インタビュー

柳楽優弥「誰かが見てくれていると信じ、黙々と続けるだけ」

映画『誰も知らない』で鮮烈なデビューを果たし、カンヌ国際映画祭で最優秀男優賞を日本人初史上最年少で受賞。今や日本映画界を牽引(けんいん)する俳優として、意欲的に様々な作品に挑み続ける柳楽優弥さん。映画『泣くな赤鬼』では、末期がんの元高校球児役を演じている。「とてもいい時間だった」と懐かしそうに撮影時を振り返りながら、インタビューに答えてくれた。

鋭いまなざしに反して、穏やかで気さくな人柄の柳楽さん。取材時の撮影では、「変顔できる?」「布で遊んでみて」というカメラマンのむちゃ振りにも、すぐさま反応するレスポンスの速さ。俳優としての勘の良さが垣間見える。

柳楽優弥「誰かが見てくれていると信じ、黙々と続けるだけ」

原作のイメージが強い中での映画化。「僕のイメージと監督のイメージを現場でハイブリッドして、いい感じに仕上がっていればいいですね」

撮影の緊張感と部活のような雰囲気。「本当にいい時間だった」

原作は、重松清の短編集『せんせい。』所収の「泣くな赤鬼」。高校教師の小渕、愛称“赤鬼”は、かつて甲子園を目指して生徒の指導にあたる熱血教師だったが、進学校に来てから野球への情熱が消えてしまった。ある日、病院の待合室で教え子だった斎藤、愛称“ゴルゴ”と再会する。

「原作がとても人気の作品で、読んでみると、演じることを忘れるくらい夢中になって読み終えて。『これは頑張らないと』と思いました。撮影していたのは去年の夏だったんですが、みんなで野球の練習をしたり、(赤鬼先生を演じる)堤(真一)さんが誘ってくれてみんなで夕ご飯を食べたり。撮影の緊張感もあるけど、部活の延長みたいな瞬間もあって、本当にいい時間でした」

映画『泣くな赤鬼』より

余命半年の元高校球児、“ゴルゴ”こと斎藤智之を演じた柳楽優弥さん(左)と主人公の教師・小渕隆役の堤真一さん (C)2019「泣くな赤鬼」製作委員会【もっと写真を見る】

柳楽さん演じるゴルゴは、甲子園を目指す高校球児だったが、志半ばで断念。野球部を辞め高校も中退し、結婚して妻と息子がいる大人になっていた。そんな中、末期がんと判明し、余命半年を宣告される。

「ゴルゴが患う胃がんは、日本人に多くて、誰にとっても遠くない病気。これまで亡くなる人や病気の人を演じたことがなかったので、どうやったらリアリティーが出せるのかを考えました。正直、演じていてつらくなることもありました。堤さんと話す最期のシーンで僕が泣くんですけど、それを見て堤さんが泣いて。それを見てさらに僕も泣く。大変なシーンでした」

脚本にない、素の自分の姿が役になる。「意識せずに演じるのが良いことも」

末期がん患者を演じるために、体重を少し落とした。体力が衰えていく中で「また野球がやりたい」とグラウンドに立つゴルゴの姿が涙を誘う。

「胃がんにも種類があって、ゴルゴの場合は極端に体重が減る症状ではなかったんです。自然に、ちょっと痩せた? と感じるくらいがいいかなと兼重淳監督と話をして、体重を5キロほど落としました。前に25キロ痩せたこともあるので、食事制限で意外とすぐに落ちるんです。

ゴルゴがグラウンドに立つシーンを撮影した日は、すごく暑かったんですよね。患者役なので厚着でなければいけないから、とにかく汗だくで。グラウンドの土を踏んで感触を味わっているシーンは脚本に無かったのですが、(グラウンドに入って)『あ、地面が変わったぞ』と僕が自然にやったのを撮られて採用されました。あの撮り方は、是枝(裕和)監督がよくやっているんです。この作品の監督が是枝さんの名助監督と言われる兼重さんだからだと思います。意識しすぎないのがいい時もあるんですよね」

本作を通じて、初めてきちんと野球を経験した柳楽さん。

「キャストの中に2、3人、元高校球児で甲子園に行った子がいて、その子たちに教えてもらいながら練習をしました。ランニングしたり、キャッチボールをしたり。堤さんは本当に上手なんですよ。素振り、ノックも手慣れていて。僕自身、野球はこれまでバッティングセンターに行くか、見るだけでした。高校野球や高校サッカーは好きなんですよね。熱いし感動するし、ドラマがある。青春を感じられる雰囲気もいい。思い返すと、野球とかサッカーとか、集団でスポーツをやる役が無かったんですよね。実際にやってみて、硬派でルールもきっちりある、一本筋が通ったスポーツだと勉強になりました」

映画『泣くな赤鬼』より

熱血指導の“赤鬼先生”を演じた堤真一さん (C)2019「泣くな赤鬼」製作委員会【もっと写真を見る】

「役者として、言われたことをちゃんとできるようにしたい」

ゴルゴの妻・雪乃役には川栄李奈さん。先日おめでたいニュースがあったばかりだが、撮影時からあふれ出る母性が発揮されていたそうだ。

「川栄さんに抱かれると、赤ちゃんが落ち着くんです。僕は子どもがいるので慣れているはずなんだけど、川栄さんは(子どもが)いないのになんでだろうと(笑)。赤ちゃんが安心しているのを見ると、子どもにも好かれる人なんだと思いました。赤ちゃんにも安心感を与えられるというのは、すごくすてきだなと感じました」

【動画】柳楽優弥「川栄さん結婚おめでとうございます」堤真一「ごまかすな!」(5月21日、『泣くな赤鬼』完成披露舞台あいさつ)

厳しすぎた教師とついていけなかった球児。当時は通じあえなかった2人が、再会し再生していく物語でもある。先生と生徒、指導者と教わる人との関係は「難しい」と柳楽さん自身も感じている。

「言う側も難しいし、言われる側もパーフェクトに納得できるかといえばそうでもない。それでも関係は続くわけだから、難しいですよね。僕は役者として、基本的に言われたことをしっかりやるスタンス。自分の中で『こうしていかなきゃ』と思うより、言われたことをできるようにしたいと思っています。自分より年上だったり、有名な監督とやる時は、手際が良く、無駄がない指導を受けますし、僕が見事に演出されていると感じる瞬間があります。

でも最近は、同世代の監督や監督1作目という人も多くて、探りながら演出をしているのを感じます。大御所の監督なら簡単にできることかもしれないけど、積み重ねた経験があるからこそできる技なんだと思います。指導して人を動かすのは、本当に難しい。相手が思春期の子どもだったりするとさらに難しいと思う。(実感として)分からないので、適当なことはあまり言いたくないですね」

頑張れ、努力しろと言われた10代後半。「不器用だったからこそ共感できた」

赤鬼は、ゴルゴに対して「続ける才能、努力する才能がなかった」と言う。その言葉は、柳楽さん自身にも気づきをもたらすものだった。

「ゴルゴは真っすぐで素直。言わなくていいことを言ったり、やらなくていいことをやってしまう不器用なところがある。僕自身がゴルゴと同じように、器用に立ち回れていないタイプだったから、共感できる部分が多かったし、だからキャスティングされたのかなとも思います。

10代後半の頃、ゴルゴと同じように『頑張れ』『努力しろ』と言われたけど、どうやるんだろう? ちゃんと努力しているんだけど? と疑問に思うことがあった。当時はそれが分からずに、29歳になった今気づいたわけですけど。これには僕だけじゃなく、たくさんの人が共感できると思うんです。この映画を通じて、続けることや努力することの大切さにも気づかされました。それが未来につながる場合もあると思います」

柳楽優弥さん

好きだった学校の先生を聞いてみると、こんな答えが。「小学校低学年の時の担任の先生がいまだに好きですね。30代40代くらいの女の先生で、みんなから好かれていました」【もっと写真を見る】

“続ける才能”と“努力する才能”。どちらも重要だが、柳楽さん自身が俳優に最も必要と感じていることとは。

「確かに、諦めずに続けるのも才能だと思います。僕は、どうしたらいいか分からない時は、誰かが見てくれていると信じて黙々と続けるだけ。努力かは分からないけど、インプットとアウトプットが大切だと思っています。俳優じゃないところで、人間として何かを勉強していると、その雰囲気が出ると思うんです。セリフをうまく言うとか、技術的な部分以外のところですね。僕はそれを求められることも多いので、私生活では楽しみながらインプットをしています。それが結果的に、作品に反映できたらいいなと感じています」

『泣くな赤鬼』で柳楽さん演じるゴルゴには、人間的な魅力があふれている。弱さも優しさも、誰よりも好きだった野球を手放した後悔も。余命半年の元生徒と教師がつづる、再生と絆の物語。心に深く染みる感動作を、ぜひスクリーンでチェックしてほしい。
(文・武田由紀子 写真・花田龍之介)

『泣くな赤鬼』作品情報

キャスト:堤真一、柳楽優弥、川栄李奈、竜星涼、キムラ緑子、麻生祐未
原作:重松清『せんせい。』所収「泣くな赤鬼」(新潮文庫刊)
監督:兼重淳
脚本:上平満、兼重淳
主題歌:竹原ピストル「おーい!おーい!!」(ビクターエンタテインメント)
配給:KADOKAWA
(C)2019「泣くな赤鬼」製作委員会
6月14日(金)全国公開
公式サイト:akaoni-movie.jp

小林涼子「結婚はまだ先。今は芝居に集中したい」

トップへ戻る

山本美月「暑苦しくて大変な現場だったけど、仕上がりはクールでおしゃれ」 映画『ザ・ファブル』

RECOMMENDおすすめの記事