働き方のコンパス

【相談】職場で感情が高ぶって泣いてしまいます、対処法はありますか?

「働き方のコンパス」は、ビジネスパーソンの悩みに哲学者や社会学者、経済学者などの研究者が答えていくシリーズです。それぞれの学問的な見地から、仕事の悩みはどう分析できるのでしょうか。今回の回答者は、マンガ研究者のトミヤマユキコさんです。

 今回の回答者

マンガ研究者
東北芸術工科大学 芸術学部文芸学科講師
トミヤマユキコさん

「早稲田大学法学部から、同大大学院文学研究科へ。ライターとしてマンガやファッション、パンケーキなどについて書く傍ら、同大学で少女マンガ研究をメインとしたサブカルチャー関連講義を担当。この春から東北芸術工科大学の専任講師に。東京と山形を行き来する生活を送っている」

今回のお悩み

Q.職場で感情がたかぶり、泣いてしまうことがあります

会社で泣いてしまうことがあり困っています。普段は特に涙もろいほうではないのですが、意見が対立した上司と話し合っているときなど、興奮と怒りがピークに達すると泣き出してしまいます。上司は特に声を荒らげるようなタイプではないのですが、非合理的な指示を出すことがあり、それに対して怒りを覚えてしまいます。私が怒らなくなればいいのか、怒っても泣かなければいいのか、ほかの皆さんがどう対処しているのか気になります。
(35歳、女性、企画職)

A.大人もみんな泣いている。泣いた上で切り替えを

 その豊かな感受性を、殺さないでほしい

泣いてしまうことで困るのはなぜでしょう。恥ずかしいから? 相手を責めているみたいになるから? 家で泣くのはいいけれど、会社で泣くのはよくないから? 改めて考えてみると、泣くのって、どうしてダメなんでしょうね。私自身、泣くのはぜんぜん悪いことではないと思います。たとえそれが職場であっても。

負の感情をコントロールするトレーニングは、アンガーマネジメントなど、世の中にいろいろあります。簡単なものであれば、「今泣くのを我慢したら、帰りにちょっとご褒美的なものを買ってもいい」ことにするとか。私の友人に、会社で理不尽なことを言われても、「つらいことに対する慰謝料が給料なのだ」と考え、「あとでお金が入ってくるからまあいっか!」と流してしまう人がいます。これも一つの「大人」な対処方法かもしれません。でも、あなたが今必要としているのはそういう対処ではないのかな、と思います。

あなたの心にはその時、泣くほど大きな感情が生まれているわけですよね。それを無理に押し込め、何もなかったようにやりすごすのは、あなたの精神の健康を損なう危険性がある気がします。私は、その豊かな感受性をとても好ましいと思います。仕事に真剣に取り組んでいるからこそ、感情が高ぶり、涙が出てくるのでしょう。仕事なんてどうでもいいと思っていたら、そんなことにはなりません。

理不尽なことに対して怒ることのできるあなたは実直で、すてきな人です。だから、あなたの物事の受け止め方を変えてまで、「泣かない」というゴールを目指さなくていいと思います。

みんなもっと、泣きたいときは泣けばいい

学生を指導していると、昔より男性もよく泣くようになったのかも、と思うことがあります。論文の指導中に泣く男子学生、結構いるんですよ。例えば、締め切り直前なのに全く論文が書けてないとき。自分のふがいなさに泣けてくるようです。

そういう学生に対し、絶対に私は泣くなとは言いません。むしろ、ひとしきり泣かせます。ティッシュを手渡し、泣きたいだけお泣きなさい、という姿勢です。だんだん気持ちが落ち着いて涙が止まってきたら、今から何ができるのか一緒に考えます。立ち直るために手を貸すんです。思いきり泣いた直後のスッキリした頭で、先のことを考える。結局のところ、それが問題解決への近道なんじゃないかと思うのです。

思うに、いい年をした「普通の大人」も実はけっこう泣いているんじゃないかと思います。同年代の友人からは、仕事中に耐えきれなくなって会社のトイレで泣いた、という話を聞いたこともあります。私だって、仕事上のトラブルがあって参ってしまったとき、上司の前で泣いたことがありますしね。

もっと言えば、年齢、性別などを問わず、みんな泣きたい時は泣けたらいいのに、と思います。誰だって職場で悔しさや悲しさから泣きたくなるときはある。だから、周りはそれを当然のことと考え、そっと見守る、というふうになったらいいなあと。

大事なのは、泣いたあとの態度

泣くこと自体は悪くない。でも、周囲が「あいつはすぐ泣くから面倒くさい」「女はすぐ感情的になる」という反応をするのであれば、対処しないといけません。

本当は「人前で泣くべきではない」という考え方自体を変えたいところですが、職場の雰囲気をあなた一人で変えるのはなかなか難しいですよね。そういうときは、その場はぐっとこらえてトイレに駆け込んで泣くとか、気をそらしてやりすごすとか、しなければいけない時もあるでしょう。でも忘れないでほしいのは、あなたは何も悪くない、ということ。泣いてしまったことを後悔する必要は一切ありません。

もし、あなたの職場が泣いても特に気にしない人たちばかりなのであれば、安心して泣きましょう。大事なのは、泣いたあとです。泣いたあとの行動によって、泣いてしまうあなたへのマイナスイメージはある程度払拭(ふっしょく)できます。できれば、あまり引きずらずにすむといいですよね。

35歳の相談者さんならわかってくれると期待して言いますが、イメージは1990年代のトレンディードラマに出ていた山口智子さんです。山口さんが演じる役はよく泣く。でも泣いたあと、「はー、すっきりした。おなかへった!」みたいな感じで笑顔になるんです。山口智子スタイルであれば、まわりもそれほど気を使わずにすむ。もう実践されているかもしれませんが、泣いてしまったとしても、ケロッとした顔で仕事に戻れれば、それでいいのだと思います。

悩めるあなたにこの一冊

河内遙『関根くんの恋』
【相談】職場で感情が高ぶって泣いてしまいます、対処法はありますか?

主人公の関根圭一郎は、クールでイケメン。仕事もできるという完璧人間です。何をやってもそこそこのレベルまですぐ上達するので、結局なんの趣味ももたず、30歳になってしまいました。この関根くんが、趣味をつくろうと始めた手芸店で出会った女性に恋をする、というストーリーなのですが、この関根くんがそれはもうすぐ泣くんです。こと恋愛においては、感情をうまくコントロールできなくなってしまう。この作品ではそこが関根くんの魅力として描かれています。あなたのご相談についても、私は「泣かない」よりは、「泣いても大丈夫」な道を模索した方が良いと思っているので、本作をぜひ読んでほしいです。

トミヤマユキコ(とみやま・ゆきこ)
ライター、東北芸術工科大学講師。1979年、秋田県生まれ。早稲田大学法学部、同大学院文学研究科を経て、2019年春から東北芸術工科大学芸術学部講師に。ライターとしては日本の文学、マンガ、フードカルチャーなどをメインとし、大学では少女マンガ研究を中心としたサブカルチャー関連講義を担当。著書に『夫婦ってなんだ?』(筑摩書房)、『40歳までにオシャレになりたい!』(扶桑社)、共著に『大学1年生の歩き方』(左右社)など。バンドマンの妻でもある。

将来の「キャリアビジョン」はいつも考えなきゃダメ?

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