LONG LIFE DESIGN

ナガオカケンメイ「僕の生活の中のロングライフデザイン」身のまわり編:1

 

写真はすべてナガオカケンメイさん提供

デザイン活動家・D&DEPARTMENTディレクターのナガオカケンメイさんが、お気に入りのロングライフデザインを紹介します。ナガオカさんの愛用品は。そして、どのように使っているのでしょう。

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ここまでずっと、「ロングライフデザイン」の定義みたいなお話を書いてみました。ちょっと堅苦しかったですかね。おつきあい、ありがとうございます。さて、今回はちょっとコーヒーブレークという感じで、僕のお気に入りのロングライフデザインをご紹介します。これはたまにやってみようと思っていますので、「1」とタイトルの最後につけました。2もある、ということです。

私たちは「流行」といった「新しい」ものを時には思い切り衝動買いしたりして、楽しみます。僕ももちろん、新しいデザインや提案のある生活道具や旅行が好きです。しかし、自分の家の中を見まわして、そういうものばかりだと、なんだか落ち着かない感じがします。

新しい刺激的なものを手に入れた時「ずっと大切に使い続けられるだろうか」という気持ちが、実はあると思います。例えば、夢の新車を購入したとします。この時、ずっと乗っていたいという気持ちの前に、「新車を買った」「ついに、マイカーを手に入れた」「これに乗っていろんなところへ行きたい」とか、いろいろ思うでしょう。やがて1年が経ち、あんなに毎日眺めるように大切にしていた愛車が、洗車もしなくなり、ただの移動の道具になっていく。そして、3年が経ち、故障とか車検とか、いろんなきっかけもあり、テレビCMで見た新しいモデルが気になり始める……。なんてこと、ありませんでしたか? 恥ずかしながら、僕も何度もありました。

買ったばかりのものが自分という大地に根を下ろせるのか、ということだと思うのです。長く使えそうにないものや、流行を背負って買ったばかりのもの。そういうものたちによって、家の、部屋の景色ができ上がっていく。そういう暮らしは一見ワクワクしますが、自分らしさを積み上げていくためのものではなかったりもします。

居心地のよさをつくるもの

というのは、自分の部屋の中を見渡して、話題のものを置くよりも、ずっと居心地のいい空間にしたいと思ったことがありました。そんな時、長く存在し続けているものや、経年変化を楽しめるものが、居心地のよさをつくっていると感じたのでした。

例えば、ホームセンターでサッと買った化学繊維の手頃なカーテンと、オーガニックで作られた質の高い、そして、値段も少し高いもの。後者を部屋に取り付けた時、「高い買い物だった」と思いながら、これからずっとこの上質なものを使う暮らしになると思うと、それほど高く感じないどころか、自分の買い物を褒めたくなる。そんな気分になる。経験あると思います。

流行の新しさは楽しみながら、自分の生活は、いつの時代も変わらない「ロングライフデザイン」的なものを基調にしていくのって、とても落ち着くのです。やっぱり、自宅に帰ってきて「落ち着く」って、とっても大切なことだと思うのです。

ということで、狭い我が家をチラチラ見られちゃいますが、本当に歯を食いしばって頑張ってちょっと高めのロングセラーたちを買ってきてよかったと思い、改めて一つ一つ、ご紹介します。「身のまわり編」の始まりです。

1. スウォッチ スキン

写真はすべてナガオカケンメイさん提供

写真はすべてナガオカケンメイさん提供

ずっとスイスのあるブランドの時計を使っていました。歴史もあり、人気もありましたが、ある時、これは個人的なブームに終わりそうな気配がしました。同時に、この時計を所有している人の属性が見えました。自分もああいう人たちと思われる……。それからずっと引き出しの中にしまい、1年前に全て買い取りサービスへ。

この時、なぜ、ロレックスはそういう感じがしないのかを考えました。ギラギラした面は、先のスイスのあるブランド同様、このブランドにもあります。しかし、どこかでしっかり「定番」とも認識されていて、そうなるまでに相当な時間がかかっている。今のように雑誌にバンバン広告をうち、イメージを発信し続けるという時代の前から、地道に「一生もの」というポジションに、誰もが憧れ、認めるだけの何かをしてきた。だから、そう見えるのだと思いました。

同時に、自分の所得と見合わないものを無理して身につけるということは、「自分を誇張」しているということであり、それって若い頃は面白く、背伸びしなければ手に入れられないものも見えて、楽しみながら頑張ってきた。しかし、50歳を過ぎ、経験値的にも、その背伸びって結局、何にもならないと思ったのでした。

自分の中での「デザインが好き」ということと、身につけるものとしての「時計」の存在をフラットに考えていた時、このスウォッチ「スキン」に出会い、なんだか「これでいいじゃん」と思いました。革新的な薄型のムーブメントとシリコンのバンド、そこから来る9000円台の価格。これなら身の丈に合い、楽しめる。何よりスウォッチという会社が、いまだ新作を発表し続けながら、派手な広告などをあまりしない。スウォッチとしても、このシリーズは長く続けていきたい。それには無理は禁物。ブームにも巻き込まれないよう、そこそこ売れているのだから、あとは、じっくりやっていこう。そう言っているような時計です。

最近、この時計、電池交換が無料となりました。それもまた「ずっとやっていくために、電池交換は当たり前。もっともっと手軽に何本も所有し着せ替える楽しみを、ぜひ!!」と言っているように聞こえ、今、10本近くを日替わりで使っています。僕の勝手な臆測ばかりですが(笑)。自ら、ド定番というポジションを確立するために行動しているような、気取りのない、それでいて、クリエーションやデザイン性を感じる時計です。

写真はすべてナガオカケンメイさん提供

 

2. 各地の名刺入れ

僕はロングライフデザインとの付き合い方は、優柔不断でいいと思っています。流行や他力によって飽きるみたいなことは、自分のことなので嫌ですが、とことん力を抜いて、何にも影響されずにある日、使っているものが嫌になったりしたら、捨てたらいいと思います。何が何でも残しておく。これは名のあるものだから大切にしておかないといけない……。そういう邪念があるうちは、ロングライフデザインは楽しめない。そんな風に思って、無理なく、ただ、「これはいいものだ」という意識のセンサーだけは、働かせたり、鍛えたりしたいなと思うようにしています。

さて、前書きのような言い訳をした後に、ご紹介するのが名刺入れ。僕はなるべく、出張先の土地で作られた名刺入れに都度変えて、持っていくようにしています。

例えば、山梨県に行く時は、鹿の皮に漆で模様を施す「印伝」という伝統工芸のものを持っていきます。その土地の皆さんとあいさつする時、その土地の工芸品の名刺入れから名刺を差し出すのです。とても喜ばれますし、気持ちが伝えられます。

と、言いながら、もっと面白い素材、工芸技術の名刺入れが現れると、即座に買います。もちろん、使ってきたものを捨てるわけではありません。一つの土地にもいろんな技法、表現がある。それをなるべく自分の身のまわりにおいておきたいのです。

つまり、名刺入れは僕にとっては「その土地の魅力のサンプル」。ちょっとロングライフデザインの話からそれそうですが、そうではありません。「つながり続ける」というのも、楽しみの一つ。自分の中に、日本中の長きにわたり育まれた伝統技術がしみ込む。それは自宅に帰った際、しまわれる引き出しの中から生活にいい気をもたらす。そんなイメージです。

ナガオカケンメイ「僕の生活の中のロングライフデザイン」身のまわり編:1

3. SIWAのケース

山梨の和紙の生産者「大直(おおなお)」がデザイナーの深澤直人さんと開発したシリーズ「SIWA」。革新的な伝統技術の進化系には、いつもロングライフデザインの気配を感じます。特に奇をてらったような非日常の何に使うかわからないものではなく、こうした「物入れ」という普遍的な需要に対して挑まれると、「何を入れようか」と考え始めてしまう。

伝統工芸というと、少し身構える。しかし、この商品はそのネーミングから、どことなく最初からそうなっていくことを喜んでいるような、そうしていけばいくほど、深みが増すというか、要するに「しわくちゃ」に使えば使うほど、褒められているような気分になる。何の装飾もない、けれど、デザイナーによる「わずかな形」と「色」が、和紙の古臭さを払拭していて、こういうのがデザイナーの仕事だと考えてしまう。本当によくできた物入れ。

何となく面白そうと思って買って、使い、今や、こんなに毎日、触って使うとは思っていなかったので、逆にこの商品にあるロングライフデザイン性を、観察したりしている。丈夫で価格的にも重さ的にも手軽。多分、メガネの家として、破れるまで使うんでしょうね。

ナガオカケンメイ「僕の生活の中のロングライフデザイン」身のまわり編:1

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4. リモワのスーツケース

スーツケースは自分の成長と合わせて脱皮するように上質なものに買い替えてきました。それはいつかどこかで見た、旅でクタクタにへこみ、空港で様々なシールを貼られ、それでもボディーは丈夫で、まるで旅をした分だけパスポートにスタンプが増えて成長していくような、そんなへこみや傷が勲章になるようなリモワ。定番のデザインは変えず、色や異素材のシリーズを出すところ、そして、壊れても修理の体制がわかりやすく、長く使っていけるということがわかりやすいところが好き。

ナガオカケンメイ「僕の生活の中のロングライフデザイン」身のまわり編:1

高度陽極酸化アルミニウムを使った素材感も気に入っているし、リモワいわく「ラグジュアリーにも合い、どんなシーンにも合う」という、ギトギトしたラグジュアリー感ではなく、それを超えた感が好きです。価格は安くはありませんが、ある意味、一つのゴールにたどり着いて、そのあとの旅の質を変えてくれる感じがするのがいいです。これも極シンプルな形で、流行などを追う気配もない。

いつも思うのですが、ロングライフデザインなものは、通常のものより値段が高い。良質で何かに似ていなくて、我が道を行く。それには本当に良いものや、サービスの体制がしっかりしていて、ブランドの自我がはっきり、しっかりしている。だから、流行を追う人にとっては「物足りなく」思うとしても、それはそれでいいと思う。いつか、自分の子供や親しい人に、譲ったりできたらいいなぁと思う。それまでに恥ずかしくないくらい、ボロボロに使い、いい味を出しておきたい。

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5. Yチェアとdテーブル

住宅雑誌を見ていると、いいな、と思う家のリビングにはいつもこの椅子がある。一脚10万円以上するこのYチェアを自宅に持つことを目標にしていたころがありました。

ナガオカケンメイ「僕の生活の中のロングライフデザイン」身のまわり編:1

最初は頑張って1脚を買い、ネットオークションで2脚めを。これが後々、偽物と判明するわけですが、本物と偽物を所有することで、その差を生々しく体感でき、今となってはこの偽物すら、愛着が湧いてしまっている。

自分の店「D&DEPARTMENT」でも販売したいとメーカーに問い合わせました。最初は断られ、今も販売量としての貢献はできていませんが、「しっかり魅力を伝えてくれているので、引き続き」と、大目に見てもらっているような……。なんともこの椅子が本当に好きなので、取り扱うことができてよかったと思っています。

結婚を(2度めの)機に2脚を足し4脚。この2脚は自分の店で買いました。この時はかなり感無量でした。

いつかショップオリジナルのテーブルを作りたく、D&DEPARTMENTが開業15年を越したあたりから計画を立て、デザイナーの真喜志奈美さんにデザインを依頼。このテーブルができ上がってきました。この高さの設定も、このYチェアに合わせたもの。とにかくYチェア5脚に囲まれて幸せそうなテーブルを目指し、見事に完成。

ナガオカケンメイ「僕の生活の中のロングライフデザイン」身のまわり編:1

狭いリビングをいっぱいに占拠してしまいますが、このYチェアとdテーブルに、食事以外の読書や原稿書きなどの時も座っています。スペース重視の四角いダイニングセットもいいのですが、丸いテーブルが醸し出す、文化的ゆとりのような開放感は、本当におすすめします。よく「うちは狭いから丸テーブルは無理」と諦める方が多いのですが、狭くてもこの存在はおすすめです。

ロングライフデザインなものは、長く飽きられず売り続けたいという意思があることから、「ただ、量をさばければいい」という量販店などでは取り扱えないようにしているものが多いです。セールも困ります。つまり「定価」で販売する。なので、僕の店のような小さくて販売力のない、しかし、質の高い、また、生活の高みを目指すお客様に向かい、こういういい椅子を取り扱えるのは、本当にうれしいのです。ぜひYチェアをまず1脚。そこから始めませんか。僕のように。そして、全国どこで買っても一緒の値段。ぜひ、Yチェアは当店で。(笑)

ナガオカケンメイ「僕の生活の中のロングライフデザイン」身のまわり編:1

 

PROFILE

ナガオカケンメイ

デザイン活動家・D&DEPARTMENTディレクター
その土地に長く続くもの、ことを紹介するストア「D&DEPARTMENT」(北海道・埼玉・東京・富山・山梨・静岡・京都・鹿児島・沖縄・韓国ソウル・中国黄山)、常に47都道府県をテーマとする日本初の日本物産MUSEUM「d47MUSEUM」(渋谷ヒカリエ8F)、その土地らしさを持つ場所だけを2ヶ月住んで取材していく文化観光誌「d design travel」など、すでに世の中に生まれ、長く愛されているものを「デザイン」と位置づけていく活動をしています。’13年毎日デザイン賞受賞。毎週火曜夜にはメールマガジン「ナガオカケンメイのメール」www.nagaokakenmei.comを配信中。

デザインはデザイン業界側から見ない方が健やかである。

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