今日からランナー

軽い? 耐久性は? 新感覚シューズ「メタライド」(アシックス)のマニアックな性能の話

国内外のマラソン大会に参加するアマチュアランナー・山口一臣さんが、ランニングの最新事情をお届けする連載「今日からランナー」。

今回は山口さんが「アシックススポーツ工学研究所」を訪れ、革新的なシューズ「METARIDE(メタライド)」の開発秘話を聞いてきました。

トップビジュアル:厚底でつま先がせり上がった特徴的なフォルムのMETARIDE(2万7000円+税)

    ◇◇◇

日本を代表するスポーツ用品メーカーのアシックスが「アシックス史上最も革新的な機能を搭載した」「70年にわたるイノベーションの集大成」と銘打つ長距離用の新型ランニングシューズ「メタライド」を発表したのは今年2月のことだった。一般ランナー向けのお披露目の場となった東京マラソンEXPOでは、販売用に用意したシューズが瞬く間に売り切れるほどの人気を博した。

アシックスといえば、これまでは上級者向けの“薄底シューズ”の印象が強かったが、このメタライドは最近人気の“厚底”だったことでも注目を集めた。アシックスは今年から、製品カテゴリーごとに管理する新カテゴリー体制をスタートさせた。メタライドは最重点カテゴリーといえる「パフォーマンスランニング」の中心に位置付けられている。

私は、このメタライドが生まれた神戸市西区にあるアシックススポーツ工学研究所を取材する機会を得た。長年にわたるアシックスのテクノロジーに関するさまざまな知見が集積されている同社の“秘密基地”ともいえる場所だ。同研究所の原野健一所長(執行役員)の話を元に、約2年に及ぶメタライド誕生ストーリーを振り返ってみよう。

陸上トラックや体育館なども兼ね備えているアシックススポーツ工学研究所

陸上トラックや体育館なども兼ね備えているアシックススポーツ工学研究所

走行中のエネルギー消費の仕組みを調べ上げた

アシックスが開発にあたってまず考えたテーマは「今までにない体験を提供する」ことだったという。そこから導き出されたコンセプトは「より少ないエネルギーで、より長く走る」だ。原野所長の言葉によれば「エコカーのようなシューズ」ということになる。“速く走る”というよりは、より少ない力でより長く、より安全に走り続けることに力点が置かれている。

このコンセプトを実現するため、まずは徹底した動作分析が行われた。研究所には全部は見せてもらえなかったが、光学式三次元動作分析システムや1秒間に最大2万コマの撮影ができるハイスピードカメラなどが備えられている。これらの設備によって、人間は走行中のどのフェーズでどれだけのエネルギーを使うかを調べあげた。これを「エナジーコスト」と言うのだそうだ。

その結果、ヒールで着地してから足裏の前方で地面を蹴り出すまでの間で多くのエネルギーを消費することがわかった。しかも、着地時にはカカトから脚全体に大きな衝撃を受けることも明らかになった。ヒールのクッション性がいかに大切かということを改めて認識させられたという。

アシックススポーツ工学研究所の内部。中央に配置された数多くのカメラが、モーションキャプチャなどを撮る「光学式三次元動作分析システム」

アシックススポーツ工学研究所の内部。中央に配置された数多くのカメラが、モーションキャプチャなどを撮る「光学式三次元動作分析システム」

次に、このフェーズでのエネルギー消費を抑えるにはどうすればいいかを考えた。前述の分析によって、着地から蹴り出しまでの間で足首の開閉の角度(足の甲とスネの角度)が変わることもわかっていた。エネルギーの消費は力と移動距離の積で計算される。つまり、足の甲とスネの動く距離を小さくすればエネルギーも抑えられるというわけだ。

そのためには、足首の角度をできるだけ一定に保つ構造に設計すればいいという結論に達する。足首関節の過度な動きを抑えることで、省エネ走行が可能になるというわけだ。

省エネ走行の秘密は足の甲とスネの角度の変化を抑えたことにある

省エネ走行の秘密は足の甲とスネの角度の変化を抑えたことにある

では、これを実現するにはどうしたらいいか。さまざまな試行錯誤が繰り返された。その結果、完成したのが「GUIDESOLE」(ガイドソール)というデザインだ。ここにメタライドの新機能が凝縮されていると言ってもいい。以下にその概要を説明しよう。

高いクッション性と耐久性を両立するソール

まず、ミッドソール(甲被と靴底の間のクッション材)が2層構造になっていて、上の層のソールの底が独特のカーブを描いている。この曲線は、走行中の足首の角度をできるだけ変化させないように計算されたものだという。メタライド開発における重要なイノベーションのひとつである。

だが、これだけではクッション性と安定性というシューズ本来に必要な機能が足りなかった。そこで下の層にアシックスが独自に開発したクッション性に優れた新素材のソールを組み合わせることにした。

研究所では、素材の開発についても試行錯誤が繰り返されている

研究所では、素材の開発についても試行錯誤が繰り返されている

ソールの分解図

ソールの分解図

ソールの素材となるフォーム材は、要は小さな気泡の集まりだ。クッション性を高めるには気泡を大きくすればいい。しかし、気泡は大きくすればするほど壊れやすくなる。つまり耐久性が失われる恐れがある。そこで、開発チームはまた考えた。

結果、生まれたイノベーションは、気泡を形成する壁をセルロースナノファイバーという木材由来の繊維で補強するということだった。名前のとおりナノサイズの繊維である。これによって、潰れにくい気泡が実現し、高いクッション性と耐久性という相反する機能を両立させることができたという。これは、かなりマニアックな話ではある。

ヒール部には「GEL」(ゲル)と呼ばれる衝撃緩衝材が埋め込まれている。これも独自に開発された素材だ。実際に実験して見せてもらったが、1メートル以上の高さから生卵を落としても割れないという優れた機能を持っている。多くのメーカーはこうした素材は外注している。アシックスの強みのひとつは、素材自体の開発から自社の研究所内でできることだという。

ソールをさらによく見ると、大きな穴が2カ所に空いている。両方とも、ひとつにはクッション性向上と軽量化に寄与している。一方、ヒールの穴は実はソールの底部まで貫かれている。これは「3D GUIDANCELINE」(3Dガイダンスライン)といって、足の横ぶれを抑え、どのフェーズでも安定した走りができる機能を持たせている。

メタライドのヒールの穴

メタライドのヒールの穴

シューズの底の特徴ある溝は横ブレを防ぐ効果があるという

シューズの底の特徴ある溝は横ブレを防ぐ効果があるという

こうしたイノベーションの積み上げによって、完成したメタライドは走行時のエネルギー消費をなんと最大19%も削減したという。冒頭で“速く走る”ことに重きを置いていないと書いたが、少ないエネルギーで走れるということは、同じエネルギーで走れば自然と速く走れるという理屈にもなる。ランナーにとってこの19%減という数字は見逃せない魅力である。

外見的な特徴は、厚底で、ソールが船底のようにググッと反り返り、地面との間に相当な空間がある。つま先部分は硬度を高めて曲がらないようになっている。少し前傾すると前のめりになり、走り出すとシューズが前へ前へと連れて行ってくれるような感じになる。

実際に履いて、研究所にあるトレッドミルで走ってみた。なるほど、自然に前へ踏み出したくなるというのは新感覚だ。メタライドの「ライド」は自転車に乗ってコロンコロンと転がっていくというインスピレーションから命名されたという。実際に転がっていく感覚を味わえる。

アシックスはこの開発に2年の歳月を費やしている。私自身、研究所を訪れ、1足のシューズを開発するため、実に多くの実験とイノベーションが繰り返されていることを改めて知った。メタライド恐るべし、なのである。

PROFILE

山口一臣

1961年東京生まれ。ゴルフダイジェスト社を経て89年に朝日新聞社入社。週刊誌歴3誌27年。2005年11月から11年3月まで『週刊朝日』編集長。この間、テレビやラジオのコメンテーターなども務める。16年11月30日に朝日新聞社を退社。株式会社POWER NEWSを設立し、代表取締役。2010年のJALホノルルマラソン以来、フルマラソン20回完走! 自己ベストは3時間41分19秒(ネット)。

100年前に、現代でも通用する練習法を編み出した“日本のマラソンの父”金栗四三 

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