レクサス「RC F」試乗記 運転初心者が体験した時速200km超の世界

レクサスがスポーツクーペ「RC F」のマイナーチェンジを発表した。レーシングカー並みの性能を誇るハイスペックマシンとして2014年に誕生してから5年、車体の軽量化や新型パッケージの設置などでさらなる進化を遂げたという。

その新生RC Fの試乗会に誘われた&M編集部。開催地は、レクサスがレーシングカーの開発拠点とする「富士スピードウェイ」。公道では出せない速度で運転できるのだから、RC Fのパフォーマンスを体感するにはこの上ない舞台だ。唯一の不安は、試乗する筆者が筋金入りのペーパードライバーということである。

運転中、走行位置の微調整が必要ない!?

JR三島駅からタクシーで約1時間。富士スピードウェイの巨大なゲートを通り抜け、富士レクサスカレッジ(レクサス専用の研修施設)に到着すると、9台の「RC」が迎えてくれた。RCはダイナミックなボディーを持つ、レクサスのクーペ専用モデル。この日は公道でRC、サーキットでRC Fの試乗が予定されていた。

筆者が試乗した「RC350 “version L”」。陽(ひ)を浴びて車体を青く輝かせる

筆者が試乗した「RC350 “version L”」。陽(ひ)を浴びて車体を青く輝かせる

インテリアのカラーはダークローズ。表皮や金属など異なる素材のコントラストを際立たせ、奥深いエレガンスな雰囲気を演出している

インテリアのカラーはダークローズ。表皮や金属など異なる素材のコントラストを際立たせ、奥深いエレガンスな雰囲気を演出している

陽(ひ)を浴びて車体を青く輝かせる「RC350 “version L”」に乗り込み、早速公道へ出た。ハンドルを握るのは数年ぶりだ。初心者ならではの視点を期待されているものの、クルマの知識が全くない筆者に乗り味などがわかるのだろうか。

不安を抱えながら運転を続けると、あることに気付く。直線的な道路ではハンドルの調整がほとんど必要ない。普通は直線でも多少ふらついたり、気を抜くと左右どちらかに傾いていったりするので、走行位置の微調整を繰り返す。それなのに、このクルマはなんと楽なことか。

助手席も心地良い。峠に入って運転を代わってもらったのだが、うねりの激しい道でもクルマに体を振られることがないから酔わないのだ。乗り物酔いしやすい人間にとって、それから解放される喜びは何にも代えがたい。単なる移動が快適なドライブに変わっていった。

いくつもの峠を越えると突然視界が開けた。遠くに望む富士山と山中湖。その息をのむ美しさに思わず見とれた(撮影=筆者)

いくつもの峠を越えると突然視界が開けた。遠くに望む富士山と山中湖。その息をのむ美しさに思わず見とれた(撮影=筆者)

【RC350 “version L”】主なスペック
駆動:2WD(FR)
エンジン:2GR-FKS(V型6気筒)
トランスミッション:8-Speed SPDS
排気量:3.456L
最高出力:234 kW (318 PS) / 6600 rpm
最大トルク:380 N・m (38.7 kgf・m)/4800rpm
価格:683万円(税込み)

時速200km超を体験! 恐怖の先に出合った感情

「乗り心地」とは何なのか――。RCの試乗を終えて、実体がつかめぬ感覚の正体が知りたくなった。その答えは、サーキットでのRC Fの試乗を通じて知ることになる。

昼食後、富士スピードウェイのグランドスタンドへ。既に数台が走っており、爆音が耳をつんざく。暑さによる汗か、はたまた未知への恐れからくる冷や汗か……筆者の額を冷たいものが伝う。

順番が回ってきた。意を決して用意された「RC F “Performance package”」に乗り込んだ。助手席にはプロドライバーの姿がある。いくらか恐怖心が和らいだところで、ゆっくりとアクセルを踏み込んだ。

富士スピードウェイのグランドスタンド。スタンド前には1475mの直線

富士スピードウェイのグランドスタンド。スタンド前には1475mの直線

「RC F」にメディア関係者が順々に乗り込み試乗スタート

「RC F」にメディア関係者が順々に乗り込み試乗スタート

全長4563mのレーシングコースを3~4分で一周する。コーナーの数は16。カーブをラインに沿って曲がろうとすると、助手席から指示が飛ぶ。

「コーナーを走るときは、アウトからインに寄って、そしてまたアウトに向かってください。これはアウトインアウトという走法です。コーナーを直線的に走ることで、急カーブの走行が楽になります」

サーキットでは、たとえカーブであっても、公道ほどスピードを落とさない。アウトインアウトはそのためのテクニック。メーターを見やると60~80kmでコーナーを通り抜けていた。

……が、毎回うまくいくわけもない。急カーブではハンドルの切り方が甘いシーンもいくつかあった。それでも即座にハンドルを切り直すと、RC Fは俊敏な反応を示した。

「今の場面、性能の低いクルマなら曲がりきれず外に逃げていってしまいます。ハンドルを切った方向にきちんとクルマが曲がるのは、旋回性能が高いから。指示した通りにクルマが反応するから、ドライバーも安心して運転できるのです」(プロドライバー)

きついカーブもハンドルを切った方向に即座に反応するRC F

きついカーブもハンドルを切った方向に即座に反応するRC F

息つく間もなくいくつものコーナーを通り抜け、最後の直線を迎えた。1475mのストレート。「さあ、グッとアクセルを踏み込んでください!」。指示通りに右足に力を込める。150、160、170km……えっ、もうヤバくないか? 「もっといきましょう! もっと!」。言われるがままにアクセルを踏む。175、180km……数字はどんどん上がっていく。横目で窓の外を見ると、激しくぶれた写真のような景色が広がっている。

あれ? おかしい。とてつもないスピードで運転しているのに、それに釣り合う恐怖を感じていない。隣にいるプロドライバーも平気な顔をしている。根拠のわからぬ余裕は消えることなく、2周目には200km、3周目には240kmまで速度を上げていた。乗る前はあんなに怖かったのに、この余裕はいったい? 試乗後、釈然としない表情でいると、筆者の疑問を解くように助手席から説明が入る。

「直線で時速200kmを出してもクルマがふらついたりブレたりしなかったでしょ? それだけ車体が安定しているわけで、それがドライバーに安心感を与えます。モーターレースでは300km以上を出しますが、それも車体が安定しているからこそ。クルマの性能が信頼できなければ、プロでもそんなスピードは出せません」

はっとした。午前中、RCの試乗で安定性や安心感を感じたが、同じことをRC Fにも感じていたのだ。その感覚が気づかぬうちに恐怖心を取り除き、超高速の世界でも運転を楽しむ余裕を生み出したのである。

サーキットからは富士山が大きく見える

サーキットからは富士山が大きく見える

「乗り心地」の正体は「忠実に動くこと」

「乗り心地」「安定性」「安心感」――。試乗後、これらのキーワードについてもっと深く知りたくなって、複数のレクサス関係者に聞いてまわった。様々な意見が聞こえてきたが、関係者が口をそろえたのは「運転操作に忠実に動くこと=乗り心地が良い」ということだ。

操作性を高めるポイントはいくつかある。一つはボディーの構造だ。レクサス広報の一人は次のように説明する。

「クルマはボディーの骨格がしっかりしていないと、ハンドル操作や加減速をするときに車体がたわみます。たわみがひどいと操作性が悪くなり、乗り心地も悪くなる。例えばハンドルを切っても反応がにぶかったり、イメージ通りに曲がらずドライバーの体が持っていかれたり。そういう状態だと同乗者も酔ってしまいます。クルマのボディーは、人間でたとえると体幹のようなもの。体幹がしっかりしているほど姿勢の変化がスムーズになります」

その“体幹”を強くするには、ボディーの剛性感と軽量さを両立する必要がある。RC Fも各種のパーツにカーボンやアルミなどの丈夫な軽量素材を取り入れ、今回のマイナーチェンジで以前より車体を20kg軽くしたほか、新設された高性能バージョン“Performance package”では70kgの軽量化を図った。

バックヤードに置かれた「RC F “Carbon Exterior Package”」のネープルスイエローコントラストレイヤリング<5C1>。光沢の強いボディーは光の当たる角度で多彩な表情を見せる

バックヤードに置かれた「RC F “Carbon Exterior Package”」のネープルスイエローコントラストレイヤリング<5C1>。光沢の強いボディーは光の当たる角度で多彩な表情を見せる

もう一つ、車体の安定に大きく影響することがある。空力(空気力学)性能だ。

我々も向かい風でランニングをすれば抵抗感を覚えるように、走行中のクルマも縦横に働く空気の力によってふらつくことがある。時速300kmを超えるモータースポーツの世界では、空気の流れが揚力(上向きに働く力)となり、車体が浮いて吹っ飛ぶこともあるらしい。

それを防ぐために車体重量を上げると、動きが鈍くなり操作性が落ちる。そのためレクサスでは、部品の重さに頼ることなく、空気の力の悪影響を小さくとどめる技術を駆使し、車体の安定を保っているという。筆者がサーキットで安心して運転できたのは、RC Fの空力性能の高さによるところが大きい。

レクサスのデザイナーは、こうしたハイレベルな機能を、ブランドの世界観を損なわない形でクルマに落とし込んでいく。

「デザイナーは本音を言えば、好きなように車体をデザインしたいと思っています。ただし、それでは必要な性能を備えることができないので、エンジニアたちからリクエストをもらいながら、それをレクサスの世界観の中で形にします。だから全ての造形には意味がありますし、ユーザーにそこに気づいてもらえたときは、何にも代えがたい喜びを感じます」(プロジェクト・チーフ・デザイナー森 忠雄さん)

バンパーの縁(へり)も、空力性能を高めるため、直線ではなく意図的に凹凸にしてある(撮影=筆者)

バンパーの縁(へり)も、空力性能を高めるため、直線ではなく意図的に凹凸にしてある(撮影=筆者)

ドアの右下のくぼみも空気の流れによるタイヤへの負担を軽減するための処理(撮影=筆者)

ドアの右下のくぼみも空気の流れによるタイヤへの負担を軽減するための処理(撮影=筆者)

さらに今回、ミシュランに依頼し、1年以上かけてRC F用に新しいタイヤを開発したという。通常、マイナーチェンジではタイヤまで変えることはないらしいが、なぜそこまでこだわったのか?

「レクサスはスタートして20年。50年、100年の歴史を誇るカーブランドに比べれば、新参者です。多くの人が愛着や思い入れを抱くものは、長い時間をかけてできあがるもの。今の私たちにとって何よりも重要なことは、妥協せず、自分たちが信じる世界観、ストーリーを形にし続けることで、それに必要なことは全てやっていきます」(開発責任者・弦本祐一さん)

ブランドの哲学や世界観が人を引き付ける。それはベンツやBMW、アウディなどのプレミアムカーブランドを見れば瞭然だろう。

ストーリーを持ったクルマは、性能にもデザインにも意味を持つ。それを知ると、この世界の見え方ががらりと変わる。クルマは単なる乗り物ではないことを思い知る試乗会だった。

(文・&M編集部 下元陽 写真提供・レクサス)

【RC F “Performance package”】主なスペック
駆動:2WD(FR)
エンジン:2UR-GSE(5.0L V型8気筒)
トランスミッション:8-Speed SPDS
排気量:4.968L
最高出力:354kW(481PS)/7100rpm
最大トルク:535N・m(54.6kgf・m)/4800rpm
価格:1404万円(税込み)

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