダッシュボード

この頃、アルトワークスを開発していたスズキのひとたちは楽しいだろうなあと思ったものだ。ベースがアルトなのでスポーツカーにはなれないものの、軽自動車という枠のなかで、持てる技術をふんだんに投入する箱庭感覚のクルマづくり。日本でしか生まれないホットハッチ(高性能ハッチバック車)というキャラクターが際立っていた。

写真=スズキ提供

PROFILE

小川フミオ

クルマ雑誌の編集長を経て、フリーランスとして活躍中。新車の試乗記をはじめ、クルマの世界をいろいろな角度から取り上げた記事を、専門誌、一般誌、そしてウェブに寄稿中。趣味としては、どちらかというとクラシックなクルマが好み。1年に1台買い替えても、生きている間に好きなクルマすべてに乗れない……のが悩み(笑)。

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