『マクロス』監督・河森正治 「オリジナルに向き合い続けた」40年から見えてきたモノづくり論

SF・ロボットアニメシリーズ『超時空要塞マクロス』や『アクエリオン』シリーズ、最新作『劇場版 誰ガ為のアルケミスト』で知られる監督・河森正治。彼は作品によって原作、監督、脚本、絵コンテ、メカデザインまでこなす多才な人物だ。

そんな河森監督がプロとして活動を始めてから今年で40周年。その記念として、5月31日から6月23日まで、作品のデザイン画、絵コンテ、アイデアノートなどからその世界をひもとく展示会が東京ドームシティで開催されている。多忙な河森監督に時間をいただき、この世界に足を踏み入れたきっかけや、作品づくりで大切にしてきたもの、そして、今の時代に求められる“ものづくりの姿勢”などを聞いた。

『マクロス』監督・河森正治 「オリジナルに向き合い続けた」40年から見えてきたモノづくり論

綿密な取材をイメージソースにした、パイロットのポーズを決める河森監督

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インスピレーションは、いつも現実の世界から

――河森監督はSFアニメがお好きだと伺いましたが、興味を持ったのはいつごろでしたか。

河森正治(以下、河森) アニメではないのですが、小学校の1~2年生で、テレビ番組の『サンダーバード』に夢中になったんですね。当時はプラモデルの『サンダーバード』が一大ブームだったのですが、同じプラモで何かを作ったとしてもクラスのみんなと同じになってしまいますから、意地でもペーパーモデルで作ってみる、そんな子どもでした(笑)。ブロックで遊ぶときも、六面体で回転とスライドを同時にできる「フィッシャーテクニック」と呼ばれるもので可変式戦闘機を作って遊んでいたんです。そう考えると、幼少期からやっていることは、ほとんど変わってないですね。

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――当初から、「オリジナル」へのこだわりがあったんですね。メカデザインのアイデアは、どのような瞬間に浮かび上がってくるのでしょうか?

河森 考えては距離を置いて、その繰り返しです。20歳くらいの頃、学生をやりながら『スタジオぬえ』でお仕事をさせてもらっていたのですが、マクロスシリーズに登場する「ガウォーク(GERWALK)」*1が生まれたのは、『宇宙戦艦ヤマト』のデザインをされている宮武一貴さんという先輩と、「どっちが先に人型ロボットに変わる、新型主役メカを開発できるか」を競争したからです。

お互いに一年ほど粘って考えたのですが、それでもできない。気分転換に友達とスキー旅行に行ったのですが、周りを見るとみんな膝(ひざ)を曲げてスピードを出しているんですね。そのときに「膝(ひざ)を曲げるとスピードが出るイメージ」をデザインに生かせるんじゃないかと思いまして。けれど、そのままだとただ膝(ひざ)を曲げるだけのメカになるので、前後ろを逆転させてみたら、鳥の形になる。そうして生まれたのがガウォークなんです。

*1 アニメ「超時空シリーズ」および「マクロスシリーズ」に登場する架空の兵器が持つ形態名、または機体分類名のひとつ。二脚で着地、歩行、またはホバリング移動をする。

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――スキー旅行に行って、開発から距離を置いたことが結果につながったということですか?

河森 そう。以来、煮詰まったら外に出てフィールドワークをするようになったのも、その経験があったからです。ただ、正確には「できました!」とお伝えしたら宮武さんもほぼ同時に「俺もできた!」と似たものを考えていたので、こういうアイデアはほぼ同時に思い付くものなのだと改めて思いましたね。

オリジナリティーのために必要なのは「視点を変える」こと

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――今回のアーカイブ展を作っていくに当たって、再発見されたことはありますか?

河森 資料を探していく中で、高校3年生の時に友人たちと合作したマンガを発掘したんです。僕の担当はストーリー構成とメカデザイン。その友人たちが、細野不二彦くんや美樹本晴彦くんで、後に漫画家やキャラクターデザイナーになっていったんです。

物語は「近未来に一度世界が崩壊しかけて、それを維持するために特殊な戦争をする」という代理戦争モノ。世界中の国が、パワードスーツを出して戦う設定で、その一つに、飛行モードに変形するパワードスーツを描いているんですね。考えてみると、そのマンガを描いたのは『機動戦士ガンダム』が始まる1年以上前なんですよ。仮にその時、自分たちがプロだったら、ガンダムより前にパワードスーツの作品を作れていたという。

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マクロスシリーズに登場する宇宙船「メガロード」の草案(取材のためにご持参)

――作り手としたら、ものすごく悔しいですよね。

河森 そうですね。でも「ものづくり」は、どちらが早いかギリギリまでせめぎ合うもの。プロデビューしたころには、すでにガンダムが世に出ていましたが、そうした時に勝負すべきは「オリジナリティーをいかにして出すか」ということです。

どんなにストーリーを組み立てても、宇宙戦争ものであれば「武力で解決」をテーマにすれば絶対にかぶってしまう。オリジナリティーを追求したからこそ、完全変形可能な「可変戦闘機」や、これまで宇宙戦争ものになかった「歌」による戦争終結といった、新たなコンセプトを持ち込むことができたとも言えます。つまり、視点を変えるようなテーマを作品に取り入れることで、強固な物語ができていくんですね。

――だから監督は視点を変える行為を意識的にされているんですね。

河森 視点を移動させていくことは、「立脚点を変えること」と言い換えることもできます。どういうことかと言うと、例えば取材や観光で海外に行ったとするでしょう? その時に、「日本人はこう」というような意識を変えて、現地の価値観を知ることや、取り込もうとしなければ、我々としては意味がないんです。

ネパールに行った時に経験したのですが、現地の人がV字谷を越えた向こう側にいる人と突然しゃべり始めたんです。こっちは誰としゃべっているのかも見えないし、声も聴こえないのに彼らは会話をしているんですよ。300ミリの望遠レンズを構えても人の姿がぼんやりとしか見えないのに、「今、笑っている」と言い出す。感受性のレベルが僕たちとははるかに違うわけですね。それで、人間のポテンシャルは本来もっと高いんじゃないかなって思いました。

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グローバル時代にアニメは何ができるか

――今、アニメーションの現場やものづくりの現場にいる人に、どのような気付きを得てほしいと思いますか?

河森 最近、ものづくりの世界では、あまりにもすぐに結果を求められ過ぎるあまり、深いレイヤーでコンセプトを仲間たちと共有するのが難しくなっている印象です。世界では、“ジャパニメーション”はまだまだもてはやされてファンもたくさんいますが、ここ数年でほかのアジアの地域では、作品の質が格段に向上している現実がある。では、僕たちは対抗するか、協業をするのか、何ができるのか。

アジアのアニメーションがグローバル産業に飲み込まれて、今の100倍の予算が出る状況になった時に、どうするべきか考えていきたいですね。僕自身としても、これから追求していきたいテーマです。

――最後に、今回の展示の見どころを教えてください。

河森 ものづくりに興味がある人だったら、デザインのラフスケッチからどう絞り込まれて型ができたのかも、ある程度分かるようになっています。企画のメモがストーリーのメモになり、キャラクターのメモになり……といったプロセスも分かるように展示しているので、「自分はデザイナーだ」とか、「シナリオライターだ」とか、「演出家だ」という肩書を一度外して、そうした垣根というのは本来存在しない、ということが伝わればうれしいですね。

――まさに河森監督がそうですもんね。

河森 作品のファンの方には、僕のかかわったものの世界観や、キャラクターフィギュアを展示していたりするので、作品世界をじっくりと感じられるブースを楽しんでもらえたらなと思います。あとは、30年くらい前からやりたくてしょうがなかったドーム映像を、ようやく作ることができました。時間はちょっと短いけれども、ヒーロー大集合といった内容で体感性の高い映像になっていると思うので、それはぜひ、楽しんでいただきたいですね。6月14日からは自分が総監督とストーリー構成を務めた『劇場版 誰ガ為のアルケミスト』も公開されますので、こちらもぜひ観(み)ていただければと!

(文・冨手公嘉 写真・山田涼香)

 

河森正治(かわもり・しょうじ)
アニメーション監督、企画、原作、脚本、映像・舞台演出、メカデザインなどを手がけるビジョンクリエーター。慶応義塾大学工学部在学中、原作者の一人としてテレビアニメーション『超時空要塞マクロス』に参加。世界各地でテレビ放映され、日本発のクールなアニメーションとして絶大なるインパクトを与えた。原作・監督作品に、「アクエリオン」シリーズ、「マクロス」シリーズなどがある。

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information
「河森正治EXPO」
会期:2019年5月31日(金)〜6月23日(日)
時間:10:00~20:00(最終入場19:30)
※期間中月曜と6月13日(木)は19:00まで(最終入場18:30)
住所:東京ドームシティ Gallery AaMo (ギャラリーアーモ)
入場券:2000円/音声ガイド付:2800円
K-40ドームシアター付き入場券:2400円/音声ガイド付:3200円

HP:https://kawamoriexpo.jp/

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