いしわたり淳治のWORD HUNT

ポカリスエットの攻めたCMソング 名もなき感情を言語化した歌詞

音楽バラエティー番組『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)で披露するロジカルな歌詞解説が話題の作詞家いしわたり淳治。この連載では、いしわたりが歌詞、本、テレビ番組、映画、広告コピーなどから気になるフレーズを毎月ピックアップし、論評していく。今月は次の4本。

1 “ねじれた性根が 今さら治んねえ”(「汗は君のために流れる」作詞:朝日廉)

2 “SPARK JOY”(近藤麻理恵)

3 “出勤してえらい!” (コウペンちゃん)

4 “味わいのない年寄り” (樹木希林)

最後に日々の雑感をつづったコラムも。そちらもぜひ楽しんでいただきたい。

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いしわたり淳治 今気になる四つのフレーズ

 

“ねじれた性根が 今さら治んねえ”(「汗は君のために流れる」作詞:朝日廉)

ポカリスエットのCMは攻めているなあと思う。今回は高校生が校舎で踊りながら叫ぶように歌う。その歌詞が「かなりの癖っ気で ねじれた性根が 今さら治んねえ それでも叫んでみてえ」である。可愛い女の子がべらんめえ口調で歌う姿はインパクト十分で、ああ、たしかに自分も高校生の頃はこんな風にえたいの知れない息苦しさを感じていたなあ、と思い出した。

有名人のニュースなどがあると人はそれを“結果”として扱いたがる。それまでに彼にはこんな予兆があった、思えばあの頃からおかしくなり始めた、みたいな扱い方をワイドショーもよくするからなおさらだ。でももちろんその後も当人の人生は続いてゆくわけで、何がどうあれその出来事はあくまで“過程”である。

これは有名人に限らず、町内のちょっとした井戸端会議も同じかもしれない。何丁目の誰それが借金した、離婚した、病気になった。小耳に挟んだうわさ話を共有しているだけのように見えて、その口調はどこか“あーあ、やっちゃった”的な“結果”として扱っている感じがする。大人になると、毎日が繰り返しになって、変化だとか冒険だとか挑戦だとかとは縁遠い毎日を送りがちだからなのだろうか。とかく大人という生き物は、誰かの身におとずれた急な変化を “過程”ではなく“結果”として捉えたがるよなあと思う。

しかし、こと相手が高校生となると、大人たちはとたんにすべてを“過程”として扱いたがる。「君らの性格も進路も全部が“過程”で、これから先いくらでも変わるし変えられるさ」というスタンスで延々と接してくる大人たちに、私も昔は内心で嫌気がさしていた。

自分らしさをいちばん見つけたい年頃なのに、頑張ってやっと見つけた個性すらも“過程”として雑に扱われる無念さときたらない。それがたとえ、妙ちくりんな髪形や服装だとしても、自分にとっては現時点の“結果”には変わりない。やっとたどり着いた今を誰かに認めてほしいだけなのだ。

この歌詞の「今さら治んねえ」は、「子供だからって何でもかんでも“過程”じゃねえんだよ。あんたが何と言おうと、これがあたしにとっての“結果”なんだよ!」という思春期の心の奥に無意識のうちにしまわれた、まだ名前のついていなかった感情にビシッと名前をつけたような、良いフレーズだなと思った。

(参考動画)

 

 

“SPARK JOY”(近藤麻理恵)
ベストセラー本『人生がときめく片づけの魔法』(サンマーク出版)の著者で、片づけコンサルタントの近藤麻理恵さん。その勢いは海を越え世界各地で片づけムーブメントを起こしている。

彼女の整頓術は、まず物を「ときめくか、ときめかないか」で仕分けるところから始まるのだけれど、いかんせん「ときめき」という言葉は英語に存在しない。それを彼女(とその通訳の女性)は「SPARK JOY」と訳した。英語圏の人にとって「SPARK JOY」という言葉は「“楽しい”という感覚が内側からふくらんでいく」みたいなイメージがあるのだそう。

我々がなんとなく使っている日本語の「ときめき」も、あらためて考えてみるとそういうものに違いないから、この「SPARK JOY」という造語がいかにうまい対訳であるかがわかる。この言葉の発明が彼女を海外での成功に導いたと言われるのも納得である。

日本のアイドルの歌には「ときめき」という言葉は頻出しているから、そのうちどこかのグループが「SPARK JOY」なんて歌を出すのかもしれないなと思う。あるいはビジネス英語を使いたがる大人たちなんかは、会議で「なんかさあ、この案にはSPARK JOYが足りないんだよねー」なんて言い出すのだろうなと思う。

なかなかうまく訳せない言葉は方言にもよくある。私の故郷・青森でいうと、「いずい」なんかが代表的だと思う。服がキツくて動きにくいときも「いずい」、目にゴミが入っても「いずい」、体のどこかが痛くても「いずい」である。これを英語にしたら「SPARK PAIN(不快という感覚が内側でふくらんでいく)」みたいな感じなのかしら。

 

“出勤してえらい!” (コウペンちゃん)
西武鉄道が車内広告でコウペンちゃんとコラボしていて、「出勤してえらい!」「電車にのってえらい!」と、毎日頑張って出勤している社会人たちを応援してくれているのだそう。

コウペンちゃんは私も以前からすごく気になっていた。何でも肯定してくれる皇帝ペンギンのキャラクターで、日々Twitterなどで「起きられたの? すご〜い!」「ごはんたべたの? えらい!!」といった具合に私たちの当たり前の行動を褒めてくれる。時には「だらだらしたの? えらい!」なんて哲学的なことまで言い出すからすごい。

でもこれがもし普通の人間だったらどうだろう。例えば、45歳くらいの一般的なルックスの上司の男性に無表情で朝っぱらから「出勤してえらいね」なんて言われたらどうだろう。やばい! おれ、何かやらかした!?と一瞬で背筋が凍るに違いない。

多分、当たり前のことを褒められる時というのは、大人であれば相手に軽んじられている時くらいなのではないだろうか。それなのにコウペンちゃんは、これらを純粋な「褒め言葉」として伝えることに成功していて、まだ誰もやっていなかったこのキャラ設定を見つけたことが、ビジネスとしてすごい発明だな、と思っていたのである。

でも冷静に考えたら、私たちの当たり前の行動をこんなにも褒めてくれるということは、コウペンちゃん自身はそれらがうまく出来ないということだろう。まともに出勤しないし、うまく電車にのれないし、起きなくちゃいけない時間に起きられないし、ご飯もちゃんと食べられないし、そのくせ一人でだらだらすることだってままならない。そんな奴に褒められてもなあ……。なんて考えてしまうひねくれた自分もいるのだけれど、きっとこんな性格さえもコウペンちゃんは褒めてくれるに違いないから、すご〜い!

 

“味わいのない年寄り” (樹木希林)
『樹木希林120の遺言 死ぬときぐらい好きにさせてよ』(宝島社)という本を手に取った。なんて簡潔な生き方を徹底された女性だろうとあらためて感服した。

読み進むうち、「昔もっとみんな歳をとった人たちがいい顔してたようなきがするんですよね。だけど、歳をとった人たちが、今“アンチエイジング”っていう、面白いことを言うようになって。顔を引っ張ったり、何かを入れたり、髪をなんかしたりして、『あたくし歳に見えないわぁ』とか、ってね。まぁ男でもそうだけど、そういう風にしていった結果、何にも味わいのない年寄りがふえたんじゃないかなぁって」というページで手が止まった。

私は40代になったばかりで、まだ自分の老いについてそこまで考えたことがなかった。でもこの文章を読んで、これは外見に限らず、内面も同じことが言えるのかもしれないなと、ふと思った。

私は仕事柄、若いアーティストと仕事をすることも多い。そのせいか、日頃から無意識のうちに自分の感覚を若く保とうとしているような気がする。今はそれがまったく苦ではないし、無意識でやっている以上、当分この調子で暮らすのだろうけれど、いつかは自分のセンスや感覚にも確かな老いが来たことを自覚する日が来るのかもしれない。

その時に自分で自分の心を無理やり若返らせようとせず、ジタバタしない人間でありたいなと思った。味わいのある立派な年寄りになりたいなと。そもそも、日々を生き生きと暮らすことと、日々を若さに固執して暮らすことは、似て非なるものなのだろうから。

《mini column》

メガネ、メガネ、メガネ……。

私は物に対する執着があまりなくて、要らないと思ったら何でもさくさく捨てられる方なのだけれど、メガネだけはどうにも増える一方で困っている。

というのも、メガネはその性質上、かけてしまったら最後、鏡を見ない限りは自分からは絶対に見えない。つまり、かけている本人よりも、他人の方が何倍も長い時間目にしているのである。

だから、いくら「このメガネ、もうSPARK JOYがないんだよなあ」なんて思っても、周りの人に「えっ? 全然いいじゃん」と言われれば、「ああ、そう?」となってしまう。とはいえ、「メガネは顔の一部です」とはよく言ったもので、20年以上も毎日かけていると、ちょっと髪形を変えるくらいの軽い気持ちでなんとなく新しいメガネを買ってしまう。だからといって、自分の顔に似合う形なんてそう何種類もあるわけじゃないから、結局は似たり寄ったりのメガネが増えていくことになる。なんだかなあ。これ、メガネの人あるあるなんじゃないかと思うのだけれど、どうだろう。

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PROFILE

いしわたり淳治

1997年、ロックバンドSUPERCARのメンバーとしてデビュー。全曲の作詞とギターを担当。2005年のバンド解散後は、作詞家としてSuperfly、SMAP、関ジャニ∞、布袋寅泰、今井美樹、JUJU、少女時代、私立恵比寿中学などに歌詞を提供するほか、チャットモンチー、9mm Parabellum Bullet、flumpool、ねごと、NICO Touches the Walls、GLIM SPANKYなどをプロデュース。現在オンエア中のコカ・コーラCM曲「世界はあなたに笑いかけている」(Little Glee Monster)や、情報番組『スッキリ』(日本テレビ系)のエンディングテーマ曲「Electric Kiss」(EXO)の作詞も担当するなど、さまざまな音楽ジャンルを横断しながら通算600曲以上の楽曲を手掛ける。

指原莉乃、「結婚願望はある?」に対する素晴らしい返答

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