本を連れて行きたくなるお店

食べ慣れたそうめんのおいしさ新発見! 工夫ひとつで新鮮に楽しめるワケ 秋川滝美『居酒屋ぼったくり』

カフェや居酒屋で、ふと目にとまる、ひとり本を読んでいる人。あの人はどんな本を読んでいるんだろうか。なぜその本を選んだのだろうか……。本とお酒を愛する編集者で鰻(うなぎ)オタクの笹山美波さんは、本の中の物語が現実世界とつながるような、そんなお店に連れて行ってくれます

 

夏といえばかき氷にとうもろこしなど、思い浮かべる食べ物がいくつもあってワクワクする。でもやっぱり、夏といったらそうめんだろう。

お中元でもらったり、スーパーで買ったそうめんを大鍋でゆでて、冷水で締めて皿に盛る。カツオだしのつけ汁に、しょうが、ネギ、みょうがの“三種の神器”。チュルッとすすれば爽快なのどごしがくせになり、箸(はし)が止まらなくなる。強い日差しにほてった体もクールダウンでき、暑い夏には欠かせない。何より、思いついたらすぐに作れるほど調理が簡単なうえ、1食あたり100円程度とリーズナブルなのもそうめんのいいところ。

手軽に作れるがゆえ、食べ飽きてしまう

けれども、手軽なだけに食卓に並ぶ回数は多くなり、飽きてしまうのも時間の問題だ。それに抗(あらが)おうとつゆに生卵を入れたり、ゴマだれに変えたりしてアレンジを加えたりしても、見た目や食感、味付けがほとんど変わらないので結局食べ飽きてしまう。

そこで、今回紹介したいのが秋川滝美さんの小説『居酒屋ぼったくり』。後で詳しく説明するが、何度かそうめんを食べた人でも新鮮な気持ちで楽しめる、チヂミ風おつまみのそうめんアレンジレシピを取り上げていて、これがまたおいしそうなのだ。

人気小説の『居酒屋ぼったくり』。漫画化やテレビドラマ化もされている

人気小説の『居酒屋ぼったくり』。漫画化やテレビドラマ化もされている

『居酒屋ぼったくり』は、下町の裏通りにある架空の居酒屋「ぼったくり」を舞台にした短編小説で、そこへ訪れる人たちの温かな交流を描いている。店を営むのは先代の亡き両親の跡を継いだ30歳の美音(みね)と25歳の馨(かおる)の姉妹だ。

店名は美音の尊敬する料理人である父親がこだわってつけたもの。お店で提供するのは、言ってしまえば家庭でも作れるような料理。けれども手間暇を惜しまず心を込めて作って努力している、けれどもまだお客さんがお金を出してよかったと思ってもらえるレベルではない――だから「ぼったくり」でいい、という謙遜の気持ちが表れている。

姉妹は父親のポリシーを継いでおり、よくある居酒屋の定番メニューにもひと手間を惜しまず、意外な食材や調理法を組み合わせる工夫をする。ワカサギ揚げの衣には時折バジルを入れて洋風の演出をしたり、海苔(のり)でチーズを巻く定番のおつまみには、千切りにした生野菜を添えて、彩りも食感も栄養バランスもよいアレンジを加えたりする。ありきたりな料理でも、今日お店で食べることができてよかったと感じてもらうために誠心誠意工夫しているのだ。

そうめんをチヂミ風にした「おつまみそうめん」も、そんな思いから生まれたメニュー。ゆでたそうめんにチーズと海苔を入れ、オリーブオイルをくるりとかけまわし、塩こしょうで味付けしてカリッと焼いたもの。好みでポン酢をかけていただく。

実際に作ってみると、そうめんなのに工程が多くて面倒くさい。けれども一口食べれば、主食のイメージの強かったそうめんが、ビールの止まらないアテになった。これが心あるひと手間の功績か。

家にある材料ですぐにできるのがいいところ。しっかりこんがり焼き上げるのが形よく仕上げるコツ。チーズの焦げるにおいがたまらない

家にある材料ですぐにできるのがいいところ。しっかりこんがり焼き上げるのが形よく仕上げるコツ。チーズの焦げるにおいがたまらない

意外なメニューが目白押しのそうめん専門店

『居酒屋ぼったくり』を読んだら、そうめんのアレンジ料理をいろいろ試してみたくなってきた。そこで訪れたのが、2018年1月にオープンした東京・恵比寿のそうめん専門店「そそそ」。代官山にある創作和食店「楚々(そそ)」のオーナーが手がけている。

メニューはバラエティー豊富で、シンプルな「つけそうめん」や「ぶっかけそうめん」をはじめ、イタリアンテイストの「大葉ジェノベーゼそうめん」、アジアンテイストな「Kara 辛そうめん」など約20種類もある。ディナーはサラダや揚げ物などそうめんを使った一品料理も提供している。

恵比寿駅からほど近くにある「そそそ」。ディナーの開店時間前には10人ほどの行列もできていた(写真左)1階のカウンター席のほか2階にはテーブル席もある。店内はおしゃれで清潔感もある(写真右)

恵比寿駅からほど近い場所にある「そそそ」。ディナーの開店時間前には10人ほどの行列もできていた(写真左)。1階のカウンター席のほか2階にはテーブル席もある。店内はおしゃれで清潔感もある(写真右)

まずは人気メニューの「ふわふわ釜玉」を注文。そうめんに、ネギ、カツオ節、メレンゲ状の卵白、その上に黄身をのせたもの。ふわっふわの卵白は手のひらほどの大きさがあり、心躍らずにはいられない。それに風味のいい小豆島の金両醤油(しょうゆ)を使っただしをかけて食べる。

麺だけをすすってみるとさっそく驚かされる。普段食べているスーパーで買ったそうめんはツルリとあっさりしたのど越しだが、「そそそ」のそうめんは全然違う。プリプリした舌触りとしっかりとした弾力を感じるし、香りも良い。これは、取り扱っている香川県・小豆島の手延べそうめん「島の光」の特徴だそう。

今度は混ぜ合わせて食べてみる。きめ細かな卵白が麺に絡みついて、フワッとした口当たり。卵白のおかげで、濃厚な卵黄とそうめんの味のバランスもちょうどよくなっている。家でそうめんに卵を落として食べるだけの“それ”とは、大違いの代物だ。

「ふわふわ釜玉そうめん(650円)」。しっかりと泡立てられているので、気泡は最後まで潰れず、ずっとふわふわ

「ふわふわ釜玉(650円)」。しっかりと泡立てられているので、気泡は最後まで潰れず、ずっとふわふわ

おつまみには、おすすめの「納豆高菜そうめん春巻き」を選んだ。納豆と高菜とゆでたそうめんを春巻きの皮で巻いて揚げたもの。パリッとした皮とプリッとしたそうめんの食感の相性も、納豆の独特の香りと高菜の酸味の相性も抜群だ。

「納豆高菜そうめん春巻き(650円)」は時間が経っても皮はパリパリ、麺の食感もプリプリ。特製のだし醤油とからしにつけて食べる

「納豆高菜そうめん春巻き(650円)」は時間が経っても皮はパリパリ、麺の食感もプリプリ。特製のだし醤油とからしをつけて食べる

せっかくだから、もう少し何か食べたい。ディナーの時間帯はそうめんをハーフサイズで注文できるので、締めに、女性に人気の「明太クリームそうめん」を頼んだ。

鮮やかなピンク色の明太子クリームはスープのごとくたっぷり注がれており、こってりしているかと思いきや、飲んでみるとちょうどいいまろやかさ。麺が細いこともあって、パスタよりも食べ応えが軽いのでツルツルいける。

そそそのそうめん料理はバリエーション豊富なうえ、どのメニューもちょっとした意外性があるので、一度試すとほかのものもすべて食べてみたくなってくる。実際にお客さんの中にも、全メニュー制覇を目指して何度も来店している人が結構いるそうだ。

「明太クリームそうめん ハーフサイズ(600円)」。温かいソースとそうめんを組み合わせても、麺の食感は損なわれずずっとプリプリした舌触り

「明太クリームそうめん ハーフサイズ(600円)」。温かいソースとそうめんを組み合わせても、麺の食感は損なわれずずっとプリプリした舌触り

「そそそ」はドリンクメニューも豊富で、どれもそうめんによく合う。おすすめ商品はあるものの、私の好みに合わせて「飲みやすくて人気」とおすすめいただいたのは、新潟県の日本酒「無想心静(700円)」(写真左)さわやかなアルゼンチンのオーガニック白ワイン「CUMA(クマ)(650円)」もスッキリしていておいしい(写真右)

「そそそ」はドリンクメニューも豊富で、どれもそうめんによく合う。おすすめ商品はあるものの、私の好みに合わせて「飲みやすくて人気」とおすすめいただいたのは、新潟県の日本酒「無想 心静(700円)」(写真左)。さわやかなアルゼンチンのオーガニック白ワイン「CUMA(クマ)(650円)」もスッキリしていておいしい(写真右)

食べ慣れた食材にも、新たな発見があるワケ

「どこで食べても変わらない」と思われがちな定番メニューはいくつもある。そそそで言えば、「島の光」は購入さえすれば家でも食べられるし、味付けのベースは釜玉や明太クリームなど、日本人なら一度は口にしたことがあるものばかり。なんとなく味の想像はできる。

けれども、料理が実際に提供されると、その予想はいい意味で裏切られる。工夫を凝らした調理法や食材の組み合わせに、美しい見た目。一口すすると、そうめんとの意外な相性のよさに心奪われる。それは、もともと創作和食店を営む同店が、構想に4年もの歳月をかけて準備したおかげだと聞く。

ふと、『居酒屋ぼったくり』の美音の言葉を思い出した。常連客を定番の焼き餃子と3種のタレ、王道を外した相手好みのお酒でもてなし、心底喜んでもらった後での一言だ。「一方的に料理を出すだけではだめなんだ。意外な組み合わせ、知らなかった料理法、いろんなことをお客さんから学んで進んでいかなくちゃ――」。

期待を超えるおいしい料理に出会えるのは、創意工夫を凝らしてお客さんに新たなおいしい発見を提供しようという、お店側の尽きることのないもてなし精神に裏打ちされているのだ。

お店ではそうめんを販売している。購入して作ってみると、確かに家でもおいしいそうめんを食べることはできたが、お店でしかできない味の発見を求めてそそそへ訪問したくなってしまった

お店ではそうめんを販売している。購入して作ってみると、確かに家でもおいしいそうめんを食べることはできたが、お店でしか食べられない味を求めて、そそそを訪問したくなってしまった

 

そそそ
東京都渋谷区恵比寿西1-4-1
03-6416-9284
営業時間:
日~木 11:30~15:00 17:00~24:00
金土祝前日 11:30~15:00 17:00~28:00
不定休 (年末年始を除く)
http://so-mensososo.com/

PROFILE

笹山美波

「東京右半分」に生まれ育つ。編集記者を経て、外資マーケティングサービスのWebプロデューサー、マーケター。ライター。鰻オタク。東京と食に関連する歴史/文化/文学/お店を調べるのがライフワーク。

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