LONG LIFE DESIGN

オーケストラを応援する理由 ロングライフデザインとの関係は

日本フィルを応援するようになり5年後の写真。場所はD&DEPARTMENT福岡店。日本フィルの九州公演をできることがあれば応援したい旨を伝え、店を記者発表の場所として使って頂いた際の記念写真。僕の左横が指揮者の小林研一郎さん(写真はすべてナガオカケンメイさん提供)

日本フィルを応援するようになり5年後の写真。場所はD&DEPARTMENT福岡店。日本フィルの九州公演をできることがあれば応援したい旨を伝え、店を記者発表の場所として使って頂いた際の記念写真。僕の左横が指揮者の小林研一郎さん(写真はすべてナガオカケンメイさん提供)

 

デザイン活動家・D&DEPARTMENTディレクターのナガオカケンメイさんのコラムです。今回は、「オーケストラ」をテーマにした前編です。

    ◇

僕は今、日本フィルハーモニー交響楽団を応援しています。ちょっと唐突ですが、これもこの連載のテーマ「LONG LIFE DESIGN」に大きく関係しています。

では、質問です。オーケストラはなぜ、存在し続けていると思いますか? 文化的だから、みんなに必要だから……。いろいろと理由のようなことは言えます。しかし、多くの(ほとんどの)オーケストラは、ホールでの演奏会のチケット収入だけでは成立していません。なのでほとんどのオーケストラには、自治体や、新聞社や放送局のような大きな資本が基本的に支え、残りの足りないところを個人、法人の支援、国からの文化的助成を受けて活動を続けています。

そして極端なことを言うと、この世からなくなっても誰にも迷惑はかからない。そんなオーケストラは、みんなが必要だから支え、継続するロングライフデザインです。では、なぜそうさせるのでしょうか。今回はそんな音楽のお話です。

少し余談ですが、先日、京都国立博物館の佐々木丞平館長とお話しする機会があり、ずっとはっきりさせたかった「文化とは何か?」について質問をしてみました。ズバリ「文化って何ですか?」と。その答えは次のようなことでした。

オーケストラを応援する理由 ロングライフデザインとの関係は

京都国立博物館の佐々木館長と、博物館

京都国立博物館の佐々木館長と、博物館

「どうせやるなら、ちゃんとやった方がいいでしょ。例えば、着るものも食べることも、どうせ着るなら、ちゃんと、しっかりと意識して服を選んで着たい。どうせ食べるなら、少しこだわって食事をしたい。その『ちょっとちゃんとする』という意識が『文化』です」

なるほどと思いました。もちろん、専門的な答えはあるとは思いますが、とにかく「わかりやすく」とリクエストし、この答えが聞けました。

ちょっと意識してみる。それが「文化」。では、「ちょっと意識して服を考えた」「ちょっと意識して食器を考えた」そういうものの歴史的なものを「文化財」と呼び、博物館とは、そうしたものを中心に展示している。そんな風に少しだけ普段意識しないことの意味をひもとくのが僕は好きです。ちなみに、逆に専門的に深掘りして探求していくことは、どちらかというと苦手ですが……。

僕はこんな具合に「知っているようで実は意外とその成り立ちなどの発端が知られていない」ことを「d school わかりやすい勉強会」として自分の「D&DEPARTMENT」で不定期ですが、月に2度くらい様々なテーマで行っています。その一つの謎が今回のテーマ「オーケストラ」だったということです。

僕の大きな謎は三つありました。まず、「オーケストラとは何か?」そして、「オーケストラとはどうやって成立しているのか」。そして最後は「オーケストラとはどうやって練習しているのか」でした。

そこである日、練習をどこかで見学できないかと思い、ネットで検索し、東京有楽町にある東京国際フォーラムでの練習見学会に応募し、指定された日時に行きました。2004年の事です。

建物に入り、少しずつどこからか楽器の音が漏れ聞こえてきます。それは僕が歩いて近づくにつれ、当たり前ですが大きくなっていく。やがて、指定の部屋の扉を開けた瞬間、何十という楽器の生の音が僕の体を覆い尽くしました。「音の中にいる」そう感じ、感動で体が震え、何か説明を聞いたわけでもないのに、涙があふれてきました。のちに「なぜ、泣けるのか」も、疑問の一つに加わり、ますますオーケストラが気になっていくのでした。この公開されていた演奏会で演奏をしていたのが、日本フィルで、その時の指揮者が小林研一郎さんという方でした。この偶然の出会いによって、生まれて初めて「オーケストラ」を意識し、そこで偶然出会った「日本フィルハーモニー交響楽団」をまずは気にしてみようと思いました。正直を言うと、その時出会ったのが読売日本交響楽団なら、今も読響を応援していたかもしれません。僕にとってどの楽団が、と言う以前の問題として「オーケストラ」が気になっていたのでした。

2006年に出版された「ナガオカケンメイの考え(アスペクト社)」 自分の会社のスタッフに向けて書いていた日記が本になったもの

2006年に出版された「ナガオカケンメイの考え」(アスペクト) 自分の会社のスタッフに向けて書いていた日記が本になったもの

2006年に出版された「ナガオカケンメイの考え」(アスペクト) 自分の会社のスタッフに向けて書いていた日記が本になったもの

2012年1月、僕がその頃、教えに通っていた武蔵野美術大学の公開講座に、公開練習の感動を自分のブログに書き、それが後に書籍として出版され、その本を読んだある人がわざわざ訪ねてきました。山岸淳子さん、佐々木文雄さん、日本フィルの方でした。2人はなぜ、僕の本のそのページにたどり着いたかはわかりませんが、一言、お礼をと来てくださったのでした。

その後、頂いた東京定期公演の案内冊子をペラペラと何げなくめくっていたそこに書かれていた「日本フィル存続のために」「”公益財団法人”認定に向けてのご支援のお願い」など支援の呼びかけを知り、三つの疑問の一つの「どうやって成り立っているのか」が気になっていきました。この後、日本フィルは多くの支援を受け、公益財団法人となるのですが、その時から僕の中に「オーケストラとは、チケット収入だけで成立しているわけではないのだ」ということが、小さなショックとして心に刻まれ、そして、ではなぜ、人はオーケストラの演奏活動をこんなにもして応援するのか。オーケストラって一体なんなんだ?と疑問は増えるばかりでした。

オーケストラを応援する理由 ロングライフデザインとの関係は

 

写真は僕が編集長、発行人をして制作している、47都道府県を「その土地らしさ」だけを取材して一冊にまとめる「d design travel」の東京号。東京らしさの一つとして、オーケストラ文化の特集を組み、改めて日本フィルを取材した章

オーケストラを応援する理由 ロングライフデザインとの関係は

写真は僕が編集長、発行人をして制作している、47都道府県を「その土地らしさ」だけを取材して一冊にまとめる「d design travel」の東京号。東京らしさの一つとして、オーケストラ文化の特集を組み、改めて日本フィルを取材した章。https://www.d-department.com/category/STORE_CULTURE/ 

写真は僕が編集長、発行人をして制作している、47都道府県を「その土地らしさ」だけを取材して一冊にまとめる「d design travel」の東京号。東京らしさの一つとして、オーケストラ文化の特集を組み、改めて日本フィルを取材した章。https://www.d-department.com/category/STORE_CULTURE/

日本には、日本オーケストラ連盟に加盟する団体だけで37ものオーケストラがあります。その多くが先ほども書きましたが自治体や企業などの支援に支えられながら活動を続けています。

人間が生きていくためには、アートは最も必要なのに、その理由はなかなか説明が難しいですね。音楽が同じように僕らの生活に必要不可欠なことは、僕らがこれまで生きてきた重要な場面に、必ず音楽が寄り添っていたことを思い出すと説明は難しいけれど、当然のことだと思う。僕らの人生の思い出は、その時々に聞いた音楽と一緒に心に刻まれている。音楽がなかったらどうなるだろう……。

民放ラジオ局から生まれた日本フィルが、1972年、その会社の経営方針により契約を打ち切られます。オーケストラ活動を会社として続けない、としたのでした。電気もガスも止められた事務所に残った団員たちは集まり、音楽家としての自分たちの未来と、クラシック音楽が必要な日本の未来について議論を重ねたそうです。

僕はこの話を聞き、多くの他の楽団は、日本フィルのような経験をしていないので、活動を特に資金面から打ち切られた時に、それでも音楽を続けるのか、続けられるのかと、考えない。そう思った時、日本フィルに興味を持ち、応援するということが、僕にとって「どうしてオーケストラが必要なのか」という疑問の答えとなり「オーケストラとは何なのか?」ということの答えにもつながると思ったのでした。つまり、日本フィルほど、オーケストラ活動を一人一人の演奏者が切羽詰まる崖っぷちで心から考える経験をした楽団はない。そんな風に僕は感じ捉えたのです。

後半につづく

日本フィルの応援は、D&DEPARTMENTで開催された「d school わかりやすいオーケストラ」という勉強会をきっかけに、「d日本フィルの会」が作られました。 写真は日本フィルの韓国公演を応援するために会に呼びかけ、集まった仲間たち。写真の後列右が佐々木文雄さん、前列左が山岸淳子さん。 この2人が全ての僕のオーケストラ意識の原点を作ってくれました

日本フィルの応援は、D&DEPARTMENTで開催された「d school わかりやすいオーケストラ」という勉強会をきっかけに、「d日本フィルの会」が作られました。写真は日本フィルの韓国公演を応援するために会に呼びかけ、集まった仲間たち。写真の後列右が佐々木文雄さん、前列左が山岸淳子さん。この2人が全ての僕のオーケストラ意識の原点を作ってくれました

オーケストラを応援する理由 ロングライフデザインとの関係は

日本フィルを知ってしばらくたった時、日本フィル九州公演を30年以上、九州大牟田に呼び続けている喫茶店のオーナーおばあちゃんがいるという話を聞き、その長きにわたる支援のことを知りたくなり、大牟田へ。写真はその日本フィルの九州大牟田公演の事務所として、活動の拠点となっている喫茶店「コーヒーサロン原」とそのオーナーの上野さん。ここはその後、2019年5月に長い活動拠点としての幕を下ろす。それを受け、地元の若者が立ち上がり、継続の動きが……。その様子は後半で

日本フィルを知ってしばらくたった時、日本フィル九州公演を30年以上、九州大牟田に呼び続けている喫茶店のオーナーおばあちゃんがいるという話を聞き、その長きにわたる支援のことを知りたくなり、大牟田へ。写真はその日本フィルの九州大牟田公演の事務所として、活動の拠点となっている喫茶店「コーヒーサロン原」とそのオーナーの上野さん。ここはその後、2019年5月に長い活動拠点としての幕を下ろす。それを受け、地元の若者が立ち上がり、継続の動きが……。その様子は後半で

d日本フィルの会(facebookページ)
https://www.facebook.com/groups/503673503023794/

日本フィルハーモニー交響楽団 公式ページ
https://www.japanphil.or.jp

PROFILE

ナガオカケンメイ

デザイン活動家・D&DEPARTMENTディレクター
その土地に長く続くもの、ことを紹介するストア「D&DEPARTMENT」(北海道・埼玉・東京・富山・山梨・静岡・京都・鹿児島・沖縄・韓国ソウル・中国黄山)、常に47都道府県をテーマとする日本初の日本物産MUSEUM「d47MUSEUM」(渋谷ヒカリエ8F)、その土地らしさを持つ場所だけを2ヶ月住んで取材していく文化観光誌「d design travel」など、すでに世の中に生まれ、長く愛されているものを「デザイン」と位置づけていく活動をしています。’13年毎日デザイン賞受賞。毎週火曜夜にはメールマガジン「ナガオカケンメイのメール」www.nagaokakenmei.comを配信中。

ナガオカケンメイ「僕の生活の中のロングライフデザイン」身のまわり編:1

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